ACT4【 心としての紋章 】
どこでも寝てしまう中学生 リズ
【敬意の夢】
そのお屋敷は、まるで中世にそびえ立つ城のようだった。
作られて間もないワタシは、中世の城なんて見たことないけど、胸に埋め込まれた知識の紋章はそれを中世の城のようだと判断していた。
お母さまに連れられて、ワタシはお屋敷の中の応接間に来ていた。
ふかふかのソファーに座って、お母さまと向き合う。
「イザホ、ここがあなたのおうちよ」
お母さまは優しく教えてくれたけど、ワタシには違和感があった。
イザホ……それがワタシの名前であることに、まだしっくりこない。
「わからないことがあったら、この用紙に書いて」
お母さまは、メモ帳と鉛筆を渡してくれた。
ワタシはそれを受け取ると、メモ帳の用紙に聞きたいことを書いた。
どうして、ワタシは声を出せないの?
「声帯を抜き取ってもらったからよ。あのままじゃあ、あの子を思いだしてしまうもの」
別の人の声じゃ、ダメだったの?
「ううん。そんなことをしたら、余計にあの子を思いだしてしまう。こんな声だったのにってね」
そう言って、お母さまはワタシの手を握った。
「心配しなくてもだいじょうぶよ。喋ることができない……それがあの子とは違う、あなたであるという
……ワタシにとっての心配は、これからのことだ。
まだ目的がないという不安が、ワタシの心配だ。
ワタシは、質問を続けることにした。
どうして、記憶は移さなかったの?
「記憶は紋章で引き継ぐことはできる……でも、それは記憶を再現したものに過ぎないの。録音した声が、電子のデータで再現されてスピーカーから流れるように。だから、
まだ理解はできないけど……このお母さまは、強いこだわりを持っている。
だから、尊重するべきた。この人がワタシに人格を与えたのだから。
最後にひとつだけ、質問を書き込んだ。
どうして、イザホって名前なの?
「その名前はね……お母さまの昔のお友達からとったの」
お母さまは、胸元から何かを取り出した。
それは、羊の頭の形をしたペンダント……
青く……吸い込まれそうな空のように青く……輝いている……
「このペンダントをもらってから、お友達とはまったく会っていない。あの子が消えてしまってから、ふとお友達の顔が浮かんでね。それで……
ワタシの名前は……お母さまのお友達から名付けられた……
あんなに大事そうに持っていることは、お友達もお母さまにとってかけがえのない存在なんだ……
「いい? イザホ、
……その通りだ。ワタシらしさは、ワタシには作れない。
お母さまがワタシを作り上げたのは、死んでしまったひとり娘の生まれ変わりとして育てるため。
この人がいないと、ワタシの生まれてきた意味はない。
「イザホ……お母さまと一緒に、イザホを作り上げていきましょう」
抱きしめようと立ち上がったお母さまに、ワタシは自ら抱きしめた。
ワタシは、お母さまのひとり娘の代わりだ。
それが、ワタシの役割。
はっきりとした目的を与えられ、ようやくワタシは不安から解放された。
お母さまがワタシの頭をなでてくれて、気持ちがいい……
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