第1-13話 シブ? 同人活動? 何それおいしいの?
どうじんかつどう?
クエスチョンマークで頭の中が一杯になる。
竹内がさりげなく、「同人活動ってなんですか?」と、二人に尋ねた。
「え? そういうの、知らないでこの絵を描いたの? ……まあ、いいや。同人活動っていうのはね、手っ取り早くいえば、二次創作活動ってやつかな」
にじそうさく?
「世の中にはいっぱーい、面白い漫画とかアニメがあるでしょ? それを元ネタにパロディにして、漫画や小説なんかを書くことを二次創作っていうんだよ。一次が原作で、それをパロってるから二次創作」
「へぇー。なんか面白そうですね!」
説明する吉永先輩に竹内は興味しんしん、といった雰囲気だ。
私は沈黙し、上倉さんは帰りたそうにそわそわしだしている。
「良かったら今度、私たちが共同で出している同人誌を持ってくるけど……読みたい?」
はい、読みたいです、と竹内は即座に、にこやかに返答した。
……すごい協調性だなあ。
なんだか、感心してしまう。
ちょうどそのときキーンコーンカーンコーンと五時を告げるチャイムが鳴った。
「あ、もうこんな時間だぁ」
新田副部長が帰る支度しないとねぇ、と穏やかな口調で言った。
「君達も早く帰ったほうがいいよ。夜遅くなると物騒だからね」
油絵の具がついたエプロンを外しながら、吉永部長が言ったので、私達は失礼をすることにした。
……絵画部を後にすると、上倉さんがぶはぁー、と大きな息をついた。
「いやー、いきなり三年が二人とか、めっちゃ緊張したー」
私達はほとんど人がいない廊下を三人で歩いた。
「ていうか、菊ちゃんがナイスプレイだったよね!」
料理だけじゃなくて、絵も上手いとか器用なんだね、と竹内が全くとんちんかんな方向から私を褒めた。
「いや、でもいきなり漫画の絵とかさ……」
先輩達に引かれなくて良かったよ、と上倉さんが奥歯にものが挟まったような物言いをした。こちらはごもっともだ。
しかし、『敢(あ)えてドン引かれるものを意図して描いたのだ』とは言えない。
私が二人と仲良くしたがらない明確な論理を見つけられないからだ。
説明が出来ないし、しても、きっとこの二人には理解してもらえないだろう。
「じゃあ、また明日ねー」
私はこの近くのハイツに住んでいるから、と、上倉さんが校門の近くで手を振り、私達にさよならを告げた。
「また」明日ね、か……。
私は複雑な気持ちになった。
本当に明日も上倉さんは今日みたいに私に接してくれるのだろうか?
「ちょっと、菊ちゃん、何ぼーっとしてるの?」
竹内が私の顔を覗きこむ。
ふさふさの睫毛。愛嬌のある小さな顔。
……可愛い子だ。本当に。
私とは全く釣り合いがとれない。
「なー坊!」
そのとき、タイミングを見計らったみたいに、道の陰から数人の女子が現れた。
その中の一人に見覚えがあった。初日の挨拶のあと、竹内に擦り寄られる私をきつく睨んでいた女だ。
確か、麗ちゃんとか呼ばれていた……。
「ちょっと話があるんだけれど」
えー、何? と、竹内が首をかしげる。
私はぱっと、竹内から後ずさった。
麗、と呼ばれている女はそんな私の様子を目を尖らせて見つめている。
「菊ちゃんと一緒じゃ駄目な話なの?」
「……そっちにはそっちで後からあたしから話があるから」
じゃあ、いっぺんでいいじゃん、と食い下がる竹内に「なー坊!」と、ぴしゃりと叱りつける様子で麗とよばれる女生徒は呼んだ。
「いいから黙って一緒に来て」
もー、しょうがないなあ、と竹内はほっぺたを膨らませた。
「じゃあ、また明日ね」
菊ちゃん、と、竹内だけが明るく手を振った。
なまじ竹内が明るく手を振る分、麗とその取り巻きたちの視線の冷たさが際立って私の胸に突き刺さる。
――お前が人並みだと思ったら大間違いなんだよ。
――お前なんて、いっそ、死ねばいい。
――生涯、恋人も結婚もできねぇんじゃねえ?
――てか、友達もできないだろ。
今まで私を縦横無尽に傷つけてきた万丈恵を筆頭とするクラスメイト達の言葉が数え切れぬほどたくさん胸のうちにあふれて、私は自分の耳を塞いで蹲(うずくま)りたくなる衝動にかられた。
――泣くな。
――家に着くまでは、自分の部屋に入るまでは、我慢しろ。
私はその場から自分の家に向かって猛スピードで走り出した。
犬を散歩させている通行人が「わ、危ないわね」と私を非難するように睨んだが、私は構わず走り続けた。
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