タイムマシンに乗ったら、コロナのない世界線に来てしまったのだが、俺はどうしたら、良いのだろう
第1-12話 絵画部を見学したら先輩が良かったら絵を描いてみてというので、みんながドン引きするものを描くことにした
第1-12話 絵画部を見学したら先輩が良かったら絵を描いてみてというので、みんながドン引きするものを描くことにした
「新入生なのかなあ?」
入り口に近いところで絵を描いていたジャージ姿の方の先輩が立ち上がり、ぽわんとした柔らかな口調で声をかけてくれた。
「はい、部活動の見学に参りました」
上倉さんが答えると、歓声があがった。
緊張で身を固くする私たちの元へと先輩が二人して駆け寄ってきてくれる。
「うわぁ、嬉しいな。美術部じゃなくて絵画部を見に来てくれるなんて」
「良かったら、何か書いてもいいよ!」
チャンスだ、と、私は思った。
「『何を』書いてもいいんですか?」
確認するように問うと、部長らしい女の人――セーラー服にエプロンをして、短い髪に眼鏡をかけた方の人が爽やかに「もちろん、なんでもいいよ」と言った。
私は胸の中で舌なめずりした。
……みんながドン引きするようなものを書いてやる。
そうすれば、竹内も上倉さんもいい加減、離れていってくれるだろう。
私は渡された木炭を使って、がしゃがしゃっと乱暴に絵を書いた。
「……あ」
何を書いているか気がついたらしい先輩が声をあげた。
〇滅の刃の、胡〇し〇ぶ。
今、流行(はや)っている漫画のキャラクターだ。
絵画部、という、絵画をきちんと学ぶ場所でこんな絵を描けばどうなるか……しかも、上級生がいる前で。
私は竹内のほうを盗み観た。ポカン、と口を開けて彼女は私が描いたキャラクターの絵を見ていた。
上倉さんも似たような反応だ。
沈黙が二秒、三秒……続いたと思った、次の瞬間。
「うわっ 上手(うま)っ」
という声があがった。 私がそちらの方を見ると――あの部長らしき女子が目をきらきらさせて私を見ていた。
「他にも描ける?〇逸とかっ、冨〇さんとかっ!」
「……書けます、けど」
私は困惑しながら木炭をキャンバスに動かして、〇滅の刃のキャラクターを書いていった。
「おおー」
「クオリティ高いな」
なんだなんだ?
ここは絵画部、だよな?
「やー。あたしらも漫画とかアニメとか大好きでさー。いろいろ活動してるんだよ」
あ、このことは先生には内緒だよぉ、とジャージの腕を捲くりながら髪を一つに結わいている方の先輩が相変わらずぽわわんとした調子で言った。
「もちろん普段はちゃんとここで絵を描いてるけどね……それにしてもいい画力してるじゃない」
気に入ったよ、と爽やかな口上でセーラー服にエプロンの年長っぽい先輩が私の絵を褒めた。
「あたしは部長の吉永悠里、三年。こっちは副部長の新田美栄、同じく三年生」
私の見立て通り、セーラー服のほうが部長だったらしい。よろしくね、と手を差し出されたのでおずおずとその手を掴んだ。
「他に部員さんはいらっしゃらないんですか?」
上倉さんの質問に、いないよ、と部長の吉永先輩が答えた。
「だからうちらの代で絵画部はつぶれちゃうんじゃないかって心配してたんだけどね……。顧問も美術部に付きっ切りだし」
でも、きみたちがもし入部してくれるなら、私達は肩の荷を降ろすことができるよ、と吉永先輩は続ける。
「あ、だからって入部を強要するわけじゃないからね。あくまで見学なんだから、ゆっくりじっくり見ていってねー」
副部長の新田先輩がフォローするかのように丸い言葉で私達をくるんだ。
私と、竹内と、上倉さんは部室をぐるりと見回した。
積み重なったキャンバス。あたりを漂うテレピン油の匂い。
埃を被った果物のオブジェや、牛か馬の頭部とおぼしき骨。ペンキの剥げかけた工芸机の上に並んだ、使いかけの油絵の具のチューブ。そして、そこに射し込む温かな西日。
認めたくはないが、そこは自分にとってすごく居心地のいい場所になりそうな予感があった。この小さな玩具箱のような部室だけ時間の流れがゆっくりと流れているのではないか、と思わせるような。
「私、ここ気に入っちゃった!」
入部しようよ、ね? 菊ちゃん! と、竹内が言った。
それと同時にじゃれつくように竹内のひじが私の肩の付け根にかかる。
……振り払えなかったのは、なぜだろう。
「そんなすぐに決めなくていいよぉー」
もちろん入部してくれたら嬉しいけどさ、と新田副部長はにこにこ笑う。
上倉さんは、ちょっと緊張している感じで、「ありがとうございます」と頭を下げた。
「あ、そうだ」
吉永部長が傍らの学生鞄から何やら名刺のようなものを取り出して私に渡した。
四葉のクローバーがワンポイントで入っているシンプルなデザインの名刺に、「くるなみ」という名前と、URLと、QRコードが印刷されている。
「これ、私のシブでの活動名とアドレス」
「あ、じゃあ私のも」
新田先輩も名刺大の紙をとりだす。こちらは乙女っぽいピンクを基調とした蝶が舞ったデザインで「やえつ」という名前と、やはりURLとQRコードが印刷されていた。
……シブのアドレス?
わけがわからない。
「さっき、言ったように私達、それぞれ同人活動してるからさ。良かったら見てみてよ」
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