25. アルス王子は〇〇を手に入れた!
◇◆◆◇
朝日が昇り、時の鐘が街の大聖堂から街全体へと厳かに大きく鳴り響く。それと連動するように城内にある小聖堂の鐘も城に住む者達へ知らせる為に鳴らされた。
その鐘の音が朧げに聴こえ、
ああ、
グリムオールとの件から既に何日か経っていた。
あれから僕は自身の
目覚めて体調が戻ったら一連の事で早速説教された。シャスに反省文書かされて、当分は座学時間マシマシの筋肉増やす特訓追加だそうな。筋肉ってなんだよ。
説教といえば、グリムオールを倒してから僕たち二人、ラーンスに助けられてからすぐに気を失ったわけだけど、実はリーシャは寝てるフリをしていたそうな。
顧みると、ヤツに捕まっていただけだし、多分僕よりも魔力を使っていない。心配なのはあの落下がトラウマになりかねないところだけど、まあ……大丈夫だろ、リーシャだし。
それで、何故寝たフリなんかしていたかというと妹曰く――
(一人だけ起きてたら先制して説教攻撃されるじゃん! 怒られるなら兄妹仲良くね♪ キャル~ン)
と、一見麗しい兄妹愛に訴えかけているかに見えるけど、本質は自分への怒りゲージを少しでも軽減することしか考えてないのが透けて見えるからな。さすがは僕の妹だ。さす妹。つか、キャル~ンってなんだよ。
幽霊の本質や、剣のことなどは寝てるフリをしていた時のやり取りをリーシャから教えてくれて、翌日シャスからも同じような説明をしてくれた。
僕の剣の力で直接ぶった斬りにいったことは、王子としてはダメダメらしくて、えらく注意されたね。まあシャスが述べた方法が最良だとは思う。普段の僕ならそれでいっていただろう。だけど、どうしてもこの手でリーシャを救いたかった、と言ったらそれ以上は問われなかった。
隣に居たリーシャが何だかそわそわして物静かなので、ひょっとしてあの時どこか怪我でもしたのでは? と顔や身体をペタペタ触っていたら、
(はわわーっ!?)
突然奇声を上げて手を当てている頬が熱くなってきた。高いところで晒されたから風邪でもひいたのかな? と今度は互いの額を合わせようとしたらアイアンクローをかまされてしまう。
(
……意味不明なことで罵られてしまった。風邪のひき始めだからか、虚言妄想あるあるかな。お大事に。
と、そんな感じで一日が過ぎ陽が落ちてそろそろ寝るかーと思った時、妹が添い寝をしに来た。そういえば前日、寝込んでいた時もリーシャが添い寝をしていたと従者が言っていた。今までもたまに添い寝するくらいはあったが、連続でするのは初めてじゃなかろうか。
(べ、別に兄さんが好色なのが心配で見張っててあげてるだけなんだから勘違いしないでよね!)
とか、まったく意味不明なことで心配されて、さらに何か面倒臭い性格してそうな女の子の台詞を吐くもんだから、やっぱり熱でもあるんじゃないかと思って、移されてはたまらんとそのまた次の日の三回目は丁重に辞退してもらった。その後、何かと機嫌悪そうにジト目で睨んでくるもんだから、調理場からコッソリせしめた僕の
まあ、今は元通りな感じになってるので熱が無事治まったのだろう。健康第一。
色々考えていたら目が冴えて来たし、あんまり視界に入れたくないモノを抱いているのでとりあえず上半身だけ起こそうとする。
欠伸をしながら、引っ付いてる妖精をペリっと剥がし、枕の横へポイする。コイツ、一緒に寝るんだけど小さいから僕たちの寝返りなんかでよく
そんな半紙妖精と共に、僕のベッドの上、すぐ躰を起こした手元には……”
もちろん、魔剣やカッコイイ剣などには興味はあるけど、抱くほど魅入って執着はしない。
最初は自分の部屋の片隅に立て掛けてて、朝になったら手元に剣があったから寝ぼけて持ってきたのかと思ったんだけど、次の日も同じく起きたら傍に剣があった。 何となく嫌な予感がして、僕は宝物庫の元々あった台座へと剣を戻してから、その足でシャスのところへ赴き、大司教様からせしめた呪いを退けるという聖石を譲り受けた。
早速聖石を枕元へ置き、安心してスヤぁっと快眠出来たと思ったら……起きると剣が枕代わりになっていたのである。誰かの悪戯かと思ったが、持ち手しか動かせないらしいからコレが勝手に動いているとしか言いようがない。ホラーかよ。
宝物庫でコイツに触る時に懸念した、持ち主から離れないポピュラーな呪いに罹ったみたいなものである。聖剣どころか呪いの魔剣じゃねーか。
後で大司教様に呪いを除去してもらおう。
そんな風に毎朝剣に憑かれていると、朝起こしに来る従者に目撃されるんだが、まるで勇者になる夢見て貰った玩具の剣を寝ている時まで離さない、そんな綺麗な部分もあったんですね? みたいな生暖かい視線を感じた。
僕は勇者に成りたくないですぅ。物語のようにこの世にそんな
はっ! もしこの国に勇者を名乗る素っ頓狂が現れたなら、この
来たれ勇者よ! 王族の名に賭けて歓待しようではないか、ワハハー!
謀を練っていると、それを
「黙れ、駄剣」
おっと思わず口に出てしまった。まあ、朝っぱらから逃避はいかんね。だがムカつくから剣を部屋の奥へと荒めに放り投げた瞬間、パッと膝元に剣が戻ってきていた。
「コノヤロウ」
段々と露骨になってきやがった。こっちもムキになって投げ捨てては戻ってくるのを何回も繰り返してしまう。
「ふにゅー、なにー? 朝ごはん~? なんで朝っぱらから息が荒くなってるのー?」
ベッドの上でドタバタしていたからか、ミューンを起こしてしまう。
「来たる未来に向けて、この邪剣と討論してたんだよ」
「ああー、また剣と仲良くしてる~!? 私が一緒に寝てあげてるのにー」
現在、ミューンは剣と添い寝の主導権を争い合っている。
ミューンは僕とリーシャとの間でやや僕の方へ多く眠りに来る。何でもリーシャの方にミリアルがたまに添い寝に来て人形扱いされるから、避難しているそうな。ふむ、義妹よ、せめて
んで、突然現れた呪剣に添い寝権を奪われるかも、とライバル視しているのだ。心底どうでもいい。そんな当事者を放って互いに言い争っている中、
「私が押し潰されてもいいのは双子たちだけだからね」
何コイツ、どさくさに紛れてめっちゃ怖いこと言ってるんだけど。ドン引きしてると剣が、自分なら固いから安定感あるよ? みたいなこと言ってる気がした。や、抱き枕じゃあるまいし、装飾で尖ってる部分もあって痛いんだよ!
「ぐぬぬ……アルスはこんな堅物よりも愛らしい私の方がいいよね?」
「まあ涎を垂らさないでくれたらな。というかその言い回しはヤバイからヤメロ」
どこぞの宮廷愛憎劇あるあるな台詞を悪役風味に素で話す妖精に対し、これまた剣が、自分なら涎を垂らしませんよ? みたいなこと言ってる気がした。何気にドヤ顔っぽい気もする。
「ぐぬぬー。とにかく、アルスと添い寝していいのは私だけだかんね!」
そういえば会話が通じている感じなんだけど、何? ミューン解るの? コイツ謎生体だからなあ……どんな
台詞だけ見ればモテモテなんだが、言い争っているのがモルモット妖精と邪剣である。おかしい、第一継承権持ちの王子様ってモテモテだと思うんですけど。や、コイツらにモテてるからいいのか……よくねーよ!?
リーシャが物語から得た
刹那でも良いのかと思った己に戦慄するが、これは
思えば、宝物庫の時からおかしかった。
グリムオールの封印された箱を開けるのはまあ、僕たちなら素でやるだろう。問題は武器……この誘惑の剣を選んだことだ。
宝物庫にはこの剣以外にも、様々な武器が置かれていた。もちろん、名剣レベルの代物ばかりである。宝物庫なんだから騎士団の倉庫にあるような普通の剣を保管するわけがない。そこには色んな属性効果が付いた
そう、いくら魔力が高くても、錆びた抜けない剣なんて絶対選ばない。少なくとも僕は選ばない。
つまり、初手から悪魔の囁きの如く、認識を歪められて踊らされていたのだ。
おそらく、この悪魔剣ではない他の剣を手に取っていたら、グリムオールを倒せないまでも早々にあの場で無力化は出来たんじゃなかろうか。
試練だか何だか知らないが、覚醒に至った時、僕が、僕らしくなった時、正気に戻ったというか違和感が無くなったというか、勝手に自分の意志を洗脳紛いで変えられて振り回されていたのに気付いた。
まったく面白くない。
だから僕は怒っている。
「おいコラ、今後、洗脳紛いなことを少しでもしたら……龍翼大陸にあるというゼスカ諸島の火竜活火山帯に行って溶岩漬けにするからな」
傍で言い合ってる合間から剣を目の前に掲げ、脅しめいた物言いで釘を刺す。
僕の本気具合が伝わったのか、謝罪の思念が届いた気がした。まあ其処らへんに置いていても呼び寄せれる武器と考えたら有用かね? ポイっとその辺に投げ置いたら、今度は帯剣ベルトで背負うように巻いて来やがった!
洗脳はもうしないから、持ってて欲しいのお、みたいなことを言っている気がした。はっきり洗脳って言いやがったなコノヤロウ。
やっぱりこんな物騒なモノいらんと、ベッドの上で立ち上がり先みたいに、投げ捨ては戻るを繰り返してしまう。ミューンが欠伸をしている前で、いい加減虚しくなってきて一端休戦する。
ヤなのお~、常に傍にいてほしいの~、みたいなことを言っている気がした。何なのも~。いつもラーンスを囲んで言い寄ってくる女性陣を思わせる、重い感じの雰囲気がするぞ……。そういやラーンスは常時最大モテ期っぽくね? さすがは至高の騎士ラーンスロット。さすンス。やっぱり筋肉だろうか? 御指導お願いします。
……とにかく、コレから常に所持してほしいという剣の願い? 呪い? を感じる。
この分だと、お風呂や厠まで一緒になりかねない。社交界の付き合いでの夜会やお茶会とかでも携帯しないといけないのは流石に物騒で無粋じゃないか。危ない王子扱いされるぞ。いや、さすンスは常時帯剣していても何も言われないな。やはり筋肉のおかげだろうか? 筋肉増強御指導お願いします。
――ラーンスロットは近衛騎士という護衛も兼ねた要職だからです。
せめて木剣なら……とほんのちょっと思った時、ヤバイ!? とすぐさま全力否定するが時すでに遅く剣が目をつむるほど光り輝き、そして光が治まって目を開けると――手にしていた聖剣が
その時、部屋の扉のドアノックを数回鳴らし、僕が寝ていると思って返事を待たずに失礼しますと声掛けしながら、起こしに来たであろう従者が入って来た。
そして目が合う。
朝っぱらからベッドの上で木剣を掲げている
従者の目が生暖かい感じになったのが見て取れた……。
――そんなやりとりがあった後日、余程気に入ったのか、何だかやけに意匠を凝らした木剣を手放さないで常に帯剣する王子を、勇者に憧れた木剣王子と周りから囁かれたそうな。
第一譚 『城と双子と幽霊と』 おわり
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あとがき
タイトルの○○には作中に出て来た剣の名をお好きに当てはめてください。
先に言っておきますが絶対に擬人化はしません。
拙作を読者様の貴重なお時間を使ってまで読んで頂きありがとうございます。
初投稿作品なので至らない点が多々あるでしょうが、ご指摘貰えれば精進します。
第一譚は色んなキャラの顔見せや舞台設定の紹介を兼ねて長編ぽくなっています。日常譚なので、これ以降は短めの話になっていくかと。次譚は今回の話を引きずるものになるのですが長くはありません。ある程度組み上げたら更新いたします。自分は筆を執るのが遅いので、あまり話が進まないかもしれません。なのでのんびりと、たまに思い出して覗いてくれるくらいが丁度良いと思います。
では、第二譚『ダンジョンアタック! 低階層編』でまたお会いしましょう。
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