14. 大司教と王女の邂逅




  ◇◆◆◇




 夕方になり、この地が紅に染まり始める。


 城の中も夕日が照らし、柱の影などが長く伸びていて、陰影がはっきりと分かれているのが見てとれた。夜会の会場である本館に入ってすぐの大広間から、少し外れた二階の通路を通っているので人影はほとんどない。自分の部屋から目的の場所まで行くのに一番近いルートだ。向こうの喧騒と隔離された静寂な空間に一人分の軽い靴音だけが石床に響く。


 衣装合わせドレスアップを終えたリーシャわたしは礼拝堂へと向かっていた。


 くるぶしからふくらはぎまで革製の紐がお洒落に編み込まれ踵が少し底上げされたサンダルタイプの靴で軽やかに歩く。着ているドレスは紫を基調としたワンピースでスカート部分だけしつこくならない程度のフリルになっており、腰には可愛らしいコサージュを付けたリボンベルトを巻いている。スカートの丈は膝あたりなので、膝まであるドロワーズが少し覗いており、袖はとても短く、細く綺麗な肌だと自負している腕と足が見える。髪はストレートレイヤースタイルに軽めのふわ編みハーフアップを、花柄に細工し小さな宝石を幾つも散りばめたバレッタで飾られていた。激戦を勝ち抜いた従者渾身の盛装である。記憶が若干抜けているのが少し不安だけど。


 綺麗に着飾っているし、折角だから王女らしく優美に歩いていくことにした。悪役王女らしく、モフモフ羽扇子を開いてオーホホと高笑いしながら行こうかしらん。……マテ、なんで悪役なんだよ。どう見ても愛らしい魔法少女な王女でしょーが。扇子も持ってないし。


 ここに来るまでにも、時折人とすれ違ったので会釈をしたら、私の都雅に見惚れているのが手に取るようにわかった。オーホホ、制御出来ない美しさって罪なコトですわ。……イカンイカン、悪役じゃないってば。魔法王女の笑い方ってどんななん。キャル~ン? そういえば巷で流行っている本で魔法少女ものがあったわ。

 内面では本を参考に魔女王女の身振りや笑い方を考えつつも優雅にこの通路まで進んできた。途中、従者達の控室前を通る時、


(王女感知スキル発動しました!)

(総員第一種可愛がり態勢)

(ハァハァ)


 と不穏な会話が聞こえたので、そこだけ全力ダッシュしたけども。変態の巣窟かよ。


 通路の端に辿り着き、塔型でアーチ門になっている入口をくぐり、螺旋階段を静かに降りていく。降りてすぐのところに中と外に分かれている出入口があるので、外の方に出ると石床が途切れることなく屋根が付いている渡り廊下が、向こうの建物まで繋がっていた。あの建物が礼拝堂だ。

 礼拝堂は、正門から見てお城……本館の左手の少し奥まった処にある。本来、来賓や用事がある時は正門から続く庭や道を辿って正面から入るものだけど、今日はその庭が夜会の会場になっていて、人の往来も多い。この廊下からもそれが見て取れる。城とお堂を繋ぐこの渡り廊下は後ろ手の方に位置し裏口や関係者用の通路へと繋がっている。一応王女様なので主賓が準備中の会場にいくのもアレだし、裏方からこっそり入るのだ。ふと廊下の中間辺りで立ち止まり、何となく会場や景色を眺めた。


 廊下から覗いて見える礼拝堂は城内にあるにしては小規模な感じかも知れない。街の方にも七柱神統合大聖堂がある。むしろそちらが本殿だ。礼拝堂はぶっちゃけると貴族用の小聖堂だね。貴族と庶民による揉め事はご勘弁ということで分けているんだろう。神官による治療・祈祷・解呪・懺悔諸々、お布施次第で見合ったことを奇跡の力で行使してくれるので神は人の身近にあるものと思われているから、各柱神の信仰は人の心に根強くある。神を政治利用しないようにと、各教会はあくまで民の方へ寄り添うスタンスだ。龍翼大陸にある、此方の帝国とは違う別の帝国が一神教らしいんだけど、結局は人の思惑、国の政策次第なのかな。この国アルクウィルは、世界標準スタンダードな姿勢だ。色んな種族を迎え入れているからだろう。


 もし兄さんが王となったらどうなるのかな。弱いくせに賭け事好きだから、業と商いの神ルゥド――欲を司る神を主神にしそうだわ。いや、時を紡ぎ未来を示す神メヌで勝ちを予想出来ると安易に考えるかもしれない。どっちにしろ賭けに狂う狂王になったら下克上だ。その時こそシャス様に王位を譲りましょう。王位簒奪な野望を抱きつつも未来よりも現状の兄さんの事を考える。


「ハニー兄さん大丈夫かしら……」


 礼拝堂の影に覆われた誰も居ない暗い廊下の欄干に手をのせ、しばし夕日に照らされる向こうの喧騒を眺めながら独り言つ。

 真面目にやっているのだろうか。何となく、くだらない事を思いついてその結果涙目になってそうな気がする。いや、真面目にバカをやるから何時も碌な目に遭うのだ。それに乗っている私が人のことを言えた義理じゃないけどもぉ。だってぇー面白いしぃ……イカンイカン、無自覚系女犯人ぽくなってる。悪役から犯人にクラスチェンジしちゃってるよ。魔法王女に戻らなければ、キャル~ン。


 おっと、物思いにふけるのはこれくらいにしてっと、大司教様に会いに行かねば。再び渡り廊下を歩き始める。礼拝堂の後方に内職や生活の場となる司祭館がある構造なので、裏口からそのまま館へと入ることができる。

 大司教様の居る部屋は二階の奥の方なので、ここから突き当たりの階段を上らないと行けない。勝手知ったるや、よく遊びに来るのでずんずんと進む。ここに務めている神官達も引き留めるわけでもなく、軽い挨拶くらいで済んだ。

 ただ、すれ違う神官に会釈する度に、アリだわ、アリですな、悪役アリまくり、と呟きが聞こえるんだけど……蟻でも発生したの? てか悪役蟻ってなんだ?


 はてな? と思っている内に、大司教様の部屋前に来た。周りの扉に比べると少し大きめで装飾も凝らされている。ドアノッカーも七柱神のシンボルをかたどったものだ。私には少し高い位置にあるので踵を上げて伸ばし気味に取っ手をとり、二回鳴らした。


「入りたまえ」


 ちっ、居やがりましたか。留守ならアイテム盗り放題だったのに。

 部屋に入ると仕事でもしていたのだろうか、机に座って書類を見ている老人とその前には若い女性が立っていた。両人はそれぞれ信奉する神が違うのだろう、色や模様の違いが見て判る神職の衣装を纏っている。女性の方は、水と生命を司る慈愛神クレハの神官さんかな。


「ごきげんよう、御二人方。お仕事中でしたか?」

「これはこれは、リーシャ様。ごきげんよう。とてもア……盛装がお似合いですね」


 女性神官さんが褒めてくれたー。クレハ神みたいに慈しむようなニッコリと笑った神官さんもめっちゃ美人さんだよ! でも何か言い直したみたいだけど。


 そして部屋の真ん中にある豪華な机に座っているのは、祝福と栄光の光神イーツァを信奉とする大司教マクルエル様。大司教という立場だからか、着ている衣装も細かいところで豪華仕様になっていて威厳を醸し出している。

 御老人な御歳だから白髪、白眉で彫が深い顔つきに皺が年相応に見受けられる。窪み目には全てを見通すような、全てを許すような瞳が光っていた。何だか肩に力を入れながら鋭く私を見つめていたと思ったらガタっと勢いよく立ち上がり、厳めしい表情から一気にふにゃりっと輪郭が崩れるほどの喜んだ顔で――


「おおぉぉ、リーシャちゃあん。よく来たのおお!」


 訂正、そこに居たのは、威厳も何もないただのジジイだった。


「なんじゃあぁぁ、この可愛い子はあああ。天使かっ!? いや光神イーツァ様が御降臨為されたのかっ!? 何となく語呂が似てるしー! はっ! 神御自ら私めを魂の楽園へと迎えに来てくださったのか! 我が生涯に一片の悔いなーしっ!」


 ……すっごいテンション半端ないんだけど。さすがの魔法王女も対応しかねる。そんな昇天間近なジジイ、いえ大司教様に横からツッコミが入る。


「おい、ジジイ。いえ、マクルエル殿、召されるのは良いですけど、その立場を譲ってからにして下さい。それと幼い子供で発奮するとクレハ神の慈悲もなく神罰下りますよ。むしろ冥界に徒歩で下りやがれですよ」


 ジジイって言っちゃってるよ。最も慈悲深い神の神官なのに、まったく慈悲がない発言してるし。顔を見たら蔑むような目と無表情だった。あれ、クレハ神官さんだよね? 思わず二度見したわ。ジジ……大司教様は私の愛らしさに夢中で聞こえてない感じだけど。


「所用の事はお構いなく、リーシャ様。折角ですからお茶を御用意してきます」


 先ほど発言と表情が無かったかみたいに、しれっと私には慈愛な表情を見せる。別人と思わせる、そのフェイステク。まさに神の御業か。ぜひ私めにも奇跡の業をお授けください。


「ほれ、ささっといかんか。ワシ孫可愛がり、するでのう」

「……いつかその座から引きずり下ろす」


 ジ……大司教様にはスッゴイ冷酷無比な表情へと瞬時に切り替わったので、思わずガン見したわ。ぼそりと呟いた言葉もハッキリ聞こえたし……。大司教様は七柱教会からテキトーに選出されたお城の礼拝堂の代表だ。ここでも下克上なのか。ぜひぜひ私と共同戦線組みませんこと?

 まあ各柱神の立場はほぼ対等だし。色々なしがらみでもあるんでしょう。そういえば、聖堂に置く神像の中心の座を競っては毎月入れ替わっているらしい。ヒトは争いから逃れることは出来ないのだろうか。でも神話で神同士が争ってるしなー。

 身も蓋もないことを考えてるうちに、神官さんは退出していった。


 おっと、これは……傍から見れば、幼女と鼻息荒いジジイの二人きりな状況でギルティ待ったなしだわ。まあその時は神官さんが冥界へと送って下さるでしょう。


「いやあリーシャちゃ、嬢、今日は一段と愛らしいのう。そうか、夜会のドレスじゃなあ。うんうん、アレっぽくてよく似合ってるわい」

「エヘヘ、大司教様にドレスお披露目しに来ちゃいましたー」


 上品さよりも可愛らしいさを重視したカーツィを行う。


「天使かっ! ここに天使がおる! はっ! 神は、此処にいた……!? 語呂が」

「それ二回目ね」


 放っておくと何回言い出すかわからん。無限に繰り返し出来そうなんでニコリと微笑みながら遮った。


「神官さん達は夜会に出席なされないの?」

「農耕儀礼の祭事だから、レルムの司祭が仕切ってやっているが、ワシも夜会で軽い挨拶だけじゃな。食事は神官達だけで慎ましくやるよ。暴飲暴食は禁忌タブーじゃからの。じゃが料理長が少し豪華に用意してくれているらしいから楽しみだわい」


 各柱神の神官さん達は共通して食材の禁忌はないっぽい。お酒も少しなら許されているそうな。


「おっと、立ちっぱなしのままで申し訳ないの。さあさあ、こちらに座りなされ」

「ありがとう」


 机の前にある来賓用のソファーへと促された。大司教様も机から移動して対面のソファーへと座る。私もあざとらしくポテンっと座った。大司教様は可愛らしい仕草で座る私を見てデレデレである。既にあざとかわいい攻撃は始まっているのだ。


「お城内に幽霊が入り込んじゃったのはご存じ?」

「確かに邪な気配は感じたの。じゃが城内の事は宰相殿の采配次第でな。迂闊に動けん。まあ微々たるものだし、放っておいてもそちらで対処するじゃろうと思っておるよ」


 やはり感知はしていたね。枯れても大司教まで昇り詰めているジジイである。神力は高いんだろう。ならば話は進めやすい。


「実は兄さんがその幽霊退治を請け負っていて。それで何か兄の手助け出来ないかと……聖水があれば役に立つんじゃないかと思ったの」


 立派な兄を慕う健気な妹という設定でしんみりとした表情を作る。


「おお、王子なのに真、勇者の如く立派な挺身じゃの。それに兄を想う妹の何と幼気なものよ! 天使かっ! 天使が」

「それ三回目ね」


 実際はやらかして証拠隠滅に奔走している小悪党と詐欺師っぽいんだけどね。真実と嘘を調合して瓶詰すれば、回復薬に見えて実は毒薬の如く、気付かないものである。


「なので、聖水をちょうだーい」


「うんうん、リーシャ嬢なら幾らでも欲しい物あげる、と言いたいのじゃがのう」


 おや、いつもならあっさりと貰えるのに。ここは更なる追撃で畳み掛けるべし!


「御爺様……ダメ、なの?」


 リーシャはウルウル瞳攻撃をした!


「むっはああぁぁっ」


 ジジイは大ダメージを受けた!


「おお、ここは天界か……何じゃ婆さんが呼んでるのう。今そっちに――」

「アカーン! 現世に踏みとどまってー!」


 効果が抜群すぎて致命傷になるとこだったわ。


「ふう、危ない危ない、御粧おめかししたリーシャ嬢が余りにも可愛らしくてなあ。死んだ婆さんの子供の頃を思い出したわい」


 私、お見合い結婚したと知っているんですけど。三十歳くらいに初対面だったとも聞き及んでいるし。


「まあ聖水なんぞ教会の井戸から汲んだ水じゃからの。それを祈祷すればすぐ出来上がるし」

「ええー……」


 うをーい、ぶっちゃけすぎるわ。まさかの井戸産だし。霊峰の聖なる水を売りにしてるんじゃなかったっけ? いや確かに霊峰の麓の水で、神官が祈れば聖なる力が付与されるだろうけど。詐欺っぽい言い回しにもやもやする。汚い、大人って汚いわ。あ、私もさっき詐欺っぽい言い回ししてたわ。


「なに、聖水をあげる代わりに、お願いを叶えてくれれば良いのじゃ。ほれ、子供もいない、老い先短いワシが孫の様に思っている王女の愛らしい仕草を、もちぃーっと見てみたいのう……。そしたらワシ、めっちゃ満足」


 なん……だと。まさか私の可愛さが天元突破しすぎて、孫可愛がりおねだり形態になってしまったか!

 ちなみに台詞からしんみりする場面っぽいけど、昨年も、そのまた一昨年も同じようなことを言われている。神妙な顔つきをしながらもチラチラっとこちらの様子を伺っているし。純真ピュアに御老人の為にしてあげる私はもう、いない。

 だけど、此処に来た目的は聖水を手に入れることだ。その為には御老人の期待に応えるしかない。それにちょうどさっき考えていた、巷で流行ってる魔法少女ものを参考にした魔法王女の振り付けも堂々とお披露目出来るんじゃあないか……ゴクリ。


 そうよねー、しょうがないよねー、これも魔法王女の使命だよねー。聖水の為に、私は私の成すべきことをする為にここまで来たのよ!


「もーしょうがないなー」


 しょうがないしょうがない、兄さんの為にひと肌脱ぐかー。これも麗しき双子愛よ。決してこれを口実に魔法王女の決めポーズをしたいんじゃないからねっ!

 そそくさと立ち上がり、身振り手振りしても大丈夫な位置につく。コホンと咳払いをしてから、両手を合わせて祈りの形にした。


「それじゃ、いっくよー!」

「ひゃっほーい」


 くるりと片足で軽やかに一回転しつつ腕を広げる。正面に戻った時回転をピタっと止めて前屈みになり両手は顔の横で猫が招くような形に、あとは片足をピョンとあげた。


「キャル~ン! マジカルプリンセス・リーシャちゃん、ここに顕現! 貴方のハートを物理的に止めて昇天させちゃうゾっ!」


「魔法少女ものきたー! もうワシ、何時でも止められても構わんぞおおぉぉ!」


 魔法少女が通じちゃってるよ、オイ。でも御老人に通じてもなー……。


「紫ドレスは悪役魔法少女っぽいのう。だが魔女裁判になってもこのワシが不正してでも守ってやるでなあ」


 設定まで考えとるじゃん。御老人の神官ジョークなのか本気か判らないけど発言がヤバイって。つーか何で悪役なのよ。さっきから悪役推しがスゴイんだけど。


 ――解説しよう。教会の奉職として写本を作っている。その本の中に巷で流行っている魔法少女ものがあった。写本しつつも読み込んでいる神官達の間でも流行りだし、今では神官ほぼ全員に人気となっていた。特に正義の魔法少女と悪の魔法少女が対峙する描写シーンが熱く語られるほどである。そして衣装合わせをした従者もこれを読んでいてモチーフにしていたのである。何たる偶然か、狙ってやったのか、それとも神の思し召しか。いや魔法少女の恰好をした王女が神官達の処へ訪ればこうなるのは必然。これは、アリですね! ――


「お、そうじゃ!」


 閃いたとばかりに大司教様が立ち上がり、後ろの台座の箱からあるアイテムを取り出してきた。


「此処にモフモフ羽扇子があるから、それを使ってもう一回やってくれんかのう。そしたらワシ、めっちゃ満足昇天」


 なん……だと。まさかの孫可愛がり追加おねだり形態が来るとは! というか何で此処にこんなものがあるの? あ、来賓用に用意してるのね。

 だけど、此処に来た目的は聖水を手に入れることだ。その為には御老人の期待に応えるしかない。それに、巷で流行ってる魔法少女ものを参考にした魔法王女の振り付けもそのモフモフアイテムがあれば完璧に再現出来るんじゃあないか……ゴクリ。


 そうよねー、しょうがないよねー、これも悪役魔法王女の使命だよねー。聖水の為に、私は私の成すべきことをする為にここまで来たのよ!


「もーしょうがないなー」


 しょうがないしょうがない、エロい兄さんの為にひと肌脱ぐかー。これも麗しき双子愛よ。決してこれを口実に悪役魔法王女の決めポーズをしたいんじゃないからねっ!


「ひゃっほ~い」

「いっくよー。キャル~ンっ!」


 ジジイ、ノリノリである。私もノリノリである。

 やっべ、楽しいわ。これは更なる境地へと至ったかも知れない。いやでも、歳を離れた大司教様の前だからこそ出来るのかも知れない。従者達の前でやったら、あっちが天元突破して合体してきそうだし。兄さんにバレるものなら、一生からかってくるに違いない。その時こそ、影と精神を司る神シャンドラの神官さんに呪って貰いましょう。

 ということで、この機会に思いっきり振り振りしてやろっと! これ幸いと色んなポーズを披露しては、大司教様がそれを大喜びではしゃいでいる。

 私、調子ノリノリである。ジジイもノリノリである。


 お茶を持ってきた神官さんに見られるまでは。


『あ』


 ……はしゃぎすぎていつの間にか入っていたのか判らず、二人して気付いたときには、神官さんにじーっと見られていた。

 調子に乗り過ぎて土足でソファーに上がり、変なポーズのまま振り返って目が合ったのでその姿勢で固まったまま、ジジイも興奮して片膝ついて両手を広げた姿勢で固まったまま、この空間だけが時が止まったような気まずい沈黙が落ちる。


 この気まずい雰囲気を打ち破るため、いそいそと変なポーズを解除し、神官さんへと向き直る。今こそ魔法王女の真価が問われる時、基本のポーズは最終回でもちゃんと使われるのが魔法少女ものの定番なのよ!


「いっくよー。キャル~ンっ!」

「アリ、ですね」


 この後、神官さんも交じって夜会始まる直前までめっちゃ魔法王女させられた。




 王女は聖水(効果大)を手に入れた!

 王女はモフモフ羽扇子(悪役令嬢+1)を手に入れた!



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