第9話 かと言って魔王でもございません
彼女達が魔王を倒しに来たと言う冒険者だろうか。見た目的には私とそんな大差ないけど。てかそんなヒラヒラとしたスカートで戦えるの?魔王を舐めてない?
「私達は魔王である貴女を倒しに来ました」
うわぁ…完全に勘違いしてるよ。
「私、魔王じゃないですよ?」
「そんな筈ありません。だって、その手首にくっきりと浮かび上がってる紋章が何よりも証拠じゃないですか」
桃色セミロングの少女は目線だけを私の手首に向けた。そこにはレイエスさんに付けられたもの《紋章》が。
これって魔王の証だったの?そんなの初耳なんですけど。
まさかの事実に狼狽える私だがそれを見逃さなかった少女が私に噛み付くように口を開いた。
「まさか、知らなかったと言う訳ではありませんよね?純情のフリなど甚だしいんですけど」
苛立ってる感情を隠そうとも桃色の少女は私を睨み付けて悪態をついた。
そんな事言われても本当に知らないのだから仕方ないじゃない。
今にも飛び掛かって来そうな少女を無言のまま手だけで制したのは先程までだんまりだった水色ツインテの少女だった。
「そろそろ私にも喋らせて貰っても良いかな?」
桃色の少女とは一変して水色の少女は華やかな笑顔を浮かべた。
ずっと睨んでくる桃色の少女も怖いけどずっと笑顔を絶やさないで居る水色の少女も怖い…。両方から無言の圧を受けた私は黙って頷いた。
「ふふっ、ありがとうございます。私はウンディーネのメルティです。そして彼女はサラマンダーのリアティルド。以後、お見知りおきを」
水色の少女の名はメルティ、桃色の少女の名はリアティルドと言うらしい。こんな時に自分達の自己紹介をするとはなんて冷静且つ、礼儀の正しい子なのだろう。笑顔は怖いけど。
「いきなりリアティルドがごめんなさい。でも魔王である貴女を倒さないと国が破滅するの。だから多少の無礼を許して?」
「・・・メルティだったわよね。私、本当に魔王じゃないの。今は理由があってこの家に居るんだけどこの国に何かするつもりないわ」
「あら、そうだったのですね」
そう言えばメルティは口元に手を持っていき、目を見開いて驚いてる素振りをした。
これだけで信じるとは良い人か。理解力のある娘で助かるけど悪い人に騙されないか心配だ。
「・・・でしたら魔王の、妹さんですか?」
んん??なんか、想像の斜め上を行く言葉が来たぞ?
「魔王はLv100超えと伺っております。ですが貴女のLvは58程度。そのくらいなら国中に多々と居る事でしょう。しかしそのマークは魔王である印。そうなれば考えられるのはひとつ……貴女が魔王の関係者だからです!!」
おぉ…。何て浅はかな推理なのだろう。貴女の中には魔王の知り合いしか選択肢にないの?私が騙された可能性は見出さなかったの?
リアティルドは自分の推理が完璧だと思ってるのだろう。私を見つめながら胸を張ってドヤっていた。
「まぁ!確かにそれなら全て納得ね。流石はリアティルド」
いや、貴女も何言ってるの?そこで納得しないでよ。
メルティは両手を合わせて尊敬の眼差しでリアティルドを見つめた。
「・・・私は魔王の妹でもないよ。魔王って黒髪でしょ?でも私は茶髪…。どこからどう見ても強そうなイメージないでしょ?悪事を働く様な顔をしてないでしょ?」
あれっ、どこかで似た様な事を言った気がするけどまぁ、いっか。
二人にずいっと顔を近付けるとリアティルドは顔を顰め、メルティはキョトン顔で首を傾げた。
「・・・・・何故、魔王の容姿を知ってるんですか?」
リアティルドの言葉で自分がとんでもない失態を犯した事に気付く。
「・・・あっ、ほら!悪者って黒のイメージあるじゃない!?だから魔王も黒なのかなー…って」
「人を見た目で判断するのはどうかと」
いや、それはそうだけど。それに関しては私が悪いけど。他に言い訳が見つからなかったんだから仕方ないじゃない。
リアティルドの眉間の皺がさらに深くなるのを見て絶対笑ったら可愛いのにとその場に相応しくない考えが頭に過ぎった。
「はぁ…。話になりませんね。良い加減観念したらどうです?貴女が逃げようとするだけ魔王の威厳が無くなりますよ?・・・それとも、私達に倒されるのが怖いのですか?」
「・・・・・はい?」
リアティルドにそう言われた瞬間、ピキッと自身のこめかみに青筋が立つのが分かった。
何が怖いですって?調子に乗るのも良い加減にしなさいよ。アンタ達なんか私が本気出せば一瞬で倒せるんだから。
「・・・分かった。その勝負引き受けるわ。だけど場所を変えましょう。」
「勿論です。この場所は何かと目立ちますからね」
「それじゃあ、レッツゴー!」
私達は屋敷から離れ、何もないだだっ広い草原で対面する様に立った。
「・・・逃げないでくださいね」
リアティルドは炎を纏って体を浮かせると不敵に笑った。初めて見るリアティルドの笑みがとても綺麗で軽く見惚れてるとリアティルドを纏っていた炎がいきなり私目掛けて物凄いスピードで突っ込んできた。
それをまともに喰らっては駄目だと思った私は咄嗟に受け身体制に入った。
それもあって顔を火傷せずに済んだが火をまともに喰らった服が少し破けてしまった。いや、これは溶けたのか?
「次は私の相手をして貰えます?」
後ろを振り返るとリアティルドと同じく宙に浮いてるメルティが居た。しかしこちらは水を纏っている。
「麗しき水よ、私の力となりなさい」
メルティがそう呟いた瞬間、水が剣に姿を変えた。刃の先端が細長くとても切れ味が良さそうだ。少しでも当たってしまったら細かく切り込まれるかもしれない。
「ふふっ、魔王様の妹君の実力を拝見です♡」
「だから、私は妹じゃ・・・・・」
その続きはヒュッと息を呑んで消えた。
「その続きはたっぷりと痛めつけた後で聞いて差し上げますよ」
リアティルドは火の玉を私の喉元に当てた。
「・・・ちょっと可哀想だけどなるべく優しくしてあげるから大丈夫よ」
全っ前、大丈夫じゃないんですけど!?
貴女達私を殺す気ですよね!?
これ以上近付けられたら喉が焼けるんですけど!メルティもそんな物騒なもの、顔に近付けないで!
それぞれの武器を持った二人は殺意に満ち溢れた目をしていた。
まるで魔王に肉親を殺されたかの様な。
本当に魔王、貴方何をしたんですか?
だんだんとメルティの剣の刃が頬にめり込んできた。リアティルドの火の玉から火花が散ってそれが喉に当たって痛い。
この二人に私の魔法が通用するか分からないけど何もしないよりマシか。
「岩よ、我の助けとなれ」
二人に聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟いた。すると空にはたくさんの小さな石が浮かび上がった。
「そんな小さな石がたくさん降ってこようとどうにもなりませんよ。魔王の妹さんも大した事ないですね」
「・・・まぁ、少しでも足掻こうとする気持ちは分かるわ」
二人は小馬鹿にした様に笑っていた。だけど私の魔法はそれだけで終わらない。
小石はだんだんと膨らんで大礫の様な大きさになった。
「落下!!」
「え、」
「あら?」
ドドドドドドドッ!!
大礫は私の合図とともに二人目掛けて落下した。
命をとりたくはないから狙いを少しずらしたつもりだけど私は未だに魔法の扱いに慣れてないからもしかしたらモロに当ててしまうかもしれない。あんなものが当たってしまったら死ぬかもしれない。そしたら私は殺人犯になってしまうのかな。
彼女達の姿は見付からない。大礫が落ちた地面は歪な形になっていた。
ちゃんと生きてるわよね?
一応念の為、彼女達が無事かどうか近くまで行ってみる事にした。
すると彼女達の姿はすぐに見つかった。足とか挟まれていたけど気を失ってるだけで命に別状はなさそうだ。
それに一先ず安堵してホッと胸を撫で下ろしたとこで次の目の前にある難題に頭を抱えた。
この娘達、どうしよう・・・・・。
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