第8話 私は聖女ではありません
翌日、レイエスさんに家を譲って貰った私は家でまったりとゴロゴロしていた。
流石は魔王が気に入るだけあって、リビングも寝室も一人じゃ勿体ないくらい広かった。
一日中ゴロゴロしていても誰に注意されるわけでもないし、一人だからそこらへんの御令嬢みたく上品に振る舞う必要もない。
はぁ〜〜〜、なんて快適なのかしら。
ここから私のスローライフが始ま・・・・・るわけないじゃない!!
横にしていた身体を思いっきり起こして私は頭を抱える。
やっと、やっと何も考えずにゆっくりと過ごせるかと思ったのに・・・・・。
魔王を退治しに来る者達を撃破しろって何なのよ!!
無茶振りにも限度ってもんがあるでしょ!?
・・・どうやらレイエスさんは世界を脅かす者として指名手配されてるらしい。度々冒険者が魔王のところに現れて勝負を仕掛けてくるんだとか。最初の時は魔王の自分に勝負を仕掛けてくる命知らずが面白くて相手にしてたらしいんだけど毎日の様に別の冒険者が現れて徐々に疲れが出てきたみたいだ。そこでビオラさんに相談したところ魔王という役目を他の者に擦り付ければ良いと言う結論に至ったらしい。
マジで解せぬ…。
そこで選ばれたのが学園を追放されて途方に暮れてた私だった。家も何もない方が色々と都合が良いらしい。
私はまんまと二人の策略に嵌ったのだ。
最初は魔王の代役なんて無理だと思って逃げようとした。だけどレイエスさんの言葉を思い出した。
『魔法を解くまでこの家を手放すことが出来ない』
私はレイエスさんに呪いを掛けられたのだ。
この町でしか生きられない様に…。
私が今の家を捨てこの町を出たら呼吸困難に陥ってしまう。だから逃げることなんて不可能なのだ。
レイエスさんは呪いの解除の仕方も教えてくれなかったし私を逃がす気なんてないんだろう。
はぁ…。どこまでも乙女ゲームっぽい展開。
どんなに忘れようとしてても普通だったら有り得ない展開に此処は乙女ゲームの世界だと気付かされてしまう。
攻略対象者達と立場が逆転しちゃったなぁ・・・。
彼らには呪いがある。その呪いが邪魔で魔法を上手く使う事が出来ないのだ。彼らの呪いを解くにはミスティアが必須だけど今のところセルジュだけが呪いを解けてるはずだ。
だけど後の三人だって攻略されるのも時間の問題だ。もしかしたら既に攻略されてるかもしれない。学園を出たせいで状況確認出来ないのが一番の難点ね。
・・・・・巻き込まれなければ良いけど。
そっちも気になるけど今は魔王を倒しにくると言う人達をどうするかよね。私は魔王ではありませんと相手に納得して貰えるまで告げてみる?私はどこからどう見ても一般の女の子だしすぐに納得して帰って貰えるかも。
まさか本当に魔王だと信じる人なんて居ないだろうし。
これがフラグ回収に繋がる事をこの時私は知らない。
*****
「プニッ!」
7匹目。
前より難なく倒せるようになった気がする。だけど相変わらず変化は訪れない。やっぱり強いモンスターを相手にしないと分からないのか?私はスライムだけを相手にしたいのに。
ふぅ、仕方ない…。ちょっと遠いけど町まで行って鑑定士さんに頼もうかな。
此処から近いところは・・・・・酒場か。あまり若い人が居ないイメージで乗り気しないけどこちらは歩きだから仕方ないよね。バスやタクシーがあったら楽なんだろうけどこの世界にそんなのある訳ないし。
深く溜息を吐くと重い足取りで私は町へと向かった。
数十分歩いてやっと町に着いた。酒場は右寄りにあるはずだ。
歩みを進めるとすぐに酒場は見つかった。
少し躊躇しながら中に入ると真っ先にお酒の独特な匂いが鼻を掠めた。
「おや、若いもんがこんなとこに何の用だい?生憎お子様に勧めるもんざ置いてないよ」
「いえ、そう言う訳ではないんですけど」
こちらに気付いたお姉さんが珍しいものを見る目で見つめてきた。別にこちらはお酒を嗜みに来た訳ではない。
見た目だけで気さくな感じを醸し出すお姉さんがニヤニヤと目を細めて用件を尋ねてくる。お姉さんだって私が別の用件で来たことなんて分かってるのだろう。
はぁ…またからかわれた。この世界には人を弄ぶ人しか居ないのか。
「あの、能力値を確認したいのですが」
だけど私は気にした素振りをせずに用件を伝えた。
「へぇ、アンタそっち側かい」
「はい。色々ありまして」
お姉さんは興味深そうに私を見つめていた。そんなに女の私が茨の道を進んでるのが可笑しいのだろうか。まぁ、この世界は大体男性の人が表立って
「色々訳がありそうだけど聞くのは遠慮しとくよ。生憎アタシは長話は好きではないんでね」
「・・・感謝します」
見掛けによらず話の分かる人で良かった。私も説明するのが苦手なんで。
「んじゃ、ステータスを測るからここに手を置いてくれるかい?」
「分かりました」
お姉さんが持ってきた石板に手を置いた。すると文字と数字がゆっくりと浮き出てきた。
_____________
名前:ミシェル・バレット
Lv58
体力:387
攻撃力:452
防御力:420
魔力:650
特殊能力:予知能力
_____________
レベル58…うん、前よりは成長出来たかな。魔力650 って良いのかあんまり分からないな。特殊能力…予知能力?何、それ。
「なっ、なっ…」
すると急にお姉さんが小刻みに震えだした。寒いのかな?なんて呑気に考えてるとカウンターから身を乗り出してきたお姉さんが私の手を両手で包み込む様に握ってきた。
それに対してもやっぱり寒いのかなんてその場にそぐわない考えが頭を過ぎった。
そんな私にお姉さんは口を開く。
「アンタ、だったんだね!?」
「・・・はい?」
この人は一体何を言ってるんだろう。気のせいか、私の手を握る力が一層強まった気がする。
「隠さなくたって良いよ!レベルに不釣り合いな魔力の高さ、予知能力と来たらもうあの方しか居ないだろう?」
「聖女様だよ、聖女様」
せいじょ?
セイジョ・・・
SEIZYO・・・
「聖女!?!?」
聖女ってあの聖女?
何か神聖な事項を成し遂げた者が讃えられる時に呼び名として讃えられるあの!?
・・・・・私、何かしたっけ?
森を大火事にしそうになったり、魔法の練習をしようと魔法を放ったらそれを上手く制御出来なくて森付近に建っている家に直撃したことはあるけど町の人の為になる事なんてしてないはずだ。寧ろ町の人に迷惑掛けっぱなしな気がする。
嗚呼、あれか。聖女と疫病神を間違えてるんだな。
きっと町の人が噂してるのを聞き間違えたんだろう。だからその…そんなキラキラとした目で見るのは止めてください。
「ずっとアンタに会いたかったんだ。この町を救ってくれた聖女様に!」
絶対にそれ、人違いです。
私はこの町を救った覚えもないし目の前のお姉さんの事も知らない。大体聖女ってなら男だらけの酒場まで来ないだろう。だけどお姉さんが注目してるのは私の特殊能力だった。
「予知、能力?」
予知能力ってあれよね?未来に起こる事が分かるって言う・・・。てかモブの私にも一応能力なんてあるんだ。それが予知能力なんて最強じゃん。もしミスティアの攻略対象者達が私を追っかけに来ようとしてもすぐに予知出来るし、捕まることなく逃げ切れるかもしれない。嗚呼もしかして私って最強なんじゃ・・・・・って、そんなの困るんだけど!?魔王の次は聖女?勇者達に倒される側かと思ったら次は人々を救わなきゃならないの!?饗されるのは気分が良いけど世界を救って欲しいとか無理だからね!?だって私はただのモブなんだから!
「期待してるところ申し訳ないのですが、私は貴女が思ってる様な凄い方ではないんです。ましてや聖女だなんて恐れ多いです」
そう言ったらお姉さんはポカンと口を開けて何度も瞬きをしていた。
「流石は聖女様だね。その謙虚な姿勢…アタシも見習わなきゃね」
「いや、ちがっ!」
どうやらお姉さんの中で私が聖女なのは確定らしい。
「よ、良く見てください!どこからどう見ても普通の女の子でしょ?全く気高い感じしないでしょ?逆に悪そうな感じが出てるんじゃないですか?」
カウンターテーブルに手を乗せて前屈みになると笑顔で圧を掛けた。そんな私にお姉さんは呆気にとられていたけどすぐに微笑み返され逆に私の方が言葉を失ってフリーズしてしまう事になった。
「だけどアンタ、予知能力覚えてるだろう?それはこの世界にごく稀にしかない貴重な能力なんだ。そしてその能力を持ってる者はこの世界に二人だけ・・・・・魔王と、聖女だ」
「魔王と聖女だけって…それは本当なんですか?」
だとしたら私が予知能力なんて覚えてるはずない。だって私はそのどちらでもないのだから。
しかしお姉さんは力強く頷いて肯定した。
「アンタ、魔力も500超えじゃん。レベルは対して高くないのに普通だったらそんなの有り得ない。今のステータスはたくさんの人々を救って来て成り立ってるんじゃないか?」
私はステータスの事を良く理解出来てないから何が平均なのか分からない。だけど私のステータスはどうやら尋常じゃないらしい。私はただ、スライムを筆頭にしたザコキャラを朝から晩まで夢中になって退治してただけだと言うのに。
ほんと、どうしてこうなったんだ。
「だから聖女様に再び魔王の魔の手から町を守って貰いたいんだ」
困ったな・・・。
その魔王と知り合いなんて口が裂けても言えない。
てか、レイエスさん。貴方この町に何したんですか。
出来ればあまり面倒事を持ち込まないで頂きたい。
どう言えばお姉さんは私が聖女じゃないと分かるのだろう。眉間に皺を寄せて頭を捻ってると突如物凄い頭痛に襲われた。耳鳴りが凄いし、目の前がチカチカする。
ガクッと、膝から崩れ落ちる私をお姉さんが心配する声が聞こえるけど何を言ってるのか上手く聞き取ることが出来なかった。
暫くして痛みは治まったけど何か嫌な予感がする。今すぐ家へと戻れと言われてる気がした。
私は勢い良く立ち上がると心配するお姉さんをよそに慌てて酒場を後にした。
後ろで『どうしたんだい!?』、『もしかして予知能力か!?』だなんて聞こえてきた気がするけど今はそれに答えてる余裕がなかった。
体力の限界を迎えても足の動きを止めることなくやっとの思いで家に着いた・・・・・のだが。
私の家の前に堂々と佇んでる少女が二人居た。その少女達は私の存在に気付くと強い視線でこちらを睨み付けてきた。
桃色髪の少女の方が一歩前に出て口を開く。
「貴女が家主の方ですか?」
「そうですけど」
ここで嘘を付いても仕方ないので正直に答えた。すると桃色髪の少女の視線がさらに厳しくなった気がする。
「では貴女が、魔王で間違いないんですね?」
・・・・・・・いえ、違います。
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