第5話 魔王に直談判しに行きました

私は目的地に着くまで無事で居られるだろうか。


別にただ歩いているだけ。目の前の女性に着いて行ってるだけだ。それなのに息切れはヤバいし体の震えも収まらない。なぜそうなってるのかと問われれば全て今の状況から来てると真っ先に言うだろう。


魔物が潜んでるダンジョンの真ん中を堂々と歩く女性。魔物がこちらを見ているがそれを物ともせず歩みを進める。私が止まっても決して女性は止まろうとしなかった。いつ襲われても可笑しくない状況なのに魔物がこちらに近付いて来ることはなかった。いや、近付けないと言った方が正しいかもしれない。


私にゲームの如く手を差し伸べてくれた少女・・・いいえ、女性は“ビオラ”と言うらしい。因みに250歳らしいけど本当なのかしら?


「あの、ビオラさん。さっきから歩いてばっかなんですけどそんな遠くからわざわざここまで来たんですか?」


他愛ない話をしていると何時の間にか隣国に入る。だけどビオラさんは止まることなく歩き続ける。やがて森の中に入ろうとするビオラさんに嫌な予感がした。


「あ、あの、ビオラさんの家って此処ら辺ですか?」

「誰が我の家に行くと言った?」


ビオラさんの家じゃなかったらどこに行くと言うのだ。疑問が募る私を他所にビオラさんはぼそぼそと呟きながら辺りを見渡していた。


「ふむ。多分此処だろう。」

「此処が・・・って、えっ!?」


やっと目的地に着いたみたいだけどもう私の足はボロボロだ。こんなに歩かせたのだからさぞ素敵なお家なのだろう。期待半分、不安半分を胸にビオラさんの目線を辿るとそこに建っているものを見て息が詰まりそうになる。ポツンと寂しく建っている黒や紅メインのお屋敷。空き家にしては外装は古びてなく、誰かが住んでるにしては辺り一面暗く、寂しさを感じられた。


「おーい、居るのだろう?隠れてないで出てくるが良い!」


ビオラさんはドンドンっと町中なら迷惑になっていたであろう大きな音を響かせながら中に居る家主に呼び掛けていた。すると扉がキィッーと鳴って開くと中からは高身長の全身真っ黒な衣装に身を包んだ男性が姿を現した。その男性はとても綺麗な顔立ちをしてたけど目元は何日間も寝てないのが分かるくらい隈が酷い。もしかして、邪魔かな?だとしたら早々に立ち去った方が良いよね。そう思って一歩足を引いたとこにビオラさんは男性に無遠慮な言葉を投げかけた。


「この娘が住むところを探しておる。お主、此処を退いてくれぬか?」


まさかのド直球な言葉に男性ではなく私の方が驚いた。いくら知り合いでも急に言われたら驚くし怒って今すぐに此処から摘み出そうとするだろう。だけど男性はビオラさんの無茶振りには慣れてるのか驚いてる素振りはなかった。


「・・・Lv5か。」


ビオラさんの無茶な頼みに答えず、男性の視線は私の頭の上にあった。何事かと思って上を見上げてみればそこにはビオラさんみたいに数字が浮かんでいた。


えっ、さっきまでなかったのになんで!?しかも、Lv5!?流石に雑魚すぎないっ!?


「ほう、お前さんのとこにもやっと出たか・・・しかし、ほんとに小者だな。」

「アハハ~・・・バカにしてます?」


ビオラさんは顎に手を添えながら私の頭上をどこか納得した様に見つめていた。それと同時に教えてくれた。ずっと建物の中に籠もっていた者は数値とかが反映されるのに時間が掛かるらしい。自分の今のランクを知りたかったら町の外に出るか、あっちこっちに居るレベル鑑定士さんにお願いするしかないのだ。因みに学園にも鑑定士さんが雇われていて居る。


「で、どうだ?こいつに見込みはあるか?」

「・・・いや、今のところ何とも。」

「むー・・・そうか。」


・・・さっきから何の話をしてるんだろう。見込みって何?もしかして私、品定めでもされてる?


「譲ってやりたいのは山々なんだが私はこの場所が凄い気に入ってるんだよね〜。」


うん、別に譲って貰わなくて良いから。ここは貴方の家なんだから出て行く必要ないでしょ。


「どうせ、他の者から奪った場所なんだろ?また奪えば良いではないか!」


・・・ん?今、聞き逃したら駄目な単語が出て来た様な。奪ったって何?また奪えばって何言ってんのこの人達。


「いやいや、奪った訳じゃないから!貰っただけだから!!」

「強制的に勝負を仕掛けて、負けたらここから出て行かせといてなにが貰ったんだ!」

「スス、ストッーーープ!!」


これ以上聞くに堪えなくて強引に二人の間に割り込んで制止を掛けた。


二人の鋭い視線が痛いけどここを退く訳にはいかないのっ!


ビオラさんはLv100超えだし、相手の男性は謎だけど異常じゃない雰囲気を曝け出してるし!このままでは住む以前にこの町ごと終わってしまう!


「ええ、えっ〜とっ!ビオラさん、別に私は大丈夫ですよ!急に家に現れて家を寄こせだなんて誰だって困ると思います!」


取り敢えず落ち着いて貰える様にビオラさんを宥めた。私の為に必死になってくれるのは大変喜ばしい事だ。だけどこんな強引では誰も幸せにはなれない。男性は住む家を無くし、私は彼から家を奪った事で居た堪れなくなるだろう。


「しかし、住む家がなければ困るのはお前だぞ?」


っ、そ、そこまで私の事を・・・。会って間もない私の事を気に掛けてくれるビオラさんに胸がときめきそうになってしまう。


そうよ、この家に住まなければビオラさんの親切が無駄になってしまうじゃない。ここまで導いてくれたビオラさんの親切心を無下に出来ない・・・って、ダメよミシェル!確かに気持ちは嬉しいけどだからって、人の住んでる家に手を出すのは違うでしょっ!


「貴方もっ!元々別の方が住んでたとこに手を出したらダメでしょう!」

「・・・なんで?ここは弱肉強食の世界じゃないのか?」


うっ・・・。確かに此処ではそうなのかもしれないけど。そんな悪びれもなく純粋な瞳で疑問に思わないで。


ほんとに困ったものだ。ビオラさんはどうしてもこの家に私を住ませたいみたいだし、男性の方は当たり前だけどこの家に居たいみたいだし。


「あっ!では、私が暫くこの家に泊まらせてもらう形はどうですか?その間に別の住める場所を探しますし。」


私なりに良い答えを導き出せたと思う。別にずっとではないのだ。他の場所を見つけたらすぐにこの家から出て行くんだから少しは情を見せてくれても良いでしょ?


何が何でも絶対に野宿だけは嫌、野宿だけは嫌、野宿だけは嫌!!


私の絶対に穏便に済ませられる提案に二人は顔を見合わせた後、眉間に皺を寄せて首を傾げた。


「縁のない者と一緒に暮らそうと思えるお前の神経を疑う。」

「あまり女がそんな事言うもんじゃないぞ?」


・・・あっれぇ?なんか私が非常識みたいなんだけど?


二人して常識ぶって私を窘めてくるんだけど。


さっきまでこの家を空けろとか弱肉強食とかほざいてた人達の言葉じゃないなぁ〜。


・・・もっと魔力が高ければこの二人を懲らしめる事だって出来たかもしれないなのに。


「まぁ、お前さんの熱意は感じた。私とビオラ殿の中に割り込めるとは中々度胸のある。」


はぁ?今更褒めたって許しませんからね。絶対に呪いますから。


「申し遅れた。私はこの国の魔王、レイエスだ。」

「左様ですか。私はミシェル・・・って、え?」

「因みに我は魔女だ。」


魔王?魔女?ちょっ、それって・・・。


世界でトップの実力を誇る魔王率いる軍団。その魔王が目の前の男性で、そんな魔王に負けないくらいの実力を誇る魔女がビオラさん?


男性の頭上には300と書いてあった。


本当に、魔王なんだ。


世界で恐れられている魔王。学園でも度々噂になっていた。魔王に会ったら最期、タダでは返してくれないと。でも目の前の男性は全くと言って良い程怖さを感じられない。安心?って言うのかな。彼の前では油断してるとすぐに隙を作ってしまいそうになる。


「あの、本当に魔王なんですよね?」

「だからそう言っているだろう?」

「どうして魔王の貴方が一般の者の前に出てるんですか?ビオラさんも魔女なんですよね?何故、私を此処に連れてきたんですか!?」


一気に捲し立てる私にレイエスさんは肩を竦めた後、人差し指を私の唇に優しく置いた。


「質問タイムはこれで終いだ。次は私に喋らせてくれないか?」


・・・まだ何も答えてくれてないけど。


魔王を怒らせては駄目なので大人しく頷く事にした。


「家を探してるんだったか?良いよ、この家を明け渡しても。」

「えっ?」


さっきまで嫌の一点張りだったのにどう言うつもりだろうか。


「その代わり、今のお前さんでは色々と不安だ。だから私を納得させてくれないか。」

「な、納得?」


納得って何?私、何を求められてるの!?


思わず自身の身体を抱き締める私を気にも留めずにレイエスさんはある条件を提示してきた。


「最低50だ。最低50Lvにして来たら此処を喜んで渡そう!」


ご、50って・・・。


「今、たったの5ですよ!?今から50だなんて無理ですよ!」


そこまでになる前に息絶えてるって〜〜〜!


「そうだ、この者にそこまで成長出来るとは思えん。」

「やはりか。どこから見ても弱そうだしな〜。」


ぐぬぬ・・・。二人して馬鹿にして〜〜!


「い、良いですよ?私が50になれば良いんでしょ?その代わり、約束は守ってくださいね?」


ふっふっふ・・・。私を馬鹿にした事後悔すれば良いわ。私が本気を出せば楽勝で50超えしちゃうんだから♪


スローライフはもう暫く後になりそうだけどLv50にして家を貰ったらもうこの二人と関わる事はないだろうからやっと平和な日常を過ごせる事間違い無しだろう。そう考えると今から楽しみになってきたわ!




この時私は、感情が荒ぶってた事もあって二人の本当の思惑に気付く事が出来なかったのだ。






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