第6話 初めてのスライム狩り
「まっちなさーい!!」
私は一人、薄暗い洞窟の中を走り回っていた。小型ナイフを片手に。
逃げている水色のぷよぷよとした物体を一生懸命追い掛けているのだが中々捕まらない。
私よりも雑魚な癖にどうして殺らせてくれないの!
なに!?貴方まで私を馬鹿にしてる訳!?
今もあの魔王と魔女が私を嘲笑ってるのが目に浮かぶ。
私は魔王、レイエスさんに家を明け渡して貰える対価として、Lv50を交渉に出された。そこでレベル上げに妥当な場所をビオラさんに教えてもらったのだ。此処の洞窟は魔物の中で下の下、スライムがたくさん住んでるとこらしい。ビオラさんは私に場所を教えるだけ教えて何処かに行ってしまった。あんなに彼処に住まわせたい素振りをしてた癖に私がやる気を出した途端、興味を無くした様に感じられた。
もしかして私、遊ばれてる!?
今、そう思ったってもう遅い。此処まで来たんだ。成果なしに帰れる訳がない。
私はスライムに向かって剣を振り回した。当てようとすれば外す。だったら当てようと思わず振り回しとけば一匹くらい当たる筈だ。
これぞ、脳筋プレイよ!
ブンブンっと振り回せばスライム達は私から逃げる様に端っこに固まっていた。
それにゆっくりと近付くとスライムの目に涙が浮かんでいるのが分かった。
うっ、だんだんと可哀想に思えてきた。だって、この子達は魔物の中で唯一人に害を与えてないもの。ひっそりと生きてるだけなんだから。でも、魔物に情は要らないってビオラさん言ってたし。
よし、なるべくサクッと殺ろう。痛みも分からないようにサクッと。
「すぐに終わらせるからね・・・・・えいっ!」
私は目を瞑って思いっきりナイフを真下へ振り下ろした。その瞬間、ぶにゅっと言う音と共に何かの物体を潰した感触が手に伝わってきた。恐る恐る目を見開くとナイフにはドロドロの水色の液体がべっとりと付いていた。それが何なのかなんて確認しなくても分かる。
・・・私は初めてスライムを倒したのだ。
「こ、これがスライムの感触・・・」
私は両手をプルプルと震わせながら見つめた。
スライムを直接触った訳じゃないけどナイフを通して然と手に伝わってきた。外側はちょっと硬いけど少し力を入れれば簡単に奥へぶっ刺すことが出来た。刺したら中からは綺麗な水色の液体が溢れ出てくる。
とても綺麗で、とても癖になる・・・。
もっと、もっと刺したいなぁー…。
私は一気にスライムの虜になってしまった。刺す方面で、だけど。
「大丈夫、なるべく優しく刺すから、ね?」
私はスライムを怖がらせない様に優しく微笑んだ。だけどスライムにとってそれはとても怖いものだったらしい。スライムは私の魔の手から逃げようと小さな穴に入ろうとしていた。だけどここまで来たら私に“逃がす”と言う選択肢はない。私は仁王立ちしてスライムの行く道を塞いだ。
「ふふっ、もうこれで逃げられないわよ。観念して私にヤラれなさい・・・・・えいっ!!」
今度は目を瞑らないでハッキリと視界に捉えたままナイフをスライムに刺した。
スライムは再びぶにゅっと言う音と共に液体になって消えた。
「はぁ〜♡この音、この感触癖になる!」
魔物狩りがこんなに楽しいなんて知らなかった。これならすぐにLv50になる事間違いないわね!
ふっふっふ、見てなさい…魔王に魔女!!
*****
あれからどのくらいの時間が過ぎた事だろう。夢中になってスライム狩りをしてたから分からなかったけど辺りは既に真っ暗だ。
どれどれ、今のLvは…。
「25、か」
あの時に比べればLvが上がってるけどまだ目標には程遠いわね。
てか、Lvは上がってても魔力が上がってるのかも微妙だし。
「はぁ。確かめられるくらいの魔物が現れないかな。なんか、こう…ゴツゴツしてて硬い感じの・・・」
その時だった。
私は遥か遠くの方から地響きを立ててこちらに向かって来てる存在に気付いたのだ。
私は目を凝らしてその正体を確かめる。
身体がデカくて、背中がゴツゴツとしてて、凄く身体が硬そうな物・・・。
あれは・・・・・。
「ドラゴン!?」
それは紛れもなく魔物界の最上位に君臨するドラゴンだった。
何故ドラゴンがこんなとこに居るのか。ドラゴンはもっと奥の奥に住んでると聞いた。いや、今はそんな事どうでも良いこと。ドラゴンは間違いなく私を標的に近付いている。
軈てドラゴンは私の目の前で止まると大きな翼を大袈裟に羽ばたかせた。
私に対する威嚇だろうか。
ボッーとドラゴンの姿を眺めてるとドラゴンは大きく口を開けた。そこからは赤く光る何かが。
えっ、もしかして・・・・・。
私の考えは的中し、ドラゴンは私目掛けて口から炎を吐き出してきた。
「ぎゃあああっ!!」
自分でもなんて色気も何もない叫びだと思う。だけどそれくらいドラゴンの炎の威力はハンパなかったのだ。きっと避けなければ今頃丸焦げだっただろう。
ドラゴンは引き続き炎を吐き出してくる。私に命中するまで続ける気だろうか。私の行くとこに炎が追ってくるからきっとそうなのだろう。
でも、あれ…?私全く疲れてない。
元々魔力がなく、能力値が全体的に低い筈の私がドラゴンの動きに付いて行けてたのだ。
きっと今までならすぐにバテてただろうに。
だけどこのまま攻防戦を続けたって埒があかない。私が避ける分、周りに炎が広がっていく。このままでは町全体を覆う大火災に発展するかもしれないのだから。
私は空に両手をかざした。半分神頼みだ。
「空よ、まわりを焼き尽くす炎を消す豪雨となれ!!」
私はヤケクソになって叫んだ。前に比べたら能力は上がってるかもしれないが所詮はモブだ。モブの私がここまで広がった炎を一気に消せる訳がない。だけどこのままほっとける訳がなかった。私だけじゃない、この町に住んでるたくさんの人の命が関わってるのだから。
だから、お願いっ!
そんな私の思いが通じたのか、空からポツポツと雫から零れ落ちてきた。それはだんだんと滝の様な雨へと変わっていった。
雨が本格的に降り出してからドラゴンの様子が変だ。さっきまで大暴れしてたのが嘘かの様に大人しくなった。そのままドラゴンは元の場所へ帰ろうと後ろを向くと歩みを進めた。
このままほっといても良いのか不安だけどもうドラゴンに私を襲う意思はないように感じられた。ドラゴンはこの洞窟を守る神の様な存在だと聞いたことがある。だからその中に侵入してきた私が許せなかったのだろう。
それは本当に申し訳なかったと思う。私だって本当は此処に長居するつもりなんてなかったのだ。だって自分がここまでスライム狩りにハマるだなんて思ってなかったのだから。
気付くと炎はいつの間にか完全に消えていた。
これで心配はないだろう。
場所を変えようと一歩足を踏み出した瞬間、私全体を黄色い光が包み込んだ。
不思議に思って自分の頭上を見上げてみると私のLvは30になっていた。
あれ…なんで私、Lv上がったんだ?
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