第4話 国を出た其処にはダンジョンが広がってました
皆さん、どうしましょう。私はゲームの世界を甘く見てたのかもしれません・・・。あの学園に居るよりマシと思って飛び出したのは良いんだけど、学園を出た先に待ってたのはなんと・・・
ダンジョンでした!!
えっ、嘘、町は!?私の家は分からないから良いとして他に一つも家がないのは可笑しいでしょう!?
そこには竜種の魔物や狼種の魔物などが多く存在していた。でも変だ。こんなに魔物が周辺に存在していて学園を襲わない訳がない。一周辺りをぐるりと見渡す中で私はある物に気付く。
あれは・・・結界!?
学園ごと覆い被さってる透明のもの・・・あれは間違いなくバリアそのものだった。
「すごーい!!結界って本当にあるんだ!まさか間近で見れるだなんて思わなかった。」
結界を間近で見てついテンションがあがってしまった。ゲーム中、登場キャラが良く言っていた『この学園は神に護られてる』とはこういう事だったのね!・・・ん?結界に護られてるのは学園だけよね。此処は学園の外。って事は・・・此処は全く安全地帯じゃない!?私が素直に出て行くと言った時、学園の人達が酷く驚いてたのはこれが原因だったのね。やっと皆のあの反応が理解出来たけどこんな危険な場所に簡単に放り出した攻略者達の無思慮には驚きよ。いや、これはただの嫌がらせも有り得るな。ヒロインを虐めた奴に同情の余地は無い訳ね。でも見た感じセルジュ意外、ヒロインとはあまり親しそうに見えなかった。あれはミスティアを虐めてた事よりも面倒事を起こした事に呆れて、睨みを利かせていただけだろうし。つまり此処はセルジュルートだけを辿ってると言う事になる。今はそれだけが救いだ。セルジュだけなら例え私を斬首しようと追いかけて来たとしてもなんとか回避出来るだろう。セルジュは行動力はあるけど後先考えずに行動しがちだ。なのでセルジュの行動パターンなんてたかが知れてるのだ。だからと言って安心は出来ない。今はセルジュだけかもしれないけどいつ他の攻略者達がミスティアの魅力に気付くか分からない。それくらいミスティアは魅力的なのだ。四人に一気に攻められたら一瞬で私は地獄に落ちる事になる。それだけは勘弁願いたい。決して物語に関わる気はないけどもしもの為に自分の身を守れるくらいで居ないといけないのだ。
「覚悟を決めなさいっ、ミシェル!!」
自分自身を後押しする様に叫んでそのまま魔物に無防備ながらに突っ込んだ。その声に釣られたのかそこに居る魔物達が一斉に私の方に注目した。しかし人間慣れしてるのか驚いて逃げる事はなかった。逆に獲物を見つけたかの様にギラついた瞳を私に向けている。私は狩る側の筈なのにこれでは狩られる側ではないか。一斉に襲われては私に勝ち目などない。そう頭では理解していても足はどんどん魔物の方へと進んでいった。
「・・・えいっ!!」
魔物の前で歩みを止めると今にも飛び掛かって来そうな魔物に向かって両手を伸ばした。するとその手からは小さな紅い炎が出てきてゆらゆらと魔物の方へ飛んでいった。一先ず魔法は操れるみたいで安心した。だけどそれだけだ。例え魔法が使えてもこんな小さな炎、魔物に効くのだろうか。そんな私の予想は的中し、攻撃が当たったは当たったものの、ポンっと聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな音を立てて消えてしまった。やはりミシェルの魔力は弱いみたいだ。だけど私に逃げると言う選択肢など存在しない。モブでも勝てるって事をこの世界に証明しないと!
私はポケットに入っていた(何故入ってるのかは知らないけど)短剣を手にゆっくりと魔物に近付いた。
ただ、刺すだけ・・・そうよ。グサッとやれば良いだけじゃない。そう思っていても剣を持ってる手は震え、気を抜いたら今にも落としてしまいそうだ。
刺すってどうすれば良いの?上から振り下ろせばいけるかな。証明させるだなんてカッコつけてたけど生憎私は今まで命の危険に晒される様なとこで生活したことないのだ。元の世界では主人公とか、モブとか関係なく平和に暮らしていた。だから今、こうやって剣を持って意味不明な生物の前に突っ立ってるのが信じられない。てか、こんな短い刃物で仕留められるのか。
うじうじ悩んでると目の前から地響きの様な音が。その方向を見てみると私よりも何倍も大きなウルフがだらしなく舌を出してヨダレを垂らしながら私の方にゆっくりと近付いて来ていた。
・・・もしかして、貴方のお腹の音だったの?そっか、お腹空いてるのか…可哀想に。そう一瞬でも思った私の気持ちを返して欲しい。獲物が他の誰でもない私だと気付いたがその時にはウルフは今にも私に飛び掛かって来そうな体制をしていた。
私、美味しくないよ!?
そんな事魔物に言ったって何も意味を成さない事は分かっている。だがこう言う時の決まり文句みたいなものだ。
たらりと額から汗が流れ落ちる。それを合図と言った様にウルフがこちらに勢い良く飛び掛かってきた。逃げなくてはならないのに恐怖で腰が抜けて動けそうにない。
どこで選択を間違えたのだろうか。正しいと思って、助かると思ってとった選択は全て間違ってたと言うのか。これではミシェルを救う筈がどの道BADENDまっしぐらだ。
自分の不甲斐なさに瞳から溢れそうになる涙を堪える様に下唇を噛んで次に襲ってくる痛みを覚悟して目を瞑った。
でもいつまで経っても鋭い痛みはやって来ない。もしかして気が変わって帰ってくれたのだろうか。いや、それはないか。腹を空かしてる魔物が獲物を見つけて簡単に見逃すなんて有り得ないことだ。ならば一体何が・・・。怖いもの見たさとはこう言うのを言うのか。私は少しの不安を残したまま軽く目を開けた。
目を開けた先に見えたのは先程のウルフが横たわってる姿だ。そして、そんなウルフを冷めた眼差しで見つめている少女・・・。
もしかして彼女が倒したのか。こんなデカイ魔物を一人で。
「す、凄い。」
思った事が素直に口から出ると、少女の先程と同じ瞳が私の方へと向いた気がするけど今の私には関係ない。助けてくれたのならお礼を言わないとね。
「助けてくれてありがとう!貴女とても強いのね!良かったら、強くなる秘訣を・・・」
「・・・バカなのか?」
一気に捲し立てる私に少女は一言で制した。その瞬間、私達の間には微妙な空気が流れる。いや、私がそう感じてるだけで少女は何も思ってないかもしれない。
「魔物の前で目を瞑るとは言語両断!自分から命を捨てようとするなんて情けない限りだ。」
何故私は知り合ったばかりの子に説教をされているのだろう。てか、見かけによらず言葉遣い荒くない?長い黒のゆるふわな髪を腰辺りまで伸ばした実にも可憐な少女は見かけによらずバカなど情けないなどと私を罵った。
そこまで言わなくても良いんじゃ・・・。情けないのは自分が一番良く分かってるのだから。
大体、魔物一匹を倒したのだってたまたまでしょう。強さなんて私とそんな大差ない癖してえらそーに・・・。そう思ってた私は、とんでもないものを目の当たりにしてしまったのだ。
少女の頭上にあるもの・・・。そこにはLv159と書かれていた。・・・159!?
これは見間違いか。目を擦ってもう一度見てみるがやはりそこには先程と同じ数字が。何故、物語に関わっていないモブと同類の少女が有り得ない数値を持ってるのか。強者だらけの攻略者・・・。その強さはボス級と称えられてたと言うのに。確か、攻略者達のLvは80〜90の間だった。それを容易く超えるだなんて・・・。彼女は一体、何者なのか。そう言えば隣国の森奥周辺にはその場に不釣り合いなくらい立派な邸があると同じクラスの子が言っていた様な。そしてそこに住んでるのは、世界で恐れられている魔王。Lvは確か100超え。
じゃあ、彼女が・・・・・魔王!?
「残念だがその考えは外れてる」
そんな結論に至った私を直ぐ様少女は否定した。てか、一言も口に出していないはずだよね。なんで考えてる事が分かるのだろう。
「ふん・・・。凡人が考える事など想像に容易い」
またもやこちらが口を開くより前に疑問に答える少女はやはり周りの心が読めるのではと思ってしまう。
・・・普通にスルーしてたけど凡人って、それバカにしてない!?まぁ、否定できないのが痛いけど。
「で、お前みたいな若いもんがこんなとこに居るのは何か訳があるのだろう?」
にまにまと何が可笑しいのか、人が悪そうな笑みを浮かべる少女は年相応には見えず何度も修羅場を潜ってきた様に見えた。そんな顔をされては『貴女も十分若いじゃない』だなんて言えたもんじゃない。
「・・・別に散歩がてらに来ただけよ。」
何となくこの娘に隙を見せたら駄目な気がする。そう思ってはぐらかしてみるけど相手の方が一枚上手だった。
「なるほど。追放でもされたか?」
「なっ!」
ピンポイントで当てられつい声を出してしまう。ハッとした時には遅く、少女は口元を三日月のように弧を描いて笑みを浮かべていた。
その瞬間、物凄い悪寒がして今すぐこの場を立ち去りたい衝動に駆られた。
「では、私はこれで・・・うわっ!?」
立ち去ろうとした時、急に足に何か巻き付いたように身動きがとれなくなった私は思いっきり転んでしまう。腕や足などを強く打ってしまったせいかすぐに立てそうにない。そんな私の前に屈んだ少女は今の天涯孤独な私にとっては甘く魅力的な事を提案してきた。
「行くところがないのだろう?当てがあるから付いて来るがよい」
それはまるでゲームの様な展開だった。
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