第2話 破滅するのはどちらでしょう?
ミシェルの物と思われる荷物を持って学園を去ろうとしていた時だった。門の前に佇んでこちらをジッと見つめる人物が居たのだ。
「あら、可哀想に。この学園を追い出されたら行くところなんてないんじゃなくて?貴女は国外追放されたも同然。この国だったから安全だったけど魔力も何も持たない貴女が他のところでやっていけるのかしら?」
憎たらしいくらいの嫌味だけどこの女・・・イザベラ・マリエールの言う通りなのよね。この学園はSクラス〜Bクラスに分かれてる。Sクラスには魔力も剣術も完璧な人間が集まる。だがSクラスには四人しか居ない。そう、攻略対象者達である。しかもSクラスは特別扱いされてるので他の教室とは離れた別校舎にあるのだ。
次にAクラス。AクラスはSクラスに比べたら魔力も剣術も劣るが秀才ばかりが集まるところだ。魔力が優れている者、剣術が優れてる者とそれぞれバラバラだがその片方だけならSクラスと渡り合えるくらいの実力があるかもしれない。因みにミスティアやイザベラはAクラスだ。
最後にBクラス。Bクラスは魔力も剣術もそこそこの何の取り柄も持たない人々が集まるところだ。言わばモブみたいな扱いを作中で受ける事になる。私を含め、学園の殆どの人達がBクラスに居るのだ。
Bクラスは何をするにも目立たないから他のクラスの人達からこんな風に馬鹿にされることが多々ある。でもこの学園は魔力とかで上下関係が出来てしまうからBクラスは他のクラスの人達に逆らえないのだ。しかしそんなBクラスにも変わらず接していた者が居た。
ヒロインのミスティアだ。ミスティアはAクラスで魔力が高いであろうとそれをひけらかす事はなかった。それどころか謙虚な姿勢で居続けたのだ。きっとそんなところにセルジュを始めとする攻略者達は惚れたのかもしれない。
でもそんなミスティアをイザベラを気に入らなかった。だからミスティアを殺めようとして反対に殺られてしまうのだ。だから私に罪を擦り付けたところでこの女に幸せな未来は来ない。でも少しでもこの物語に長く居続けられる様に忠告はしといてあげないと。
「・・・無駄死にしたくなければこれ以上ミスティアを虐めるのは止めなさい。じゃなければ・・・破滅しますよ?」
“破滅する”その意味をイザベラは良く分かっていないのだろう。意味不明な事を述べる私にイザベラは警戒しているのか一定の距離を保っていた。
「嗚呼、御安心を。私があれこれする訳じゃありませんから。」
にこりと効果音が付きそうなくらい微笑めばイザベラはこれ以上ない程顔を歪めていたけれど私は何か良くない事でも言ったかしら?
「ふんっ、意味分からないわ。良い?貴女は四大家系の四人に見捨てられたの。あの方々に見捨てられて他のとこで幸せに生きていけると思わないことね。」
“幸せに生きていけない”。そんなの十分承知だけどね。この国・・・いいえ、この世界はあの四人の家系があるからこそ成り立っているところもある。そんな四人と敵対関係みたいな立場にある私が他の国に逃げたところで何時まで持つか分からない。もしかしたら他の国でもこれ以上に酷い仕打ちが待ってるかもしれない。でも私からしたらそれは逆に燃えるものであって・・・。
だって、この物語の世界を自由に探検できるんだもの!今まではプレイヤーの立場だったから学園の外には行けなかったけど今はあの学園の生徒じゃないし物語に関わっていないモブの少女。私を縛るものなど何もないわ!
「イザベラ様、お互いなるべく永い事この物語に存在出来ると良いですね。」
私は陰でひっそりと、貴女は陽を浴びながら・・。
イザベラに挨拶をして去ろうとしてる最中に学園の二階からこちらを見つめてる影があるのに気が付いた。
まぁ、覗き見なんて悪趣味・・・。何を思って覗いているのか分からないけどもう私には関係ないことね。
今度こそ私は振り返る事なくその場を後にした。
*****
「・・・なにをしてるの?アルベルト。」
ジッと外に居る人物を眺めていると後ろから声が掛かった。それを合図に外から視線を外し自然と目線は俺の後ろに居る人物へと向いた。
「・・・おぅ!メイビスやないかい!」
俺に声を掛けてきたのは腐れ縁の一人、メイビス・アグネッドだ。メイビスは片手に本を持ちながら相変わらずの虚ろな目で俺の真後ろに突っ立っていた。先程まで居なかった癖に急に現れて声を掛けるのは止めて欲しい。普段はスルーする癖にな。
「居るならもっと存在感出しぃ。相変わらず気配消すの上手いんやから。」
どんな時でもぶれないとこに関心するの半分、折角面白いのを見物してたのにそれを邪魔されて苛立ち半分を覚えた俺は嫌味を含めてそのまま目の前の男にぶつけた。せやけどメイビスは俺の嫌味を込めた言葉に何の反応も返さずに自分の席に座って自身が持参していた本をそのまま読み出した。
・・・本当に可愛げないな。それがメイビスに対する本音だった。コイツは15歳の癖して笑わないし、冷静やし、意外と毒舌やし。シリルだったらもっと眉間に皺を寄せて嫌悪感丸出しな顔をするで?
でもそんな冷静なメイビスには幾度もダンジョンでのピンチを救って貰ったから何も言えないのも事実だった。
ふと外の状況が気になって再度同じ場所に目をやった。けれどそこには先程まで居た人物は居なくAクラスの令嬢が一人、佇んでいただけだった。
ミシェル・バレット・・・。Bクラスのなんの能才も持たない凡人だ。それなのにどうして気になるんだろうか。彼女はセルジュの恋仲だと思われるミスティア・セルフィに嫌がらせの数々をして来たと聞いた。けれど俺は分かっていた。本当はミシェル・バレットが何もやっていない事を。何故ならミシェル・バレットの心が助けてと叫んでいたからな。けれど俺は彼女の無罪を証明するよりも自分の娯楽の為に黙っていた。だがミシェル・バレットがちゃんと主張すれば俺じゃない誰かが彼女の事を信じて助けてくれたかもしれない。なのにそんな彼女が選んだのは無罪を主張する事じゃなくこの学園、この国を出て一人孤独に生きる事だった。まさかの言葉だった。この学園で過ごす者ならこの国がどれだけ安全で、他がどれだけ残酷か分かってると言うのに。いや、分かっていないのも無理ないかもしれない。
彼女が公の場で問い詰められてた時、どんだけの奴が雰囲気が変わったと気付いただろうか。
彼女はもしかしたら本物のミシェル・バレットじゃないって事に。もし本当にミシェル・バレットに何者かの魂が宿ったとしたらそれは何かしらの理由があるのだと思う。
まぁ、それを調べる機会は幾らでもある。ミシェル・バレットは多分隣国に行く筈だ。
俺に会うまで息絶えたらあかんで?精々頑張ってくれや、ミシェル・バレット。
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