モブ令嬢は物語に関わるのは御免です!〜スローライフ所望のはずが世界でトップクラスの強さになっていました〜

白夜黒兎

第1話 乙女ゲームのモブ令嬢に転生しました

「あんたー!何時まで起きてんの!明日起きれなくても知らないからね!」


「んー・・・」


下から私を呼ぶお母さんの声がするがそれに生返事しながら目線をテレビの方にやっていた。大人しく言うこと聞いとかないと後が怖いが私にはそれよりも大切な事があるのだ。


『剣と魔法のプリンス』


私が今どハマリしている乙女ゲームだ。呪われた4人の攻略対象者達がヒロインと関わり、恋に落ちた事によって呪いが解けると言うなんともテンプレな乙女ゲームだ。それでも人気があり何度もシリーズ化してるのはやはり四人の攻略対象者にあるのだろう。


一人目の対象者はセルジュ・アンドレ。ヒロインと初めに出会い、打ち解けるのも早かった子犬系のプリンスだ。ヒロインが好き過ぎるあまり歪んだ愛情を向けている。無論、ヒロインは天然系と言うありきたりなタイプなのでそんな彼の想いには気付いていない。


二人目はシリル・ヴィッデ。こちらはセルジュとは打って変わって警戒心強めな猫タイプのプリンスだ。この中では多分一番、剣の実力がある。彼は鈍感だからヒロインへの気持ちに気付くのが一番遅かったんだよね。


三人目はアルベルト・フォーニエ。ザ・キザ!ザ・オレ様!と言った全てが100で収まるプリンスだ。彼は基本馬鹿だから何でも素直に口に出しちゃう。それで良くシリルと言い合いになっちゃってるんだけど・・・。アンタはいつになったら学習するんだい?とどんだけ思ったことか。


四人目のプリンスはメイビス・アグネッド。この中では一番年下のプリンスになる。いつもボッーとしていてなにを考えてるのか分からない。でも意外と毒舌なのか無意識に人を煽って大ダメージを与えるというなんとも恐ろしい存在だ。因みに私の推し。ヒロインに心を開いてから初めての笑顔に私はノックアウトされたのだ。



「・・・ふぅ、やっとメイビスルートクリアだよ。途中の悪役令嬢の邪魔がウザかったけど。」


乙女ゲームには必ずと言って悪役が存在する。勿論、このゲームにも登場するんだけど・・・。その悪役令嬢が“悪役”で収まりきれないくらい極悪なのだ。最初は言葉とかでネチネチと責めてたんだけど次第にそれは激しくなっていった。階段から突き落としたり、ドレスを破ったりとヒロインの事を影で虐めるのだ。そして最終的にはヒロインの命を奪おうと毒入りドリンクをヒロインに飲ませようとする。しかしそれは攻略対象者達によって未遂で終わったんだけど、その悪役令嬢の仕業だと気付いた攻略対象者はその令嬢に命を持って償わせたのだ。


まぁ、ちょっと可哀想だけどこれもヒロインに嫌がらせしたからいけないんだもんね。自業自得よ。ここの攻略対象者達はヒロインにメロメロなんだからヒロインに何かしたら誰であろうと一瞬で始末するに決まってるわ!


そのルートによってどう始末されるか変わるんだけど私が知る限りこの悪役令嬢に幸せな未来はないわね。セルジュもアルベルトもメイビスもヒロインに手を下そうとしたこの女にご立腹だったみたいだし。


嗚呼、そう言えば・・・。


この女に冤罪を着せられて処刑されてしまった御令嬢が居たわよね。後で分かったことなんだけど彼女は本当に何もしてなかったんだよね。名前は確か・・・。ん〜、ヤバい全く思い出せない。それも仕方が無い。彼女はヒロインの親友ポジ、言わばモブキャラみたいな存在だったから。彼女にスポットが当たることもなかったし、攻略対象者達との関わりもなかった。もしあの時までに攻略対象者誰かしらと親しければあんな事にはならなかったのかも。でも何より残酷なのは死んだらこの世に元々いなかったみたいに扱われること。ヒロインも最初は親友の死を悲しんでいたけれど次第に親友の事を忘れて攻略対象者と愛を育んでいたし。今では誰も彼女の事を覚えていない。本当に、モブって損よね。



「後は、シリルルートか。」


二人目の対象者にしては難しくてつい後回ししちゃったんだよな。続けてやりたいんだけど今はAM:2:00…。そろそろガチで寝ないとお母さんが鬼の形相で部屋に入ってくるかもしれない。ここは我慢して寝よう。うん。明日学校から帰ってきてすぐにやれば良いしね。


そう結論付けて私はベッドに寝転がった。ベッドに寝転ぶとさっきまであんなに冴えてたのが嘘みたいにすぐに瞼がとろりと重くなった。そして私はそのまま眠りについたのだ。


・・・ゲームを消すことを忘れて。




『・・・ル、バ・・ト』


誰かの声がする。男の人の声・・・。その人が誰かを呼んでいる。良く聞き取れなかったけど。


『ミシェル・バレット!!』


嗚呼、今度はハッキリと聞えた。でも、ミシェル・バレットって確か・・・。



その瞬間徐々に視界がはっきりとしてきた。はっきりとしてきたんだけど・・・。


そんな筈ない。そんな筈ないわ!


何故か分からないけれど私を見つめるたくさんの目。その中にはなんと、あの乙女ゲームの攻略対象者達まで居た。


私はなんて都合の良い夢を見てるんだろう。まさか私の目の前に攻略対象者達が現れるだなんて。嗚呼、四人とも相変わらず美しいわ。


「ミシェル・バレット・・・。」


シリルが一歩前に出て良く分からない名を口にした。


・・・うーん。相変わらず無表情ね。でもそんな貴方も素敵よ!


うっとりと見つめる私にお構い無しにシリルは続ける。


「お前が、ミスティア・セルフィに犯罪まがいな事を今までしてきたのか?」


え、ミスティア・セルフィってあのゲームのヒロインよね?しかもその台詞どこかで・・・。


美しい銀色の髪が揺れ動く。少し遠くでは橙髪の青年に守られる様にして立っている少女がこちらを不安そうに見つめていた。


間違いない。あれは紛れも無くセルジュとミスティアだわ。でもどうしてこちらを見つめてるの?セルジュに至っては殺意のこもった目をしているし。


・・・どこかでこのシーンあったわよね。


確か、ミスティアを虐めていた悪役令嬢の悪事がおおやけにされた時。でも確か悪役令嬢の名は・・・。


そんな時だった。どこからか痛々しいほどの視線を感じとった私はその方向へ勢いよく振り返ったのだ。


そこには派手な見た目の御令嬢がこちらの事を目を細めながら見つめていたのだ。口元は大きな扇子で隠れてるけれどあの表情は間違いなくほくそ笑んでる!


彼女の事は良く知ってる。何故なら彼女はこの物語の悪役なのだから。


ー イザベラ・マリエール ー


紫の髪、長い爪を紅くマニキュアで塗っており赤いドレスに身を纏った魔女みたいな女。


普通ならイザベラは処刑されてもうここには居ないはず・・・。それなのにどうしてまだここに居るの?どうしてイザベラは呑気に笑ってるの?


「どうしてなんだ!どうして、ミスティアを裏切ったんだ!ミスティアの気持ちを考えた事あんのかよ!」


貴族らしからぬ言動で私を怒鳴り散らすセルジュ。


分からない訳ないじゃない。私が一番知ってるよ。だって私は、プレイヤーだよ?ミスティアの気持ちは私の気持ちなんだから。だけど言う相手間違えてない?どうして真の悪女がすぐ側に居るのに怒鳴る相手が私なの?


「・・・ミシェル・バレット。今すぐこの学園から立ち去って頂こう。」


そう言ってシリルは一枚の紙を渡してきた。そこにはデカデカと退学書と私の名前であろう文字が。


『ミシェル・バレット』


嗚呼、なんてことだろう。今更思い出すなんて。私の名前はミシェル・バレット。モブの御令嬢だ。そして・・・。


イザベラに自身の悪役令嬢と言う役割を押し付けられた少女だ。


もしかして私、モブ令嬢のミシェルになっちゃったって事!?


これは勿論夢よね?・・・いいえ、額から流れ落ちる汗、頬を掠れてゆく冷たい風がこれは現実だと教えてくれる。普通にゲームしてただけなのにこれは一体どう言うことなの!


これがあの乙女ゲームの世界ならミシェルはこのままセルジュに斬られる筈だ。無実の罪で処刑されるなんて真っ平ごめんだわ。考えるのよ。何とかして生き延びる方法を。


隙をついて逃げる・・・?うぅん、そんな事したら『私がしました』って言ってるみたいなもんじゃない。それにもし逃げたとして私を囲む様に立っている攻略対象達が許してくれないわ。腰に収めてるその剣ですぐに斬られるでしょうね。


「どうした・・・?早く受け取るがいい。」


考えてる間もシリルは黙っていない。再び紙をずいっとこちらに突き出してきた。


そう言えばミシェルはこの時どうしたんだっけ?確かあれこれ言い合いになって最終的に斬られたんだよな。その内容は・・・。


・・・そっか、思い出した。そう言う事だったのね。だったらこれで、HAPPYENDよ!!



「・・・分かりました。早々にこちらを去らせて頂きます。」


ある結論に至った私は微笑みながらシリルが持ってる紙を両手で受け取った。


この人達にどんなに弁解しても無理な事は分かってる。ミシェルがどんなに頑張っても無罪が証明されることはなかったから。逆にそんなに必死になって見苦しいと言う事で斬られたのだ。だったらミシェルの二の舞にならない様に私は第二の人生を歩ませてもらう事にするわ。


もう二度と美しい顔が見れないのは残念だけどモブはモブらしくストーリーには関わらず静かに暮らさせて頂こうかしらね。


・・・それなのに、どうしてそんな顔するの?


私に紙を突き出してきたシリルを始め、先程まで物凄い顔で睨んでいたセルジュもこちらを伺うかの様ににやにやと笑っていたアルベルトもなにを考えてるか分からないが少しも目を逸らさずにこちらを一直線に見つめてるメイビスも私の言葉に目を見開いていた。


どうして驚く必要があるのかしら。そっちが言ってきた癖に。まさか今更私の事を信じるだなんて言うつもり?・・・なんてね。


そんなに意外だった?私がなにも言い訳せずに大人しく言う事聞くのが。もっと泣き喚くと思ったかしら。・・・あのミシェルみたいに。でもまぁ、これで私は晴れて自由の身ね。私はもうこの物語に干渉しないからどうぞ皆さん、物語の続きを進めて頂戴。


「では、失礼致します」


スカートの裾を軽く持ち上げて御辞儀をすると誰かの息を呑む音が聞こえた気がした。けれどもそんなのは知ったこっちゃない。私は会場に居る全員に背を向けて歩き出した。




さて、最初はなにをしようかしらね。

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