第十八話


気を練り上げながら何か違和感みたいなものを感じ始めた浩二。



(こんなに身体が熱くなった事なんて無かった筈だが…)



今浩二は身体を廻る気の質の変化に戸惑っていた。

今迄も身体に気が廻る感覚は理解出来ていた…が、今はそれとは明らかに違う何かが廻っている。

しかし、違和感とは言っても不都合があるわけではなく…寧ろ今迄よりも遥かに力が漲る感覚さえあった。



(…何があったんだ?…まぁ、いっか。)



相変わらずの楽観主義だが…

浩二は気付いていない。

今のこの現象は少なくとも他人に何かされた訳では無く、浩二自身が気付かずにやった事が好転した事に。


全ての原因は心臓が壊れた際に使った魔核だ。


浩二は自らに魔核を使う際命令した事は唯一つ。


『心臓の代わりにその役割を果たせ。』


命令を受けた魔核はすぐ様壊れた心臓の組織を掻き集め、新たに心臓を作り上げた…自らを融合して。


こうして出来上がった新たなる心臓はその有り余る能力を使い今迄は出来なかったある事を始めた。


『素手の極み』

上位種に種族進化を果たした際に手に入れたスキルだが…

その明らかに馬鹿げた数値と倍率のせいで、上位種の肉体を手に入れたにも関わらず全ての力を使う事に今迄の心臓では耐えられなかった。


しかし、新たな心臓はそれを可能にした。

制限のかかっていた全身を廻る気の質の変化。

簡単に言えば…一度に廻る気が「濃く」なったのだ。


今迄浩二が底無しだった理由もそこにあったりする。

あくまで心臓が耐えられる値での最大値。

いくら物凄い量の生命力を持っていても、出口が小さければ一度に使える量は少ない。

故に減りも少ない。

今迄浩二がやらかして来た事を鑑みて…少ないと言うのもどうかと思うが。


しかし、今は違う。

単純に今迄の倍以上の出力を得たのだ。


するとどうなるか…



「うぉっ!?何だ!?」



三体式の姿勢は崩さずに右腕の輝き具合に驚く浩二。


眩いばかりの白光。

微かに青い光が混じってはいるが明らかに薄く…いや、青い光では無い方が濃くなったのだ。



「…色が…変わった…?」



訳が分からないが、浩二にも一つだけ分かる事があった。

この光はヤバい…と。

今迄とは比べ物にならない事ぐらいは理解した様である。

しかし、より正確に理解したのはリッチーの方だった。



〈…いやはや…この場面で『聖なる光』とは…恐れ入るわ。〉



自らの最大の弱点。

それを見間違う筈も無い。

しかも…時の勇者よりも遥かに高出力。

何より…今の浩二はでは無いのだ。



〈…参った…とんでもない男に喧嘩を売ってしまったな…〉



リッチーはやれやれと言わんばかりにため息混じりで呟く。

その一因…と言うか、彼が心臓さえ狙わなければこの結果は生まれなかった訳だが。

所謂自業自得である。


リッチーがそんな事を考えている間も浩二の拳の光は更に輝きを増してゆく。



〈(…では、先手を取らせてもらおうか。)〉



このまま待って居て良いことなど無いと考えたリッチーは先手を取るべく行動に出る。

一振りの剣となった身体に禍々しい瘴気を纏い、己を高速で飛ばし浩二へと突撃した。

そのスピードは凄まじく、瞬く間に浩二の拳に接触する。


浩二も黙って待っていた訳では無い。

最大の威力を出せるタイミングで拳が接触出来る様に恐ろしい程の集中力と瞬発力で見事に合わせてみせた。


浩二の後ろ足が引き付けられ、ズドン!と地面に小規模なクレーターが出来上がる勢いと威力で踏みしめられた瞬間、拳から放出されていた眩い光が全て前方へとまるでレーザーの様に射出された。


その威力は訓練所の壁を貫通し外へと飛び出し、城壁すらも貫通して遥か彼方へと消え去った。


残心する浩二。



その右腕は…肘から先の中程から綺麗に消滅していた。



不思議と痛みは無い。

光の威力に耐えられなかったのだろうか…?


違う。

その答えは浩二の背後で刀身の八割を失い纏わせていた禍々しい瘴気までもすっかり霧散してしまった…リッチーが知っていた。



〈…ぐ…っ…ふはははっ…宣言通り…一矢報いたぞ…〉



多大な代償を支払い、最早いつ砕け散ってもおかしくない状態のリッチーは、苦しみながらも誇らしげに言い放った。


接触する瞬間、異常とも言える程高まる力に危機感を覚えたリッチーは、全ての瘴気を剣の切っ先に集中させた。

更に自らの精神体をも超高圧縮し先端に収束させ、貫く事に全てを賭けた。


予想を遥かに上回るレーザーの様な高威力の光にも何とか耐え、加速する自らの身体に身を委ね…見事浩二の拳を貫き、更に肘手前程まで貫通した後背後へと飛び出した。


この時、リッチーは浩二の腕に置き土産を残していた。



「…腕が無いのに、痛みが無いとか…気持ち悪いな。」


〈…自分の腕が無くなったと言うのに…随分と余裕があるではないか?〉


「そんな事は無いぞ?結構驚いてはいる。…ただ、痛みが無いから実感が湧かないだけかも知れないが…」


〈…痛みが無いのは、我が呪いを施したからだ。〉


「呪い!?」



来たよ呪い!

本当にこの字面好きになれない。



〈…腕が無くなった事より驚いているな。〉


「…呪いに良いイメージが湧かないからだろうな…で?どんな呪いだ?」


〈知りたいか?〉



妙に楽しそうなリッチー。



「教えて下さい。」


〈む…いきなり敬語とは…調子が狂うな。〉


「そりゃどんな呪いか分からないと、これからの生活が大変だろ?」


〈まぁ、勿体ぶっても仕方が無いな。主に掛けた呪いは『再生不可の呪い』よ 。〉


「再生不可…?」



これまた嫌な字面だ。



「…なんとなくだが…理解した。要はどんな回復手段を使っても二度と右腕は再生されないんだな?」


〈大凡はあっておる。右腕の切り口に呪いを施したゆえ二度と右腕は再生されん…と言うより、元々そこには腕が無いことになっておる。故に痛みは生まれん。〉


「…つまりは、俺は最初から右腕が無かった事になる呪いに掛かったって事か…」


〈まぁ、そんな所だ。〉


「えーと…あんたを倒せば呪いが解けたり…?」


〈…しないな。〉


「ですよねー。」



まぁ、そんな簡単な話では無いよな。



〈何より、我は既に主に倒されておるよ。〉



何処か楽しそうに…何故か嬉しそうに語るリッチー。

その姿はいつの間にか壊れかけの剣から元の人の姿に戻っていた。


しかし、元通りという訳ではなく…既にリッチーの下半身は消えかけていた。



「そっか。あ、そういやあんたの名前聞いてなかったな。」


〈フフフ…今更だな…名を名乗るのも随分と久しぶりだが…我の名はギルモット。昔は「生きた闇」等と呼ばれておったよ。〉


「ギルモットか。うん、覚えたよ。」



二つ名があるって事は、意外と有名だったりしたんだろうか。

等と考えていると、リッチーから声が掛かる。



〈…さて…我はそろそろ逝く。冥土の土産に主の右腕も頂いたしな。〉


「返せよ。」


〈フフ…それは叶わんよ。精々最上位種にやられたと自慢するが良い。〉


「負傷が自慢になるかよ。」


〈ハハハッ!…全く…主と居ると昔を思い出す。もっと早く主と会っていたならば…いや、戯言か。〉


「…ま、あんた…ギルモットって強い奴がいたって位は話してやるさ。」


〈フフ…礼は言わんぞコージよ。…では…然らばだ。〉


「あぁ、じゃあな。」



リッチーは、浩二の別れの言葉に頷くと霞のようにその場から消え失せた。


なんとなく…なんとなくだが、別れ際のリッチーからは悪意や執念みたいなものを感じなかった。

リッチーもゴーストって言うなら、これが成仏って奴なんだろうか。



「ふう~…終わったぁ~っ…!」



浩二はその場で大の字で倒れる。

ミラルダのお陰で回復した三割もスッカラカンに使い果たした。



「コージっ!大丈夫なの?」


「あー…死んでないのが大丈夫って言うなら…大丈夫だ。」


「…それじゃ、立てるのが大丈夫って言うなら?」


「…大丈夫じゃない。」


「全く…ま、死んでないなら良いわ。帰りましょ、皆の所に。」


「あぁ、帰ろう。立てないけど…」



なんとも締まらないけど…とりあえず一段落って事で良いんだよな?

あー…疲れた。


浩二はそこまで考えた後、襲い掛かる睡魔に身を委ねた。



□■□■



白い。

何処までも白い世界。

ここに来るのは二回目だ。



「…いらっしゃい。」



目の前にも白い女性がいる。

真っ白な服を着たご存知自称「女神様」だ。


何処か元気がないように見えるけど…気のせいかな?



「女神様?…何かありました?」


「え?…どうしてだい?」


「何か…元気が無いみたいに見えましたから…」


「…そんなことは無いよ。気にしないでくれ。」



そうは言われてもなぁ…底抜けに明るいのが女神様の取柄だったりするし…


案外酷いことを考える浩二。

そして、色々思案する事数分…いくつかの理由を思い付く。



「もしかして…あの『強奪』の件、まだ気にしてますか?」



浩二の言葉を聞いた女神様の身体がビクッとした。

どうやら一発でヒットしたらしい。



「出来る限り早く取り戻しますから、元気出して下さい。女神様に元気が無いと調子が狂います。」


「…ありがとう。でも、少し違うんだ。私が沈んでいる理由は自らの軽い考えで君から離れた事さ。」


「……?」


「フフッ、意味が分からないって顔してるね。…私は君に出逢うまで数万年ずっと一人でいた…まぁ、仕事上の同僚みたいなものは居るけどね。それが当たり前だったから。それが、君に出逢ってからの月日は驚く程に楽しかったんだ。」



何だろう…凄く寂しそうな笑顔だ…

女神様は続ける。



「だからだろうね…勘違いをしていた…君以外の人も大丈夫だと。変わらず楽しいと。それがこのザマさ…完全に失望してしまった。」


「…女神様…アイツは特殊ですよ。リハビリには向いてません。」


「フフッ…リハビリか。確かに刺激は強かったね。本気で死ねば良いのにって思ったよ。」


「まぁ、奴への罰はミラルダさんがキッチリしてくれる筈ですし…何より俺も女神様が居ないと寂しいですよ。だから、頑張って取り戻します。」


「…君は本当に優しいな。フフッ…待ってるよ。また君と君の仲間達と過ごせる日々をね。」


「はい。必ず。」


「ふう…それじゃ、そろそろ本題に入るかな。」



一呼吸置いた女神は切り出す。



「薄々は気付いているだろうが、今回の戦いで君は種族進化を果たした。」


「あ、やっぱり?」


「目出度く「エルダードワーフ」へとね。ドワーフ種の最上位種だ。」


「…エルダードワーフ…」


「でだ、今回は別にこの場所へと呼び出す必要は無かったんだが…まぁ、そこは察してくれ。」



顔を赤らめ俯きながらバツの悪そうな表情を浮かべてポリポリと頬を掻く仕草をする女神様。



「今回は君が寝込んでる間に呼ばせて貰っただけなんだ。進化による肉体の変化は既に完了している。まぁ、見た目はあまり変わらないから安心していいよ。」


「…見た目は…って事は中身…ステータスは結構変わってたりするんですか…?」



一抹の不安を感じた浩二は素直に聞いてみる。



「んー…どうだろうか?まぁ、間違いなく普通じゃ無くなってるだろうね。」


「…あー…やっぱり?」



前回の事があり、ちょっと怖くなる浩二。

浩二の不安も分からなくはない。

余りにも高いステータスは日常生活に支障が出る事も多いのだ。



「まぁ、その辺りは帰ってから確認してくれ。」


「…はい。」


「フフッ…普通は最上位種なんかになれば狂喜乱舞する所なんだがな。本当に君は変わってるよ。」


「…まぁ、守る力が強くなったのは素直に嬉しいです。…でも、強過ぎる力なんてきっと良い事ばかりじゃないはずですから。」


「確かにね。でも。要は使い方だろう?君ならきっと大丈夫だと信じてるよ。」


「…女神様…ありがとうございます。」



女神様の期待には応えなきゃな、うん。



「さぁ、後は新たなスキルだが…これがまた特殊極まりない物なんだ。」



女神様がここまで言うスキルって…

何だろう…嫌な予感しかしないんだが…

女神様の前置きに不安になる浩二。

一体どんなスキルだと言うのか。



「…あんまり脅かさないで下さいよ…」


「フフッ、そんなつもりは無かったんだがね。新しいスキルの名前だが…『絶対魔法防御』という。」


「『絶対魔法防御』…?」



文字の見た目からすると…全ての魔法が無効になるのか?



「このスキルは永続する。つまり、ON/OFFが出来ない。従って今の君には一切の魔法が効かない。」


「それは別に悪い事じゃ…」


「回復魔法や支援魔法まで防いでもかい?」


「…あ!」


「更に言わせて貰うと…君自身も放出系の魔法が使えなくなる。体内で発動する分には大丈夫だろうが…」


「…これはまた…極端なのが来ましたね…」


「後もう一つ。」


「まだあるんですか…?」



露骨に嫌な顔をする浩二。



「フフッ、その顔を見るのも随分久しぶりな気がするよ。これはどちらかと言えば救済に近いかな?君だから有り得る話なんだが…君の魂を移した相手からならばこの『絶対魔法防御』は発動しない。」


「??」


「分からないかい?君は『至高の創世主』と言うスキルを持っているだろ?」


「…はい…あ!『魂転写』!」


「気付いたね。そう、君が創り出したマシナリー及び魂を転写した魔核を使った魔道具なら君に魔法を使う事が出来るんだよ。」


「…成程…これは色々実験しないと…」



対処法が見えて来たからだろうか…少し楽しくなって来る浩二。



「君が楽しそうになって良かったよ。私はあくまで神の代理だからね…スキルの選定まで出来ないんだ。せめてこの位の助言しか…ね。」


「いえ、助かりました。戻ったら色々試してみます。」


「うん。そうしてくれ。それじゃ…名残惜しいが、そろそろお別れだ。」


「はい。必ず『女神の加護』を取り返しますから、その時まで。」


「あぁ、楽しみにしてるよ。」



最後に口にした女神様の言葉は、何処か寂しそうだったが…そんな事を考えている間に浩二の意識はゆっくりと遠のいて行った。



□■□■



「…知ってる天井だ…戻って来たんだな…」



薄暗いせいか周りは良く見えないが…どうやらまだ深夜らしい。

とりあえず身体を起こそうとして何かが引っ掛かる。



「……う…ん…コージ…」



浩二のベッドに突っ伏すように眠りに落ちていたソフィアが寝言の様に浩二の名前を漏らす。

よく見ると、反対側には舞の姿があった。

こちらは椅子に腰掛けたまま眠ってしまっていたが。

更に壁際にあるソファーには栞と蓮が折り重なるように眠っていた。



「…一体どうしたんだ…?」



皆さん勢揃いで俺の部屋にお泊まりとか…これ如何に。

いや…こんな感じの光景何処かで見た事が…


あ!良くある眠ったまま目を覚まさない奴を心配して皆で看病的な奴だ。

ならばまずは安心させた方が良いよな…?



「えーと…ソフィア?…ソフィアさん。」



ユサユサとソフィアの肩を揺らして彼女の名を呼ぶ。



「……うー…ん…コージ…?」


「はい。浩二です。」


「…はっ!コージっ!?大丈夫っ!?生きてるっ!?」



いきなり覚醒したソフィアは矢継ぎ早に浩二へと問いかける。



「とりあえず生きてますが…何があったの?」


「……かった…良かったぁ…っ…コージぃっ!!!」



飛び掛るように泣きながら浩二に抱きつくソフィア。



「ソフィア!?」


「馬鹿ぁっ!!心配したんだからっ!!」


「…何があったか分からないけど…ごめん。」


「ごめんじゃないわよっ!三日も…目を覚まさないし…っ!何故か回復魔法も効かないし…っ!馬鹿ぁっ!!」


「ごめんな…心配かけて…」



浩二は泣きじゃくるソフィアをそっと抱き締め、優しく頭を撫でながら何度も謝った。


それにしても三日も眠ったままとは…余程身体に負担がかかってたんだな…

まぁ、アレだけゴリゴリやれば当然と言えば当然か。


気付くと舞も涙目でこちらを見ており、栞と蓮もソフィアの泣き声に気付き走り寄って来た。



「皆、心配かけてごめん。」


「無事で…良かったです…岩田さん…」


「お兄ちゃんっ!何処か痛くない?」


「全く…お兄さんは寝坊助だねっ!」



皆が思い思いに話し掛けてくる。

本当に…心配されるって嬉しいもんだな…

申し訳なくもあるが…泣かせちゃったし。


そうだ、丁度いつものメンバーも揃ってるし今回の事を話しておこう。



「えーと、皆に話しておきたい事がある。」



改まって話す浩二にいつものメンバーは佇まいを直す。



「まず最初に。俺は種族進化してエルダードワーフになりました。」


「…は?」


「…え?」


「えーと…何?」


「ま、まさか…本当に?」



反応は違えど取り敢えずは驚かれた様だ。



「さっき女神様に会って話して来た。今帰ったばかりだから、俺自身もまだステータス見てないけど。」


「…あ!そうだ!お兄ちゃんが病気かどうか調べようとしたのにステータスが鑑定で見られないの。『鑑定』のレベルは10なのに…」


「そう言えば、私の回復も効きませんでした…腕の再生も…すみません…」



二人がガッツリ凹んでいる。

何だか悪い事をしたな…



「それも種族進化の影響だと思う…と言うより、新しく覚えたスキルのせいだよ。新しく覚えたスキルは『絶対魔法防御』って言って、俺自身が使った魔法も含め魔法が一切効かなくなるんだ。二人には悪い事したね。」


「ううん、お兄ちゃんのせいじゃないよ。栞はお兄ちゃんが元気なら良いもん!」


「…随分とレアなスキルを…だから腕も再生されなかったんですね…」


「あぁ、腕に関しては別な理由だよ。この腕はリッチーから『再生不可の呪い』をかけられたからね。」


「呪い!?…大丈夫なんですか?」


「痛みや何かは無いから大丈夫だけど…不便だから義手作らなきゃな。後は色々実験してみないと…」



浩二は心配する周りを他所に早速立ち上がろうとしてソフィアに猛反対された。

今日一日は絶対安静だそうな。


まぁ、時間も出来たし…取り敢えずステータスの確認でもしますか。



□■□■



名前 岩谷浩二

年齢 26

種族 エルダードワーフLV1

職業 人形師 氣法師

筋力 60340(+54306)

頑強 59600(+53640)

器用 5590

敏捷 6108

魔力 5442

スキル

『操気術』LV10

『火魔法』LV10

『風魔法』LV10

『パワースラッシュ』LV10

『パワースラスト』LV10

『瞬動』LV10

『鑑定』LV10

『半減の呪い』LV10

『物理結界』LV10

『エナジードレイン』LV10

『至高の創世主』LV--

『剛力』LV--

『転送』LV--

『諸手の極み』LV--

『絶対魔法防御』LV--

『掠奪』LV--

『見様見真似』LV--

『再生不可の呪い(見習い)』LV1



□■□■



これまた酷いステータスだ。

あれ…?

スキルの名前が幾つか変わってる気が…


嫌な予感を抑えきれずに名前の変わったスキルと新しく覚えたスキルの詳細を確認する。



□■□■



『剛力』

全ての物質の重量をほぼ0にするスキル。

実際に物質の重量が軽くなる訳ではなく、スキル所有者のみに適用される。

足場や地面には本来の重量が掛かる為注意が必要。

スキル所有者の身体に触れた時点で発動し、離れた時点で効力を失う。



『諸手の極み』

『素手の極み』の上位スキル。

両手に武器を持たない場合、片手につき筋力と頑強が5倍になる。



『掠奪』

『強奪』の上位スキル。

1人につき1日に1度スキルを選んで奪う事が出来る。

スキルは奪った時点のスキルレベルで手に入り、スキルを使えばスキルレベルも上げられる。

任意で奪ったスキルを返す事も出来るが、スキルレベルは奪った時点のレベルに戻る。



『絶対魔法防御』

他者及び本人も含めた全ての魔法を完全に無効化するフィールドを体外に纏うスキル。

体内で作用する魔法を体内で発動した時のみ効果は現れるが、それ以外の魔法や魔素を用いたスキルは全て体外で発動する前にフィールドにより無効化される。

例外として、スキル所有者本人以外に本人と同じ魂の持ち主にのみ効果は発動しない。



『再生不可の呪い』

指定した範囲の再生及び回復を阻害する呪い。

遺伝子レベルでの阻害を行う為、どんなに高度な手段を持ってしても呪いを掛けた本人以外からの解呪は困難。

基本は使用者のレベル依存で、相手より所有者のレベルが高ければ高い程レジストされにくくなる。

基本的に一度掛かれば永続的に作用し、スキル所有者を殺しても解除される事は無い。



□■□■



これは…種族進化したからスキルも上位スキルに進化したのか?

今度は10倍かよ…


そんな事を考えながらもパニックにならないのは、前回の事があったからだろう。



「コージ?…もしかして…ステータス確認してるの?」



一人だけ部屋に残ったソフィアが何やら思案顔の浩二に話し掛けてくる。

実は先程からソフィアにステータスが見える様に表示しようとしても出来ないのだ。

よって、仕方無く自分の脳内で確認していた訳だが…

どうやら顔に出ていたらしい。



「あぁ、今確認した。」


「…で…?…どうだった?」


「…ん?どうとは?」


「種族よ!種族っ!本当にエルダードワーフになってたの?」


「なってたよ。間違いなくエルダードワーフLV1だよ。」


「…そう…遂にそこまで行っちゃったのね…しかも一年未満で…」



ソフィアはいつに無く深い溜息をつく。



「えーと…何か不味い事でもあった?」


「違うわ…ただ、一度ルグルドに戻ってお爺様に報告しておかなきゃって思ってただけよ。」


「お爺様?」


「ええ、今迄は世界でただ一人の「エルダードワーフ」だった人よ。今は私の代わりにルグルドを統治しているわ。」


「そうか…」



何だか偉い人みたいだな…

それにしても…ソフィアのお爺ちゃんか…見てみたい気もする。



「まぁ、今すぐって訳じゃないから落ち着いたら一緒に行きましょ。」


「あぁ、分かったよ。」


「…それじゃ、今日はゆっくり休むのよ?起き上がっちゃダメだからね?」


「分かってるよ。…でも…トイレ位は良いよね?」


「あら?メイドに頼めば…」


「行かせて下さい!」


「ふふっ、冗談よ。それじゃ行くわね…おやすみコージ。」


「あぁ、おやすみソフィア。」



ソフィアは満足そうに頷き、自分の部屋に帰って行った。



「…とは言ったものの…」



眠れない。

今は丁度日が昇り始めた辺りだ。

三日も眠ったままだったのだ、そりゃ眠れないだろう。



「何して時間潰すかなぁ…」



黙っているのが何より苦手な浩二は、天井を見上げながら丸一日何をしようかと途方に暮れるのだった。



□■□■



「お兄ちゃん!朝ご飯持って来たよ!」


「おー!ちゃんと大人しくしてるね!」


「…一応病み上がりなんだから…二人共静かにしないと…」



アレから数時間…

身体を動かしたくて動かしたくてウズウズしていた辺りで舞と蓮、栞の三人が浩二の朝食をワゴンに乗せて現れた。



「おぉーっ!!飯っ!」



美味そうな匂いを嗅いだ途端に浩二の胃袋が急激に食べ物を求め爆音を奏で始める。


用意された先から胃袋へ消えてゆく料理。

コレは…多分足りないな。

等と考えながらも、唖然とする三人の目の前であっという間に完食する浩二。



「…えーと…おかわり…いる?」



若干引き気味に問い掛ける蓮。



「頼む!」



そうハッキリと答えた浩二の目は野獣そのものだった。

次々とワゴンにて運ばれて来る料理。

その全てをペロリと平らげる浩二。

やがて10台目のワゴンに乗せた料理が完食されて初めて浩二が口を開く。



「ご馳走様でした。」



残った左手を目の前で揃え食後の挨拶をする。



「ふふっ…お粗末様でした。」



ワゴンを片付けていたメイドさんが嬉しそうに言葉を返す。

前に灯の魔道具を作った時に居たメイドさんだ。



「こんなに美味しそうに食べて頂けると料理も作り甲斐があります。」


「いやぁ、本当に美味しかったです。」


「ふふっ、夕食も期待していてくださいね?」


「はいっ!」


「それでは、失礼します。」



そう言って綺麗なお辞儀をすると部屋を出ていった。



「…お兄さんの胃袋って…異空間にでも繋がってるの…?」



ドン引きした蓮が浩二をジト目で見ながら呟く。



「何だか、凄い腹が減ってたんだよ。まるで何日も食べてなかったみたいにさ。」


「いや、確かに間違ってはいないけど…」



浩二の言葉に三人は顔を見合わせて苦笑いするしか無かった。


朝食後、三人に自分が眠っていた三日間に起きた出来事等を色々聞かせて貰った。


先ずはこの城へと送り届けた女性達の事。

彼女達は、到着してすぐにサキュバス達に衣服を着せられ一箇所に集められた。

ミラルダが帰るまで意識を取り戻さないように必要最低限のマナドレインを掛けつつ、肉体を治療しながら。

これから行う作業は至極デリケートであり、サキュバスクイーンであるミラルダにしか成し得ないのだ。


やがて城に戻ったミラルダは、人族女性一人一人に丁寧に新たな催眠を掛け記憶を上書きしていった。

純潔は戻らない。

踏み躙られた尊厳も。

しかし、辛い記憶は覆い隠せる。

何も知らなければ無かった事になる訳では無いが…

せめて心安らかに過ごせるように…と。


当然、人族領から送られて来た兵士達は訓練所で行われているサキュバス達の行動に激しく異議を唱えた。

「魔族等に任せては置けない」と。

その言葉に激しく反発したのは王女リリィと驚く事に舞だった。


王女様は、「貴方達に何が出来るというのですか!一体どれだけの施しを彼女達から受取れば貴方達は満足出来るのです!自らの言動を恥なさいっ!」と。


そして舞は…

「人族の城にいた貴方達より、この城の兵士さん達の方が余程紳士的に私に接してくれました。あの頃時折私に向けられていた嫌な視線を私は忘れません。そんな貴方達に身も心も蹂躙された彼女達を癒せるとはとても思えません。もう少し自らの身を清めてから出直して頂けますか?」

と、とても辛辣な言葉を投げ掛けたらしい。

蓮が一語一句忘れずに憶えていたのには少し驚いたが。


そして、最後に「男の俺達に出番はねーよ。」とスミスが締めたそうな。


城にいた貴族達はと言うと、ミラルダがシュレイド城へと戻る前にチャッチャと催眠解除と記憶改竄を行い放置してきたそうだ。

この男女の扱いの差に若干苦笑いした。


兵士達も今は大人しくしており、助けた勇者達と共に貸し出された城の区画で浩二の転送待ちをしているらしい。

これは人族の城の復興もあるし、早めに何とかしないとな。



そして、結城についてだが…

ミラルダがサキュバス領へと連れて行ったらしい。

「それ相応の償いをさせなきゃならない。」と。


凍り付くような冷たい瞳でそんな事を言われたら、流石に誰にも異議を唱える事など出来ずにいた。

そんな中、スキルを奪われたり殺される寸前にまでなっていた勇者達が結城の城での行動を事細かに話した結果、ミラルダに任せる事にする…という話に落ち着いた。


王女様曰く、今回の件は勇者である結城真が乱心しリッチーの封印を解き、共に人族国を混乱に陥れたが、魔族達の助力により一応の決着を見た。と言う事になるらしい。

恐らく国内での混乱は避けられないだろうが…少しでも魔族達への誤解が解ければ…というのが王女様の考えみたいだ。


これから王女様も大変だろうけど頑張って欲しいし…俺も出来る限りの事はするつもりだ。



で、だ。

今のこの状況に繋がる訳だが…



「…やっぱり魔核すら作れねぇ…」



三人が部屋を後にした後、再び暇を持て余した浩二は今出来る検証をすることにした。


右手はあの有様なので、残された左手で魔核を作ろうとするも何らかの力に邪魔され形にならない。

こんな状態じゃ、手伝う所か王女様達を人族領に送り届ける事すら出来ない。



「参ったなぁ…」



こんな所で種族進化の弊害を被るとは思ってもみなかった。



「これじゃ…義手すら作れないよな…」



早速行き詰る浩二。

すると、徐にベットから起き上がり柔軟体操を始める。



「…こういう時は…無心になるに限る。」



軽く柔軟を終えた浩二はその場で立禅を始める。

瞳を閉じ…ゆっくりと呼吸を整え…静かに佇む。

心臓を新調してから暴れ馬の様に出力の上がった気を押さえ付けながら。

そしてふと気付く。



「操気術は…使えるのか…?」



浩二は疑問を解消すべくすぐに行動に移る。

丹田にて練り上げた気を全身に絡み付かせるように纏い鎧の様に物質化するが…



「あれ…?」



浩二は纏った鎧を見て首を傾げる。


白。

今浩二が身に付けている気の鎧は数日前に纏っていた濃紺の鎧では無く、眩しい程の純白の鎧だった。



「んー…個人的には前の色の方が良かったなぁ…」



取り敢えず疑問は其方退けで率直な感想を述べてみる。

そして気付く。


右手だけが前回同様に鈍い青の光を反射する濃紺な事に。

しかも、しっかりと触覚まで備わっていた。



「…もしかして…」



浩二は右手だけを残し、身体の鎧を消してみる。



「おお…っ!いい感じだ。」



まるで新たな右腕の様に自由に動かせる気の義手が出来上がる。

試しに魔核を作ってみると、何の抵抗も無く作ることが出来た。

それどころか、幾分か魔核の純度が上がっている気さえする。


まさかこんな形で問題が解決するとは思っていなかった浩二は、早速色々と試してみようと濃紺の右腕に力を入れようとした所で…



「コージ、ちゃんと大人しくし…て…るの?」



ノックも無しに開け放たれたドアから尻すぼみになった言葉を発したソフィアが現れた。


滅茶苦茶怒られた。



□■□■



「だって…このままじゃ皆に迷惑をかけると思って…」


「言い訳しない!」


「はい…すみません。」


「全く…コージはこの間胸に大穴開けられたこと忘れたの?…普通なら即死なんだからね?」


「それなら…ほら…」



服をまくり上げて胸を露わにしてソフィアに見せた。

そこには既に傷の一つも無く、その内側では新たに生まれ変わった心臓が脈打っている。



「べ、別に見せなくても良いわよっ!…もう!…本当に…大丈夫なのね?」



真っ赤になって顔を背けるも、チラチラとこちらを伺いながら本当に心配そうに訪ねてくる。



「あぁ、もう大丈夫だ。心配かけたね。それに、右腕も…ほら。」



先程出来上がったばかりの新たな右腕をソフィアに見せながらニカッと笑う浩二。



「…はぁ…分かったわ。コージに動くなってのが無理な話だったのよね…」



額に手を当てフルフルと首を振るソフィア。



「でも!」



人差し指を立てて浩二の目の前に突き出す



「全ては明日から!今日はお願いだから大人しくしてて…ね?」


「うん。分かった。」


「なら良いわ!夕食はここに運ばせるから楽しみにしてなさい。」


「おお…っ!」



浩二の反応に満足したのか、ソフィアは笑顔で浩二の部屋を後にした。



「さぁ…明日から忙しくなるぞ…っ!…あと晩飯っ!」



浩二は右手をギュッと握りながら明日するべき行動を頭の中で詰め始めた。



□■□■



次の日。

新しい右腕でスキルを発動出来る事を確認した後ソフィアと人族組三人を呼んでステータスを公開した。

前回のように足枷の鎖でステータスを変化させたりはせず、いきなりのMAX公開だ。


まぁ、結果はドン引きされたが…

確かに半端ではないステータスなので仕方が無い、うん。


そして、現在。

浩二は訓練所にいた。

目の前には人族領から連れて来た兵士達や勇者、そして…



「岩谷さん、今回は本当にありがとうございました。このお礼はいつか必ず。」



そう言って第三王女リリィが綺麗にお辞儀をする。

傍らに控えていたスミスが口を開く。



「世話になったなコージ。また人族領に顔出せよ。」


「はい。必ず。それじゃ…ゲート開きますね。」



浩二はいつもの様に右手を翳し『転送』を使う。

本当にいつもの様にしたつもりだった。

しかし、現れたゲートは…



「あ…れ?」



浩二は唖然とした。

それも仕方の無い話だ。

何せ、現れたゲートは形こそ六角形と変わらないが…

その大きさが違った。



「…コージよ…随分とデカイな…」



スミスが絞り出す様に呟く。

目の前には高さ10mはあろうかという巨大なゲートが口を開いており、その先には人族の城にある訓練所が見えていた。



「…あれ…?何でだろ…?」



未だに混乱中の浩二。



「…コージ…通っても大丈夫なんだよな?」


「あ、はい…多分。」


「多分って…お前…」


「いや、こんなにデカくなるなんて思わなくて。」


「…ま、通りやすくて良いわな。んじゃ行くわ。」



スミスは王女の手を取ると、ゲートを潜る。

遅れて兵士達や勇者達も次々とゲートを通り人族領へと帰って行く。


全て通り終えたのを確認した浩二はゲートの向こうにいるスミスへと声を掛ける。



「スミスさん、彼女達の事よろしくお願いします…」


「あぁ、分かってる。任せとけ、ちゃんと親元に帰しとくからよ。」



彼女達とは兵士達が抱き抱えて運んでいた人族の女性達の事だろう。

未だに意識は戻らないが、いずれ近いうちに目を覚ますとミラルダが言っていたので間違いない筈だ。

後はスミスと王女様に任せよう。



「あ、後…城とか色々壊しちゃったんで…後で直しに行きますから。」


「ガハハハハッ!心配すんなっ!ま、会いに来るぶんには構わんがな。」


「はい。それじゃまた。」


「あぁ、達者でな。」



スミスは黒い義手をブンブンと振りながらニカッと笑う。

その隣で王女がペコリとお辞儀をしている。


その姿を見届けた浩二は静かにゲートを閉じた。

ちょっとした想定外の事態は起きたが一仕事を終え一息ついていると



「いやぁ…流石兄貴、あんな巨大なゲート初めて見たわ。」



その後から聞き慣れた声がした。

慌てて振り返る浩二。



「た、猛!?一緒に帰らなかったのか!?」


「なんだよ…居ちゃ駄目だったか?」



そこには当たり前の様に腰に手を当て仁王立ちする猛の姿があった。

その後には麗子の姿まである。



「麗子まで…良いのか?帰らなくて…」


「何よ、ちゃんとソフィアさんに許可は貰ったわよ?」


「俺は蓮に勝つまで帰れねーよ。それに、兄貴が稽古付けてくれるんだろ?」


「まぁ、二人が良いなら俺は構わないよ。帰る気になればいつでも転送で送れるしな。」


「うっし!早速訓練しようぜ兄貴っ!」



猛は既にやる気満々の様子で胸の前で掌に拳を打ち付けている。



「あー…申し訳ないが猛、訓練は後だ。」


「何か用でもあんのか?」


「あぁ、二つ程な。その内一つは最重要案件だ。」



そう、先ずはミラルダさんの所へ行って結城から『掠奪』で女神様を取り返す事。


そしてもう一つは…



「待ってろよ…ナオ。」



空に向かい呟くように口にした浩二。

魔核の中で浩二を信じて魂のまま待ち続けているナオ。


浩二は全能力を駆使し新しい身体を作ると決めていた。


彼女と再び会う為に。



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