第十二話

ドン引きされた後、当然理由を追求された。

理由とは?

そりゃ、突然ステータスの数値が跳ね上がった理由だ。



「所でコージ。その鎖は何?何だか跳ね上がったステータスに関係ありそうだけど…」


「あぁ、コレは『足枷あしかせの鎖』って名前の魔道具だよ。」


「足枷?」


「そう、これは昨日…



□■□■



「コレは…このままじゃ、日常生活に支障が出そうだな…」



ステータスを確認し終えたコージは頭を捻る。

確かに、今のステータスに慣れないうちは日常のちょっとした行動で大事故になりかねない。



「一番良いのは…武器を装備してしまうことだけど…」



『素手の極み』の効果を消してしまうには武器を持つ事が一番の近道…と言うか唯一の方法だ。



「でも…武器かぁ…」



浩二は正直乗り気では無かった。

彼は『素手の極み』に選ばれる程『素手』が好きなのだ。

しかも、武器は装備しなくてはならない。

この『装備』とは、携帯するのでは無く、『手で持つ』事を意味する。

実際浩二は残り少ないオリハルコンで短剣を作り腰に装備してみたが、数値は変わらなかった。


余談ではあるが、この時オリハルコンが粘土でも捏ねるようにヌルヌル加工できてしまった事にも驚いたのだが。



「うーん…手に装備出来て、邪魔にならず、武器らしくない武器…か。」



頭を捻り腕を組み考え込む。

その時、ふと思い出す。

『半減の呪い』を覚えるきっかけになった魔道具を。



「鎖…か。良し!作ってみるか。」



浩二は残り少ないオリハルコンを手に取り思い浮かべる。


鎖…なるべく細く…色は黒…

両端に5cm程の球体の分銅…

分銅の中には魔核を埋め込む…

込めるスキルは『半減の呪い』…

鎖にも呪いの効果を持たせる…

更に多少の伸び縮みも出来るように…


やがてオリハルコンが光り輝く。

その隣で二個の魔核が生まれ…オリハルコンがそれを包み込む。

そして、みるみるうちに形を変え…

眩い程の光が収まると、浩二の手には球体の分銅を二つ備えた漆黒の鎖分銅が握られていた。



「…うん、成功だな。」



浩二は細い鎖を手に巻き付けステータスを確認する。

すると、『素手の極み』の効果は消え、更に『半減の呪い』の効果により数値が半分になっていた。



「…良し…コレなら指の動きの邪魔にもならないな。」



パッと見黒いワイヤーに見える程細い鎖が掌全体を包み、まるで黒いオープンフィンガーグローブのようだ。

分銅も手首辺りに二つ仲良くぶら下がっている。



「取り敢えず、訓練以外では慣れるまでこれで行こう。」



□■□■



と言う訳だ。」



鎖を再び手に巻き付けながら説明を終える。



「まぁ、確かにあのステータスじゃ慣れなきゃ何を壊すか分からないもんね。」


「だろ?」



ニカッと笑う浩二。



「それはそうと…」


「ん?」


「見事に銀に染まったわね。」


「あぁ、髪か。俺も朝鏡の前で思わず二度見したよ…」



そう。

浩二はハイドワーフになった時点で髪が銀髪に変わっていた。

当然眉も。

まさかのイメチェンである。



「ふふっ、似合ってるわよコージ。」


「お兄さん銀髪も似合うねー」


「格好良いです!」


「…その…良く似合ってます…」


「お、おう。ありがとうな。」



照れ臭くなり頬をポリポリとかく浩二。



「それにしても…もうこんなに細かい細工までオリハルコンで出来るようになったのね…」



浩二の手を取りマジマジと鎖を観察するソフィア。



「あぁ、粘土みたいにヌルヌル加工出来たよ。」


「それに…着色まで…オリハルコンに着色とか聞いたことないわよ…」


「そうなのか?単純に黒くなれ…って想像しただけなんだが。」


「しかも…この細かい鎖全てに魔導文字が刻まれてるし…」


「え?…あ、本当だ。文字が刻んであるな。読めないけど。」


「…はぁ…まぁ、コージが知らずに凄いことサラッとやっちゃうのはいつもの事だしね。」



相も変わらず浩二の意志とは無関係にとんでもない事をしているらしい。

まぁ、それが浩二という人間…いや、ドワーフなのだが。



「今度、私達にも何か作って欲しいわ。オリハルコンなら腐る程あるんだしね。」


「そうだな…うん、皆に何か作ってプレゼントするよ。デザインなんかは…期待しないでくれると嬉しい。」


「コージがくれるものなら文句なんか無いわ…ね?」



ソフィアが三人に確認を取るようにウインクする。



「おー!お兄さんからのプレゼント!」


「楽しみですっ!」


「…岩谷さんが…私に…」



どうやら皆楽しみにしてくれているようだ。

責任重大だな。



「それじゃソフィア。またあの倉庫からオリハルコン貰うな。後、隣の小部屋も貸してくれ。」


「えぇ、好きに使って構わないわ。」


「ありがとう。」



この後浩二は一流魔道具職人が気絶する様な魔道具を四人にプレゼントするのだが…

当の四人は知る由もない。



「この機会に俺も色々試してみようかな…」



ふと湧いて出たような機会にこの際だからと色々試すつもりらしい。

新たに得た『至高の創世主』というスキルをもっと試してみたい…という気持ちもあるのだろう。

浩二の瞳はいつの間にかキラキラと輝き、まるで新しい玩具を手に入れた子供のようになっていた。



「良し!行ってくる!」



凄く良い笑顔になった浩二が四人に挨拶を済ませ足早に倉庫へ向かってしまった。



「あの…私、嫌な予感がします…」


「奇遇ね舞…私もよ…」


「どうしたんですか?二人共。」


「楽しみだなーっ!」



果たしてどうなるのやら…

文字通り神のみぞ知る…いや、あの女神ですらきっとわからないだろう。



□■□■



「さて…何を作るべきか…」



浩二は悩んでいた。

アクセサリー等という色っぽい思考など持ち合わせていない浩二は、ただ彼女達にプレゼントする装備・・を考えているのだ。



「まずは…舞だな。」



手始めに舞の装備を考え始める浩二。

舞は基本回復役であり戦闘はあまり得意ではない。

ならば、狙われた時に身を守る術は必要だ。

後はもう一つ。

精神力切れが怖い。

ならばいっそ外部から集めたらいい。



「んー…魔素自体を集めてしまえば、精神力を魔素に変えるより消費は減るな…ゴーレムでも出来るんだから多分大丈夫だろう。まぁ、取り敢えず作ってみるか。」



浩二にしてみれば、まるで粘土のようにやり直しのいくらでも出来る素材として認識されてしまったオリハルコン。

硬度や加工技術を考えれば本来は有り得ないのだが…

相手が浩二なら仕方が無い。

可哀想だがあきらめよう…オリハルコン。



やがて浩二はオリハルコンのインゴットを数個テーブルに置くと、手を翳して目を閉じる。


想像する…

形は…杖…あまり長過ぎない…1m位か…

先端の飾りは…天使…翼を大きく広げ天を仰ぐような姿で…

魔素急速収集用の魔核を一つと魔素を蓄える為の魔核を二つ…

色は…白…


やがてオリハルコンは光に包まれ、新たに魔核が3つ作り出されるとそれを包み込み強い光を放ちながら形を変えてゆく。


浩二が目を開けるとそこには純白の杖が横たわっていた。

飾りの天使が魔核を両手で持ち、翼の下側の両脇に隠れるようにもう二つの魔核が埋め込まれていた。



「見た目は…うん、悪くない…筈。後は…実用性か。」



浩二は杖を持つ。

すると、天使が持つ魔核が光を放ち始める。

そして、少しづつ二つの魔核が青く光り出す。



「成程な…充電中か。」



何だか身も蓋もない言い方だが、あながち間違いではない。

そして、やがて天使の手に持つ魔核の光が静かに消えてゆくと、今度は二つの魔核が明るく輝き出す。



「おっ!充電完了か?」



試しに浩二は自らの精神力を使わない様に杖を持ち『転送』を使ってみる。

すると、徐々に青い光が消えていき二組目の六角形を作り出した所で二つの魔核の光は消えてしまった。

すると、再び天使の魔核が光り出す。



「成程な…使い切ればまた充電が始まるのか…まぁ、『転送』2回分ならなかなかじゃないのか?」



浩二は気づいていないのだ。

それが並の魔術師数人分の精神力枯渇量だと言うことを。



「うっし!後は名前だな…名前だ…な…」



声が尻すぼみになる浩二。

そう、名付けは浩二の最も苦手とするもの。



「こうなったら…神頼みだっ!…すみません女神様!」


〔はいはーい!見てたよ!聞いてたよ!〕


「あー…テンション高いですね…」


〔だって、なかなか話し掛けてこないんだもの。〕


「初回のあの時から、文字通り神頼みにしようかと…」


〔そんな事言わないでさー、バンバン話そうよ!頼りになるよ?私。〕



異様にテンションの高い女神様に若干引き気味の浩二。



「では、名付けを頼みたくてですね…」


〔その杖の名前?んー…『エンジェリックブレス』なんてどう?〕


「…へぇ…『天使の息吹』ですか…なかなか素晴らしいじゃないですか!」


〔でしょー?見直した?〕


「そうですね、今回は。」


〔ふむ、なかなか手強いなぁ。〕


「でも、助かりました。またお願いします。」


〔うん。いつでも呼んで!本当にいつでも良いからね!〕


「あ、はい。ありがとうございました。」



何故かドッと疲れる浩二。



「これは…魔道具作ってた方が遥かに楽だな…主に精神的に。」



気を取り直して浩二は次に蓮の魔道具に取り掛かる。


蓮は舞と違って遠距離砲台型なんだけど…

やっぱり精神力切れが怖いな。

でも、きっと撃ちたがるよな…バンバンと。

なら撃たせてやろう!

ただし、魔法では無く『銃』だけどね。


浩二は再びテーブルの上にオリハルコンのインゴットを数個置くと今度は先に魔核を三つ用意する。


浩二は手を翳す。


形は…片手で使えるように短いショットガンのような感じで…

丸味より無骨さを優先…色は黒…

一つ目の魔核には魔素急速収集を…

二つ目の魔核は魔素を溜め込む為…

そして三つ目には…魔素を圧縮する機能を…


やがて光がオリハルコンと魔核を包み込み、姿を変えてゆく。


出来上がったソレは全体的に黒く、グリップには引き金と指を守るナックルガードが付いている。

砲身は短く、先端に埋め込まれる様に魔核が付いていた。



「これはまた…趣味的な。まぁ、取り敢えず試射だな。」



浩二は目の前に六角形のゲートを作ると徐にくぐり抜ける。

そこは城壁の外、大森林前だった。



「良し!まずは軽く…」



グリップを握り、空に銃口を向け引き金を引く。

シュバッ!と小気味よい音を立てて空の彼方へ青い塊が飛んでいった。



「次は連射だ。」



先程と同じ様に空へと向け引き金を引きっぱなしにする。

すると今度はシュババババババババッ!と先程より少し小さめの塊が無数飛んでゆく。

やがて数分後、魔素切れなのか玉が出なくなった。

銃を良く見ると、横に青く光る目盛りが刻んでありそれが徐々に明るく光り始める。

全ての目盛りが光るのに数分。



「成程な…リロードって訳か。」



そして、最後の溜め撃ちを試す。

手近な大木に銃口を向け、グリップを握る。

そのまま引き金に指をかけると、先程とは逆に先端の魔核に向かい目盛りの光が徐々に消えてゆく…と同時に先端の魔核が眩く光り始める。

全ての目盛りが光を失って先端の魔核が青く光り輝いてから引き金を引く。


ズドン!とハンドガンから出てはいけない音を出して1m強のサイズの青い光の塊が一瞬の内に大木へと向かい、大木を木っ端微塵に吹き飛ばした上、更にその後ろの数本の木までへし折った。



「コレは…蓮に渡して良いんだろうか…」



大木の残骸を前に浩二は呟くと、ゲートを使い小部屋へ戻った。

当然、後から騒ぎになったのは言うまでもない。



「さぁ!名付けの時間です!先生!」


〔ふむ…では、『ブラックロア』なんてどう?〕


「……『黒き咆吼』…何でこんな簡単に思い付くんです?」


〔あれだね、年季の差って奴さ。〕


「流石に神様に年季は適わないなぁ。」


〔だよねー、まぁ、いつか君も神様になれるかもしれないんだから頑張って!〕


「ぼちぼち頑張ります。」



名付けも滞り無く終わった所で、次は栞の分だな。


栞の場合は舞と同じで後方支援だよな。

そして、どちらかと言えば広範囲支援。

なら、舞と同じ様に魔素を集めつつ範囲を広げられるようにしてみるか。


浩二は手馴れた手つきでオリハルコンのインゴットを取り出すと、テーブルに乗せる。

同時に魔核を四つ作り一緒に乗せる。



「良し…始めよう…」



手を翳す。

想像するのは二つの扇…

色は白と青…

扇から紐をぶら下げ…そこに魔核をアクセサリーのように取り付ける…

白い方は…魔素急速収集と…風魔法…

青い方は…魔素急速収集と…効果増幅…


やがてオリハルコンと魔核が光に包まれ…純白と青の二対の扇が生まれた。

飾り気は無いが、紐で繋がった二つの魔核が淡く光を放っている。



「良し…まずは白の方か。」



こちらは魔素を集め舞で消費する精神力の補助と、いざという時のための風魔法による防御と攻撃用だ。

魔核は青と緑に淡く光を発している。


浩二は扇を開き、徐に扇を振るうと扇は緑に輝き風の壁を作り出した。

今度は切るように扇を振るう。

すると、鎌鼬のような鋭い風が一直線に壁へと向かいそこに深い溝を刻む。



「これはまた…些か過激…かな…?」



予想以上の威力に驚く浩二。



「さ、さて、次は青い方だ。」



気を取り直して青い方の扇を手に取る。

こっちは増幅用の魔素を集め、集めた魔素で舞の効果を更に広げる為の扇だ。

紐にぶら下がった魔核は青と紫の光を放っている。



「取り敢えず…また『転送』使ってみようか。」



浩二は扇を持った手で扇を振るいながら『転送』を発動する。

するとそこには直径2m程の大きな六角形のゲートが現れた。



「…単純に…倍って事でいいの…か?」



自分で作り出しておきながら驚く浩二。

何せ、自分で普段作るゲートよりも遥かに大きなゲートが開いたのだからまぁ、驚くのも仕方が無い。


取り敢えず効果を確認した浩二は三度女神様の力を借りるべく話し掛ける。



「よろしくお願いします、女神様。」


〔んー?扇の名前?〕


「はい。出来たら今回は和名でお願いしたく…」


〔和名ねぇ…それじゃ、青い方は『花鳥』で、白い方が『風月』でどう?〕


「…おぉ…『花鳥風月』か…女神様…なんでそんな言葉を…?」


〔まぁ、女神様にも色々あるのさ。〕


「はぁ、それにしてもサラッと花鳥風月とか…俺には絶対出て来ない名前ですよ。」


〔ふふ、それじゃまたねー!〕


「はい、ありがとうございました。」



女神様って…本当にこんな事で何度も呼び出していいものなんだろうか…



「ま、いっか。次だ次!」



ラストはソフィアの装備か…

実際にソフィアの戦闘を見たことは無いが…恐らくは前に出てゴリゴリの接近戦をする様な気がする。

前に大槌を振り回すみたいな話もしてたしな。

なら、武器は近接武器。

ここはハンマーで良いだろう。


テーブルに置かれたオリハルコンと魔核に手を翳す浩二。


見た目はハンマーに見えない様に…

長めの柄に…小さなヘッド…

ヘッドの両端に魔核…左右にも魔核を…

刻むのは…火魔法…風魔法…魔素急速収集…魔素圧縮…

色は…紅…


やがてオリハルコンと魔核は光に包まれ…

そこには眩いばかりの真紅に染まった一本のロッドがあった。



「うん。見た目はハンマーに見えないな。」



浩二はソフィアにゴツイハンマーを担がせるのには抵抗があった。

だから、今回は明らかにハンマーに見えないハンマーにしたのだ。



「さて、試して来るか…」



浩二は転送を使い再び大森林近くに移動する。

そして、徐に真紅のロッドを振り回すと地面の一点に狙いをつけて振り下ろした。

すると、ズゥン!という地響きを立てて直径1m程の地面が沈み込んでいた。



「うん、成功だな。」



浩二は風魔法で作り出した風を圧縮する事により、仮想のハンマーヘッドを作り出したのだ。

その直径1mオーバー。

高圧縮された空気は恐るべき硬度を生み出し、鉄など簡単に潰してしまう程だ。

そして…



「次は…こっちだ!」



浩二はロッドをクルッと180度回転させると、今度は反対のヘッドを地面に叩きつける。

そのヘッドが地面に触れた瞬間、物凄い爆音と共に地面が爆ぜた。

しかし、爆発させた本人の浩二には一切爆風が届いていない。

それどころか、ハンマーヘッドより後ろは全く影響を受けていなかった。

全ての爆発力は前にのみ影響を与える…これも風魔法によるシールドと逆噴射のお陰だ。

火魔法を圧縮し、一点で解放。

その威力は蓮の獄炎弾より上かも知れない。

爆発跡には5m程のクレーターが出来ていたのだから。



「ふむ…何だか…威力が高くないか…?」



これだけの威力の攻撃を本人の精神力を一切使わずに出来るのだ。

しかも連続で。

正に魔導具・・・と言った所か。


浩二は小部屋へ戻ると、最後の呼び出しをする。



「女神様…毎度すみません、お願いします。」


〔だから、気にしなくていいって言ってるのに。〕


「でも、こんな用事で何度も呼び出すとか…」


〔私が良いって言ってるんだから、むしろもっと利用してよ。まぁ、その律儀な性格も嫌いじゃないけどね。〕


「ありがとうございます。」


〔それで?今回はその紅いロッド?〕


「あー、はい。ハンマーです。」


〔んー…そうね…『カグヅチ』なんてどうかしら?〕


「…また、随分と日本について詳しいんですね…」


〔ふふっ、まぁ、その事についてはいつか話してあげるわ。〕


「分かりました。名付けありがとうございました。」


〔いいわよ。それじゃ、またねー!〕



良し、これで四人の武器が出来た。

舞の『エンジェリックブレス』

蓮の『ブラックロア』

栞の『花鳥』と『風月』

そして、ソフィアの『カグヅチ』


浩二はそれぞれの武器を布で包むとそれらを持ち小部屋を後にした。

時間はそろそろ夕食時。



「晩飯の後にでも渡そう。喜んでくれると良いけど…」



浩二は少し緊張しながらも食堂へ向かうのだった。



□■□■



「と、言う訳で皆に渡したい物があるから、食事の後で時間貰えるかな?」


「まさか…コージ…もう出来たの!?」


「うん、結構自信作だよ。」


「アレから一日も経ってないのに…四人分作っちゃうとか…」



ソフィアは素直に驚く。

しかし、その驚きはまだほんの序の口だと言う事を後に嫌という程思い知らされる事になる。



□■□■



「それで、なんでこんな場所なの?」



ソフィアは何故か浩二に連れてこられた城壁前で愚痴る。

その後には大人しく付いてきた三人もいた。



「あぁ、多分試し撃ちとかすると、城内じゃ危ないから。」


「…は?危ないって…」


「まぁまぁ、取り敢えず渡すから。まずは舞。」



呼ばれて歩み寄ってきた舞に浩二は布に包まれた杖を渡す。



「うわぁ…綺麗な杖…」



布を取り払った舞が純白の杖を見てウットリした声で呟く。



「杖の名前は『エンジェリックブレス』大気中の魔素を自動で集めて、溜め込むことが出来る。そして、その魔素を使って魔法を使う事で精神力の消費が抑えられる。更に、魔法を増幅出来るようにもしたから、普段よりも魔法の効果が上がる筈だ。」


「……溜め込む?…増幅…?」



あれから全員分の武器を作った後、舞の武器に不満を感じた浩二は、新たに増幅用の魔核を追加したのだ。

今は天使が二つの魔核を掲げる様に持っているデザインに変わっていた。



「あぁ、因みに二つの魔核にフルで溜め込まれた状態で俺の『転送』を使ってみたら、ゲートを二組まで精神力消費無しで作れたよ。」


「なっ!?二組!?上級魔法を消費無しで!?」



唖然とする舞。

上級魔法を2回分消費無しで使えると言うことは、普通の魔法ならば、杖を持っている限りほぼ精神力の消費は無いと言っても過言では無いのだ。

当然、浩二は気づいてもいないが。



「今は回復する相手も居ないから…後から感想を聞かせてくれ。…あ!今丁度暗いし、ライトの魔法でも使ってみてくれるかな?」


「あ…えぇ、分かりました。」



舞はエンジェリックブレスを掲げると、小さく何かを呟く。

すると、新たに加えた増幅の魔核が輝き、30cm程の眩い光の玉が頭上に浮かび上がった。



「…凄い…本当に何の消費も無いなんて…しかもこの光量…」



昼間のように明るくなった辺りを見回しながら舞が絞り出す様に呟く。



「コレは…私達も覚悟しておいた方が良いわね…」


「…はい…」


「凄いじゃん舞っ!良かったね!」


「あ…うん、岩谷さん、ありがとうございます。大切にしますね。」



舞は未だに心の整理が出来ないのか、上の空だっであったが連の言葉に我に帰り浩二に心からお礼を言った。



「それじゃ、次は蓮だ。」


「待ってましたーっ!」



蓮は浩二から包を受け取ると、直ぐに中を確認するべく布を取り払う。



「おおぉーっ!恰好いいっ!」



少年の様にキラキラした瞳で銃を見る蓮。



「蓮の武器の名前は『ブラックロア』魔素を自動で集めて溜め込み、その魔素を玉の代わりに撃ち出す銃だ。銃の横にある目盛りが現在の魔素量。普通に引き金を引けば単発、引きっ放しで連射、引き金に指を掛けたまま銃口が光るまで待ってから引けば溜め撃ちだ。」


「分かった!やってみるね!」



蓮は早速銃口を空に向け引き金を引く。

シュバッ!という音を立てて青い光の塊が空の彼方へ消えていく。

そのまま今度は引き金を引きっ放しにした。

すると、シュババババババババ!と物凄い連射速度で青い光が発射された。



「おおぉっ!凄い凄いっ!」



蓮のはしゃぎ様は見ていて微笑ましい。

やがて弾切れになりリロードを待つ蓮。



「ふっふっふ!次は溜め撃ちだぁ!」



数分後目盛りが全て光ったのを確認した蓮はぺろりと舌舐めずりをすると、銃口を空に向け引き金に指をかける。

徐々に銃口に光が集まるように輝きそれが限界に達した時



「いっけぇーっ!」



蓮は声を上げて引き金を引く。

すると、ズドンッ!という大砲のような音を立てて、巨大な光の塊が空へと打ち上げられた。



「わぁ…凄いわ…コレ。」


「因みに、溜め撃ちは大木を木っ端微塵にした上に後ろにある木もへし折る威力があるぞ。」


「マジで!?」


「だから、下手に撃ちまくらない事。」


「了解だよっ!ありがとうお兄さん!この子すっごく気に入ったよ!」



蓮は舞に銃を見せびらかしながら子供のように喜んでいた。



「さぁ、次は栞ちゃんだよ。」


「あ、はい!」



栞は小走りで浩二に歩み寄る。

そして受け取った包の布を取ると、そこには青と白二色の扇があった。



「わぁ…綺麗です。」


「名前は青い方が『花鳥』白い方が『風月』だ。『花鳥』は魔素を自動で集めて溜め込み、圧縮して舞の効果を高める為の扇で、『風月』は魔素を自動で集めて溜め込んで、舞に使う精神力の消費を補うのと、風魔法で壁を作ったり鎌鼬を飛ばしたり出来るよ。」


「えーと…風魔法ですか?」


「うん。使ってごらん。」


「はい…」



栞は白い扇『風月』を開くと、城壁に向かい横に振り抜く。

すると、緑に輝いた扇は緑色の輝く刃を飛ばし城壁に傷を刻む。



「わぁ…初めて魔法を使いました…」


「扇ぐように振ると風の壁が作れるよ。」


「やってみます!」



言われた通りに扇を振ると、今度は緑の膜のような壁が生まれる。



「多分数発なら『ブラックロア』の玉も防げる筈だよ。」


「ホント!?それじゃ…」



話を聞いていた蓮はすかさず銃を構え単発で三発の青い玉を放つ。



「きゃっ!」



いきなりの事で身を縮めた栞だったが、風の壁はその青い玉をしっかりと防ぎ切り、未だに健在だった。



「コラっ!蓮!いきなりは危ないだろ!」


「あははは、ごめんね栞ちゃん。」


「大丈夫だよ蓮ちゃん。びっくりしたけど…お兄ちゃんの扇がちゃんと守ってくれたから。」


「全く…栞ちゃん、気に入ってくれた?」


「うん!ありがとう!お兄ちゃん!」



栞は浩二の首に抱きつき感謝を示すのだった。



「次は私ね!」


「あ、あぁ。これがソフィアの武器だ。」



何故か気合を入れているソフィアに首をかしげながらも包をソフィアに渡す。

ゆっくりと布を取り払いソフィアが目にしたのは真紅に染まるロッドだった。



「紅い…杖?」


「違うよソフィア。ソレは見た目は杖に見えるけど、正真正銘ハンマーだ。」


「ハンマー?これの何処が?」



ソフィアは紅いロッドを器用に片手でブンブンと振り回しながら浩二に問いかける。



「まぁ、まず説明させてくれ。そのハンマーの名前は『カグヅチ』、先端についた小さなヘッドの両端に魔核がついている。緑の魔核が圧縮空気で仮想ハンマーヘッドを作り出す。赤い魔核の方はインパクトの瞬間に圧縮した火魔法を放つ。どちらもヘッドの横に付いた二つの魔核で自動的に魔素を集め蓄積してくれるから、ソフィア自身の精神力は使わなくても大丈夫だ。」


「これはまた…とんでもないわ…ねっ!」



ソフィアは感想を述べながらカグヅチを手近な地面へと叩き付ける。

トゴォッ!と轟音が鳴り響き、地響きと共に地面にクレーターが出来る。



「本当にハンマーなのね…こんなに華奢で綺麗な色なのに。」


「ソフィアにはあまりゴツイハンマーを担いでもらいたくなくてさ、出来る限りハンマーに見えないようにした。」


「…コージ…ありがとう。」


「あ、それとそのカグヅチは重いからソフィア以外は使えないよ。」


「え?重い?」


「あぁ、『剛力「鉱物」』のスキルがあるからソフィアと俺は大丈夫だけど。」


「具体的には…どのぐらい?」


「えーと…150キロぐらいかな?なにせ、オリハルコンのインゴットが30個入った箱を5箱使ったからね。」


「5箱!?」



ソフィアは目を見開いて驚く。



「あ、ゴメンやっぱり使い過ぎたかな?」


「違うわよ!どんな事をしたらその量のオリハルコンがこんなに華奢な形になるのよ!」


「えーと…圧縮?」


「…コージ…アンタ…」



ソフィアはいつものポーズで首を振る。

浩二はいつもの様に気付いていない。

この世界で恐らくは一番硬い金属であるオリハルコンを粘土のように加工するだけでも普通ではないのに、それを高圧縮するなど、最早正規の加工では不可能なレベルである。



「やっぱりソレ気に入らなかったかな…?」


「ソレとコレとは話は別よ!」



ソフィアはカグヅチを抱き締めるようにすると浩二から遠ざける。



「…その…こんなに綺麗なの私には似合わないかも知れないけど…嬉しかったわ。ありがとうコージ。」


「何を言ってるんだ?ソフィアに似合うと思って紅くしたんだよ。喜んで貰えて良かった。」


「…うん。」


「良かったねー!ソフィアちゃん!」



頬を染め俯くソフィアを蓮が後ろから抱き締める。



「貴女もね蓮。他の武器もそうだけど、コレ…アーティファクト級の代物だから大切にするのよ?」


「トーゼン!だってすっごく気に入ったもん!」



後ろにいた二人も頷く。



「ありがとうコージ。」

「ありがとー!お兄さん!」

「ありがとうお兄ちゃん!」

「ありがとうございます岩谷さん。」


「おう!」



浩二は一言返事をすると、笑顔の四人に囲まれ満足気な笑みを浮かべた。



□■□■



「えーとソフィア…相談があるんだけど…」


「何よ?改まって。」



明くる朝、朝食後に浩二はソフィアの元を訪れていた。

珍しく真面目な顔をしている。



「人族国にいたスミスさんって覚えてるか?」


「えぇ、あの隻腕の豪快な人でしょ?」


「そうそう。」


「で?その彼がどうしたのよ。」


「スミスさんには凄く世話になってさ…だから、一度挨拶に行きたいんだ。その時に…義手をプレゼントしたいんだけど…どう思う?」


「良いじゃない。喜ぶと思うわよ?この世界ってまともに動く義手って高価だから。コージの事だからどうせその義手も普通じゃないんでしょ?」


「そんな事はないぞ?オリハルコンじゃなくミスリル使うし、特別な機能なんて付けないよ。ただ、魂転写で本物の腕と同じ様に動かせる様にはするけど…」



浩二は気付いていない。

と言うか麻痺していた。

バカスカとオリハルコンばかり使っていたせいだろう…ミスリルも充分希少である事を失念している。

更に、本物と同等の動きをする義手など、アーティファクト以外の何物でもない。

加えて、魂転写による義手は「触覚」も再現する。

この事は浩二自身も知らない事実なのだが…


以上の事を鑑みた結果、結局いつも通りの浩二だった。



「…程々にね?」


「…ん?分かったよ。」



多分分かってはいないだろうが、取り敢えず了承した浩二は義手を作るべく地下倉庫に向かった。



□■□■



浩二は早速使い慣れた小部屋に陣取りスミスの義手制作に入った。



「何か…この部屋落ち着くな…何処と無くあの地下牢に似てるし…」



スミスの事を思い出したせいだろうか、思い出すあの地下牢生活。



「俺って、閉鎖的な部屋が好きなんだろうか…」



変に思い悩む浩二。



「今度ソフィアに言ってこの部屋を工房にして貰おうかな…」



意外と本気でこの小部屋が気に入った様だ。



「ま、それはそれとして…義手を作りますか。」



浩二はミスリルのインゴットを隣の倉庫から持ち出すと、テーブルの上へと乗せ手を翳す。


色はシンプルに…黒…

スミスさんの右腕に合わせた太さで…

装着部分が擦れて痛まないように…摩擦を極力減らす…

もしもの為に…魔素を集めて溜めておけるように…

そして何より…硬く…硬く…


やがて新たに魔核が三個生み出され、ミスリルと混ざり合い光を放つ。

そして、光が収まるとそこには鈍く光る一本の黒い義手が現れた。



「良し、後は…女神様、聞こえてますか?」


〔はいはーい!どうしたの?〕


「えーと、魂転写を使う時って一番最低ラインの時はどうしたらいいんでしょう?」


〔んー、魂の消費が一番少ない方法の事かい?〕


「はい、そうです。」


〔単純に血を一滴魔核に垂らせばオッケーだよ。〕


「一滴で義手を自由に動かせる様になりますか?」


〔充分じゃないかな?この場合は魂ってよりは、遺伝子情報の読み取りが重要だからね。〕


「成程…ありがとうございました。」


〔いいえー。彼、喜んでくれると良いね。〕


「はい。」



浩二は黒い義手を大事に布で包むと、小脇に抱え部屋を出ようと扉に手を掛けようとした瞬間、バンッ!という音を立てて扉が乱暴に開け放たれた。



「うおっ!びっくりした!」


「コージ!大変よっ!」


「何かあったのか?」



ソフィアの慌て様は尋常じゃない。

やがて彼女は真剣な顔で浩二の目を見て言葉を発した。



「勇者の一人が人族の城を乗っ取ったわ!」


「…へ?」



ソフィアの口から出た言葉は、浩二の思いも寄らない言葉だった。

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