第十一話

「あのねぇ…貴方達…」



ソフィアは額を押さえいつものポーズ。



「あ!ソフィアちゃん!迎えに来てくれたの?」


「晩飯かっ!?」


「あんたら…」



確かに時刻は夕暮れ時。

晩飯時と言えば晩飯時だが。


その時、ソフィアの両肩にポンと手が置かれる。

振り向くとそこには、酸っぱい顔をした舞と栞が首を振っていた。

この二人は言うなれば巻き込まれ組だ。

やんちゃな二人の後先考えない行動をひたすら回復でフォローしていたのだから。



「…お察しするわ…」


「…ありがとうございます…」


「…酸っぱいよ~…」



ソフィアは二人の肩にポンと手を置き返した。



□■□■



「コージはもっと控え目に訓練出来ないの?」


「そんな事言われても…控え目に訓練したんじゃ、訓練にならないじゃないか。」


「なるわよ。」


「いや、でもさ…」


「コージ。」


「…はい。」


「あの訓練所の有様見たでしょ?穴ボコだらけじゃない!」


「あー…はい。」


「後で直しておく事。いい?」


「…はい。」


「お兄さんっ!頑張って!」


「蓮、あんたもよ。」


「えーーっ!」


「「えーーっ!」じゃないわ。それとも、オヤツ抜きが良いかしら?」


「やります!頑張ります!」


「よろしい。」


「えーと…ソフィア?俺、オヤツ貰った事ないけど…」


「コージは良いのよ。」


「そんな…」



そんなこんなで夕食後の雑談という名の説教も終わり、浩二と蓮の二人は訓練所へ向かう為にと重い腰を上げる。


やがて訓練所へと辿り着いた二人が見たものは、せっせと訓練所の地均しをする兵士達だった。



「おーっ!浩二の旦那に蓮の嬢ちゃん!どうした?」



スコップを片手に二人を見つけた兵士の一人が声を掛けてくる。



「俺達も手伝いに来ました。…ってよりも、これは俺達がやらなきゃならない仕事ですし…」


「そうだよー!後は二人でやるよ!」


「何言ってんだ!あんなに凄い試合見せて貰ってこっちこそ礼が言いたいんだよ、なぁ?」



兵士が周りに同意を求めると、皆一様に「凄かったなぁ!」とか「今度はこっちが教わらなきゃ!」とか「二人がいればこの城も安心だな!」等と言いながら、まるで当たり前の様にスコップで穴を埋めたりトンボで地均ししたりしている。

泥だらけになりながら。



「やっぱり手伝います!」


「私もーっ!」



二人は手近にあったスコップを持つと、物凄い勢いで穴を埋めていく。



「おぉ!やっぱり戦闘が凄いと、こういう作業も凄いんだなぁ!」


「皆さん!ありがとうございますっ!」


「ありがとーっ!」


「へへっ…おう!」



兵士は照れくさそうに笑うと、作業を再開する。


もう、すっかり暗くなった篝火の明かりが照らすだけの訓練所。


優しい兵士さん達に囲まれ、暫くの間笑い声が木霊するのだった。



□■□■



【スキル】

『黄昏の人形師』LV1

『黄昏の傀儡師』LV8

『魔核作成』LV7

『操気術』LV10

『火魔法』LV1

『風魔法』LV1

『パワースラッシュ』LV1

『パワースラスト』LV1

『瞬動』LV1

『剛力「鉱物」』LV--

『転送』LV--

『見様見真似』LV--


『鑑定(見習い)』LV8

『半減の呪い(見習い)』LV7



□■□■



「やっぱり上がり切らなかったかぁ…」



ステータスプレートに映る見習いのままの半減の呪いを見て、ベットに寝転がりながら呟く浩二。



「これは、いよいよ魔物を相手にしなきゃ駄目かな…」



浩二の表情は暗い。

実は浩二、魔物を相手にする事自体は実は前から思いついてはいた。

しかし、いくら自分の為とはいえ生き物を殺す事に抵抗があったのだ。

単純に言えば『怖い』のである。

負けるのが怖いのでは無い。

寧ろ、負ける程の相手と戦えることは浩二にとっては喜びに近いだろう…そこに命のやり取りさえ無ければ…だが。


しかし、いつかはやらなければならない。

それも分かっていた。

この世界では『魔物』とは、一般人の脅威として認識されている。

日に少なく無い数の人が魔物によって殺されている。

ならば、その場面に出くわした時、躊躇無く命を奪えねばならない。



「誰かが言ってたなぁ…『殺していいのは殺される覚悟のあるヤツだけだ』…だったかな?」



実際、死ぬのは怖い。

浩二はどちらかと言えば臆病な部類に入る。

しかし、自分が大切にしている人が危機に陥ったならば…迷わず助けるだろう。

自らの身を顧みず。

それが分かっているから…



「…少しでも強くなっておかなきゃな…」



死ぬのは怖い。

でも、死なれるのはもっと怖い。

誰かが自分を庇い…その結果…死なれてしまったら…

自分の力不足のせいで…目の前で死なれてしまったら…



「…正気を保てる自信がないな…」



そうならないように。

自分の身は自分で守れるように。

大切な人達を…守れるように。



「…良しっ!…決めた!」



浩二は決心した。

強くなろうと。


そして、夜は更けていった。

浩二の悩みを覆い隠す様に。



□■□■



「と、言う訳でソフィア。魔物と戦いたい。」


「…何が「と、言う訳」かは分からないけど、良いんじゃない?やっとコージもレベル上げる気になったみたいだし。」


「…レベル…上…げ…?」



完全に忘れていた。

コージの中でステータスをアップさせる方法は迷うこと無く『訓練』一択だった。



「まさか…本当に忘れていた訳じゃないわよね…?」


「ははは、まさか!」



視線をソフィアから逸らす。



「そうよね!流石のコージでもそれは無いわよね!」


「そうだよソフィア!はははっ!」



目が泳ぎまくる。



「……コージ。本当は忘れたでしょ?」


「……はい。今の今まで失念しておりました。」


「…全く…やっぱりコージはコージね。」


「返す言葉もございませんです…はい。」



言葉は落ち込んでいるが、浩二の胸には熱いものが漲り始めていた。

まだまだ強くなれる。

もっともっと強く…強く!


ソフィアは浩二の瞳にそれを感じ取ったのか、優しい笑みで彼を見つめるのだった。



□■□■



「へー…結構城壁ギリギリまで森が迫ってるんだなぁ。」



浩二は10m以上はあろうかという城壁を見上げながら呟く。


ソフィアに「魔物と戦いたいなら見回りの兵士と一緒に城壁の警護について行けば良いわ。」と勧められた浩二は、只今見回りの兵士さん一行と外回り中。


デカい城門の脇にある兵士用の出入口から出て城壁伝いに30分程歩いた辺りにいた。



「本当はもっと城壁と森は距離を開けた方が良いんだが…何せこの森の木はいくら伐採しても、あっという間にこの状態に戻っちまうんだわ。」



浩二の呟きを聞いた兵士さんが疑問に答えてくれる。



「一応伐採はしてみたんだ?」


「あぁ、この城に初めて配属された時にな。でも、ものの数週間で元通りになってしまってな。でだ、結局もののついでとか何とか言ってエルフの里の『魔導の魔王』シルビア様が城に張ってある大結界の点検のに城壁から5mの範囲に新たに結界を張って下さったんだ。」


「ついでとか…」


「いや、実際片手間の様にあっという間に城壁から5mの範囲の植物を伐採して、更には結界でこちらに植物を入れなくしてしまった。」


「なんと言うか…流石『魔王』としか言えないな。…ん?植物?」



浩二は兵士の話を聞いて、城壁の結界が植物限定な事に気付く。



「そうさ。城壁の外の結界は『植物限定』なんだ。だからこうして『植物以外の魔物』が城壁に悪さしないように毎日見回りしてる訳さ。」


「成程な。所で、どんな魔物が悪さをしに来るんだ?」


「そうだなぁ…キラーエイプって言うデカい猿とか、後はマッドブルって言うデカい牛とか、ジャイアントボアって言うデカい猪とか…空を飛ぶ奴なら稀にワイバーンって言う空飛ぶデカいトカゲとかが来るよ。」


「…基本デカいんだな…」


「あぁ、しかもデカいだけじゃなくレベルも低くて50辺りだからな。だから、基本的に見回りは小隊単位で行われるんだ。とは言っても、そう頻繁に来る訳じゃないんだ。あくまで警戒さ。」


「そっか。必ず来る訳じゃないのか…」


「なんでそんなに残念そうなんだよ…良いじゃねーか、来ないなら来ないで平和だろ?」


「そりゃそーだ。」


「でも、ここ暫く魔物も静かだからそろそろ来るかもな。」



なんてフラグじみた事を言う兵士さん。



「隊長っ!マッドブルですっ!しかも5体っ!!」


「なっ!?5体だと!?」



ほら、回収された。



「なぁ、5体ってそんなに凄いか?」


「何言って…ってコージの旦那か。なら知らねーよな。見た方が早えーよ。ほら…」



浩二が兵士の指差す方向に視線を移すと…そこには立派な角を湛えた赤茶色の牛が執拗に城壁へと突進を繰り返していた。

その大きさと言えば、兵士の話が誇張だった訳ではなく、元いた世界の牛の優に5倍以上はありそうだ。



「いくら頑強な城壁とは言え、あのままじゃ不味いな…良しっ!総員戦闘準備っ!良いかお前らっ!突進は必ず避けろ!食らったら一溜りもないからなっ!」


「「「オォーーーッ!!」」」



隊長の指示に声を上げて己を奮い立たせる兵士達。

そんな中、浩二は隊長の元へ歩み寄り何とも気の抜けた感じで口を開く。



「あの…隊長さん。ちょっと俺に先行させて貰えます?ちょっと試したい事があるんで…」


「何をっ!こ…これはコージ殿。しかし…先行と言われましても…」


「多分大丈夫だからさ。少しでも兵士さん達の負担が減った方が良いでしょ?んじゃ、行ってくるね。」



浩二は近所のコンビニにでも行くような気楽さで隊長に告げると、駆け足で一番近くのマッドブルに向かう。



「さて…半減の呪いだけど、これにも操気術乗るかな…?」



等と考えながら両拳に半減の呪いを発動する。

一度丹田で気と練り合わせることも忘れない。


すると、浩二の両拳が禍々しい赤黒い靄に覆われ、見たことも無い文字の様なもので出来た二本の輪が不規則に拳の周りを回っていた。



「うわぁ…これはまた、いかにもな感じで来たなぁ…ま!効きそうだからいっか!」



そう口にした途端、浩二の姿がその場から掻き消える。

驚く兵士達。

それはそうだろう。

いきなり両手に禍々しい何かを纏ったと思えば、いきなり姿が消えたのだから。


次に浩二が現れたのは突進中のマッドブルの後ろ足付近だった。



「まぁ、これでも食らっとけ!」



力む様子もなく赤黒い靄を纏った拳で後ろ足を殴りつける。

その瞬間、拳の周りを回っていた解読不能の文字の輪が大きく広がり、マッドブルの胴体に巻き付くように移動すると急激に縮まりジュウッと焼き付く様な音を立てる



「ブオォォーーッ!!」



痛いのか熱いのかは知らないが、明らかにダメージを受けた様子で鳴き声を上げるマッドブル。



「良し!次々行くかっ!」



又もやその場から瞬動により掻き消えた浩二は次々とマッドブルに焼印を刻んでゆく。


そして、5体全てに呪いを刻んだ浩二は瞬動で再び兵士達の前にいきなり現れる。



「うおっ!」


「あぁ、驚かせてすみません。とりあえず呪いを刻んで来たので、少しは戦いが楽になるんじゃ無いでしょうか?」


「の、呪い?」


「はい。『半減の呪い』って言って、ステータスとスキル能力を半減させる呪いです。って言っても見習いなんで半分って訳にはいきませんが。」


「そうか…でもよ…アレ…何か苦しんでねーか?」


「へ?」



素っ頓狂な声を上げて浩二がマッドブルを見ると、数分おきに焼印らしき文字が光り、やはりその度に痛みなのか分からないが声を上げて苦しんでいた。



「…すみません…理由は分かりませんが…何やらダメージ受けてるみたいですね…」


「…旦那…」


「あ!昨日『鑑定』のレベル上がったから、見たら分かるかも!」



バツの悪さを誤魔化すように、浩二は昨晩上がった『鑑定(見習い)』LV9を使いマッドブルを鑑定する。



□■□■



名前 未設定

種族 マッドブルLV51

状態 火傷 呪い


‐‐‐‐‐‐

名前 未設定

種族 マッドブルLV52

状態 火傷 呪い


‐‐‐‐‐‐

名前 未設定

種族 マッドブルLV50

状態 火傷 呪い


‐‐‐‐‐‐

名前 未設定

種族 マッドブルLV50

状態 火傷 呪い


‐‐‐‐‐‐

名前 未設定

種族 グレートブルLV61

状態 火傷 呪い



□■□■



「あぁ…何故か火傷になってますね。」


「…自分でやっといて何故かって…」



兵士達の呆れた様な驚いた様な声が苦しむマッドブルの声に混じって響いた。



「あ、あと1体グレートブルっての混じってますね。レベル61の。」


「「「何ぃっ!?」」」



さらに追い討ちをかけるように言った浩二の言葉に、兵士は目を剥いた。




「そんなに凄いのか?そのグレートブルってのは。」


「…えーとですね、グレートブルってのは、マッドブルの上位種です。」


「へぇ…つまり格が上って事か…」



何故かニヤリと笑を浮かべる浩二に兵士は若干引き気味になる。

そして、浩二はまるで我慢が出来なくなったように隊長の元へ走り出す。



「隊長さん。マッドブル4体の方、任せても平気でしょうか?」


「恐らくは大丈夫だろう。あれだけ弱っているのだから、コレを倒せないと言ったらここに志願した意味が無い!しかし…」



恐らくはグレートブルは無理だと言いたいのだろう。

だから浩二は先に言葉を発する。



「グレートの方は俺に任せて貰えませんか?」


「しかし、いくらコージ殿とは言え上位種を一人で等と…」


「大丈夫です。信じて下さい。」


「……分かりました。グレートブルの方はお願いします!」



真剣な瞳の中に燃える何かを感じたのか、隊長はグレートブルの討伐を浩二に託す。



「任されました!後はお願いします!」


「了解ですっ!ご武運を!」



浩二は隊長の激励を受けニコッと笑い頷くとその場から掻き消えた。



□■□■



隊長の元から瞬動でグレートブルへと向かう浩二。

区別は簡単に付いた。

一体だけ一回り大きい個体。

マッドブルと違い体色も赤黒く、角に至っては一回り以上のサイズである。


他の4体が呪いにより弱体化し突進もままならない中、一番奥にいたその個体は今も尚巨体を激しく城壁へと打ち付け続けていた。


浩二は4体のマッドブルをすり抜けると、立ち止まりこれから突進しようかという様子のグレートブルの目の前に躍り出る。

浩二とグレートブルの距離は10m程。

前足で地面を引っ掻きながら今にも突撃しそうな勢いだ。


しかし、不意にグレートブルの動きが止まる。

浩二をジッと…まるで観察するように…値踏みする様に見詰めてい。


浩二からただならぬ気配を感じたのだろうか…その右拳からは青い靄が炎の様に立ち上り、徐々に青い光へと変わり集約する様に握り締められた拳へと集まっている。



「さぁ、始めようか。どうせ、止まる気はないんだろう?」



浩二の言葉を理解したのだろうか?グレートブルは姿勢を低くし、その鋭利でギラついた二本の角をその男に向け…前足で地面を蹴る。



「来い!真正面から受けてやる!」



浩二の言葉を切っ掛けにグレートブルは全ての力を後ろ足に乗せ、振り絞るような勢いで突進してくる。

土煙を上げ、地面が揺れるのが分かる。


互いが接触するまで時間にしてほんの数秒。


しかし、浩二はまるで力んだ様子も見せずに素早く左手を引くと、半歩踏み込み眩く青く輝く右拳を突き出す。


そして浩二の右拳がグレートブルの額に触れた瞬間、引き付けた後ろ足が聞いたことの無いような轟音を立て踏みしめられた。



誰もが自らの目を疑った。


グレートブルはまるで絶対に動かない鉄柱にでも激突したかのように空中へと舞い上がったのだ。

そしてその頭部は原型を留めない程ひしゃげ、胴体に食い込んでいた。


時間がゆっくり流れる様に感じられる中、グレートブルの巨体は浩二を飛び越し、丁度真後ろに地響きを伴う大きな音を立てて墜落する。

そのまま数度のバウンドをした後、ピクリとも動かなくなった。



「ふぅ…なんとか勝ったな…」



浩二は今の衝突で痛めたのであろう、右腕を押さえながら呟く。



「…思ったより心は痛まなかったな…まぁ、きっとコイツが覚悟を持って対峙してくれたお陰だろうけど…」



後ろを振り向き、動かなくなったグレートブルを見詰めながら初めて奪った生命に対して軽く瞳を閉じて黙祷した。



□■□■



残ったマッドブルも難無く討伐し終えた浩二達は、先に伝令を走らせていた甲斐もあって、直ぐに援軍兼交代要員の兵士達と入れ替わりで城に戻る事が出来た。

後は浩二達が城に戻ってマッドブルの死体等の後処理をお願いすれば今回の件は終了だ。



「コージっ!!」



すると、城門を潜ってすぐの所で息を荒げたソフィアに呼び止められた。

走って来たのであろう、呼び止めた浩二の目の前で両膝に手を置き肩で息をしている。



「大丈夫か?ソフィア。」


「…っ!アンタはっ!ソレはこっちの台詞よっ!!」


「うぉっ!」



涙目のソフィアに物凄い勢いで怒鳴られる浩二。



「どれだけ心配したと思ってるのよっ!!」


「……ごめんソフィア。」



今にも泣き出しそうなソフィアを見て、浩二は素直に謝る。

今の彼女を見れば、どれだけ心配してくれていたのか馬鹿でも分かる。



「上位種が出たって報告を受けた時、本当に驚いたわ…なのに…報告の続きで…コージが単騎で相手してるって言うじゃない!…馬鹿ぁっ!」


「ごめん。」


「ごめんじゃないわっ!…ごめんじゃ…ないわよ…」



ソフィアは浩二の胸に抱きつき、ついに泣き出してしまう。



「…本当にごめんな…ソフィア…心配かけて。」


「…馬鹿ぁ…死んじゃったらどうしようって…怖かったんだからぁ…」


「…ごめん。」



浩二は泣きじゃくるソフィア胸に抱いて、何度も謝った。

こんなにも心配される嬉しさと申し訳なさをソフィアと一緒に胸に抱いて。


やがて落ち着いたソフィアと一緒に城へ戻り、ソフィアの話を聞いて驚く舞に回復魔法をかけて貰った。




「あ!レベルアップっ!」



ゴタゴタですっかりレベルアップの事など忘れていた浩二は、ソフィアに「そう言えば、コージレベルはどうなったの?」と、聞かれ慌ててステータスプレートを取り出しステータスを確認する。



「…あれ?」


「どうしたの?コージ。」


「いやさ…レベルが1のまんまなんだ…」


「はぁ?何を言ってるのよ…上位種を倒したのよ?」


「いや、だって…ほら。」



浩二はソフィアと舞に自分のステータスを見せる。

そこには前と変わらず『ドワーフLV1』の文字が。



「何でよ…」


「…おかしいですね…」


「な?変わって無いだろ?」



何故か上がらなかったレベルに浩二はステータスプレートを見ながら首を傾げるしか無かった。


その黒髪の一部が銀髪に変わり始めている事に気付かずに。



□■□■



夢を見ていた。


夢?


いや…やけに現実味がある。



「とりあえず落ち着こう。」



浩二は何処かもわからない場所で胡座をかいて座る。

見渡す限り白。

空も地面も白。

地平線の彼方なんて、空と地面が混ざりあって境目がわからない。


なのに何故か現実味がある。



「不思議な場所だな…」


「君って本当に変わってるね。」


「っ!!」



突然の背後からの声にビクッと身体を跳ねるようにして振り返る。


そこにはこの世界に相応しく真っ白な服を着た女性が立っていた。



「そんなに驚かなくても大丈夫。」


「…貴女は…誰ですか?」


「んー…管理者…代理者…神代行…女神…うん、私は女神だ。」


「…今のツラツラ連ねた肩書きは一体…」


「まぁまぁ、細かい事は置いといて、私の事は女神様と呼びなさい。」



何やら残念な感じの雰囲気がぷんぷんする怪しい女性だった。



「…それでは女神様。ここは何処ですか?」


「まぁ、それはそれとして!先ずは進化おめでとう!君は今日からハイドワーフだ!」



人の話を聞かない上に、サラッと重大発言をしてきた。



「ハイドワーフ?…ソフィアと一緒の?」


「うん。あのお嬢ちゃんと一緒だよ。ただし、君の場合はその過程が普通じゃないんだ。」



女神様にまで普通じゃないと言われる浩二。



「具体的に理由をお聞かせ願えませんか?」


「敬語は語っ苦しいなぁ…ま、いっか。理由だったね。えーと普通種族進化を果たす時は大抵レベルが上がっているものなんだよ。何せ、種族進化の条件を満たす為に自分よりも生物的に格が上の相手と戦わなくちゃならないからね。」


「…成程…だから俺がレベル1だった事が普通じゃないと。」


「うん。普通はレベル1の状態であのステータスは有り得ない。君頑張り過ぎ。でだ、普通なら進化を果たす条件が満たされた時点で進化が始まるんだけど…」


「…ん?」


「君の場合はちょっと違ってね。簡単に言えば、『システムが追い付いていない』んだよ。」


「システム?」



随分と俗っぽい…と言うか、剣と魔法の世界には似つかわしく無い言葉が出て来たな…



「まぁ、細かく話すと長くなるから端折るけど、要は『普通に進化してくれたらこんなに時間はかからなかった』って事さ。」


「何か…すみません。」


「あー、君を責めたわけじゃないよ。ただ、ちょっと肉体から離れて貰って進化が完了してから戻って貰うだけだから。」



うわぁ…俺の肉体どうなってるんだろ…



「更にもう一つ。」


「まだあるんですか…?」


「そう嫌な顔しないの。」


「顔に出てましたか…」


「モロにね。話はスキルの事なんだ。」


「スキル?」



どうなるんだろう?

使えなくなるスキルとか出て来るのかな?



「まず、現在覚えているスキルは全てにレベル10になる。」


「…マジですか?」


「マジで。」


「更にユニークスキルを二つ覚えます。」


「二つ!?」


「普通は進化するとユニークスキルを一つ覚えるんだけど…君の場合は『レベル1の初戦で格上に勝利』って事だからねぇ。」


「凄いな…種族進化。」


「そうだよ?肉体が強靭になるし、寿命も延びる。」


「寿命も?」


「うん。大体400年ぐらい延びるかな?」


「うわぁ…」



スケールがデカくて付いて行けない。

400年とか何して過ごせばいいの?



「さて新しいスキルなんだけど、一つは確定してます。君の種族と性格等をなんやかんや色々した結果、『素手の極み』になりました。」


「『素手の極み』?」


「まぁ、詳しくは『鑑定』で参照してもらうとして、要は『素手の時にすっごく強くなるよ』ってスキルかな。」


「凄いザックリした説明だけど、何となく分かりました。」


「よろしい。で、もう一つのスキルなんだけど…まだ決まってません。」


「は?」


「だから、まだ決まってないの。と、言うことで君に質問です。どんなスキルが良い?」


「どんなって…いきなり言われても…」



困る。

と言うか唐突すぎて頭が回らない。



「ほら、色々あるじゃない。こんな事したいなーとか、こんなのあったら便利だなーとかさ。とりあえず言ってみなさいな。」


「んー…あ!」


「お?何か思い付いた?」


「はい。えーとですね…俺はいつも常識がないとか、無知とか言われるんで、そう言うこっちの世界での一般常識なんかを教えてくれる人工知能的なスキルが欲しいです…あります…?」


「あー、サポートしてくれる感じの?」


「そう!そうです!ちょこちょこ相談なんかもしたいですし。」


「うん、分かったよ。探して二つ目のスキルとして組み込んどくよ。」


「ありがとうございます。」


「あ、君の肉体進化が完了したみたい。もういつでも戻れるよ。」



どうやらシステムが追い付いたらしい。

今から身体に戻るのか…不安しかないな。



「あの…本当に大丈夫なんですよね…?」


「何が?」


「新しくなった肉体にちゃんと戻れるんですよね…って意味です。」


「あー、大丈夫大丈夫!最初はちょっと違和感感じるかも知れないけど、君ならば直ぐに慣れるよ。」



本当に大丈夫なんだろうか…



「それじゃ、次の進化でまた会おうね。」


「は?」


「行ってらっしゃぁーい!」


「え、ちょっ!待っ、こっちのタイミング待ちじゃ無いのかよっ!」



浩二の抗議も虚しく、やがて意識が途切れた。

そして、次に視界に入ったのはいつもの見慣れた城の自室の天井。



「…実に自由…というか残念な女神様だったな…」



そんな感想しか浮かばなかった。



□■□■



まだ辺りは暗く、早朝と言うより深夜に近い時間。

覚醒した浩二は取り敢えず起き上がってみる。



「…うん、特別不具合は…無いな。」



飛んだり跳ねたり捻ったりと色々試してみる。

今の所は特に不具合は無いようだ。



「後は…ステータスだな…」



不安半分、期待半分でポケットからステータスプレートを取り出そうとした時、いきなり目の前の空間にステータス一覧が表示された。



「うおっ!」



突然の事で戸惑う浩二。

そして、女神様の言葉を思い出す。



「そういや、スキル全部レベル10になったって言ってたっけ。…って事は、あの戦闘の時に使って『鑑定(見習い)』がレベル10になってたんだな。」



表示される情報量も見習いとは圧倒的に違うのだから多分そうであろうと、表示されたステータス一覧もそっちのけで考察する。


そして、改めてステータスを見た浩二は驚きの余り声を失った。



□■□■


名前 岩谷浩二イワタニコウジ

年齢 26

種族 ハイドワーフLV1

職業 人形師 氣法師

筋力 17585(+14068)

頑強 17430(+13944)

器用 3295

敏捷 3554

魔力 3221

スキル

『操気術』LV10

『火魔法』LV10

『風魔法』LV10

『パワースラッシュ』LV10

『パワースラスト』LV10

『瞬動』LV10

『鑑定』LV10

『半減の呪い』LV10

『至高の創世主』LV--

『剛力「鉱物」』LV--

『転送』LV--

『素手の極み』LV--

『女神の加護』LV--

『見様見真似』LV--



□■□■



「…………え?」



もう、最後に見た時の面影すら無いステータスの数値に唖然とした。



「コレは酷い…もう、何て言ったら良いか分からんわ…」



浩二は頭を抱える。

しばしステータスと睨めっこしていた浩二はやがて詳細の確認を始めた。

何かしなくては変になりそうだったから。



□■□■



『至高の創世主』


『人形師』『傀儡師』『魔核作成』の複合スキル。

作成した魔核に魂を分け与える事により、新たな種族『マシナリー』を生み出すことが出来る。

尚、各スキルは単独で使用も可能。

更に『転送』を併用することにより、主となった者はいつでも場所を問わず『マシナリー』を呼び出す事が可能となる。



『マシナリー』


『至高の創世主』により生み出された新たな種族。

基本は金属の肉体を持ち、ありとあらゆる能力値が高いレベルで備わっており、総じて戦闘能力は高い。

姿や能力は生み出した主人により異なり、魔核に刻まれたスキルを自らのスキルとして使用する。

魂を分け与えられた主人に絶対の忠誠を誓い、その首には赤い鎖の模様が刻まれる。



『素手の極み』


スキル所有者が素手の時のみステータスの『筋力』と『頑強』の数値が5倍になるスキル。



『女神の加護』


この世界を司る女神の加護を得られるスキル。

主にこの世の理に従い、スキルの所有者に助言を与える。



□■□■



「成程な…この筋力と頑強のぶっ飛んだ数値は『素手の極み』の効果か…」



理由が分かり少し精神的に落ち着いた。

まぁ、それでも充分おかしな数字なのだが。



「そういや、魂がどうのって書いてあったな…もしかして、新しい能力転写なのか?」



気になった浩二は『魔核作成』をタップ。

すると、新たに『魂転写』という何やらヤバ気な字面の転写項目が増えていた。

震える指で『魂転写』をタップする。



□■□■



『魂転写』


魂の一部、もしくは全てを魔核に転写するスキル。

自ら、もしくは他人の魂を魔核へと刻み新たな肉体を与える為の下準備となる。

全ての魂を転写した場合、元の肉体からは魂が全て消え失せ器のみが残される。

この場合は、空の新たな器を用意する事で新たな肉体を与えることが出来る。

魂の一部を転写した場合、転写した本人の体の一部のように動かす事が出来るため、主に義手や義足に使われる。



□■□■



「…コレは…おいそれと使えないスキルだな…あ!」



浩二はあることを思い出す。

しかし、それを心の奥へと仕舞い込むことに決める。

こればかりは自分の気持ちだけでは絶対にしてはならないから。


気を取り直して浩二は一つのスキルを見詰める。

もう一つ貰ったユニークスキルだ。



「この…『女神の加護』っての…何故か嫌な予感しかしないんだが…」



世界の理を知る者からの助言は正直有難い。

しかし…しかしだ。

何故か確信めいた何かを感じざるおえないのだ。



「えーと…コレはどうやって使うんだろ…?」


〔はいはーい!なになに?何か質問かな?〕


「………チェンジで。」


〔えーっ!なんでさ!〕



嫌な予感がバッチリ的中した。

あの時の白い空間に居た白い女神様の声だ。



「それじゃ、着信拒否出来ます?」


〔出来ません。変更も不可です。〕


「……何やってるんですか女神様…」


〔いやさー、君面白そうだし…何よりこっちはすっごく暇な…ゴホン…君の力になりたいんだよ!〕



今この人暇って言ったぞ。

きっと暇で退屈だからって事なんだろうな…

頭痛いわ…



「…仕方ないですね。これからよろしくお願いします。」


〔うん。よろしくねー〕



強くなったのは素直に嬉しいが…なんとも色々釈然としない結果となった。



□■□■



朝食後、浩二は話があると言ってソフィア、舞、蓮、栞を呼び止めリビングのソファーにテーブルを挟んで向かい合っていた。



「で?話って、進化の事?」


「あぁ、ソフィア。その事で皆には俺のステータスを見せておこうと思ってね。」


「見せてくれるのー?見たい見たいっ!」


「栞も見たいです!」

「…何故か嫌な予感がします…」



鋭いな舞。

浩二は鑑定を使い自らのステータスをスキル一覧を除き表示する。



□■□■



名前 岩谷浩二イワタニコウジ

年齢 26

種族 ハイドワーフLV1

職業 人形師 氣法師

筋力 1758

頑強 1743

器用 1647

敏捷 1777

魔力 1610



□■□■



「うわぁ…凄い数値…」


「凄いですっ!」


「…思ったより普通でしたね。」


「…ねぇコージ。この数字、本当に合ってる?どう考えても低すぎるわ。」



流石は同じハイドワーフ。

何となく分かるのだろう。



「一応いきなり見せるとドン引きするかも知れないからさ…で、ここからが本番だ。」



浩二は右手に巻いた細い鎖を解いていく。

そして、表示された数値は一気に上昇する。



□■□■



名前 岩谷浩二イワタニコウジ

年齢 26

種族 ハイドワーフLV1

職業 人形師 氣法師

筋力 17585(+14068)

頑強 17430(+13944)

器用 3295

敏捷 3554

魔力 3221



□■□■



「………何コレ。」


「………えーと。」


「…やっぱり…岩谷さんはこうじゃなきゃ。」


「コージ…幾ら何でもこれは無いわ。」



予想道りドン引きされた。

これ…スキル見せたらどうなるんだろう…

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