第十話



「何か…腹減ったなぁ…」



夕食からまだ数時間しか経っていないと言うのに、既に空腹を訴える浩二の胃袋。

だからと言って、手元に食べられる物などない。


浩二は食堂に行けば軽く摘める物があるだろうかと思い部屋を出た。


やがて食堂へ辿り着いた彼は、食堂の隣にある厨房へと顔を出す。



「すみませーん…誰かいますか…?」



この時間帯ならまだ明るいであろう調理場が何故か暗い。

しかし、人の気配は感じた。



「あぁ、コージ様。どうかなさいましたか?」



燭台を持ったメイドさんがコージに気付きこちらに歩いてくる。



「いや、何だか立て込んでるみたいだから良いよ。どうかしたの?何やら暗いけど…」


「申し訳ございません…実は、灯火の魔道具が壊れてしまいまして…明日になれば代わりが手に入るのですが…」


「灯火の魔道具?…それって、灯を作り出す魔道具って事?」


「はい、魔道具の魔核に込められた『ライト』の魔法で、ライトの魔法を使えなくても辺りを照らすことが出来る魔道具です。」


「ライト…ねぇ…待てよ…あの、ちょっとその魔道具見せてもらえませんか?」



浩二がなにか閃いたようにそう言うと、メイドさんは笑顔で快く応じてくれた。



「コチラになります。」


「へー…これが。」



見た目はランタンのような物だが、中心部に魔核が収まっていた。

魔核を取り出すと、蝋燭の明かりだからだろうか少し濁って見える。

ソフィアの言葉通りなら、きっと純度はそれほど良いものではないのだろう。



「普段は灯りが消えたら新しい魔核に取り替えるのですが、最近取り替えたばかりなのに消えてしまって…」



成程、電球交換みたいに魔核を交換するのか。

電池と電球が一体化したみたいなもんだな。


なら、多分上手くいく。

しかも、交換も必要無くなる。



「この魔道具…壊しちゃっても大丈夫ですか?…ちょっと試したい事があって…」


「…はい、大丈夫です。どうせ明日には新しい魔道具が届きますし。」


「ありがとう。それじゃ…」



浩二は徐に魔核を取り除いたランタンに自前の魔核を入れ『傀儡師』のスキルを使う。

見た目は殆ど変わらないが、中心部には淡く青色に光る魔核が見える。

そして、その魔核に指先で触れ命令を刻む。



「よし、上手くいった…と思う。」


「…何をなさったのですか?」



ランタンの形は殆ど変わらないから、何をしたのか分からなかったんだろう。



「あぁ、この魔道具をゴーレムに作り替えたんだ。」


「ゴーレム!?」


「うん。手足が無くたって、単純な命令をこなすものはゴーレムだよ。」


「…そう…なんですか?」


「よし、それじゃ『ON』って言ってみて。主人はメイドさん達にしてあるから。」


「…はい、では…『ON』」



メイドさんの命令を受け、魔核が明るく輝き出す。



「きゃっ!…凄いです!魔道具より、全然明るい!」



突然光出したライトゴーレムに驚きながらも何やら感動している。



「次は『OFF』って言ってみて。」


「はい、『OFF』…わぁ、消えました!」



魔道具だと、消す時は魔核の側にある摘みを捻る必要があるらしく、城内全ての魔道具を管理するのは結構な重労働だという。

今はその摘みは光量調整用として機能している。


興奮した様に明かりを点けたり消したりするメイドさん。

目がチカチカするから、そろそろ落ち着いて欲しい。


やがて、満足したのか明かりをつけたままライトゴーレムをテーブルに置くと、浩二に深々と頭を下げる。



「ありがとうございます、コージ様!これで、明日の仕込みに入れます!」


「良いよ、気にしないで。こっちも上手くいって良かった。」


「本当にありがとうございます。…それで、あの…」


「ん?何?」


「この明かりはどれぐらい保つのでしょうか?…これ程の明かりなら、余り長くは保たない気が…」


「あぁ、大丈夫。コレはゴーレムだからね。大気中の魔素が燃料だから、魔素が無くならない限り交換は不要だよ。」


「なっ!?」



目を見開いて驚くメイドさん。

さっきより明るいから表情も良く見える。

結構美人さんだ。



「後、他にも壊れている灯火の魔道具があるなら持って来てくれたらライトゴーレムに全部変えちゃうけど?」


「す、直ぐに持って来ます!」



メイドさんは、ライトゴーレムを持って厨房へと走って行ってしまった。



「…暗いなぁ…」



取り残された浩二は暗い食堂でメイドさんが帰ってくるのを一人寂しく待っていた。

帰って来たメイドさんが激しく謝罪したのは言うまでもない。


結局、十数個の魔道具をライトゴーレムに作り替えた。

中には魔核が生きている物もあったのだが



「こんなの知ってしまったら…私…もう、戻れません…」


「こんなに凄いの…初めて見ました…」



等と魔道具を一緒に運んできたもう一人のメイドさん共々誤解を招くような発言をされた。


どうやら、灯火の魔道具は純度の低い魔核にライトの魔法と精神力を一緒に込めており、魔核内の精神力が尽きると消えてしまうそうだ。

新たに別の魔核を買うか、精神力を込め直して貰い使っていたそうだが、一週間保てば良い方で中には不良品の様なものもあるらしい。


メイドさんに大いに感謝され、本来の目的も快く応じてくれたので、浩二にとっては嬉しい限りだが。


自前の魔核と、そこにある魔道具だけで特に苦もなく作れるので、「機会があればまた作りますよ。」と言ったら二人共飛び跳ねて喜んでいた。

まぁ、美人さんに喜んで貰えたから良しとしよう。


そして、お腹の膨れた浩二は猛烈に頭を下げるメイドさんを食堂に残し自室へ向かうのだった。



部屋へ帰る途中、何の気なしに「今の作業で『魔核作成』もレベル上がったかなぁ…」等と考えていると、又もや唐突に頭の中に文字が浮かぶ。



□■□■



『魔核作成』

┗『能力転写』

□戦闘技術

□生活技術

□会話技術

□知識転写

□スキル転写



□■□■



どうやら『魔核作成』のレベルが上がり、新たな転写項目が増えたらしい。


後で部屋に帰ったら確認しよう。

浩二は『スキル転写』という字面にゴーレムの更なる可能性を見て年甲斐もなくワクワクが止まらなかった。



□■□■



名前 岩谷浩二イワタニコウジ

年齢 26

種族 ドワーフLV1

職業 人形師 氣法師

筋力 620

頑強 740

器用 600

敏捷 600

魔力 460

スキル

『人形師』LV1

『傀儡師』LV8

『魔核作成』LV6

『操気術』LV10

『火魔法』LV1

『風魔法』LV1

『転送』LV--

『見様見真似』LV--


『パワースラッシュ(見習い)』LV3

『パワースラスト(見習い)』LV3

『鑑定(見習い)』LV6

『半減の呪い(見習い)』LV1

『剛力「鉱物」(見習い)』LV1

『瞬動(見習い)』LV1



□■□■



部屋に帰った浩二はベッドに寝転がりながらスキル確認していた。



「ふむ…体術系のスキルを効率よく上げるなら…クッソ重い剣を持って、瞬動しながら、パワースラッシュとパワースラストを打ちまくる…か。」



実に浩二らしい結論が出た。

確に効率という観点から見れば正解なのだが…


普通は体力が保たない。

まぁ浩二は主にステータス的な意味と精神的な意味で普通では無いが。



「あ!新しい『能力転写』見てなかった!」



すっかり忘れていた浩二は、ステータスプレートの『スキル転写』の文字をタップする。



□■□■



『スキル転写』

自らが持つスキルを転写する事が出来る。

ユニークスキル以外なら、本人が使えるスキルであれば全て転写可能。

転写レベルはスキルレベルに依存し、現在のスキルレベル以下のレベルならば転写可能で、既存のスキルとして使用出来るようになる。

ただし、スキルを扱う為に必要な技術が無い場合はその限りでは無い。



□■□■



「つまり…さっきみたいに魔道具みたいなゴーレムを作れば…スキルを付与したアクセサリーとかが作れるんだ…」



流石の浩二でも、この能力の特異性は理解出来たようだ。

自分が持っているスキルなら誰でも使えるようになるんだから。



「後は鑑定か…この部屋の物とかも鑑定しまくるか。『鑑定(見習い)』のレベルが最大になれば、一々ステータスプレート出さなくてもステータス確認出来るようになるしな。」



浩二は鑑定のレベルが中途半端な事を思い出し、後は寝るだけなのを良い事に部屋にある物を調べまくった。


ベットやテーブル、ソファーにカーペット、魔道具らしきライトにガラス窓、そして、ドアを調べようとした時に不意にドアがカリカリと鳴る。

音の主を知っている浩二はゆっくりとドアを開くと、そこにはちょこんと座るナオの姿が。



「ナァーーォ」


「ナオ、今日はソフィアの所で寝ないのか?」


「ナァーォ」



ナオは返事をする様に一鳴きすると浩二の肩に飛び乗る。



「そっか、んじゃ久しぶりに一緒に寝るか。」


「ナァーーォ」



ベットに座り、膝にナオを乗せ優しく身体を撫でる。

気持ち良さそうに目を細めてゴロゴロと喉を鳴らすナオ。



「あ、そう言えば…」



思い付いたように浩二はナオに鑑定をかけた。



□■□■



名前 ナオ

種族 フォーチュンキャット



□■□■



「ナオも、普通の猫じゃなくなってたんだ。」


「ナァーォ」


「フォーチュンキャット…『幸せの猫』か…ナオにぴったりだな。」


「ナァーーォ」



ナオは自分の事を撫でていた浩二の手をペロリと舐めた後、立ち上がり身体を浩二に剃り寄せる。



「俺もいつかソフィアみたいにナオと話せたらいいな…」


「ナァーォ…」



少し悲しそうに鳴くと浩二の頬をペロペロと舐め始めた。



「あぁ、ゴメンなナオ。ありがとう。」


「ナァーーォ」


「さぁ、そろそろ寝ようか…」



浩二はベットに横になり腕を伸ばす。

すると、自分の居場所だと言うようにナオがそこに収まる。



「ふふ…おやすみ、ナオ…」


「ナァーーォ」



二人はあの頃に戻ったように一緒に眠りに落ちた。



□■□■



「うっし!始めるかね。」



浩二は朝食後に軽いストレッチと日課を済ませた後、昨日のプラン通りに訓練の準備をする。

もう少しすればソフィアが「クッソ重い剣」を持って来てくれる筈だ。


ソフィアを待つ浩二。

その腕には見慣れない腕輪があった。

シンプルな飾り気のない腕輪に、剥き出しの魔核が一つ淡く青い光を放っている。


朝食を食べた後、浩二は何気にステータスプレートを開いて気が付いた事があった。



「そういや『半減の呪い(見習い)』もレベル上げなきゃな…でも、どうやって…」



今日の訓練で上げるスキルは『パワースラッシュ』『パワースラスト』『剛力「鉱物」』『瞬動』である。

『鑑定』は、訓練中じゃなくても上げられる。

ならば『半減の呪い』はどうするか。


流石に兵士さん達に使う訳にもいかない。

舞や蓮、栞やソフィアなど論外。

ならば…



「自分に掛けるか…?」



と言う結論に達した浩二は、今現在懐かしいあの頃…とまでは行かないがステータス及びスキル効果が5%低下中だ。


毎晩倒れる寸前までオリハルコン相手に悪戦苦闘していた事が功を奏したのか、少量でシンプルな物ならばオリハルコンを使い加工出来るようになった。


ソフィアから貰ったオリハルコンを使い、魔核に『半減の呪い(見習い)』を掛けブレスレットにして自らに装着する。

見習いなので、持続時間は精々1~2時間と言った所か。

効果が切れたら掛け直せば良し。

そして、誰にも迷惑がかからない。



「我ながらナイスアイディアだな。」



等と口走っていると、ソフィアが何やら巨大な板状の塊を持って登場した。

後ろには目を丸くしたまま戻らなくなった三人が付いて来ていた。



「コージ!約束の「クッソ重い剣」よ!」



ソフィアは軽々とその巨大な剣をブン回す。

明らかにソフィアよりも大きなその物体は、最早剣ではなかった。

彼女が振るえば重さなど微塵も感じられないが、とんでもない重量だと言う事が足の沈み具合で分かる。



「えーと…ソフィアさん?」


「ん?何?」


「その塊って…一体どれぐらい重いの?」


「んー…30トンぐらい?」


「試しに持ってみるわ…」


「おーっ!お兄さん!チャレンジャーだねっ!」



蓮の言う通り、これはチャレンジだ。

見習いが10%の威力なら、この剣は実質27トンと言うことになる。



「はい、どうぞ!」



ソフィアはその剣を空中に放り投げ、半回転させると器用に刃の部分を掴みグリップを浩二に差し出す。



「では…参ります。」



改まって変な口調になりながらグリップを両手で握る。

下腹に力を入れ、気付くと身体は三体式の形になっていた。



「離すわよ?」


「…頼む。」



ソフィアが手を離した瞬間、物凄い重量が浩二の身体にかかる。



「ぐあっ…これ…は…出来るかぁーーっ!!」



剣から手を離した浩二は八つ当たりする様に叫んだ。



□■□■



「うん、コレぐらいなら…何とか振れるな。」



浩二は新たにソフィアが持って来た大剣を振りながら満足そうに呟く。

こっちは大体100キロと言ったところか。

先程の30トンが馬鹿げ過ぎて軽そうに思えるが、100キロは充分重い。

ひとえに浩二のステータスのお陰だ。


さっきの塊は持って帰って貰った。

あんなのスキル無しで持てるはずが無い。


あ、ソフィアが軽く凹んでる。



(仕方ないな…取り敢えず機嫌を直して貰いたいが…そうだ!)



浩二はポケットから残りのオリハルコンを取り出すと、自分と同じブレスレットを作る。

デザインは一緒だが、少し細身の女性用だ。



「ソフィア、この剣のお礼…って訳じゃないけど、コレ貰ってくれるか?」


「…コレを…私に?」


「うん。ほら、お揃いだよ。」



コージは自分の腕を差し出し、ブレスレットを見せる。

すると…見る見るうちにソフィアの顔が眩しい笑顔に変わる。



「ありがとう、コージ!…嬉しい!大切にするわ!」


「喜んで貰えて良かった。あ、それ一応ゴーレム扱いなんだ…で、俺のスキルを転写出来るんだけど、何がいい?」


「え?…スキルを…転写…?」



自分の腕に付けたブレスレットを嬉しそうにウットリと見ていたソフィアの動きが止まる。



「うん。ユニークは無理みたいだけど、それ以外ならね。で、どれが良い?」



浩二はステータスプレートを取り出し、スキル一覧をソフィアに見せる。



「ちょっと待ってコージ、スキルを転写って…本当に?」


「あぁ、俺のスキル限定だけどね。」


「…全く…コージの事だから、凄さに気づいて無いんでしょうけど…それって物凄いチートよ?」


「…そうか?」


「やっぱり…」



ソフィアがいつものポーズを取る。

その腕にはコージからプレゼントされたブレスレットが鈍く光を反射している。



「いい?コージ。」


「ん?」


「普通はスキルってそうポンポン譲渡出来る物じゃないの。その個人の特性や能力によってある程度決まってしまっている物なのよ。」


「うん、それは分かる。」


「世の中には、欲しいスキルがあっても手に入らない物が殆ど。コージの『見様見真似』が無ければね。」


「…あ。」


「気付いた?コージの『見様見真似』と『スキル転写』があれば、欲しいスキルを選んで手に入れる事も可能なのよ。コージ以外の人でもコージにね。」


「何か…面倒臭い奴らに絡まれそうな予感がする…」


「その予感は…正しいわ。だから、おいそれと口にしない事。いい?」


「…分かった。ありがとうソフィア、心配してくれて。」


「良いのよ。コージはきっと誰かが気付いてあげないと、激しく暴走しそうだしね。きっとそれを止めるのは私達の役目だわ。」


「苦労かけます…」


「全くよ。」



ソフィアは腕を組んでそう言うが、表情は何処か嬉しそうだ。



「で、改めて聞くけど…どのスキルが良い?」


「えーと…そうね、『操気術』が良いわね。私、体力はあるから精神力を体力で補えるってのは魅力だわ。」


「了解。ちょっと腕を貸して…」



浩二はソフィアの腕を取りブレスレットの魔核に触れて『スキル転写』で『操気術』を転写する。

レベルはMAXの10だ。



「良いよソフィア。これでソフィアも『操気術』が使える筈だ。」


「本当に…?」



未だに信じられないソフィア。



「試しに使って見ると良い。コツは下腹…丹田で気と精神力を混ぜ合わせるイメージするんだ。その状態で何らかのスキルを使えば、精神力と体力が合わせて消費される筈だ。」


「…分かったわ…やってみる。」



ソフィアは浩二から少し離れると、瞳を閉じて集中する。


程なくしてソフィアの身体から青い靄のようなものが立ち上り始める。

早くもコツを掴んだようだ。


やがて、ソフィアは片手をスッと前に出し掌を地面へ向ける。

次の瞬間、地面からグリップを上にした状態の剣が生えてきた。



「へ?」



浩二が間の抜けた声をあげる。

更にソフィアは次々と地面から剣を生やし続ける…その数十数本。


やがて瞳を開いたソフィアは驚く。



「な、何よコレ…」


「いやいやいや、こっちの台詞なんだが…」


「だって、こんなに簡単に剣が作れるなんて…」


「これが普通じゃないのか?」


「違うわ…!普段は剣を作っている途中でマインドアウトしそうになるもの…」


「そっか、きっと『操気術』の肩代わりが効いたんだな。」


「…凄いわ…凄いわ!コージ!」



ガバッと音がしそうな勢いでソフィアが浩二に抱き着く。



「うわっ!」


「ありがとう!コージ!私にも…剣が…作れたっ!」


「え?」



ソフィアは浩二に抱きつきながら泣いていた。



「…私…ずっと剣を作れずにいたの…鍛冶の一族なのに…精神力が低いせいで剣を作れなかった。」


「…ソフィア…」


「…才能も無かったから、普通に剣を打つことも…精神力が低いせいで、魔法で剣を作る事も…出来なかったの…」


「そうだったんだ…」


「イメージは出来ているのに、形に出来なかった…それが今は…」



ソフィアは作り上げた剣を一本地面から抜くと、マジマジと品定めをする。



「こんな素材の乏しい地面から…こんなに純度の高い鉄の剣を…作れたっ!」



ソフィアの手に持たれた鉄の剣は太陽の光を反射してギラリと物々しい光を放っていた。



「良かったな、ソフィア。」


「うん!私…コージに出逢えて良かった!」



浩二に向けられた眩しい笑顔は、今まで見たソフィアの笑顔の中でも一番の輝きを放っていた。


その後、いつもの様に兵士さん達を回復していた舞と栞、訓練に勤しんでいた蓮にブレスレットを自慢しに行ったソフィア。


彼女が操気術で剣を作る所を見せた所…



「お兄さんっ!私も『操気術』使いたいっ!」


「私も…ブレスレットが欲しいです…」


「栞もお兄ちゃんとお揃いが良いっ!」



と、当然こうなる訳で。


結局、ソフィアだけ特別と言う訳にもいかず、三人にも同じブレスレットをプレゼントした。

選んだスキルは全員『操気術』

魔力を体力で肩代わり出来るというのは何よりの魅力らしい。


蓮は「これでお兄さんと同じ青い炎が出せるよっ!」と、別な方向に喜んでいたが。


まぁ色々あったが、浩二は取り敢えず訓練を始める事にした。

手始めに『瞬動』を試してみる。



「えーと…足の裏に力が集まるのをイメージして…よっ!」



踏み込んだ瞬間、物凄い勢いで斜め上にスッ飛ぶ浩二。

慌てて体を捻り地面を削りながら四足を付いて着地する。



「おっかねぇなぁ瞬動…」



浩二は気付いていないが、明らかに操気術先生の仕事です。



「よし、もう一度…今度はもっと低めに…ほっ!」



今度は地面スレスレを滑空する浩二。

片手で地面を殴る様にして身体を浮かせ又もや地面を削りながらブレーキ。



「怖えぇよ!瞬動っ!」



足に力を入れた瞬間に目に映ったものが地面なのだからそれは怖いだろう。

どうしたものかと考えた挙句、出した答えは「もっと軽く踏み込む」だった。



「行くぞ…軽く…軽く…」



明らかに慎重になる浩二。

先程の滑空が余程怖かったのだろう。


そして「…よっ」と軽い声を上げた瞬間に浩二は5m程先にいた。



「マジか…殆ど力入れてないぞ…」



何時もの体捌きに使う足運びよりも遥かに軽い力しか入れてないにも関わらず、瞬く間に5mも移動していた事に驚く。



「コレは…少しづつ馴らさないと、他の事は何にも出来ないぞ…」



まだ『瞬動』のみでこの有様である。

ちなみに5%の減効果付きでだ。


それから浩二はひたすら『瞬動』のみを練習し続けた。

移動距離、スピード、方向転換。

色々試している内に段々と慣れてくる。



「ほっ!よっ!はっ!よっ!よっ!」



掛け声が聞こえる度に別な場所に現れる浩二。

まるで瞬間移動だ。

最初は体勢を崩しながらだったものが、今は殆ど足の裏の微妙な力加減だけで高速移動を繰り返している。


やがて小一時間程して練習を終了した。



「『瞬動』はこんなもんか。次は…」



そう言って訓練所の壁に立て掛けてあった大剣を肩に担ぐ。



「取り敢えず『パワースラッシュ』と『パワースラスト』だな。」



大剣を下段に構え直して横薙ぎ一閃。

ブォン!という風切り音と共に横一文字に光る青い軌跡。

今度は片手で大剣を持ち軽く引いてから突きを一閃。

音も無く突き出された青い光を纏う突き。



「確かに…大剣は重いけど…行けるな。」



浩二は大剣を持ったまま軽く肩を回すと、その場で『パワースラッシュ』と『パワースラスト』を繰り返す。


横薙ぎ、突き、横薙ぎ二連、突き三連…青い軌跡を残しながらひたすら繰り返す。



「んー…もう少し速くならないかなぁ…」



スキルアシストのスピードが気に入らない浩二。

確かにあの瞬動に合わせるには少々スピード不足だろう。



「魔法みたいにイメージで何とかなるかな…?」



浩二は目を閉じ、頭の中で剣速が上がるイメージをする。

繰り返しイメージして目を開くと、その場で徐に『パワースラッシュ』を放つ。

そのスピードは元の『パワースラッシュ』の倍以上であり、何よりその軌跡は紅色の尾を引いていた。



「『パワースラッシュ』は赤か。」



剣に纏っていた光を確認した浩二は呟く。

「気が絡むと色が変わるから分かり易いな。」と、スピードにも取り敢えず満足したのか、浩二は続けて『パワースラスト』も気を込めて放つ。

唯でさえ速かった突きが、瞬く間に赤い光の尾だけを残して剣が手元に戻る。



「良し!後は反復だな。」



気を纏わせて放つ練習を又もや小一時間程続ける。

やがて息を荒くして膝を着くと、足元にあるポーションに手を伸ば…した筈が、誰かに手を優しく握られる。



「また無茶してたんですね…もう…今回復します。」



休憩していた舞が、膝を着く浩二を見て駆け寄って来たのだ。



「ありがとう、舞。あぁ…癒されるわ…」


「ふふっ、私もさっきまで『操気術』の練習してたんですよ?」


「そっか。で、どうだ?使えそうか?」


「ええ、もうバッチリです!今だって…ほら…」



今までの薄く青い光を放っていた回復の光が、今は黄色…いや、金色に光っていた。



「回復は金か。」


「はい。蓮ちゃんも青い火の玉をバラ撒いてますよ。蓮ちゃんは体力もありますから…ちょっと兵士さん達が可哀想です。」



可哀想と言いながら、ちょっと楽しそうだ。


三人とも『操気術』をちゃんと使いこなせている様で持ち主の浩二も嬉しくなる。


その時、突然目の前に数個の青い何かが飛来する。



「何だっ!?」



驚きながらも舞を左腕で庇いながら右手に持った大剣で『パワースラスト』を放つ。

浩二は突然飛んできた青い火炎球全てを赤い尾を引く突きで相殺すると、すぐ様『瞬動』で距離を詰める。

青い火炎球を放った彼女の後ろへ。



「このアホっ!」


「痛ぁーっ!」



軽く頭に拳骨を落とす。

頭を押さえて蹲る蓮。



「俺だけなら良いが、舞も側に居ただろうが!怪我させたらどうすんだ!」


「だって、舞ならお兄さんが守るでしょ?」



反省してないようなので拳を振り上げる。



「あー!あー!ごめんなさい、ごめんなさいっ!もうしませんっ!」


「本当に分かってるのか?」


「うん。舞、ごめんねー」


「良いよ、どうせ蓮ちゃんの事だから私が居れば岩谷さんの隙を付けるとでも思ったんでしょ?」


「うっ…そうだよっ!だって普通にやっても勝てないんだもん!」



開き直る蓮。



「良し!蓮、それなら一緒に訓練するか?」


「えー!だって一緒に訓練したらお兄さんも強くなるじゃん!」


「一緒じゃなくても俺は訓練するぞ?」


「んー、確かに。」


「蓮はひたすら俺に火炎球を撃ちまくってくれ。俺は『パワースラッシュ』と『パワースラスト』のみで撃ち落とす。」


「んー…もう一声!」


「良し!んじゃ、蓮には舞を付ける!どうだ?回復し放題だ!」


「…回復し放題って…」


「乗ったっ!」


「うっし!んじゃ、やるか!」



浩二は舞が蓮の元へと来るのを確認すると、瞬動で距離を取った。



「良し!来い!」



下段に大剣を構えた浩二が叫ぶ。



「よーし!今日こそお兄さんをケチョンケチョンにしてやるよーっ!」



蓮は変な気合いの入れ方をすると、両手を空に向けて伸ばす。

すると、蓮の頭上に青い炎が渦巻きやがてソレは一つの球体の姿を取る。



「…おいおい…っ!」



浩二が焦りの声を上げる。

それもその筈、その火球は直径1mを優に超えていた。



「いくよっ!獄炎弾っ!!」


「ちょ…っ!デカっ!…ってか、速っ!」



獄炎弾と呼ばれたその青い火球は、その見た目とは裏腹に物凄いスピードで浩二に迫る。



「クソっ!正面からじゃ不味いかっ!」



素早く判断した浩二は、自ら瞬動で火球へと向かうと横を通り過ぎ様に一閃、更に追い付いて一閃、今度は追い越して一閃。

合計三回の赤い光を纏う横薙ぎで獄炎弾を相殺した。



「ふぅ…って!まだ来るのかよっ!」



浩二が追い越し様に相殺した獄炎弾の爆炎の影からもう一発の火球が現れる。

相殺しても爆発力がある為、下手な迎撃は出来ない。

浩二は素早く大剣を引き絞るように構えると、素早く三連のパワースラストを放つ。

相殺された獄炎弾は、洒落にならない規模の爆発を伴い相殺されたが、次の瞬間には下段に構えた浩二が少し離れた場所に現れた。



「危ねぇ…っ!なんつー威力だよ…」


「まだまだだよーっ!」



浩二が蓮の方向を向くと、そこには頭上に獄炎弾を二つ浮遊させた蓮の姿があった。



「…おいおい…マジか…」


「ふっふっふー!こっちには極上の精神力タンクがいるからねーっ!」


「誰が精神力タンクよ…」



蓮の物言いに、マナポーションを煽り酸っぱい顔をした舞が突っ込みを入れる。

どうやら蓮は二つの獄炎弾を射出した後更に二つの獄炎弾を捻り出し、素早く舞の回復を受けていた様だ。



「ふむ。連続使用は4回か。」



蓮は不意に聞こえた浩二の声にゾクリとする。

これ程の火力の魔法を立て続けに放たれているにも関わらず、冷静に判断を下す浩二の声に。



「…これだもんなぁ…良しっ!こうなったら全力でやってやるっ!舞っ!回復頼むよっ!」


「うん。頑張って蓮ちゃん!」


「ありがとー!」



いつもの調子が戻った蓮は、作り出した二つの獄炎弾を時間差で浩二に向けて放つ。


浩二は冷静に対処すべく目を凝らして飛来する獄炎弾を見る。

微妙に間の空いた射出。

恐らくは一つ目を相殺している間にもう一つが着弾…って狙いなんだろうが…



「まぁ、良い。まずは最初のだな!」



そう言って浩二は瞬動で獄炎弾に迫る

その時…



「甘いよーっ!」



蓮の声が響く。

と、同時に遅めに放たれた獄炎弾がスピードを上げた。

そして、浩二が相殺しようとしていた火球に追いつき…爆ぜた。


瞬動で通り過ぎ様にパワースラッシュを放とうとした浩二の目の前で二つの獄炎弾が誘爆する。



「着弾しなくても爆発させられるのかよっ!」



いや、違う。

二つの獄炎弾が互いに着弾したのだ。

浩二のタイミングで爆発させられるのを嫌った蓮の奇策だ。


爆風を肌で感じながら浩二は素早く瞬動で距離を取る。


そこにはもう一つの獄炎弾が迫っていた。



「うわっ!ヤバっ!」



そして、その獄炎弾に追い縋るように青い火球が見えた。

やがて獄炎弾は又もや浩二の目の前で爆発する。



「コレは…蓮のヤツ…」



浩二は笑っていた。

身に染みて感じる彼女の成長に。



「負けてられないよなっ!」



再び瞬動で距離を取った浩二に又もや獄炎弾と火炎球のワンセットが飛来する。


頭の中が静かになる。

素早く…舞と蓮には見えない様なスピードで瞬動すると、浩二は追随する誘爆用の火炎球のみをパワースラッシュで相殺し、更に目にも止まらぬスピードで三連のパワースラストを繰り出し獄炎弾をも相殺した。


連と舞が浩二に気付いた時には、爆発する獄炎弾とは逆方向で腰だめに剣を構えていた。



「速っ!」


「…もう、普通じゃないなんてレベルじゃ無いね…」



二人は唖然としながら浩二を見る。

しかし、徐々に笑顔になっていく蓮。

我慢が出来なくなったのか、声にまで出る。



「もう、ヤメヤメっ!こうなったら、小細工は無しだよっ!」


「蓮ちゃん!?」



嬉しそうに叫ぶ蓮に驚く舞。



「我慢比べだよーっ!」



蓮は瞬く間に頭上に数十の青い火炎球を生み出すと、その全てを浩二に向けて放つ。

もの凄い密度で迫る青い炎の弾幕。


浩二はひたすらに大剣を振るいその尽くを相殺していく。



「なんつー数だよっ!」



同時に撃ち落とせるものはパワースラッシュで薙ぎ払い、単発のものはパワースラストで貫く。

まぁ、傍から見れば全ての火炎球がほぼ同時に迫っているように見えただろうが。


ひたすら青い火炎球を打ち出す蓮。


それをひたすら大剣で撃ち落とす浩二。


しかし、その均衡は突然崩れた。


浩二が膝を付いたのだ。

流石に彼にも限界が来たようだ。



「「あっ!」」



蓮と舞が同時に声を上げる。

膝を付いた浩二に驚いたのだろうか。


しかし、それは違った。

二人が驚いたのは浩二の後ろにいる存在を見たからだ。

そして、澄んだ凛とした声が響く。



「『癒しの舞〈月光〉』っ!」



その声が浩二の耳に届いた時には既に彼は薄く煌めく青い光に包まれていた。

闇夜を照らす月明かりのような輝き。

その光が染み込むように消えていくと、浩二はスッと立ち上がり寸前まで迫っていた火炎球を事も無げに薙ぎ払った。



「ありがとうな栞ちゃん。」


「うん!大丈夫?お兄ちゃん。」


「あぁ、スッキリ爽やか絶好調だ。」


「良かった!」



浩二に頭を撫でられながら目を細めて気持ち良さそうにする栞。



「あーっ!栞ちゃん、ズルいよーっ!」


「お兄ちゃんは私が癒しますっ!」


「むぅーっ!これじゃ回復的優位が無くなっちゃったじゃん!」


「まぁまぁ蓮ちゃん。」



拳を握り力一杯叫ぶ栞。

有利じゃなくなり不満を漏らす蓮。

それを窘める舞。


四人の訓練は夕暮れ頃に現れたソフィアの呆れた様な声がかけられるまで続けられた。

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