第八話
改めて訓練所に戻って来た浩二。
後ろにはウッドゴーレムが命令通り付いてきている。
浩二は少し試してみたい事があり、それを実行する事にした。
「ゴーレム、俺の動きを覚えろ。」
命令されたにも関わらず身動き一つしないゴーレム。
(あー…命令に対する返事も必要だな。)
そんな事を考えながらも浩二は早速崩拳と足運びの反復を始める。
黙々と同じ事を同じ速さで繰り返す。
この単純作業を永遠と繰り返して苦痛に感じない辺りが浩二の普通じゃない所の一つだが。
小1時間程した頃、浩二は呼吸を整えゴーレムに向き直る。
「ゴーレム、覚えた事を実際にやってみろ。」
そう命令をすると、即座に崩拳の型を始めるゴーレム。
寸分違わず行うそのゴーレムの動きに少し驚く。
しかし…
「やっぱり…軽いな…芯に響く重さがない。」
型を反復するゴーレムに割り込みその拳を身に受けて呟く。
まぁ、手足の長さや体重のバランスが普通の人間と違うならば、当然同じ結果は得られない訳だが。
浩二はゴーレムに待機を命じ、少し考え込む。
「んー…戦闘訓練を積ませて経験を蓄積したら変わるのかな…?」
今のままだと、いざ戦えと命令してもきっとゴーレムは動かない。
覚相手の動きに対しての対応や、反復した型の使い道などを恐らく理解はしていないだろうから。
「いっそ、頭の中身を選んで転写出来れば楽なのになぁ…。」
そう一人呟いたその時、頭の中に唐突に一覧が表示された。
□■□■
『魔核作成』
┗『能力転写』
□戦闘技術
□生活技術
□会話技術
□知識転写
□■□■
「なっ!?」
唐突に浮かんだ文字列に軽くパニックを起こしつつ、同時にステータスプレートの詳細からも同じものが見られることを唐突に頭が理解する。
「コレ…精神衛生上良くないよな…」
頭に突然情報を叩き込まれる感覚に若干の不快感と違和感を感じつつ、ステータスプレートを取り出しステータスを表示する。
『魔核作成』がLV3になっている事に気付き、恐らくさっきのはこの影響だと当たりをつけながらも、『魔核作成』の文字をタップする。
すると、『魔核作成』の文字に重なるようにして『能力転写』という文字が表示された。
更に『能力転写』をタップすると先程頭の中に現れた『戦闘技術』『生活技術』『会話技術』『知識転写』の四つが新たに表示される。
「とりあえず…内容を確認しとくか。」
□■□■
『戦闘技術』
戦闘技術を転写する事が出来る。
攻撃や防御、回避運動等がこれに当たる。
転写した本人の技術が採用され、他人の技術を転写する事は出来ない。
転写レベルは10段階で、10で本人とほぼ同等となる。
ただし、技術を扱う為に必要な器が無い場合はその限りでは無い。
『生活技術』
生活に関する技術を転写する事が出来る。
主に料理、家事等と生活に関した技術がこれに当たる。
転写した本人の技術が採用され、他人の技術を転写する事は出来ない。
転写レベルは10段階で、10で本人とほぼ同等となる。
ただし、技術を扱う為に必要な器が無い場合はその限りでは無い。
『会話技術』
会話に関する技術を転写する事が出来る。
質問や回答、日常会話等がこれに当たる。
転写した本人の技術が採用され、他人の技術を転写する事は出来ない。
転写レベルは10段階で、10で本人とほぼ同等となる。
ただし、技術を扱う為に必要な器が無い場合はその限りでは無い。
『知識転写』
本人の知識を転写する事が出来る。
一般常識やモラル、基礎知識や専門知識等がこれに当たる。
転写した本人の知識が採用され、他人の知識を転写する事は出来ない。
転写レベルは10段階で、10で本人とほぼ同等となる。
ただし、転写出来る容量を超えた場合、転写は不可能となる。
□■□■
「これ…戦闘技術10と会話技術2ぐらいに知識転写5ぐらいあれば普通に戦闘こなせるんじゃ…」
浩二は思わず口にする。
「試してみるか…ゴーレム、今から能力を転写するから、魔核を出してくれ。」
命令を受けたゴーレムは、膝を付き胸を開き魔核を剥き出しにして待機する。
「よし…『能力転写』…うわ…結構来るな…」
転写内容は戦闘技術8、会話技術5、知識転写5にした。
多少立ち暗みのような感覚に襲われながらも何とか転写を完了した。
転写のせいなのか、精神力不足により補った体力不足のせいなのかは分からないが、後でポーションでも煽ろう。
「さて、ゴーレム。魔核を戻して立て。」
「………」
ゴーレムは無言で頷くと、立ち上がり開いていた胸を閉じ魔核を隠す。
「よし、次は俺と軽く組手だ。」
「………」
又もや無言で頷き構えを取るゴーレム。
何か違和感を感じる。
とりあえずゴーレムに聞いてみる。
「構えを解いて質問に答えろ。」
「………」
構えを解いて頷くゴーレム。
「お前、声が出ないのか?」
「………」
コクリと頷く。
「視覚も無いのか?」
「………」
又もやコクリと頷く。
やってしまった。
どうしたらいい?
腕を組み頭を捻る浩二。
「そうだっ!」
浩二は閃いたようにポケットから魔核を新たに二つ取り出す。
そして、命令を書き込みゴーレムへと埋め込む。
一つは額に、もう一つは喉の辺に。
「よし…ゴーレム、声は出せるか?」
「はい、マスターコージ。」
「視界はどうだ?」
「はい、良好です。」
どうやら成功した様だ。
浩二は新たな魔核に視覚と声帯の役割を持たせ、それをメインの魔核からの命令で作動する様にしたのだ。
本来は視覚はともかく声帯にまで高純度の魔核は使わないのだが…当の浩二には知る由もない。
手元にある魔核が自前の魔核しかないのだから仕方ないと言えば仕方ないのだが…
そのお陰もあり、このゴーレムは非常に綺麗な中性の声で流暢に言葉を発する。
ふと、浩二は疑問に思った事を質問してみる。
「書庫で本を棚に戻せたのは何故だ?視覚が無かったんだろ?」
「はい、私は本体が木材なので、光の濃さや魔素の濃度を凡そながら感知できます。それ等を使い目的の本棚を見つけ本を戻しました。」
「成程、納得したよ。なら今はもっと視界が良くなっんだな。」
「はい、比べ物にならない程です。」
ゴーレムの答えに浩二は満足気に頷いた。
同じく浩二の見せた型を視覚がないのに覚えられたのも、マスターである浩二の体に巡る精神力の動きをトレースしたのだそうだ。
「よし、改めて組手だ。」
「はい、マスターコージ。」
「あー…そのマスターコージっての止めようか。マスターだけで良いよ。」
「はい、マスター。」
「よし、それじゃ、始めよう。最初は軽めに流して身体に馴染ませよう。」
そう言って軽く踏み込み正面に突きを入れる。
ゴーレムはその突きを見た目とは違い洗練された動きで躱す。
そして躱した動きをそのまま利用して回し蹴りを放ってくる。
速度もテンポもそれ程速い訳では無い…が、相手の虚を突く動きがスピードを補っていた。
「思ったよりも遥かに良い動きだな。」
「光栄です、マスター。」
会話しながらも動きは止めない。
浩二にとっても、久しぶりにまともに動かす身体には丁度いいくらいだった。
そして、浩二はそのまま小1時間程ゴーレム相手に組手を続けた。
「ゴーレム、この辺にしとくか。」
「はい、マスター。」
「身体の具合はどうだ?」
「はい、特に問題はありません。」
「そう言えば、エネルギーって言うか…ゴーレムって何で動いてるんだ?」
「私は大気中の魔素を吸収して稼働しています。」
「魔素…って言うと…魔法と同じか。」
「はい。」
暖まった身体を休めながらゴーレムと会話していたが、何やら周りが騒がしい。
「見たか?今の…アレ、ゴーレムだよな…?」
「つーか、一緒にいる男…一体どんだけ体力あるんだよ…1時間ぐらい組手してたぞ?」
「ゴーレムって組手出来るのか?…ってか、理解出来るもんなのか?」
「お兄さん!私もゴーレムとやりたいっ!」
等とこちらを見ながらあーでも無いこーでも無い言っている。
あ、最後のは蓮だ。
「蓮の嬢ちゃん、アイツを知ってるのか?」
「うん!すっごく強いんだよ!」
「…ほう…」
蓮の言葉に兵士達の視線が集まる。
あー、これはアレだ。
スミスさんと同じヤツだ。
「えーと…初めまして。ドワーフの岩谷浩二って言います。コージって呼んでください。今はソフィアの世話になってます。」
とりあえず自己紹介してみた。
すると、急に静まり返り…そしてざわめき出す。
何だろう?何か変な事言ったかな?
まぁ、良いや。
「蓮、やってみるか?」
「良いの!?」
「あぁ、構わないよ。ゴーレムも良いよな?」
「はい、マスター。蓮様、よろしくお願いします。」
「てへへ…蓮様だって、何か照れくさいや。ゴーレム、よろしくね。」
言われ慣れない様付けに照れる蓮。
やがて二人は少し距離を取り、合図を待つ。
「んじゃ、怪我の無いようにな…って言っても舞がいるか。それじゃ、始めっ!」
浩二が合図をすると、先に行動に出たのは蓮だった。
素早く距離を詰め回し蹴りを放つ。
待に入っていたゴーレムはその蹴りを軽く手を添えて受け流す。
しかし、追撃はせずに軽く距離を取る。
「何だろ…何か…お兄さんと戦ってるみたいな感じ…」
流石は蓮。
伊達に俺と連戦してない。
アレ…なんだろう?…なにかを忘れてるような…
蓮と…連戦……あっ!
思い出した時には遅かった。
「それじゃ…本気で行っくよーっ!」
蓮はそう宣言すると、火の玉を数個自分の周りに浮かべる。
そのままゴーレムへと掌を向ける。
「火炎連弾っ!!」
蓮の言葉に合わせて複数の火炎球がゴーレムへと飛び掛る。
ゴーレムは避けたり払ったりしているが、全てを躱すのは無理らしく、身体のあちこちが焦げ付いている。
そうしている間にも新たに創り出された火炎球が次から次へとゴーレムに襲い掛かる。
「蓮っ!ストップ、ストップ!、アイツはウッドゴーレムなんだから!」
「え?…あっ!」
どうやら気付いたようだ…が、砂埃が晴れてそこに居たのは、身体のあちこちを黒焦げにして跪くゴーレムだった。
「大丈夫か?ゴーレム!」
慌てて駆け寄る浩二に蓮も付いていく。
「すみませんマスター…負けてしまいました。」
「そんな事は良い。身体はどうだ?」
「はい、左腕と右足と左足首が動作不能です。修復も困難です。しかし、魔核は全て無事です。」
「ごめんね…ゴーレム…」
蓮はシュンとしながら謝る。
「いえ、蓮様。私の能力不足です。蓮様は何も悪くありません。」
「でも…痛そう…」
「蓮様、私に痛覚はありません。蓮様が気に病むことなどありません。」
「蓮、俺が悪いんだよ。蓮の得意攻撃すっかり忘れてたんだから。」
「…うん…ゴーレム…治る?」
いつも元気な蓮が涙目でこっちを見る。
ゴーレム相手なのに優しい子だ。
「大丈夫だよ。ソフィアに言って今度は金属製にするから。直ったら、また相手してやってくれ。」
「私からもお願いします、蓮様。蓮様との戦闘は勉強になりますから。」
「うん。ちゃんと治ったら、またやろうね。」
「はい、蓮様。」
二人のやり取りを優しい眼差しで見ていた浩二は、ゴーレムに向き直り指示を出す。
「ゴーレム、一時休眠だ。魔核を取り出す。次に目覚めた時に驚く様な身体を作ってやるからな。」
「はい、マスター。ありがとうございます。」
浩二はゴーレムが開いた胸から魔核を取り出すと、続いて額と喉からも魔核を取り外す。
「それじゃ蓮、俺はソフィアの所に行ってくるよ。」
「うん。お兄さん…ゴーレムによろしくね。」
「あぁ、蓮も訓練頑張れよ?次に会うゴーレムはもっと強いからな?」
「うん!楽しみにしてるねっ!」
笑顔に戻った蓮は、こちらに手を振りながら舞と栞のいる治療場へ走って行った。
□■□■
「と、言う訳でソフィア…金属をくれ。」
「…私と別れて数時間で何でこんなに急展開になってるのよ…」
額を抑えながらソフィアが呟く。
「いやぁ、蓮が火の玉少女なのすっかり忘れてて。」
「…はぁ、まぁ良いわ。で?なんの金属が良いの?ミスリル?アタマンタイト?オリハルコン?」
「また…凄い名前がゴロゴロ出て来たなぁ…」
何の気なしに伝説の金属の名前が混じっているんだが…
「えーと…ソフィア?聞きたいことがあるんだけど…いいか?」
「なによ?別に遠慮なんて要らないわよ?」
「ありがとう、助かる。…じゃなく、オリハルコンってこっちではそんなにポピュラーな金属なのか?」
「あー…一応『神代の金属』って言われてるわね。」
やっぱりオリハルコンってこっちでも伝説の金属なんだな。
「そんな金属をポンポン渡して良いもんなのか?」
「大丈夫よ。私物だし。」
「私物って…大事なものなんだろ?」
「別に今の所使い道も無いし…あぁ、コージ私のスキル知らないのよね、うっかりしてたわ。」
「スキル?」
何か特別なスキルなのだろうか。
そう言えばソフィアってハイドワーフで魔王なんだもんな。
金属関係のスキルだろうか?
「私は『金属の英智』ってスキルを持ってるの。」
「金属の英智?」
「そう。この世界にある有りと有らゆる金属のレシピとそれを瞬時に精製するスキルよ。」
「それはまた…まさか、オリハルコンのレシピも?」
「ええ、当然知ってるわ。ネタバレすると、オリハルコンって半分以上はミスリルなのよ。後、アダマンタイトと数種類の金属で出来た合金よ。」
「そうだったんだ…」
「まぁ、スキルが無い場合は気の遠くなるような細かい作業を繰り返して錬成するんだけど…私の場合は材料さえあれば一瞬だし。」
一瞬とのたまう。
正に紛うことなきチートスキルだ。
「ちなみに、在庫は如何程…?」
「ん?オリハルコン?…えーと…多分一軒家が建つくらいかしら。」
「え?オリハルコンってそんなに価値が低いのか!?」
「あー、違うわ。価値じゃなくて、総オリハルコン製の一軒家が建つ位って意味よ。」
やっぱり魔王は半端じゃなかった。
しかし、総オリハルコン製の一軒家とか悪趣味極まりないな。
「とりあえず…ミスリルを下さい。」
「オリハルコンじゃなくて良いの?」
「オリハルコンなんて、身に余る素材だよ。一応加工できるか位は試させて貰いたいけど。」
「分かったわ。それじゃ、倉庫に行きましょ。この城の地下に私専用の倉庫があるから。」
ソフィアはソファーから立ち上がると、浩二を連れて地下倉庫へ向かった。
□■□■
「うーん…やっぱりまだ無理みたいだ。」
「そう、残念ね。まぁ、いくらか自室に持って行くといいわ。スキルの訓練にはなるでしょ?」
浩二は手に持った薄い黄金色に輝く金属を片手に頷く。
今の浩二の『傀儡師』LV3ではオリハルコンゴーレムは作れないらしい。
改めて辺りを見回すと、無造作に金属のインゴットが詰められた木箱がそこら中に堆く積み上げられている。
ソフィアはその木箱の中から一つを選ぶと無造作に中のインゴットを浩二に投げて寄越した。
「うわっ…っと!…おぉ…軽い…」
「それがミスリルよ。どのぐらい使う?」
「えーと、ゴーレム一体分あれば充分。」
「そう、ならこのぐらいあれば充分ね。」
そう言って小さめの木箱を軽々と持ち上げる。
いくらミスリルが軽いと言っても金属だ。
そのインゴットが数十本入った木箱を軽々持つとか。
「もしかして…ソフィアって力持ち?」
「なっ!?失礼ね!スキルよスキル!私は金属に関しては重さを殆ど感じないのよ!」
「ごめん!…それにしても…そのスキルって、かなり凶悪じゃないか?」
「そうね、実際の戦場では数百トンの大金槌を振り回したりするわ。」
ソフィアには逆らわないでおこう…
「また何か失礼な事考えてない?」
「そんな事ないよ。普段の可愛さからのギャップが凄いなぁって。」
「ま、また可愛いって!もう!冗談は止めてよねっ!」
顔を真っ赤にしてそっぽを向くソフィア。
相変わらず打たれ弱いようで。
「こっちよコージ。そこに小さめの部屋があるから、そこでゴーレム作っちゃいましょ。」
「あぁ、分かった。」
部屋に入り簡素なテーブルの上に木箱を乗せたソフィアは近くに置いてあった椅子に腰掛ける。
「見ててもいい?」
「構わないよ。それじゃ、早速始めるか。」
浩二はテーブルの上にミスリルのインゴットを全て乗せると、ゴーレムの魔核を上に乗せて手を翳す。
想像する…
新しいゴーレムの姿を。
前のウッドゴーレムよりも、もっと人型へ近付ける。
姿はスリムな中性…
細身のフルプレートメイルに鼻先までフェイスガードの付いたハーフヘルム。
顔は…
ふとソフィアが目に入る。
まぁ、口元だけだし、いっか。
口元をソフィアに似せる。
「よし…『クリエイトゴーレム』っ!」
ミスリルのインゴットが光に包まれ形を変えていく。
「ぐっ…結構キツい…な。」
身体の中から何かがごっそり吸い取られる感覚。
浩二は丹田に力を込めて耐える。
やがて、光が収まるとそこには想像した通りのゴーレムが横たわっていた。
「…やっぱりコージは普通じゃないわ。これだけ精巧なゴーレムをものの数分で作っちゃうんだから。」
「そう…かな?…あー…キツい…」
そう言ってテーブルに手を掛けたまま膝を付く浩二。
「大丈夫!?コージ!」
「大丈夫だよ…ソフィア。多分…ミスリルを使ったせいだと思う…」
ソフィアが駆け寄り浩二の背中に手を置きながら、心配そうに顔を覗き込む。
心配性だなソフィアは。
「大丈夫、大丈夫。後からポーションあおるから。心配かけたねソフィア。」
「もう…!無理しちゃ駄目よ?」
「あぁ、ごめんな。…さて、ゴーレムを起動させてみるよ。」
再び立ち上がった浩二はゴーレムを起動した。
むくりと身体を起こすとゴーレムがこちらを見る。
瞳はフェイスガードで見えないが、綺麗な顔立ちだ。
「調子はどうだ?身体に不具合は?」
「はい、マスター。全て良好です。ありがとうございます。」
「良かった。またよろしくなゴーレム。」
「はい、マスター。」
立ち上がったゴーレムは胸に手を当て軽くお辞儀をした。
「えーと…コージ?」
「ん?どうしたソフィア?」
「いつ話すようになったの?」
「え?何が?」
「だから、ゴーレムよっ!私と作った時は話さなかったじゃない!」
そう言えば、ソフィアと別れてからだもんな。
「訓練所でいきなり新しいスキルの使い方が頭に流れ込んで来てさ、それでゴーレムを強化したら声が出せないし目が見えないって言うから、魔核を使って視覚と声帯を付けたんだ。」
「コージ…」
「え?何?なんか不味かった?」
ソフィアは額に手を当てて首を振る。
もう何回目だろう、最早ソフィアのお決まりのポーズとなりつつある。
「やっぱり、能力転写はやり過ぎたかな?」
「はあ!?」
「へ?」
「能力転写ぁ!?」
「あぁ、新しいスキルの事だよ。『戦闘技術』『生活技術』『会話技術』『記憶転写』の四つを、俺を基準にして10段階で転写出来る。」
「………」
「ソフィア…さん?」
ソフィアは開いた口が塞がらない。
浩二は気付いていないが、最早それはクリエイトゴーレム等と呼べるものでは無いのだから。
「コージ…あのね?」
「はい…」
ソフィアはゆっくりと話し始める。
その目は既に座っていた。
「もう、それゴーレムって呼べないわ…立派なオートマタよ。」
「オートマタ?」
「そう。自己判断で行動出来る自動人形の事よ。」
「そうなのか?」
浩二はゴーレムに尋ねる。
「はい、マスター。初めて作られた際の種別はゴーレムでしたが、先程訓練所で能力転写を受けた際、種別がゴーレムからオートマタへ変更されました。」
「そうだったのか…」
「全く…知らずにやってる辺りがコージよね。」
「…我ながら無知なんだな…俺…」
「まぁ、凄い事は確かだし、良いんじゃない?…コージだし。」
コージという文字の使い道が定着しつつある。
「そう言えば…俺、ずっとゴーレムって呼んでたけど、オートマタって呼び直した方が良いのかな?」
「あのねコージ…もう、自己判断まで出来る立派な個体なんだから、名前ぐらい付けてあげなさいよ。」
「俺が!?」
「当たり前でしょ?マスターなんだから。」
「名前か…」
はっきり言ってネーミングセンスの欠片もないと自負している。
猫に鳴き声で名前を付けるレベルだ。
「ソフィア…お願いします、名前を付けてあげて下さい。」
「な、何よいきなり!?」
「いや、俺のネーミングセンスって壊滅的なんだわ…頼むよ。」
「まぁ、私も一応この子のマスターだし…分かったわ。」
何故か赤くなるソフィア。
「そうね…タロスなんてどうかしら?…神代の時代に造られた伝説のオートマタの名前よ。」
「タロス…うん、良いな。ありがとうソフィア。ゴーレム、今からお前の名前は『タロス』だ。」
「はい、マスター。私はタロスです。マスターソフィア、ありがとうございます。」
「良いのよ。よろしくね、タロス。」
「はい、マスターソフィア。」
表情こそ変わらないが、タロスが何処か嬉しそうに見えたのはきっと気の所為ではないだろう。
そして、三人は再び訓練したいと言うコージと一緒に訓練所へと向かうのだった。
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