再婚は三度まで

読天文之

第1話再婚は三度まで

 「ただいま・・・。」

 橋田良和が帰宅した、橋田凛子が「お帰り」と返事をすると、良和はドサッとソファーに座り込んだ。私はコーヒーを淹れて、ソファーの前のテーブルに置いた。

「ありがとう、丁度飲みたいと思っていたんだ。」

「どういたしまして、それより疲れているみたいだけど何かあったの?」

「ああ、兄貴から頼まれごとされてさ。本当にめんどくせえ・・・。」

「ねえ、兄とどんな話したの?」

「・・・かなりくだらないけど、聞く?」

「うん、聞きたい。」

 そして良和から思いがけない言葉が出た。

「兄貴の再婚相手を探してほしいって言われた。」

「はあ!?おかしいよ、だって兄には嫁がいるじゃない。」

 良和の兄・橋田篤夫には、可愛いが頭がかなりおかしい嫁・愛子がいた。ちなみに愛子と書いて「ラブコ」と読むらしい。

「どうも離婚したそうだ、正直驚いたよ。」

「嘘でしょ!!バカップルみたいにラブラブだったのに、何があったの?」

「着物事件、覚えているか?」

 凛子は直ぐにその事件を思い出した、愛子が橋田家の家宝である絹織物の着物を、バラバラに裁断してしまった事件だ。義父・真彦が目撃した時は既に着物は無残な姿になっていて、愛子を問い詰めたところ「絹織物ってカイコっていう虫から出来ているんでしょ?そう思うとキモかったから、捨てようとした。」と、理解不能な動機だった。真彦と義母・由莉耶は離婚を勧めたが、「俺はずっと愛子と一緒になる事を誓ったんだ、これくらいの過ちはどうという事は無い。」と篤夫は愛子を庇った。

「もちろん、という事はまた何かやらかしたのね?」

「今度は兄貴のコレクションの漫画を全て売却した。」

「え・・・?それが離婚の理由?」

 呆気にとられる凛子に、良和は頷いた。

「発覚する三日前、兄貴は会社の出張で家にいなかったんだ。それで兄貴の部屋を片付けようとした愛子は部屋の本棚を見て、「私たちの趣味に合わないから、なんなら売却して新しい趣味を始めるための資金にしよう。」と思ったらしい。中学時代に購入したのもあるから、兄貴は凄く激昂したそうだ。」

「それはそうよ、というよりこれは犯罪よ!」

「それで着物事件の時とは手のひら返しで、速攻で離婚したという訳。」

「それにしても嫁にあんなことされてるのに、再婚を望むなんて・・・。折れないハートね。」

 凛子は呆れながら言った。

「違う。独身だと自分の体裁が悪いから、再婚に躍起になってるんだ。全く、ショックで落ち込むほうが自然だよ。」

 凛子は元彼にフラれて、良和と会うまで塞ぎこんでいた時期があった。だから先程の良和のセリフに同感した。

「ああ、そういえば兄貴から金貰ったんだ。」

 良和は出かけるときに持って行ったカバンから、分厚く膨れた大きめの封筒を取り出した。

「いくらあるの?」

「三十万円。」

「そんなに!?」

「この金は愛子が兄貴のコレクションを売却して得た金だ、コレクションの量が多いのと掘り出し物がいくつかあったようだ。離婚の時に得る事が出来たものの、精神的に兄貴がこの金を持ちたくないと言って俺にくれた。」

「ねえ、お兄さんのコレクションってどれくらいあったの?」

「おそらく二百冊以上はあったと思う。」

 凛子はそれだけの漫画をたった一人で処分した愛子の行動力に舌を巻いた。





 それから一週間後、良和がうんざりした顔で仕事から帰ってきた。見かねた凛子は夕食中に良和に尋ねた。

「ねえ、何か悩んでいるの?」

「・・・・ああ、聞いてくれるか?」

「いいよ、話して。」

 良和は箸を置いて語りだした。

「実は一週間前から兄貴が俺のスマホに掛けてくるんだ、俺の嫁候補は見つかったのかって一日二回かけてくるんだ。」

「は?何それ、超ウザイわね。」

「そうだろ。ところが俺と兄貴の電話を川辺菊子が耳に挟んだみたいで、兄貴の連絡先を教えろって言うんだ。」

「川辺菊子って誰?」

「俺の会社の営業課長、女性で年は三十五歳。」

 良和は金属加工専門の中小企業に勤めており、営業課に所属している。

「アラフォーね川辺さん・・・。」

「前々から結婚願望があると同僚から聞いていたが、これほどのものとは思わなかった・・・。」

「断れないの?」

「駄目、上司だし美人だけど性格がキツイ。」

「じゃあ、お兄さんに紹介したら?案外丸く収まるかも。」

「いいのか?」

「もうあのウザイ電話が来なくなるよ、思い切ってみなよ。」

 良和は意を決し椅子から立つと、スマホで篤夫に通話を入れた。



 篤夫は良和の話に乗り、川辺と会う予定を決めた。一方の川辺も予定日は体が開いていて、篤夫と会う約束をした。そして予定日当日、良和の付き添いの基で篤夫と川辺は出会った。篤夫の離婚理由を聞いた川辺は篤夫の心に寄り添い、篤夫は川辺の心使いに惹かれていった。そして一か月の交際を経て、二人は結婚した。結婚式場で良和は篤夫に褒められまくった。

「ありがと、良和。こんないい奥さん連れて来てくれて。」

「どうも、それにしても来週の月曜から働きづらくなるな・・・。」

「俺の嫁が上司だからか?そんなこと気にするな。」

 良和は篤夫に思いっきり背中を叩かれた。





 結婚式終了後、実家に来ていた良和と凛子は真彦とくつろいでいた。

「良和、篤夫が大変迷惑をかけてすまなかった。」

「いいよ、父さん。これで兄貴も落ち着くから。」

「それにしても愛子さんとの離婚を聞いて驚きました、失われたものが違うだけでここまで態度が変わるなんて。」

 凛子が言うと、真彦は「全くそうだ!」と語気を強めた。

「だからあの時離婚しろと口が酸っぱくなる程言ったのに・・・、やはり自分の心に響かないと人間は変われんな。」

「そうですね。あっ、お兄さんに三十万のお礼しなきゃ!」

「いいよそんなの、あげると言われた金なんだから。」

「三十万・・・まさかその金は、あの時の?」

「ああ、兄貴のコレクションの対価さ。」

「馬鹿馬鹿しい・・・。」

 真彦はグラスにウィスキーを注ぐと、一気に飲んだ。






 それから三年の間、良和と凛子の間に娘・董が生まれ二人は育児に奔走していた、それ故に篤夫の事をすっかり忘れていた。しかしそんなある日、二歳の董をあやしていた凛子の所に電話がかかってきた。電話の声は真彦だった。

「急ですまない、そちらに来てもいいか?」

 凛子は二つ返事で頷き通話を切った、それから三十分後に真彦がドーナツを持参して訪問した。凛子がドーナツを皿に盛りお茶を入れ、真彦は椅子に座った。

「実は伝えたいことがある。」

「何でしょうか?」

「篤夫と菊子が離婚した・・・。」

 真彦は単刀直入に告げた。

「えっ!?」

 凛子は絶句した。

「原因は篤夫だ。菊子は真面目で気配りもいい人だったが、篤夫が言うには色気とか可愛さが足りないらしい。それで篤夫はオシャレやファッションにもっと気を使えと菊子に言って、後に口論になりそれが続いて離婚になった。」

 真彦はそれだけ言うと、皿からドーナツを取ってかぶりついた。





 真彦は董と遊んで行き、訪問してから一時間後に家を出た。それから二時間後に良和が帰宅したので、凛子は真彦から聞いたことを良和に言った。良和は特に驚かなかった、凛子がその理由を尋ねた。

「黙っていたけど、実は二か月前に菊子が会社を辞職したんだ。何かあったと思って菊子に尋ねてみたけど、菊子に余計な詮索はしないでと言われた。それで「篤夫と離婚したのか?」と思って、それ以上考えない事にしてたんだ。」

「そうだったんだ。それにしても可愛くないから別れるなんて、無茶苦茶だよ!」

「全く、兄貴は昔からそうだよ。一つでも気に入らなければ、すぐに捨てるんだ。」

 良和は呆れながら食卓に座った。






 それから四年後の董が小学校に入学してから二か月が過ぎたある日、良和が小学校の同窓会から帰ってきた。元々良和は酒が飲めないので酔っぱらう事はないが、何故か浮かない顔をしていた。

「おかえり、同窓会どうだった?」

「みんな変わっていたよ、時の流れは早いな。」

「そうよ、みんな大人なんだから。」

「・・・なあ、少し話してもいいか?」

「ん?いいよ、教えて。」

 良和と凛子はソファーに座った。

「実は同窓会で兄貴が彼女を作ったようなんだ。」

「え、また!?ていうかお兄さん、小学校同じだったんだ。」

「世間の兄弟はみんなそうだよ。それで兄貴が作った彼女が、信崎というんだよね。」

「どんな人なの?」

「明るくて派手なギャル風の女、同窓会ではムードメーカーだった。それにしてもここまで変わるとはなあ・・・。」

「え、昔は違ったの?」

「小学校時代は頭が良くてクラス委員長をしていたけど大人しい子、だからどちらかと言うと俺と同じ目立たない奴かな。でも友達に訊いてみたら大学入試に失敗したことで自信を無くして、グレてイメチェンしたらしい。」

「そうなんだ、それでお兄さんは結婚を考えているの?」

「聞いてみたら、当たり前だろと言われた。」

「ハハハ・・・、これはまた荒れるわね。」

 凛子は呆れて笑い出した。





 その後、篤夫は信崎と一緒に良和の家に来た。家にいた凛子が篤夫から聞いた話によると、篤夫は信崎の明るく可愛い所に惹かれ、互いに挫折を経験した共通点があり、それで恋人関係になったという。篤夫と信崎は互いに結婚を考えており、近いうちに真彦と由莉耶の所へ挨拶に行く予定だと言った。篤夫と信崎が家を出た後、凛子は帰宅した良和にこの事を話した。話を聞いた良和は言った。

「二度も離婚している兄貴だ、認められるのは不可能に近いだろう。」

 凛子はそうよねと笑いながら言った。




 それから二日後、真彦から電話がかかってきた。良和が出ると、真彦の荒げた声が聞こえた。

「おい!篤夫の事、何か知らないか!!」

「うわっ!!父さん・・・。どうしたんだよ、篤夫に何かあったのか?」

「篤夫がいなくなった、信崎という女と駆け落ちしたんだ!」

「はあ!?」

 良和は素っ頓狂な声を出した、それに驚いた凛子と董が良和の方を見た。

「マジかよ・・・。兄貴と信崎、一応挨拶に来たんだよな?」

「ああ、でも私と由莉耶は結婚には絶対的に反対だ。あいつに嫁を持つ資格はない。」

「それで兄貴はどうしたんだ?」

「私と口論になって『こんな家族、捨ててやる!!』って捨て台詞吐いて、信崎を連れて出ていった。その後冷静になって、篤夫と話し合おうと篤夫のスマホに連絡をいれたのだが、全然繋がらないんだ。」

「そうか。俺は兄貴の事は凛子から聞いたから、よく分からない。」

「そうか、じゃあもし篤夫から連絡があったら私に必ず報告してくれ。」

「分かった。」

 良和が通話を切ると、凛子がムッとした顔で良和を見た。

「急に大声出さないで、ビックリするじゃない。」

「ごめんなさい・・・。」

「それでどんな電話だったの?」

「父さんから、篤夫と信崎が駆け落ちしたらしい。」

「何ですって!!」

 今度は凛子が素っ頓狂な声を出した。

「あの二人別れるだろうと思っていたけど、思い切ったことをしたわね。」

「ああ、兄貴はこれからどうなるんだ?心配かけてんじゃねえよ・・・。」

 性格は違うが自分の家族の一人である篤夫、もし会えたら言いたいことがある良和だが、会うのは無理かもしれないと思いただ遠くを見ていた。




 その後橋田家では警察に捜索届けを出したり探偵を雇ったりしたが、数か月たっても篤夫の消息は分からなかった。日が立つことに家族の頭の中から篤夫の存在が消え、とうとう家族全員が篤夫の事を忘れてしまった。そして篤夫が失踪してから七年後のある日、ショートヘアーがにあう可愛い女子中学生に成長した橋田董がこの日留守番をしていた。スマホをいじりながらのんびりしている所に、インターホンが鳴った。

「こんな時にお客さんかしら?」

 董が玄関のドアを開けると、無精ひげを生やした男が立っていた。董はその姿に不審者と思い一瞬身を縮こませたが、顔を見ると父の良和に似ていた。

「あっ、もしかして董ちゃん?いやあ、大きくなって可愛くなったね。」

 男は董の全身を舐めまわすように見た。

「あ・・・あなたは誰ですか!?」

「ええ!!覚えてない?篤夫だよ、君の伯父さんだよ。そうか、家出して七年も経ったから忘れちゃったか。」

 篤夫は明るく言った。見た目と合わさり董には不気味に見えたが、目の前にいるのが自分の伯父だということに董は気が付いた。

「ごめん、ずいぶん顔を見ていなかったから分からなかった。」

「謝る事ないよ、いなくなった俺が悪いんだから。」

「それで何しに来たの?」

「ああ、それだ。家に良和はいるか?」

「仕事でいないわ。」

「そっか・・・、じゃあ電話で良和を呼んでくれないか?」

「どうして?」

「家に上がって待っててもいいか聞きたいんだ。」

「それならいいけど・・・。」

 董は自分のスマホで良和に電話をかけた、そして良和に事情を説明すると篤夫にスマホを渡した。

「もしもし、良和か?」

「篤夫なのか・・・?」

「もちろん。」

「分かった、家に上がってもいい。ただし董に手を出したら、許さないからな。」

「そんなことしねえよ、一応家族じゃないか。」

「帰ってくるのは凛子が先になるから、説明しておけ。それじゃあ。」

「おう、またな。」

 篤夫は通話を切ると、董にスマホを返して家に上がり込んだ。





 良和の言う通り凛子が先に帰宅した、凛子は風変りした篤夫をみて「不審者!!」と腰を抜かしたが、篤夫から事情を聴くと納得した。凛子が帰宅してから一時間後に、良和が帰宅した。篤夫と凛子が出迎えると二人とも驚いた、玄関に良和と真彦が立っているからだ。

「久しぶりだな、兄貴。」

「しばらくだな、篤夫。」

「何で親父が・・・、良和か!」

 良和が頷くと篤夫は舌打ちをした、どうやら真彦は招かれざる客のようだ。良和と篤夫と真彦は、リビングのテーブルに座った。

「それで、俺に話というのは何?」

「ああ、金貸してくれないか?」

「ん?」

「おい、篤夫!!」

 真彦がテーブルを思いっきり叩いて怒鳴りだした。

「今まで行方くらませて心配かけて、ひょっこり帰って来たと思ったら金の無心か!本当に人でなしだな!!」

 真彦の剣幕に篤夫は驚いて、椅子から転がり落ちた。

「ビックリした・・・。何だよ急に怒って、家族である俺がお金を頼って悪いのかよ。」

 篤夫は不貞腐れながら言った、真彦は怒りで拳を震わせた。

「何お・・・大体お前は昔から・・・。」

 ここで良和が真彦を睨みながら、手で制した。

「俺に話をさせろ、これ以上出しゃばるなら篤夫より先に追い出す。」

「わかった・・・。」

 真彦は怒りを鎮め、腕を組みながら黙り込んだ。

「篤夫、質問すまでもないと思うが答えてくれ。金に困っているのか?」

「そうだよ。離婚してから社宅にすんで仕事してるけど、金が足りないんだ。」

「お前・・・。」

 真彦が言いかけたが、良和を見て沈黙した。

「離婚したというのは本当か?」

「ああ、あいつだけ上手くいったのがどうにも我慢できなかった。俺は出世できないどころか、勤務態度が悪いとされて降格処分。それなのに信崎は管理栄養士の資格を取ってから働きだして、しかも給料は俺より高い。それじゃあ夫としての体裁が丸潰れだから、離婚したんだ。」

 良和は呆れて何も言えなかった、やはり篤夫はあの時から何も変わっていない。自分の気に入らないことがあればとにかく捨てる、そして気に入るもの・相手を求めてさまよい続ける。とにかく得たものに満足できないのだ。

「そうか・・・金なら用意する、その代わり約束を守ってほしい。」

「ん?約束ってなんだ?」

「俺と俺の家族に二度と関わるな。」

「は!?一体、俺が何をしたというんだよ!!」

 篤夫は困惑した。

「そうやっていつまでも自分の欲望を押さえられずに、捨ててきたことがどれだけ酷い事か解るか?愛子も菊子も信崎も、お前がもし離婚せずに夫婦を続けられたらもっといい幸せを手に入れられたかもしれないんだぞ!自分に合わないなら捨てる、また探し出せばいい?篤夫、いつまでもその考えでいられると思うな。この世の中は、そうチャンスは無い。」

 良和はハッキリと言い切った、篤夫は何も言い返せずに犬のように良和を睨みつけた。そしてため息をつくと喋りだした。

「どうやら俺は不快な存在のようだな、金をもらったらとっとと消えるよ。」

「そうか、それでいくら欲しい?」

「五十万円。」

「わかった、ちょっと待て。」

 良和は席を外すと自分の部屋へ向かった、そして十分後に小切手を持って戻ってきた。

「この小切手を期限内に銀行に出せ、そうすればいい。」

「小切手って・・・、お前今何してるんだ?」

「ああ、勤めていた会社の子会社で社長をしている。」

「立派になったな、それじゃあボンクラは消えるとしよう。」

 篤夫は皮肉を込めて言うと、玄関ドアを開けて出ていった。

「ふう、疲れた・・・。」

 良和がソファーに座ろうとすると、真彦が言った。

「良和、ありがとな。私が篤夫に言いたかった事を代わりに言ってくれて。」

「いえ、大したことないよ。俺は親父に同感なだけさ。」

 そして良和と真彦は大笑いした。








 それから六年後、良和の会社は経営面でまずまずの業績を上げながら運営していた。今から三年前に住んでいたマイホームから、会社に近い新たなマイホームに引っ越し、良和の一家は充実した生活を送っていた。そんなある日、良和は家で読書をしていた。凛子は家事の最中で、董は友達と遊びに行った。突然、インターホンが鳴った。

「あなた、お客さんよ。」

「ん?誰だろう。」

 良和が玄関を開けると、二人の刑事が立っていた。良和は刑事を前に、緊張が走った。

「愛知県警捜査本部から来ました、伊藤です。」

「同じく、真田です。」

 二人は警察手帳を見せた、伊藤は男性で真田は女性のようだ。

「あの、どういった要件ですか?」

「橋田篤夫の弟・良和さんですね?橋田篤夫について訊きに参りました。」

「ええ・・・。あの、篤夫に何かあったんですか?」

「殺人で逮捕されました。」

 良和は絶句した、篤夫がついに人としてしてはいけない一線を越えたのだ。良和は伊藤と真田を家に入れ、篤夫についてこれまでの事を正確に話した。

「なるほど、相当嫁さんを不幸にしてきたようだな。」

「バツイチはよく聞くけど、バツサンは珍しいわね・・・。」

 伊藤も真田も篤夫に呆れているようだ。

「あの、篤夫は誰を殺したんですか?」

「萩原彩芽・二十三歳の女性です。」

「篤夫は萩原とどうやって知り合ったのですか?」

「彼女代行って、ご存知ですか?」

 真田の問いに良和は首を傾げた。

「それって、金を払って彼女になってほしいというものですか?」

 真田が頷いた。

「篤夫は彼女代行の専用アプリを使って、萩原と知り合いました。篤夫自身は最初から結婚前提で付き合っていましたが、萩原はあくまで仕事のつもりでした。そして双方の意見が対立し、篤夫は怒りのままに萩原をナイフで刺しました。」

 良和はただ篤夫に失望した。家族の誰かが犯罪を犯せば、家族全員が世間から冷たい視線を浴びることだってあるというのに・・・。伊藤と真田が家を出ると、良和はため息をついた。

「あなた、大丈夫?」

「ああ。これから犯罪者の家族として、世間から叩かれるかもしれん・・・。」

 良和が不安をこぼすと、凛子が良和を抱いて囁いた。

「大丈夫、あなたは篤夫じゃなくて良和なんだもん。そんなの気にしないでよ。」

 その言葉に良和は救われた。






 それから二ヶ月後、良和は篤夫が収容されている刑務所に面会しにきた。面会室のアクリル板の向こうの空間に、看守に連れられ篤夫が入ってきた。

「久しぶりだな、篤夫。」

「何だ、あの時自分から近づくなと言っておいて、面会に来るとはな。」

「家族として、最後に会いに来たんだ。」

「そうか・・・、出所しても行く当ては無いんだな。」

「当然だ、あんたは家族として大きすぎる迷惑をかけた。」

「何だよ、俺はただ理想の嫁さんを探していただけなのに・・・。何で俺は幸せな家庭を築けなかったんだ・・・。」

 篤夫は壊れた笑いをした、そんな篤夫に俺は一言告げた。

「女性を捨て続けたお前に、幸せな家庭など百年早かったようだ。」

 俺は立ち上がり足早に面会室を出た、篤夫はアクリル板の向こうで、看守に取り押さえられながら発狂している。血を分けた兄弟でも、やはりそれぞれ違う。私は私として真面目に生き続けることを、固く胸に誓って帰路を歩んでいった。









 

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再婚は三度まで 読天文之 @AMAGATA

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