ハズレスキル『けがない』のせいで、ハゲた俺。ハゲはいらないんだよと不毛の大地に追放されるが、このスキルの正体はどんな攻撃も無効化する『怪我ない』だった。今更"けなし"たことを謝れてももう遅い

下垣

第1話 1話後にハゲる高校生

 最高神ハーゲン。彼は人類に知恵と器用さと特殊能力という3つの恩寵を授けた。神に愛された種族である人間は、その恩寵を最大限に活かし文明を発展させてきたのだ。ハーゲンより賜った特殊能力。人類はそれにスキルと名付けて生活や戦闘に役立ててきた。


 スキルが恵まれた者は、みんなから尊敬され畏怖される存在となる。だが、スキルに恵まれない。所謂、ハズレスキルを与えられた者は蔑まされて底辺な人生を歩むことを宿命づけられた。


 だが、それも過去の話。古今東西の情報が電子を媒体に交錯するこの21世紀の情報社会では、スキルの有用性が1つ見つかれば瞬く間に拡散される。ハズレスキルと呼ばれるものでも鍛え上げたり、工夫次第で他の追随を許さないくらい強くて便利になれるのだ。


 ハズレスキルが完全に撲滅された現代。スキルに性質の違いはあれど、貴賤はなくなった時代。人類は、差別による追放、復讐などのテンプレートな流れからようやく解放されたのだ。


 と、ここまでが今日の授業の範囲。俺は、そのことをノートに書き写しまとめる。授業終了のチャイムが鳴る。


「お、今日の授業はここまでだな。続きはまた次回だ。あ、そうだ。中間テストの採点が終わった。クラウド上に成績データを上げてあるから、確認しておくように」


 それだけ言い残すと先生は教室から退室していった。中間テストの採点か。何点だったか気になるな。ちょっと見てみるか。俺は手元のスマホを起動させて、学校の成績管理サイトにアクセスした。学籍番号と生年月日とパスワードを入力する。すると画面に文字が表示された。


――――――――――――――――――――――――――

学籍番号:22-931810

フリガナ:カムロ ライト

氏名  : 神室  頼人

現代文B:98点

数学Ⅱ:91点

生物:92点

現代社会:88点

世界史:81点

英語Ⅱ:96点

スキル基礎:100点


平均:92点

クラス順位:1位/36位

学年順位:3位/234位

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 学年3位かー。1位を狙えると思っていたけど、俺もまだまだだな。


「神室ー! お前成績どうだった?」


 俺の友人が背後から急に声をかけてきた。


「んー。まあまあかな」


「そうかー。俺はクラス28位だったぞーやばくね?」


「ああ。色々とやばいな」


 友人のアホさ加減には呆れる。付き合う友人も少しは選ぶべきなのだろうか。


「ところでさー。俺、昨日の夜についにセカンドスキルが覚醒したんだよ」


「おお、良かったな」


 人間が最高神ハーゲンより賜るスキルは各人に2種類与えられる。それぞれ与えられるタイミングは、第一次成長期が終わる頃と第二次成長期が終わる頃と言われている。所謂、赤ちゃんから子供になるタイミング。子供から大人になるタイミングに神様よりプレゼントされるのがスキルなのだ。


 当然、俺たちは高校生なのでファーストスキルの獲得は終わっている。セカンドスキルを持っている奴もぼちぼち出始める時期だ。


「それにしても……お前、成長期終わったんだな……」


 俺は友人の体をじっくりと見た。こいつの身長って160cm超えてたっけ? それくらいの身長で成長期が終わるだなんてこいつも可哀相だな。


「なんだよ。その嫌味な視線は! ああ、俺はもう身長伸ばす方法がねえよチクショウが!」


 友人がいじけてしまった。少しやりすぎたか。


「まあまあ、落ち着けって。それよりなんのスキルを得たんだ?」


「ふっふっふ。聞いて驚け。俺が得たセカンドスキルは絶対魅了! 対象1人を俺に惚れさせる能力だ! これで俺の人生はバラ色だぜ」


 絶対魅了。そのスキルは1人を魅了して、好きにさせるスキルだ。このスキルで魅了できる人数は1人まで。既に魅了している人物がいる場合、スキルを解除してからでないと再発動できないという制約がある。


 この絶対魅了は一時期ハズレスキル扱いされていたのだ。まず、対象が1人まで取れないことで多人数戦では向かないこと。対象にできる人物が同種族の異性に限られていたこと。そして、なにより魅了したところで勝利確定にはならないことが弱点として挙げられていた。


 多人数に向かないのはこのスキルの弱点として仕方のないこととして挙げられている。そして、惚れさせれば相手は大抵無力化できる。よくゲームであるように魅了された相手が味方を裏切って攻撃するなんてことはあるが、現実ではそのようなことは滅多に怒らない。流石に恋慕よりは理性が勝つ。


 そして、問題なのは、相手が好きな相手を痛めつけたいサディスティックな嗜好を持っている相手だと逆効果になってしまうことがある点が挙げられる。


 だが、同種族の異性にしか効かないという弱点は、後に問題ないことが判明した。このスキルは鍛え上げれば、同性にも異種族にも効くようになるのだ。だが、中世の時代は同性愛にも否定的でスキルを鍛え上げたとしても、同性に効かないという先入観からこの隠された効果には着目されなかった。


 そして、このスキルが市民権を得たのは、近代に入ってからだ。このスキルは敵に使うものという先入観が強くて味方に使う人間はほとんどいなかった。このスキルの真価は味方に使うことで発揮されるのだ。味方を魅了することによって、その対象は愛のパワーという補正を受けて、魅了した相手を守るために強くなるのだ。


 タイマンでは、敵の攻撃を緩める可能性があるものとして使えるし、多人数戦では仲間のサポートに使える汎用性があるスキルとして使いこなせれば強力という位置づけになった。


「俺はこのスキルを使って成り上がる! ヒモとして!」


「え?」


「ん? お前、まさか俺が真面目に戦闘で活躍するようなことをすると思っているのか? 未開の地を攻略したり、ダンジョンに入ったり、闘技場で頂点を目指したり? やだよ。そんなの。俺は楽しく生きたいの! 可愛くて稼げる女の子を捕まえるのだって、鍛えなくてもできることだし。なんてったって同種族の異性が相手なら鍛えなくても問題ないからな」


 なんというクズ。やっぱりこいつと友人やめよう。


「あれ? そう言えば、お前のもう1つのスキルってなんだっけ?」


「ん? ああ。俺のファーストスキルは記憶力強化だ」


「強化された状態でクラス28位の順位なのか……」


 こいつのアホさ加減には呆れる。記憶力強化も鍛え上げれば、見聞きしたことを絶対忘れないレベルにまで昇華するのだ。この対象は、体の動かし方とか無意識の反射レベルの記憶にも刻み込むことができる。そのため、達人の動きを1度見てトレースする芸当も可能だ。


 なによりこの記憶力強化は物覚えのベクトルだけじゃない。忘れるという方向にも強化できるのだ。嫌な記憶を一瞬で消し去ることも可能になる。そんな便利能力を鍛えもせずに放置するとか、こいつどんだけ努力が嫌いなんだよ。


 全てのハズレスキルが優位性が見直されて、消え去ったと言われる昨今の時代。それでも、このスキルは他のスキルに比べて強力だと言うのはある。有能なスキルでも、本人が望んでいるスキルと違うからハズレ扱いされることもなくはないのだ。記憶力強化とか頭脳労働をしている人や修行大好きな達人からしてみたら喉から手が出るほど欲しいスキルだというのに。宝の持ち腐れだな。


『アーアー……マイクのテスト中。マイクのテスト中』


 天から声が聞こえてきた。この声は最高神ハーゲン様だ。ハーゲン様が我々人類に神託を授けて下さるぞ。


『運営からのお知らせです。893年ぶりにスキルのアップデートを行いました。新スキルはいくつかあります。明日からスキルの覚醒した者は新スキルを得られる可能性があります。どんなスキルかは発現してからのお楽しみです。それでは引き続き、人生というゲームをお楽しみください』


 それだけ言うとプツっと天の声は途切れてしまった。新スキル? 一体どんなものなんだろう。楽しみだな。もしかしたら、俺が新スキルに覚醒してしまうかも。いやーそしたらどうしよう。とんでもなく強いスキルだったら、嬉しいな。なんやかんやで全てのスキルに有用性が見出されているバランスをハーゲン様は作り上げてくれた。クソしょうもないスキルは追加されないだろう。


 俺はスキルが発現する時は心待ちにしていた。

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