番外編 最終回のその後

アフターエピソード① 恋の神様への初詣

「こりゃ、去年よりかなり混んでるな」

「どこを見ても人だらけだね〜♪」

花音かのん、よそ見、ダメ」

「わ、わかってますよぉ!」


 押し押されつつ、少しずつしか進まない行列を見て、一行は短くため息をこぼした。

 いくらJKは並ぶのが好きとは言え、神様に手を合わせるために2時間待ちはなかなかの苦行だ。おまけに今は元日、気温も下降気味である。

 しっかり着込んできた瑞希みずきは平気そうだが、みんなに会うからとおしゃれしてきた花音は、足元がもろ冷たい風に晒されていた。

 本人も時折寒そうに体を震わせているが、それでも平気なフリを続けているのだから実に健気と言うべきだろう。


「……花音、私のコートを貸してやろうか?」

「ええ、そんなの悪いですよぉ♪」

「悪いと思ってる奴の断り方じゃないな。ていうか、さっきからこっちチラチラ見てただろ」

「それは瑞希ちゃんがそこにいたからですよ?」

「お前なぁ。いいから体が冷える前に暖かくしろ、風邪引かせたら両親に顔向け出来ないだろ」

「でも、私が全部貰っちゃうと瑞希ちゃんが風邪を引いちゃいます」

「……はぁ、わかったわかった」


 瑞希はやれやれという表情でコートのボタンを外すと、花音の体を自分の方へと引き寄せてからギュッと抱きしめた。

 そして自分ごとコートで包み込むようにしてあげつつ、満更でもなさそうな表情で嬉しそうに見上げてくる瞳を見つめ返す。


「これなら文句ないだろ?」

「えへへ、100点満点の答えですね」


 二人のこのイチャつきようは以前から変わっていないが、実のところこの1週間弱の間に心境的には大きな変化があった。

 その変化というのが、瑞希と花音が正式に恋人という関係に発展したということだ。

 唯斗ゆいと夕奈ゆうなが恋人になったことで、2人も恋愛に感化されたらしく、風花情報ではもう一線は超えているとかいないとか。

 ちなみに、2人きりの時は意外にもSっ気のある花音の方が立場が上になるらしい(こっそり部屋を覗いていた真穂まほさん情報)。

 何はともあれ、幸せのど真ん中にいる2人から溢れ出るラブラブオーラは、少し後ろで並んでいる唯斗と夕奈にもはっきり見えていた。


「瑞希たち、楽しそうだね」

「……」

「本当に別々に並ぶのでよかったの? どうせなら一緒の方が楽しかったと思うけど」

「……それはつまり、夕奈ちゃんと2人で並ぶのは楽しくないってこと?」

「そんなこと言ってないでしょ。夕奈がつまらなそうだから、一応聞いてみただけだよ」

「そ、それは……唯斗君が私じゃなくて瑞希たちの方ばかり見てるから……」

「拗ねたんだ?」

「っ……はっきり言うな、ばか」


 ペシペシと弱々しく叩いてくる手からは、言葉にはしないものの不安という気持ちが伝わってくる。

 確かに、先程の質問は少しばかりデリカシーに欠けていたかも知らない。

 だって、唯斗はどれだけ夕奈が自分を好きでいてくれているかについては、毎日嫌というほど分からされているのだから。


「唯斗君が混ざりたいなら、別にいいけど……」

「僕はもう少し2人きりでいいかな。せめて、神様に手を合わせるまでは」

「……ほんと?」

「当たり前でしょ。ここ、恋稲荷こいいなり神社だからね。恋人と一緒に来たら、一生結ばれるって噂の」

「……えへへ、恋人♪」

「でも、ここの神様は見境がないらしいから、恋人以外と来たらそっちとくっつけちゃうんだってね」

「えっ……」

「そんな絶望したような顔をさせたくないから、こうして夕奈と2人きりなんだけど?」

「それはつまり、唯斗君は夕奈ちゃんと一生結ばれたいってことだよね?」

「それ以外にないでしょ。好きなんだから」

「……もう1回言って」

「ここの神様は見境が――――――――」

「そこじゃないよ!」


 他の人と結ばれる可能性なんて聞きたくない!とばかりに耳を塞ぐ夕奈に、唯斗はニヤニヤと笑いながらその手を握る。

 そんな彼が耳元に顔を寄せながら、「冗談。何回でも言ってあげる」と好きを連呼したところ、まだ慣れていない夕奈が真っ赤な顔でぶっ倒れたことは言うまでもない。


「うへへぇ、唯斗きゅんしゅきぃ……」

「自分がこうさせたとは言え、ここまで素直に喜ばれると逆に複雑な気持ちになるよ」

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