最終話 僕らは恋の中で成長をする

 あれから一夜開けた25日、クリスマス当日。

 唯斗ゆいと夕奈ゆうなはRINEでの招待を受け、瑞希みずきの家にやってきていた。

 二人の机を挟んだ向かい側にはこまるが座っていて、彼女と夕奈はお互いにチラチラと見つつも、気まずそうに目を逸らし合っている。

 彼らが集められたのは他でもない、クリスマスパーティをやり直すため。

 実は、昨晩行われたパーティでは、途中で乗り込んできたこまるが大泣きして続行不可能になったのだ。

 理由が理由なため、夕奈と唯斗を呼ぶかはギリギリまで迷ったものの、最終的にはこの機会を逃せば離れ離れもありうるということで招集されたのである。


「……まあ、気まずい気持ちは分かる。小田原おだわら、お前は特にな」

「気まずいけど、気まずいって言ったらダメな気がするんだ」

「ああ、ダメだな。グッと堪えて、まずはこまるに言うべきことを伝えるんだ」


 この場で言うべきことというのは、まだ正式に話してはいないものの、他全員が薄々感じている彼と夕奈の距離感についてだろう。

 唯斗はじっと見つめてくるこまるの瞳を見つめ返すと、大きく深呼吸をしてから頭の中で端的にまとめたことを口にした。


「夕奈と付き合うことになった。だから、こまるの気持ちには応えられない。ごめん」

「いいよ」

「よし、これで色恋沙汰は丸く収まったな」

「……ほぇ?」


 あまりにも迅速な解決に、ずっと指先までガチガチに緊張していた夕奈はマヌケな声を漏らしてしまう。

 だって、相手は自分と長い間好きな人を取り合っていた友人。たった3文字で解決するなら、あの時間がなんだったのかということになる。

 ただ、瑞希によると今3文字で解決できるのは、昨晩の数時間に及ぶ号泣があった上でのことだから、気持ちが軽かったとかではない……とのこと。


「こまるはもちろん小田原のことが好きだが、夕奈のことも同じくらい好きなんだよ」

「ま、マルちゃん……」

「泣きながら言ってたぞ? お前が危ない目に遭ってるの見捨てさせようとした自分は、まだ小田原の隣にいる資格はないって」

「そんなことないよ。私だってマルちゃんの立場なら……って待って。マルちゃん、夕奈ちゃんのこと見捨てたの?!」

「……ごめん」

「そんな顔で謝られたら許すしかないじゃん!」


 先程までの気まずそうな顔は、好きな人を取られたという気持ちではなく、友達を見捨てようとした罪悪感から来るものだったようだ。

 それがわかってホッとしたのも束の間、「私もマルちゃんのこと大好きだもんねー!」と抱きついていた夕奈の動きがピタッと止まる。

 こまるに耳元で何かを囁かれたらしいが、近くにいた瑞希と風花ふうか以外には何を言ったのか聞こえなかったらしい。


「夕奈、どうしたの?」

「……いや、何でもないよ?」

「言ってくれないと罰ゲーム取り消すよ」

「それはダメ……だけど、告げ口みたいになるし」

「じゃあ、風花に教えてもらおうかな」

「だったら私が教える! 風花もニヤニヤしながら顔近付けて来ないで! しっしっ!」

「ふふ、独占欲強い女の子は嫌われちゃうよ〜?」


 あっち行けと大袈裟に手を動かした夕奈は、風花が前のめりになっていた体を元に戻したのを確認すると、おそるおそる口を唯斗の耳へと近付けていく。

 そして、ここぞという瞬間にゆっくりと息を吸い込んで――――――――――。


「唯斗君が……」

「唯斗、幸せなら、許す。幸せ、違うなら、奪う」

「ちょ、何で自分で言っちゃうの!」

「こまる、まだ、諦めてない。宣戦布告、大事」

「そうかもしれないけどさー!」

「幸せ、自信無い?」

「あ、あるよ! 一生幸せにしてやんよ!」

「それなら、いい。2人とも、大切な人、だから」

「マルちゃん……」

「唯斗、いつでも、浮気、待ってる」

「マルちゃん?!」

「冗談」


 一人の乙女の恋が終わった後とは思えないほど和やかな室内の空気。

 内心では二人の今後を心配していた唯斗がホッと胸をなで下ろしていると、トコトコと近付いてきた花音かのんがいつかと同じ口調でこう聞いてきた。


「唯斗さん、楽しいですか?」


 初めは考え込んで答えられなかったこの質問に、今の彼なら迷うこと無く即答できる。


「楽しいよ、すごくね」


 そう、この満面の笑みで。



 〜完〜

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