第449話 『好き』は時に鈍器になる
「僕、ようやく気付いたよ。本当に一人しか笑顔にさせられないってなった時、自分が他の誰でもなく
その言葉を聞いた彼女は、しばらくキョトンとした後、「どゆこと?」と首を傾げた。
遠回しでありながらも最大限伝わるように言ったつもりだった
「僕は夕奈のことが思ったより大切みたいなんだ。悲しませたくないし、他の男に涙を拭いて欲しくない」
「そ、それってつまり……?」
「今日一日、何を見ても夕奈ならどんな反応をするだろうって考えてた。自分でも知らない内に、いつの間にか好きになってたんだ」
彼がそう口にした瞬間、夕奈の目からじわっと涙が溢れた。今度は辛さゆえではない、間違いなく嬉し涙だ。
それが確信出来るくらい、2人の距離はずっと縮まっていたのである。あと少しタイミングが遅ければ、通り越して気付かなかったかもしれないほどに。
「夕奈、僕と付き―――――――――」
「待って!」
見つめ合う二人の周りには、一足先に訪れた春の気配に気が付いて足を止める人の姿がチラホラと現れ始めていた。
そんなことは気にせず、彼女は唯斗の言葉を慌てて遮ると、「それは私のセリフじゃん?」なんて言って首を小さく横に振る。
「どうしてそうなるの」
「だって、唯斗君の言いつけをずっと守ってきたんだよ?」
「言いつけ?」
「そう。『次に告白する時は、本当に好きな相手にする』ってやつ」
「……言われてみればそんなことも言った気がする」
「夕奈ちゃんはね、これまでずっと告白の言葉を我慢してきたの。ここで言わせてくれなきゃ、どこで発散すればいいのさ」
「普通に好きとか言われてた気もするけど?」
「チッチッチッ。いつまでもそんな恋愛観が幼稚な女だと思ったら大間違いなんだし」
夕奈は指を振ってにんまりと笑うと、「大人の告白ってもんを見せてやんよ」と胸を張る。
そんな意気込みで告白する時点で大人ではないことは確かだし、ここまで言われたならむしろ見てみたくなるというもの。
告白は男から……なんて固定観念を捨てられる人こそ本当の男。そう思うことにして、唯斗は大きく息を吸い込む夕奈の言葉を待つことにした。
「わ、私、唯斗君のことが……す……」
「す?」
「す……すす……すぅ……!」
「……すぅ?」
「………………スキ」
「ん? 聞こえなかったんだけど」
「す、好きって言ったの! 好きで好きで仕方ないくらい大好きなんだってば!」
「んー? やっぱり聞こえないなぁ」
「嘘でしょ?!」
羞恥心すら振り絞り切って放った言葉を、『聞こえない』と片付けられた夕奈は、予想外の反応に驚きを隠せず目を丸くする。
そんな彼女の放心した背中にそっと手を当てて自分の方へと体を預けさせた唯斗はと言うと、「聞こえなかったから、僕から言うしかないよね」と耳元で囁いた。
「まあ、この場所は騒がしいから、夕奈にも僕の本音が聞こえないかもしれないけどさ」
「……なるほど、そゆことね。なら聞こえないかも」
「僕も夕奈のことが大好きだよ。本当はずっと前から気付いてたのかもしれない」
「ああ、聞こえないなー、何を言われても」
「好きで好きで仕方ないくらい大好きだから」
「き、聞こえない聞こえない……」
「僕と付き合って欲しい」
「そんなの聞こえない―――――わけあるかい! 私どころかここら一帯の人全員に聞こえる声で言わないでくれる?!」
野次馬たちの視線が余程恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしながらそう叫んだ夕奈。
そんな彼女に「じゃあ、2人きりの場所で告白し直そうか」と言ったところ、首まで真っ赤になって「それはそれで無理……」と返されたことは言うまでもない。
「じゃあ、聞こえないふり対決で負けた夕奈には罰ゲームね」
「そんなの聞いてないんだけど!」
「罰ゲームは僕と付き合うってのでどう?」
「……聞いてないけど、夕奈ちゃんは優しいからその罰なら受けてあげるし」
「期限は夕奈の誕生日までね」
「い、1週間も無いじゃん! 唯斗君、私のこと好きじゃないの?」
「好きだよ。好きだから、いつまでも罰ゲームで付き合うつもりは無いって意味なんだけど?」
「……えへへ、りょーかい♪」
それが唯斗なりの照れ隠しなのだと理解した瞬間の夕奈の嬉しそうな表情に、彼の胸が一瞬強く脈打ったことはここだけの秘密である。
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