第448話 言葉にした選択
結局、ナンパ男たちをコテンパンにやっつけた
そこから走って走って、気が付けば駅前に戻ってきていたものの、こまるの姿はどこにも見当たらない。もう帰ってしまったのだろうか。
傷つけてしまったことは間違いないし、あんな『ごめん』で許されるはずが無いこともわかっている。
それでも、彼はその選択を後悔はしていなかった。だって、こうしていつも通りの笑顔を見せる夕奈の手を握れているから。
「んふふ、さっきの顔見た? 夕奈ちゃんの強さに恐れ小野妹子だったね」
「なに、その面白くないおやじギャグ」
「唯斗君にはこの味わい深さがわからないかー」
「わかりたくもないし、わかるつもりもないよ」
走ったせいで上下していた肩が落ち着いてきた頃、普段通りの他愛もない話が出来ていることにお互い安堵のため息をこぼした。
そして、少し無言の時間が流れた後、「あのさ」と先に口を開いた唯斗を遮って、夕奈が少し大きめの声で「ありがとね」とお礼を口にする。
「マルちゃんと遊んでたのに、私のこと助けに来てくれたんでしょ?」
「そうだね」
「唯斗君が来てくれなかったら、あと少しで負けちゃうところだったよ」
「夕奈、前に言ってたからね。『こう見えてメンタルはよわよわだから』って」
「……覚えてくれてたんだ」
「覚えてるよ。だから、信じれた。『唯斗君のことを守ってあげる』って言葉も」
彼はそう言ってから、心の中だけで首を横に振る。だって、あの時の言葉だけで彼女を信じたわけではなかったから。
これまでの積み重ねの中で、そのセリフが引き金となっただけであって、唯斗が頼ったのは
それほどまでに身を預けられたのは、きっともう唯斗の心が彼女無しでは自立出来ないほどに傾いてしまっているから。
二人の関係は人という字と言うには少し歪で、入という字を当てはめる方がお似合いかもしれないけれど。
「ほら、マルちゃん待たせてるでしょ。私のことはいいから戻ってあげてよ」
「心にもないことは言うもんじゃないよ」
「無くはないし」
「じゃあ、僕に放っておかれて落ち込んでたのはどこの誰なのかな」
「っ……ま、マルちゃんだってきっと寂しがってるよ! 夕奈ちゃんはもう家に帰るから平気だし!」
「そのこまるは帰ったみたいだけど。僕が告白の返事をいいものにしてあげられなかったから」
「そ、それって……振ったってこと?」
「わざわざ辛くなる言い方しないでよ」
夕奈はその言葉に「ごめん」と素直に謝ったものの、友達の恋愛事情とは言え暗くなるのも良くないと思ったのか、「酷い男だね、まったく!」とべしべし背中を叩いてきた。
「イヴに女の子を一人にするなんてさ」
「夕奈こそ、寂しいのに自分からカップルの集まる場所に出てくるなんて変わった趣味してるね」
「……風に当たりたかっただけだから」
「本当は僕を探してたんでしょ」
「つ、ついでに唯斗君をミッケしようと思っただけだしぃ」
「僕、ウォ〇リー派なんだけど」
「探してるのは唯斗君だけだから同じでしょ?」
「……まあ、そうかもね」
遠回しなようで真っ直ぐな言葉が、染み込むように胸の奥へと届いてくる。
そのひとつひとつは一見違うように思えるものの、どれも同じ意味を持っていることは確かだった。
いくら照れ隠ししようとしても、きっとお互いにもう何を伝えたいかは分かっている。分かっていたとしても、やはり言葉にするのは勇気がいるのだ。
その勇気がかけたエンジンさえ、唯斗は一歩を踏み出す原動力に変えた。
「僕、ようやく気付いたよ。本当に一人しか笑顔にさせられないってなった時、自分が他の誰でもなく夕奈を選ぶってことに」
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