隣の席の美少女が何故か憐れむような目でこちらを見ているけど、僕には関係がないのでとりあえず寝る ―――ひとりが好きなぼっちだっているんですよ?―――
第447話 ナンパしていいのは、蹴られる覚悟があるやつだけ
第447話 ナンパしていいのは、蹴られる覚悟があるやつだけ
こまるを置き去りにして走った
まだそう遠くへは行っていないはずだが、ケーキや服などを売る店が並ぶ方の通りには見えない。
あのチャラそうなタイプのナンパならまさかとは思ったが、思い切ってホテル街の方へ走ったら残念なことに予想は当たっていた。
夕奈はまさに今、ピンクの看板のホテルの前で、最後の抵抗をするも3人の圧に屈しかけているところだったのである。
「ゆ、夕奈……」
また胸に痛みが走る。刺さっていた何かをさらに押し込まれたような気分だ。
今すぐ助けに入りたいし、見て見ぬふりなんてしたくない。でも、やはり何かが自分が進もうとするのを邪魔する。
あれだけ彼女を傷つけた張本人に、まだ手を差し伸べる資格があるのか。ついマイナスなことを考えてしまった。でも。
「ちょっと休むだけだろ?」
「ぐだぐだ言うなっての」
「ほんと、空気の読めねぇ女だな」
「っ……」
お決まりの文句で連れ込もうとする男たちのうちの一人が、逃げようとする夕奈の頬をペチンと叩く。
その瞬間、驚いた表情を見せると同時に目が潤み始めた。友達には見栄を張るし、好きな人には見捨てられるし、知らない人に叩かれるし。
きっと、そういう感情が束になって込み上げてきたのだろう。涙をこぼすのを堪えるように歪んだ口元がそれをハッキリと表していた。
「イヤだ……助けて、唯斗君……」
彼女にとっては、まだこまると一緒にいるはずの彼に助けを求めている。
その呟きを聞いて、唯斗は迷っていた自分が馬鹿らしく思えた。同時に、苦しみを長引かせた不甲斐なさに自分を殴りたくなる。
それでも、今だけはその気持ちをグッと堪えると、精神の糸がプツリと切れてされるがままに引きずられる夕奈に向かって走り出した。
そして――――――――――――。
「僕の彼女に何しようとしてるんですか、お兄さんたち」
ホテルの入口の前に立ち塞がり、恐怖という感情を押し殺して余裕の表情を見せつける。
これは賭けだ。殴られたら喧嘩なんてしたことが無いこちらに勝ち目は無いのだから。
それでも、今の彼にとって夕奈を解放することは、一世一代の賭けに自分自身の全てをBETするだけの価値がある行為だと信じて疑わなかった。
「彼女? なんだ、こいつ彼氏持ちかよ」
「何しようとしてるのかって聞いてるんですけど」
「見りゃわかんだろ。この子が寂しそうに座ってたから、俺たちが遊んであげてるんだよ」
「そもそも、こんな可愛い子を悲しませた彼氏くんが悪くない? 俺たちは手を差し伸べてあげてんだけど?」
「奇遇ですね。僕もその子に手を差し伸べてるんですよ、皆さんみたいな汚い手に比べれば目立たないかもしれませんが」
「……んだと、てめぇ」
さすがにバカにしすぎたかとも思ったが、一人が夕奈から離れてこちらに近付いて来てくれた。
3人組のリーダーらしき彼はバキバキと指を鳴らしながら拳を握りしめると、頬を引き攣らせながら唯斗を睨み付ける。
ただ、意外にも考える脳があるらしく、人通りも多い中で殴るのは得策ではないと判断したのだろう。
少しでも躊躇してくれたおかげで助かった。おかげで、この作戦が使えるのだから。
「殴られてぇらしいな」
「どうぞ、殴ってもいいですよ」
「……」
「殴らないんですか? あ、そっか。怖くて殴れないんですね」
「は? こんなところで殴ったらサツが……」
「臆病者一名様入りまーす」
自分でも驚くほど、すらすらと煽り文句が出てきた。これも夕奈と長い時間を過ごしたからかもしれない。
ただ、今だからこそ言えることではあるが、彼女の言葉には必ず『唯斗君なら分かってくれる』というら信頼が込められていた。
時には無神経な事を言われることもあったが、傷つけることが目的だったことは1度もないだろう。
だからこそ、どれだけ面倒臭いやり取りだとしても絶対拒絶までに至らなかったのだ。
「なっ、臆びょ……もう許さねぇからな」
「橋本かー〇な」
おちょくるような返しに完全にキレた男は、今度こそ本気で拳を振り上げる。
だが、唯斗は決して避けようともしないし、腕などを前に出して防ごうともしない。
なぜなら、信じているから。わざわざ3人のうち一人を離れさせ、拘束を手薄にさせた理由に夕奈が気付いてくれていると。
「ぐふっ……」
「ぶへっ?!」
「なっ?! ど、どうしたお前ら!」
苦しそうな2つの呻き声に驚いて振り返った男が見たのは、腹と頬を抑えてうずくまる連れたちの姿。
そこにはもう夕奈の姿は無く、数秒後には彼も同じ姿にされていたことは言うまでもない。
「夕奈ちゃんに手出していいのは、撃たれる覚悟がある奴だけなんだZE☆」
いまいち、ドヤ顔で放った決めゼリフは上手く決まらなかったみたいだけれど。
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