隣の席の美少女が何故か憐れむような目でこちらを見ているけど、僕には関係がないのでとりあえず寝る ―――ひとりが好きなぼっちだっているんですよ?―――
第444話 一方しか選べないのなら、システムは必ず先約を優先する
第444話 一方しか選べないのなら、システムは必ず先約を優先する
唯斗が急いで家に帰ると、こまるが不満そうにリビングで待ってくれていた。
時刻はもうお昼を過ぎている。予定では今頃には駅前でデートしているはずだったと言うのに。
「本当にごめん」
「……いい、仕方ない」
「ありがとう。すぐに準備してくるね」
「わかった」
そのまま彼はダッシュで2階へ上がると、
昨晩は
遅れているとは言え、汗臭いまま出かけるのはこまるに失礼だという認識は間違いではないはず。
唯斗は丁寧かつ迅速に全身を綺麗にして上がると、待ち構えていた天音にまたもや手伝ってもらいながら、2倍のスピードで髪を乾かした。
「助かったよ。それじゃ、行ってくる」
「待って、お兄ちゃん! まだクシで整えてない!」
「それも必要?」
「マルちゃん師匠の彼氏だと勘違いされても恥ずかしくない格好がベストなんだよ? 焦ってても身なりはしっかりとね」
「……天音、大人になったね」
「妹も日々成長しているのです♪」
そう胸を張る彼女に髪型をセットしてもらい、今度こそ出発の時。待ちくたびれて窓際で干物になりかけているこまるに声をかけると、彼女は犬のようにトコトコと駆け寄ってきてくれた。
「おそい」
「ごめんね」
「でも、かっこいい、許す」
「照れちゃうよ」
「大好き」
「ありがとう。じゃあ、行こっか」
その言葉に頷いたこまると一緒に玄関へと向かい、天音に見送られて家を出る。
暖房の聞いた屋内と違って、外は雪こそ降っていないものの、首元を撫でる風は相当冷たかった。
吐いた白い息を眺めながら、横目で見たせっせとマフラーを巻いているこまるの様子に安心していた唯斗だったが、最初の角を曲がったところで思わず足を止めてしまう。
「久しぶりだね」
「そ、そうだね……あはは……」
偶然なのか、それとも目的を持って隠れていたのか。コソコソとしていた
「何しに、来たの」
「べ、別にぶらぶらしてただけって言うか?」
「怪しい。まさか、会いに、来た?」
「っ……」
言葉にこそしていないものの、反応から察するにこまるの言ったことが図星だったのだろう。
あれほど守ると言っていた『一週間』という制限を破ってまで来るということは、相当大事な用があるのだとは思うが。
「そ、そうだよ! 夕奈ちゃんだって唯斗君に会いたかったんだもん」
「一週間、破った」
「それはごめんだけど!」
「唯斗は今、私といる。邪魔、良くない」
「きょ、今日くらいは一緒に……」
「だめ」
断固として夕奈の介入を受け付けないこまるのキッパリとした口調に、しつこさが取り柄の夕奈も視線が少しずつ下がり始めてしまう。
本来なら唯斗だってこまるを宥めて3人で回ろうと提案する。その方がみんなが楽しめるから。
けれど、今の彼女を見る限り、その説得に応じてくれそうにない。それにいくらクリスマスイヴとは言え、一週間同士の等価契約だったはずだ。
2人が交したそれに関係の無い自分が首を突っ込むというのは、きっとあまり良くないことだろう。そう判断したのである。
「ゆ、唯斗君だって夕奈ちゃんと過ごしたいよね?」
「ごめん。二人の約束だから、僕は予定通りこまると過ごす方を選ぶしかないよ」
「…………そっか。今年はクリぼっちかな」
目的だった相手からハッキリとNOを告げられて諦めがついたのか、夕奈はしゅんと肩を落として帰って言ってしまう。
あまりにも小さく見えるその背中を呼び止めた唯斗が「
「ここに来る前に、今夜は予定があるって見栄張って来ちゃったからさ」
まるで自分を嘲笑うかのような作り笑顔と、ひとつひとつが儚げな去りゆく足音に、彼が「ほんと、ごめん」という言葉しか零せなかったことは言うまでもない。
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