第411話 遠慮してるうちは図々しくなれない
あれから、ケーキを完食した2人も加わって4人で対戦をしたり、
そして午後5時を過ぎた頃、外行き用の格好をしたハハーンが「今日は外食にするわよ」とリビングへやってくる。
「この前も焼肉に行ったばかりだけど」
「いいじゃない。お母さんにもたまには休みがあっても」
「たまにはって、昨日の夜ご飯も
「それを知っていながら手伝わなかったのは、どこのバカ息子かしら?」
「…………」
「そもそも、ミルクから離乳食、毎日の食事と生まれてから十数年間まともな料理を食べさせてあげたのはどこの誰かしらね?」
「偉大なるお母様であります」
「よろしい。では、今日は寿司を食べに行く。異論がある者は右耳を15度傾けろ」
「…………」
「よし、決定だ」
そんなこんなで、かなり強引に夜ご飯が決定され、一行は徒歩15分ほどの場所にある回るお寿司屋さんにやってきた。
ちなみに、
花音の両親が許してくれたからいいものの、電話をかけた時に帰ってきなさいなんて言われていたら、花音はパニックになっていただろう。
もちろん、二度と入れないなんてことになることは、天音を誘拐して耳元でドラを叩きまくるなんてことをしない限りはないと思うが。
「5名様ですね、テーブル席で宜しいでしょうか」
「構わぬ」
「か、かしこまりました!」
いまだに重々しい口調のハハーンの威圧に押され、本当にかしこまってしまう店員さん。
見ているこっちが家族だと思われたく無くなるので、そういうことはやめてもらいたい。
唯斗は頭を抱えつつ、案内されるがままに店の奥へと移動した。席の場所は特筆する必要も無いような、レーンの中間あたりである。
一番奥がいいとはしゃぐ天音を座らせ、その横に腰を下ろすと、続いて夕奈が隣に座った。
ということはつまり、テーブルを挟んだ向かい側に座っているのは残りの2人ということになるが、ふと顔を上げた彼は思わず眉を八の字にする。
「花音、そんな緊張しなくていいよ」
「で、ですが……」
プルプルと震えている彼女の横に視線を移動させれば、そこには観察するかのような目でじっと見つめるハハーンの姿が。
何やら圧力をかけているようにしか見えないが、本当のところは単に怖がっている花音の様子を面白がっているだけだろう。
この人は母親の皮を被った大魔王であり、そして精神年齢は夕奈と同じくらいなのだから。
「さて、花音ちゃんは何から頼むのかしらね」
「わ、私はマグロを……」
「マグロ? いきなりマグロなんて王道をねぇ?」
「ひっ……だ、だだだだめなんれしゅか?!」
「ダメなんて言ってないじゃない。ちなみに、赤身かしら、それとも中トロ?」
「あ、赤……じゃなくて……お、大トロでお願いしまふ!」
ここで財布を握っているのは他でもないハハーン。
故にご馳走になる花音も控えめに行きたいところではあったが、赤身と言おうとした瞬間、明らかに目が細められた。
そこから危険を察知した彼女は慌てて方向チェンジ。しかし、急ハンドル過ぎてスリップしてしまったようだ。
一番高い大トロを宣言した直後に吐き出されたため息に体の震えを大きくした花音は、「や、やっぱり別の……」と注文を変えようとする。
だが、ハハーンはその手をがっしりと掴むと、強引に自分の目を見させながら満面の笑みでこう言ったのだった。
「若い内に遠慮なんて必要ないわ。大トロ、上等よ。花音ちゃん、あなたいいわね!」
「ふぇ……?」
「食べたいものを食べたいだけ頼みなさい」
「い、いいんですか……?」
「恩を感じるようなら、唯斗と仲良くしてくれれば十分よ。あなたみたいないいお友達、お金じゃ買えないもの」
「……ご、ご馳走になります!」
ハハーンに認められたことで、ようやく緊張という名の鎖から開放されたのだろう。
花音は本当に食べたいものであるマグロの赤身を連続で頼むと、それをペロリと一瞬で平らげてしまった。
その後、予想以上に積み上げられたお皿の高さを見て、途中から箸が止まったハハーンが「お金を下ろしてくるわ」とコンビニへ向かったことはまた別のお話。
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