第390話 旧友からの電話は出るかどうか悩む
あれからもう少しビリビリをして、ぐったりとした
トゥルルルル♪ トゥルルルル♪
机の上に置いてあったスマホが音楽を奏で始め、その持ち主である彼女がのそのそと起き上がる。
そして這いながら腕を伸ばしてスマホを取ると、耳に当てたのとは反対側の頬を床に付けながら気だるそうに電話に出た。
「もしもし?」
「―――――――」
「あ、さとちゃん? どしたの、急に」
「―――――――」
「ちょっと待ってね。今、近くに友達がいるから」
夕奈は先程までとは打って変わって素早く起き上がると、何やら真剣な顔で部屋から出ていく。
そんなに大切な話なんて珍しいなと思いつつ、彼女が解いた問題の丸つけをして待つこと10分。
心做しか悩みの色が滲んだ表情で戻ってきたので、「どんな話だったの?」と聞いてみた。
「え、何のことかな?」
「誤魔化さないといけないような内容なんだ?」
「……仕方ないなー。唯斗君にだけ教えてあげるか」
そう言いながら顔を近付けてきた夕奈は、彼の鼻をツンもつつきながら「友達って言ったけど、恋人未満なやつだから」とにんまり笑う。
「いや、そこは気にしてないけど」
「本当は引きずってたくせにぃ♪」
「たった今引きずり始めたよ。友達未満なのにって」
「そんなの酷い、夕奈ちゃんは恋人+αだと信じてたのに!」
「プラスされたαが気になるけどあえて聞かない」
「聞いてくれたらもれなく乳歯をプレゼント!」
「やった、ちょうど一本足りなかったんだよね……ってなるかい。話を逸らさないでくれる?」
あわよくば逃げ切ろうとする夕奈を強引に本題へ引っ張り戻すと、彼女はしばらく唸ってから諦めたように肩をすくめた。
そしてつま先をこちらへ向け直し、渋々と言った感じで電話の内容を教えてくれる。
「中学の時の友達からだったんだけどね。明日、久しぶりに遊ばないかって誘われたの」
「良かったじゃん、僕なんて誰からも誘われないよ」
「それは全員ブロックしたからでしょ」
「僕の過去を掘り下げるとはいい度胸だ」
「え、私が悪いの?!」
「冗談だよ」
本気で焦っていたらしく、ホッとした様子の夕奈によると、遊びに誘われたはいいものの、そこまで仲が良かった記憶のない相手らしい。
自分の場合、誰にでもニコニコしてしまうため、知らないところで仲良しだと思われることは少なくないから、そこは特に問題は無い……とのこと。
「じゃあ、何が問題なの?」
「せっかくのお泊まりなんだよ? 唯斗君と離れなきゃいけないなんて……」
「よしって言いたいけど夕奈の前だから黙っとこ」
「もう言っちゃってるよ?!」
「よくない。はい、これでプラマイゼロ」
「そういうシステム無いかんね?」
「夕奈は離れたくなくて、僕は離れたい。2人合わせたら相殺され――――――」
「ないから!」
甘いと辛いを合わせたら無になるなんてことは無いし、うるさいと静かを合わせて心地よい音量になることも無い。
その法則はこの二人の関係性にも通用するようで、既に明らかになった化学反応のように上手くはいかないらしい。
「……こんな時、僕がもう一人いたらな」
「夕奈ちゃんの離れたくない気持ちは、唯斗君の離れたい気持ちの3倍ですよーだ!」
「目に見えない僕の気持ちの何がわかるって言うの」
「面倒臭い面倒臭い! もういいよ、お望み通り遊びに行ってやるし!」
「ええ、離れたくないなー(棒)」
「ぐぬぬ……こんなに弄ばれても嫌いになれない自分がどうしようもなく好き……」
「はいはい、門限は午前5時ね」
「急に冷たくされると傷つくよ! って言うか、寛容超えてもはや無頓着だよ!」
「いや、明日の午前5時だから」
「檻入り娘?!」
「せめて午後5時にしようよ」と言ってくる彼女に、「うち、門限とかないし」と言ったらラリアットされた。
その後、「久しぶりに会う相手でしょ。楽しんできなよ」と伝えたら、結局笑顔頷いてくれる。何だかんだ、遊びには行きたかったんだろうね。
「唯斗君も、寂しくなったら電話してね?」
「大丈夫、電源切っとくから」
「なるほど、声聞いたら泣いちゃうかー!」
「夕奈が帰ってくるまであと数時間しかないってね」
「どういう意味やおら」
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