第389話 バカには電気が相性抜群
あれから少し
昨日遊んだ分、今日たっぷりとやらせようと思っていたのだが、案の定彼女はやる気を出さない。
おまけに知識もないせいで全く捗らないので、仕方なく『この一週間で終わらせたら残りの休み中も遊びに来ていい』と言ったら猛スピードで解き始めた。
まあ、頭が賢くなった訳でもないので、全問不正解ではあったけれど。やる気があるだけまだマシだと思うことにしておく。
「別に間違いのままでもいいけど、そんなのを提出したら先生に呼び出されるだろうね」
「そしたらどうなるの?」
「あの先生のことだから、きっと怖い教育が待ってるよ。家に帰って来れるといいね」
「……唯斗君、解き方教えて」
「一問につき100円ね」
「ぐぬぬ……払ってやらぁ!」
「冗談だから。やる気で払ってくれたらいいよ」
そんな契約を結んでから30分強、間違えたところをきっちり正解になるまで解き直した夕奈は、疲れでプルプルと震える右腕を押さえながら仰向けに倒れ込んだ。
「夕奈ちゃんの右手が疼く!」
「高二病だ」
「この身に封印されし邪神が解放されてしまう……」
「アホの神かな、そうに違いない」
「……ちょいちょい、唯斗君。少しくらい乗ってくれても良くない?」
「疲れてるんでしょ。のんびりしときなよ」
「私にとって唯斗君が一緒に遊んでくれることが一番の癒しなんですよーだ」
「わかった、おもちゃ持ってきてあげる」
「大人のか?!」
「どっちかと言うとそうかな」
「……ば、ばっちこい!」
何やら真剣な顔をする夕奈がその後、大人のおもちゃ=ビリビリグッズだと知った瞬間、全身の赤みがサッと引いて行ったことは言うまでもない。
「大丈夫、痛いのは最初だけだから」
「そ、そのセリフはもっと違う瞬間に聞きたかったんだけど……」
「ほら、先っぽだけでいいから触れてみよ?」
「……もうわざと言ってるよね?!」
「なんのことやら」
「くっ……唯斗君は私を怒らせた!」
悔しさが限界に達した彼女は突如雄叫びを上げると、こちらへと突進してくる。
そして、体当たりされて怯んだ隙にビリビリグッズを奪い取ると、それを唯斗に向けてにんまりと笑った。
「ふふふ、観念したまえ!」
しかし、ビリビリが苦手なはずの唯斗は「別にいいよ、やっても」と平気な顔をしている。
こうなることを見越して克服した……とは考えづらい。きっとはったりだ、そうに違いない。
夕奈はそう心の中で頷くと、ボタンを押しながら手に持っているそれを唯斗へ押し付けた。
「……」
「……あ、あれ?」
ところが、相変わらず彼は平気そうで、痩せ我慢をしている風でもない。
もしかして電気が流れていないんじゃないか。そう思って自分で触れてみようとした瞬間だった。
「本物はこっちだよ」
唯斗がそう言って服の中に隠していたビリビリグッズを取り出し、夕奈の脇腹に押し当てる。
どちらも同じものなのだが、彼は奪い取られる可能性を予測し、片方にはあえて電池を入れなかったのだ。
脳筋な彼女は目に見えていた罠にまんまとハマり、知恵の前に呆気なく敗北してしまったのである。
「うぅ……こやつ、やりおる……」
「十分遊んだでしょ。ほら、勉強再開して」
「断る! まだ遊び足りないしぃー」
「なるほど、もっとビリビリしたいと」
「ひっ……ゆ、夕奈ちゃん勉強したくなってきた気がする……」
「本当に?」
唯斗の問いかけにウンウンと涙目で頷く夕奈。彼は仕方なく信じてあげることにしたものの、数分後にはまたビリビリグッズのボタンを押すことになるのであった。
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