第380話 二学期最後の女子会

 唯斗ゆいとに「結婚して」というお願いを断られた後、夕奈ゆうな瑞希みずきたちと一緒にカフェに来ていた。

 ここは最近カフェ巡りにハマっているらしい風花ふうかが見つけた場所で、時々こまると二人で下見がてら勉強をしに来ていたんだとか。

 ちなみに、この場に唯斗が居ないのは、「一緒にカフェ? それ、お願いにカウントするよ?」と断られたからである。


「そう言えば、陽葵ひまりさんが留守の間、小田原おだわらの家に泊まるんだったか?」

「うん! そこは唯斗君もすぐ受け入れてくれたよ」

「珍しいね〜♪」

「夕奈ちゃんとお泊まりがしたかったのかな、うんうんそうに違いない!」

「……ずるい」

「ふふふ、マルちゃんには悪いけど、先に大人の階段昇らせてもらっちゃうねー♪」


 盛大にドヤりながら口にした言葉で火がついたのか、無表情ながら不満そうだったこまるは、イスから立ち上がるとカバンを肩にかけた。

 そしてそのまま店を出ていこうとするので、風花が慌てて追いかけて連れ戻してきてくれる。


「どうしたんだよ、こまる」

「私も、大人に、なりたい」

「その気持ちも分からんでもないが、今から小田原を襲いに行くつもりだったろ」

「……悪い?」

「ああ、悪いさ。いきなりの来客に押し倒されるんだぞ、好きなやつを困らせてどうする」

「確かに」

「それに焦る必要は無い。夕奈が泊まるなら、こまるも泊まればいいだけだからな」

「……なるほど」


 それは名案だとばかりにスケジュールを確認し始めるこまるに、夕奈は「いやいやいや!」と首を横に振りながら会話に割り込んだ。


「せっかく2人きりのチャンスなのに、割り込んで来ないでよー!」

「チャンス、欲しい、夕奈だけ、違う」

「それは分かってるけど……」

「何なら、2人で、襲うのも、アリ」

「……マルちゃん、ナイスアイデア!」

「やめとけ、さすがに嫌われるぞ」


 唯斗のこととなるとついつい熱くなってしまう2人は、瑞希の軽いチョップで落ち着きを取り戻す。

 しかし、それでもお互いに2人きりの時間が欲しいことは変わらない。

 そこばかりはどうしても譲れない彼女たちは、討論の末にとある結論に至った。


『夕奈が泊まった翌週にこまるが泊まりに行く』


 そうすることでお互いに唯斗を独り占め出来る時間が作れるという算段なのだ。

 しかし、そんな2人を客観的に見ていた瑞希と風花は、目を合わせながら苦笑いをする。

 なぜなら、彼女たちは気付いてしまったから。普段は大人しいこまるが、わざわざ大胆な動きを見せてまで夕奈に突っかかりに行った理由に。


「こまるが泊まるの、再来週ってことだよな」

「再来週の土曜日、ちょうどクリスマスだよね〜」


 2人はあの無表情の裏側にある戦略性に少し寒気を感じながらも、何も気付かずにニコニコしている夕奈を見てやれやれとため息を零す。

 それからクスリと笑うと、心の中で2人共への応援メッセージを呟くのであった。


「……で、花音かのんはずっと何してるんだ?」

「っ……きゅ、急に話しかけられるとびっくりしちゃいますよぉ……」

「悪い悪い。あまり集中してるみたいだったから、いつ声をかけるべきか悩んでたんだ」


 先程から慎重にデザートを食べている花音の手元を覗くと、乗っかっているイチゴよりも狭い面積だけで立っている(元)ショートケーキが見える。

 どうやら山崩しの容量で、倒さないように食べ進めていたらしい。何とも子供っぽい遊びではあるが、彼女の真剣な顔を見てしまえば止めるのは鬼だと思えたのだ。


「すごいバランス〜♪」

「頑張りました!」

「カノちゃんって変なところで器用だよね」

「褒められてるのですか……?」

「もちのろんよ!」

「えへへ、照れちゃいます♪」


 嬉しそうに後ろ頭をかいた花音がもう少しいけるとケーキを削ろうとしたところで、バランスを崩したケーキの塔はお皿の上で倒れてしまう。

 頑張っていただけに悲しそうな顔はしたものの、彼女はすぐにフォークでイチゴを突き刺すと、隣に座る瑞希に向かって「あーんです!」と差し出した。


「いや、あれだけ頑張ってたものは貰えないだろ」

「少し遊んでいただけですよ。そもそも、イチゴ好きな瑞希ちゃんのために残したんですから」

「……本当にいいのか?」

「はいです!」


 元気に頷く花音を見て、断る方が失礼だと判断したのだろう。瑞希は少し照れながら口を開くと、差し出されているフォークにかぶりつく。

 「どうですか?」と聞かれれば、「美味い」と即答したことは言うまでもないし、それを受けて笑顔になった花音の表情に、瑞希まで笑顔を溢れさせたことも言うまでもないだろう。


「今度、みなさんでパンケーキパーティでもしましょう! イチゴやバナナも用意して!」

「それいいな。冬休み中に出来るといいんだが」

「大丈夫だよ〜。三学期になっても、3年生になっても、みんなでこうして集まればいいんだから〜♪」

「その時は唯斗君も引きずっていこうね!」

「それな」


 そんなホカホカさが伝わってきそうな幸せな会話をしつつ、彼女たち5人は二学期最後の放課後を終え、冬休みへと突入していくのであった。

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