第379話 予想外の幸運とご褒美
テスト最終日、あれだけ落ち込んでいた
その理由はただひとつ、宿題やら課題やらをきっちりとやったおかげで、テストのみでは赤点だった教科に予想以上の平常点がプラスされたことで、ギリギリ補習を回避したのである。
「補習が無〜い〜♪ 補習が無〜い〜♪」
上機嫌でそんな歌を口ずさむ彼女だったが、ふと何かを思い出したようにピタリと止めると、やけにニコニコしながらこちらを見てきた。
「ねえ、唯斗君?」
「イヤだ」
「まだ何も言ってないんだけど!」
「どうせ『頑張ったから100点取れてないけどお願い聞いて』とかでしょ」
「うっ……心を読まれた……?」
「読むまでもないよ」
ちなみに、こまるは先程嬉しそうに3つの100点を見せに来てくれている。
まさか本当にやってのけるとは思わなかったものの、約束なので頼まれたら断れない。
彼女は「少し、考える」と言っていたから、今のうちに心の準備はしておいた方がいいだろう。
「頑張ったこまるに失礼だから、夕奈だけ優遇はしない」
「でもねでもね、98点はあったんだよ?」
「それはもう聞いたよ、保健体育でしょ」
「普段ダメダメな子の98点は当然の100点より価値あるんだけど!」
「何その『ヤンキーがおばあさんに優しくしたらめちゃくちゃ褒められる』みたいな理論」
「誰の人生がワイデ〇ングロードやねん」
「そんなことは言ってないけど、あながち間違いじゃないから否定は保留にしとくね」
「後々否定してくれるのかなって期待させるような言い方すな」
手の甲でペシッと叩いてくる夕奈は、尚も「98はバストで言うところの巨乳サイズなんだよ!」と必死に訴えてきた。
唯斗は「それ、自分に刺さってない?」と言いたい気持ちを堪えつつ、「100点だけって約束したでしょ」とあしらう。
もちろん彼にだって、頑張ったことを褒めてあげたい気持ちくらいはあるのだ。夕奈が98点を取ったと言った時には、正直心の中で喜んだほどに。
しかし、勝負や賭けとしてだけでなく、今後の彼女の人生において甘やかすことはためにならない。全ては夕奈を思ってのことなのである。
唯斗はそう思い込んでいた。
「なあ、
「どういう考え?」
「夕奈は98点でご褒美なしだろ? お前は厳しくすることで次に100点を目指させるつもりかもしれないが、それでやる気を無くすことだってある」
「……確かに」
「特にこいつは勉強に関してはそういう性格だ。ひとつでも間違えればご褒美無しとなると、希望を簡単に失うんだよ」
「そうだとしたら元も子もないね」
「だろ?」
これほど説得力のある話をされた上に、「100%とは言わないが、少しくらい譲歩してやってもいいんじゃないか?」なんて言われれば、さすがに頑固にはなり切れない。
唯斗は少し離れたところにいるこまると視線で会話をすると、彼女がOKを出してくれたのを確認してから、夕奈に向けて「わかった」と頷いた。
「その代わり、頼み事は僕が嫌なら断れるってことにするからね」
「断られたら消費しちゃう?」
「それだと僕は受け入れるメリットがないよ。断ったら頼み事の権利は復活することにする」
「ふふふ、悪くない条件ですなー♪」
「心の広いこまるに感謝しなよ」
「してるしてる! 毎日感謝しまくりだよ!」
「どっちかと言うと
「やかましいわ」
不満そうに机を叩いた彼女はその後、結婚、子作り、キスと怒涛のお願いをしてきたものの、その全てに首を横に振ったことは言うまでもない。
ただ、彼は後に知ることになる。この時交した約束に、とんでもない欠陥があったということを。
「唯斗君、結婚して?」
「それはさっきを言われた」
「でも、同じお願いはダメなんてルールは無いし?」
「…………」
「結婚してくれるまで言い続けるかんな!」
「お願いだから勘弁してよ」
「唯斗君にお願い権はありませーん♪」
ドヤ顔でもう一度「結婚してくれるよね?」と聞いてくる夕奈に、してやられたと深いため息をつく唯斗であった。
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