隣の席の美少女が何故か憐れむような目でこちらを見ているけど、僕には関係がないのでとりあえず寝る ―――ひとりが好きなぼっちだっているんですよ?―――
第358話 記憶探しの旅は地に足をつけることから始まる
第358話 記憶探しの旅は地に足をつけることから始まる
「ゆーくん、お久しぶりです」
闇鍋を楽しんだ翌日の放課後、
そして会う機会の無かった……と言うより、会おうとしても会えなかった彼女に、少し遅めのお土産を手渡した。
「これ、沖縄のお土産。形に残るものがいいって言ってたから、シーサー付きの髪留め7色セットと、ヤンバルクイナ柄の水飲み鳥」
「もしかして、私に渡すためだけに毎日持ってきてくれていたんですか?」
「もちろんだよ。でも、放課後の教室にもいなかったから遅くなっちゃった」
「それなら言ってくれれば、直接ゆーくんの家に取りに行きましたよ?」
「いやいや、むしろ僕が持っていくべきだったね」
「いつでも歓迎です♪」
そう言った彼女だが、「でも、ここ1週間は学校に来ていなかったので……」と呟く。
知らない間に一体何があったのかと心配になったものの、聞いてみれば記憶喪失が回復しそうかどうかの検査入院をしていたらしい。
結果としては回復の傾向が見られてはいるものの、思い出している記憶は唯斗関連のもののみ。
しかも、深く辿ろうとすれば必ず体が拒絶反応を起こすため、完治の見込みは今のところ付けられないんだとか。
「焦らなくても大丈夫だよ。もし詳しい記録を取るために僕が必要なら、教えてくれれば絶対に行くから」
「ありがとうございます、そう言って貰えると嬉しいです! ただ……」
「どうかした?」
「病院へ向かうために電車に乗っていた時、私のことを知っている人に会ったんです。向こうは中学の時のクラスメイトだと言っていて」
「僕も知ってる人かもしれないね」
「私が大変な目にあったことを知ってくれていたみたいで、元気そうでよかったと笑いかけてくれました。でも、私は彼女のこもを何も……」
晴香はスカートの裾をギュッと握り、「もし、努力しても何も思い出せなかったとしたら……」と肩を震わせた。
しかし、すぐにハッとした顔をすると、「お土産をもらって嬉しい時間なのに、暗い事言っちゃダメですよね!」と無理に笑顔を作って見せる。
唯斗はそんな彼女の曖昧に上がった口角を両手で摘むと、引っ張ったり押したりとむにむにしながら「安心していいから」と呟いた。
「ハルちゃんが自力で何も思い出せなかった時は、僕が全部教えてあげる。記憶を失った理由も思い出せない原因も、僕なら分かるから」
「……ゆーくん」
「でも、無理だってなるまでは頑張って。そうじゃないと、きっとハルちゃんが過去を乗り越えられないし」
「そう言うゆーくんも、そこまで隠すってことは知られたくないってことですよね?」
「鋭いね」
「会えない間、ずっとゆーくんのことを考えてましたから。ゆーくんマスターと呼んでもいいですよ?」
「前向きに考えとく」
「ふふ、楽しみにしてます♪」
嬉しそうにぴょんぴょんと軽く跳ねた彼女は、お土産の入った紙袋を左手に提げると、本来ここまで会いに来てくれた目的を教えてくれる。
それは『お医者さんから提案された記憶喪失が改善するかもしれない方法』を一緒に試して欲しいというもの。
もしかすると思い出しかけた時にまた倒れるかもしれないので、安全のためにも家に来て欲しいとの事だった。
「ハルちゃんが思い出したいって思うなら、僕は何でも手伝うよ」
「何でも、ですか?」
「……記憶に関係することだけだからね」
「じゃあ、頭を撫でてもらえませんか?」
「まあ、それくらいならいいけど」
そう答えて晴香の頭の上に右手を乗せると、彼女は手首を掴んで前へ後ろへ、右へ左へと動かしてみる。
しかし、すぐに眉をひそめながら首を傾げると、「これは記憶に関係ないみたいです」と手を離した。
それもそのはず、中学の時に晴香の頭を撫でたことなんて無いのだから。いくら脳内を辿っても、それがトリガーになることはないだろう。
「そうやって確かめるんだね」
「はい! 手探りですけど……」
「すごくいいと思うよ」
一歩一歩、地道ながらも確実に進もうとしている彼女の姿と、3年前から足を止めてしまっている自分を無意識に比較してしまった。
それがどうにも情けなく思えてしまって、唯斗が心の中で深いため息をついたことは言うまでもない。
「じゃあ、このままハルちゃんの家に行こうか」
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