第355話 知らない方がいいこともある
スカートから体操ズボン(
まだまだ余裕そうな彼女が座っていた椅子の下から、とあるものが発見された。
「……何これ」
やけに湿っているそれを発見者であるこまるが広げてみると、こんな場所に落ちているはずがない女物の下着だと分かる。
「まさかとは思うけど、さっき僕が噛み切れなかったのってパンt――――――――」
「そ、そそそそそんなわけないやん!」
「だよね。でも、念の為に確認してもらおうか」
「確認……?」
「ちょうど僕は視界を塞がれてる。
「何もそこまでしなくても……」
「履いてるなら問題ないじゃん?」
「そりゃ、女の子にしか見られないならそうかもしれないけど……それでもだめ!」
これは夕奈の疑いを晴らすための確認でもあると説明しても、断固として拒否の姿勢を続ける彼女。
途中で瑞希に「さっきから夕奈の居ない方に喋ってるぞ」と教えられて、こっそり向きを正したことは伏せるとして。
ここまで拒まれれば、悪い事をしたのでは無いかと疑わざるを得なかった。
「風花、お願い」
「了解だよ〜」
「あ、ちょ、風花! ダメだって……」
「夕奈ちゃんは完全に包囲されている〜♪」
「いやだぁぁぁぁぁ!」
ドタドタと暴れる音を聞く限り、相当抵抗したらしい。しかし、応援警官の
ただ、予想外なことに調査結果は『履いている』。容疑者の供述によれば、抵抗の理由はクマさんパンツを見られたくなかったからだった。
「ぐすっ……もうお嫁に行けない……」
「この歳でクマさんパンツを履いてることはもう知ってるから、何にも影響ないと思うよ」
「それでも恥ずかしかったんだから! こうなったら、責任取って唯斗君が結婚して!」
「大丈夫、夕奈なら一人でも生きていけるよ」
「遠回しに断ってるよね?!」
その後、結婚は無理、お泊まりはお断り、ハグもちょっと……と要求のレベルを下げさせた結果、コンビニスイーツ2つで許してくれることに。
クマさんパンツの代償は安いとは言えないが、決して高くはないらしい。これなら呪いの藁人形を打ち付けている現場を見た時の方が大変そうだ。
「でも、それならこのパンツは誰のなの?」
「あ、それも夕奈ちゃんのだよ。履く用と食用」
「食用って……もう僕が食べさせられたやつだって認めたよね」
「まあ、新品だから害はないしぃ?」
「精神的ダメージが大き過ぎる」
「そんなに嫌か!」
「うん、当たり前じゃん」
周りを見回してみれば、瑞希も風花も花音もこまるも、全員が引いた目で夕奈を見ている。
それはそうだろう。いくら新品と言えど、食べ物では無い上に身につけるものを自分が口にする可能性があったのだから。
「よし、夕奈抜きで鍋を楽しむか」
「反省が必要だよね〜♪」
「それな」
「今回ばかりは救いようが無いよ」
「わ、私が悪かったから……そんな軽蔑した目で見るのはやめてぇ……」
その後、最後の頼みとばかりに助けを求めた花音にすら「やりすぎはダメですよ」と怒られてしまい、夕奈が床に突っ伏したまま動かなくなったことは言うまでもない。
「よし、じゃあマロニー入れるか」
「鶏肉も入れたいです!」
「ネギも」
「時間かかるやつから入れちゃお〜♪」
それから十数分後、「お腹空いたよぉ……ペコペコだよぉ……」とフラフラ近付いてきた夕奈は、ようやくお肉にありつけたのであった。
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