第351話 小籠包はカタコトで言うと響きが可愛い

 あれから瑞希みずき花音かのん夕奈ゆうなと順に食材を投入していき、最後に蓋をして煮立つのを待つ。

 グツグツという音が聞こえてくれば、湯気による火傷の危険も考え、唯斗ゆいとが代表として注意しながら開いてみる。

 もちろん中身は見えないが、これだかグツグツ音を立てていれば鶏肉が入っていたとしても大丈夫なはずだ。


「はい、火は止めたよ。それじゃあ誰から取る?」

「夕奈ちゃんが1番!」

「じゃあ、時計回りに行くか。2番目は花音だな」

「が、がんばります!」


 意気込みが聞こえてきたところで、箸の先端で鍋の位置を確認しつつ中のものを引っ張り出す夕奈。

 彼女は取り皿にソレを乗せると、「いただきまーす!」とアピールしてから勢いよくかぶりついた。


「こ、これは……!」

「「「「「……」」」」」ゴクリ

「イモかな?」

「私が入れたさつまいもです! おばあちゃんが送ってくれたんですよぉ♪」

「それって1つしか入ってないのか?」

「瑞希ちゃんも食べたかったです?」

「そういうわけじゃ……」

「大丈夫ですよ、後で食べられるように皆さん分持ってきましたから!」

「……まあ、それなら有難く頂こうか」

「えへへ、どうぞどうぞです♪」


 暗闇の中でも温かみが伝わって来そうな会話をしつつ、花音は自分の番だと鍋に手を伸ばす。

 彼女はあまり背が高い方では無いので、手前の方にあるものを適当に挟んで、そのまま準備OKとばかりに開いた口へと放り込んだ。しかし。


「っ……んんん?!」


 彼女は突然苦しそうな声を漏らすと、何やらじたばたと暴れ始める。

 心配した風花が「何があったの〜?」と聞くが、言葉を発することが難しいようで何も分からない。

 だが、瑞希には伝わっていたようで、「花音、こっち向け」と支持した直後、手探りで見つけた彼女の両頬を掴んで自分の方へと引き寄せた。


「口開けとけよ。ほら、ふーふー」

「はぅ……た、たふかりまふ……」

「舌、大丈夫か? 汁が飛び出してきたんだろ」


 会話から察するに、花音が食べたものは噛むことで熱々の汁を噴射する系の食べ物だったらしい。

 普通の鍋であっても危険な存在を、彼女は皿にワンバウンドさせることも無く食べてしまったのだから、口内が大惨事になっても仕方がないだろう。


「も、もう噛んでいいれふか……?」

「さすがに大丈夫なはずだ。心配なら水飲んどけよ」

「はい、お世話かけますぅ……」

「全く見えないが、そんなかしこまるな。始める前からこんなこと予想済みだ」

「うぅ、瑞希ちゃん大好きですよ!」

「危ないから引っ付いてくるなって!」


 唯斗は『瑞希のふーふー、見てみたかったな』なんて思いつつ、きっとお互いに嬉しそうな顔をしているであろう2人のおかげで温まってきた胸をそっと押えた。これが世にいう尊いなのだろうか。

 ちなみに、花音が被害を受けた食材『小籠包』は、風花が持ってきたものらしい。美味しいが危険なことに変わりはないだろう。

 隣に座る夕奈が「闇鍋界のボマーだ……」と呟いていたことも、捉えようによっては頷けなくもなかった。


「次は瑞希だね」

「カノちゃんの二の舞にならないでよー?」

「分かってるって。私は……この平べったいのなんか良さそうだな」

「おっ? 夕奈ちゃんが入れたやつかも」

「となるとアレか。それなら安心だな」


 既に夕奈が持ってきた2つの食材を知っている瑞希には予想がついたようで、サッとお皿に乗せると2回ほどふーふーしてから口へ運ぶ。

 反応からして味はあまり良くなかったらしいが、危険性はないということで無事彼女のターンが終了した。


「瑞希、何を食べたの?」

「マグロの刺身だ。微妙に熱が通ってたせいで、ちょっと物足りない感じだったぞ」

「マグロには醤油がないとね」

「出汁を醤油系にすれば良かったかもな」


 今更どうこう言っても変えられないので、また次の機会があればということで話をまとめておく。

 そしてようやく回ってきた風花のターン。ここから闇鍋の本領が発揮され始めるということを、ここにいる全員がまだ知らなかった。

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