第350話 闇鍋は忍耐
あれから一度家に帰った
彼女たちの手には紙袋が提げられていて、その中にそれぞれが持ってきた食材が入っているのだろう。
「
「おう。ちゃんと夕奈の持ってきたものの安全性は保証する」
「それなら良かった」
彼はほっと胸をなで下ろしつつ、机の上に置いたガスコンロの上に土鍋をセットする。
既に汁の準備はハハーンがしておいてくれたため、鍋料理の準備過程として残っているのは食材を入れて火をつけるという工程だけだ。
しかし、今日行われるのは普通の鍋ではない。お互いに何が入っているか分からない状態で入れる必要があるため、部屋を暗くしなければならないのだ。
「じゃあ、カーテンを閉めるけど……あれ、
「あの二人ならさっき出てったぞ。自分たちは2人用の鍋を使って食べるって」
「まあ、小学生に闇鍋はさすがに早いか」
「それに見えないと鍋は危険だからね〜♪」
「正しい」
「天音ちゃんが火傷しちゃったら大変です!」
そういうことなら気にする必要は無い。唯斗は万が一の時に妹が巻き込まれないことに安心しつつ、カーテンを閉めてから部屋の電気を消す。
各々スマホのライトなどを使って机まで辿り着くと、椅子に腰かけてスマホをしまった。
「あ、あれ……唯斗君どこ……?」
「夕奈、こっちだよ」
机の上にスマホを置きっぱなしだった夕奈は、暗闇が苦手なこともあってソファー伝いにグルグル回っているので、仕方なく迎えに行ってあげる。
こんなのでよく闇鍋にワクワクしていられたなとは思ったが、火をつければある程度お互いの顔が分かる明るさにはなったのでしばらくは平気だろう。
「そう言えば、最初の人はいいけど、2番目の人からはどうやって中を見ずに食材を入れるの?」
「それは手探りならぬ箸探りだろ」
「ゆっくりでもいいからね〜」
「見ない、優先」
「なるほど」
もしも見えない中で熱々の鍋に触れたりすれば危険ではあるが、幸いなことに今回用いているのは土鍋だ。
温まりにくく冷めにくい素材であるため、今からさっさとやってしまえば、熱くなる前に全員分入れられるだろう。
火を消せばいいという意見もあるかもしれないが、そこは時間短縮という考えのもと。土鍋の煮えにくさを舐めてはいけないからね。
唯斗は心の中でそう呟きつつ、「それなら僕から」と食材を取りだした。
「おう、頼むぞ」
「サクサク進めちゃお〜♪」
「それな」
他の人が入れる間は目を瞑ることになっているらしい。あまり待たせるのも悪いので、手早く薄めに切った大根と人参を投入する。
もちろん他にも面白そうな候補は色々とあったが、水分を多く含むものや鍋に入りにくいものは、安全性や味の保証が出来ないからとやめたのだ。
「それにしても、上手い具合に鍋の中が見えなくなってるね」
全て入れ終わってから鍋を覗き込んで見るが、部屋の中にある唯一の光源が鍋の真下にあるため、上側には光が届かないらしい。
光と闇のコントラスト効果も働いて、目を凝らしてみても鍋の中に物が入っているのかどうかすら分からないほどだった。
これならうっかり目を開けてしまったとしても、余程おかしなものでない限りは分からないだろう。
「終わったみたいだな。じゃあ、次はこまるの番だ」
「わかった、入れる」
小さく頷いてから食材を取り出したこまるは、そのままでは届かないことに気がついて椅子の上に立った。
目を閉じている唯斗も、すぐ隣で苦戦していることは何となく伝わってくるので、念の為に「手伝おうか?」と声をかけてみる。
ただ、こまるは何とか一人でやり切れたようで、少ししてから「ありがと」という返事と共に頭を撫でてお礼をしてくれた。
「次は私の番だね〜♪」
こまるが座ったタイミングで目を開けた
そして今回の闇鍋において、屈指の
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