隣の席の美少女が何故か憐れむような目でこちらを見ているけど、僕には関係がないのでとりあえず寝る ―――ひとりが好きなぼっちだっているんですよ?―――
第347話 妹との仲直りに目に見えるものはいらない
第347話 妹との仲直りに目に見えるものはいらない
あれから
そして今、意外にも先程帰宅したと言われ、拍子抜けしながらも
「ただいま。天音?」
「天音ちゃん、いるの?」
玄関で声をかけても返事は返って来ず、靴を脱いでリビングに入ってみれば、天音と
彼女たちはこちらの姿を見つけると、お互いに頷き合って目の前までトコトコと近付いて来る。
「お兄ちゃん、師匠、ごめんなさい!」
「迷惑をかけちゃってごめんなさい!」
突然頭を下げられて困惑してしまうが、とりあえず2人は何かを思い詰めていたようで、カバンから取り出したハンカチで順番に涙の跡を拭いてあげた。
それから「何を謝ってるの?」と聞くと、天音が弱々しい声で「デートの邪魔、しちゃったから……」と答えてくれる。
「邪魔だなんて思ってないよ」
「でも、気を遣わせちゃったもん。師匠はお兄ちゃんと2人きりの時間を楽しんでたのに……」
「……天音ちゃん。私がそんなことで怒るように見える?」
「見える」
「あー、もう1回聞こうか?」
「……見えない」
「だよね」
言葉にはしないが、無言の圧力をかけている大人気ないJKさんには引っ込んでもらうとして、唯斗は天音と目線の高さを合わせながら手をぎゅっと握った。
「天音、探偵ごっこは楽しかった?」
「……うん」
「じゃあ、僕はそれだけで満足だよ」
「どうして?」
「僕、お兄ちゃんなのに天音の友達のこと全く知らなかった。けど、すごく楽しそうに笑ってるのを見て、すごく嬉しかったし安心したんだ」
そう言いながらそっと頭を撫でてあげると、天音は「もう子供じゃないもん……」と首を横に振る。
その言葉が『友達』の件に対してなのか、それとも撫でたことに対してなのかは分からないが、それでも唯斗は少しばかり強引にハグをした。
「僕はね、天音たちが居なくなってすごく心配したんだよ。お兄ちゃんには妹を守る責任があるから」
「……ごめんなさい」
「だからね、天音はもっとお兄ちゃんにわがままでいいんだ。手が届かないくらい離れちゃうと守れなくなっちゃうし」
「ほんと……?」
「お兄ちゃんが嘘ついたことある?」
少しおどけたような言い方に、暗い表情にほんの少し光が差した天音は、「ある、たくさんある」と頬を緩ませる。
それから「でも……」と言葉を続けると、満面の笑みで両手を広げて抱き締め返してくれた。
「お兄ちゃんの嘘で傷ついたことないもん!」
「でしょ。天音は何があっても傷つけられないよ」
「うん! だから、信じてるうちはずっと天音のこと守ってね?」
「言われなくても。お兄ちゃんだからね」
ひとしきりなでなでとハグをした唯斗は、幸せオーラ全開の天音にはとりあえず離れてもらい、隣で待ってくれていた鈴乃へ目を向ける。
「鈴乃ちゃんも天音と仲良くしてくれてありがとう」
「あ、あの……バイキング代……」
「いや、小学生からお金は取れないよ」
「でも!」
「じゃあ、こうしよう。そんな暗い顔じゃなくて笑って見せて。いつも天音といる時みたいに」
「こ、こうですか?」
「もっと自然な感じで」
その言葉に一度頬をむにむにとやった鈴乃は、天音と目を合わせてにっこりと笑う。
その表情を満足げに見つめていた唯斗は、彼女の頭を優しく撫でながら微笑んだ。
「100万ドルの価値はあったね」
「100万ドルは1000円より高いんですか?」
「ずっと高いよ。だから、バイキング代のことはもう気にしないで」
「……お兄さんがそう言ってくれるなら!」
何とか鈴乃が引き下がってくれたおかげで、かっこよく支払った分のお金を返してもらわずに済んだし、妹とその友達も笑顔になった。
これこそまさに一石二鳥だ。唯斗は心の中でそう呟くと、気持ちよさそうに撫でられる鈴乃を羨ましそうに見つめる天音の方を見る。
「天音、まだ物足りなかった?」
「べ、別に天音はもうお姉さんだもん!」
「じゃあ、鈴乃ちゃんを2人分撫でてあげよう」
「えへへ、嬉しいです♪」
「うぅ……や、やっぱりお兄ちゃんのためにももう少し子供でいてあげてもいいけど……」
「つまり?」
「撫でて!」
「運が良かったね、もう片方の手が空いてるよ」
「はやくはやくっ!」
「はいはい、よしよし」
「えへへ♪」
こうして兄と妹のすれ違いは、兄力を全開に使ったなでなでによって丸く納まったのであった。
ちなみに、さすがに小学生から奪い取ることは出来ないと思ったのか、ただ羨ましそうに見つめているだけだった夕奈については……。
「ごめん、これ2人以内専用なんだ」
そう言って拒んだものの、後ほど天音たちには内緒でこっそり撫でてあげたそうな。
それがあまりにも気持ちよかったのか、そのまま寝落ちてしまった彼女を背負って駅まで連れて行ったことは、また別のお話である。
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