第346話 兄と妹はすれ違いがち
「ああっ! お兄さんたち居なくなってるよ!」
「え? ほんとだ!」
「急がないと見つけられなくなっちゃうね」
「まだ遠くには行ってないはずだから、すぐにお会計を…………あっ」
「天音ちゃん、どうしたの?」
「……お金、足りないかも」
嫌な予感というのは的中するもので、マジックテープの財布を開けてみれば紙幣は1枚もなく、小銭は500円玉1枚と10円玉が2枚だけ。
小学生1人1000円という値段には到底届くはずもなく、鈴乃が「私が貸してあげる」と言って財布を開けるが、合計しても1800円と少しにしかならなかった。
「ちゃんと確認するべきだった……」
「そうだ、天音ちゃん。携帯でお母さんに連絡して来てもらおうよ!」
「小学生だけでバイキングに入ったなんて知られたら怒られちゃう」
「そ、そっか……」
「それに映画も観ちゃったし。お金たくさん使ったことは隠さないとだよ」
「じゃあ、誰に助けを求めるの?」
「えっと、えっと……」
怒られることを覚悟で助けを求めるか、はたまた別の誰かにこっそり助けてもらうか。
2人がそう悩んでいることを知ってか知らずしてか、先程までレジ打ちをしていた店員のお姉さんが何故か彼女たちのテーブルへとやってきた。
「あの……」
「ごごごごごめんなさいぃぃ! 無銭飲食するつもりだったとかじゃなかったんですぅぅ!」
「いえ、そうではなくて……お会計の件なのですが」
「土下座しますから逮捕だけはご勘弁を……」
天音がそう言って椅子の上で正座をすると、店員さんは「そ、そのようなことはお止めください!」と慌てて止める。
それから小学生2人分の値段が刻まれたレシートを机に置いて、「先程、まとめてお会計されましたよ」と不思議そうな顔で口にした。
「お会計がされた、だと?」
「一体誰がですか?」
「お客様のことを妹さんとそのご友人だと仰っていましたよ」
その言葉を受けて顔を見合せた2人は、「お兄ちゃんってこと?」「そうみたいだね」と頷き合う。
そこで初めて気が付いた。お寿司に夢中でもはや隠れることすら忘れていたとは言え、尾行していたことを唯斗たちが既に知っていたということに。
「お兄ちゃん、分かってて知らないフリしてくれてたんだ……」
「……なんだか悪いことしちゃったね」
「鈴乃ちゃん、帰ろっか」
「うん、これ以上迷惑かけちゃダメだもん」
2人は店員さんに教えてくれたことのお礼を伝えると、しょんぼりとしながら店を出る。
もうこれ以上兄と師匠を探す必要は無い。きっと怒っている訳では無いだろうが、天音は2人きりの時間を邪魔してしまった罪悪感を感じざるを得なかった。
「ねえ、天音ちゃんのお家に行ってもいい? 払ってもらったお金、お兄さんに直接返したいから」
「天音も謝らないとって思ってたところだから、鈴乃ちゃんがいてくれると安心するよ」
「でも、怒られちゃうかな……」
「もし嫌われてたらどうしよう……」
「な、泣かないで! 天音ちゃんがお兄さんのこと大好きだって伝われば、きっと許してくれるよ!」
「……ほんと?」
「うん! それに天音ちゃんみたいな妹を嫌いになれるはずないもん!」
「……えへへ、そうだよね♪」
鈴乃の言葉で折れかかっていた心は何とか持ち直してくれたが、やはり兄に嫌われる可能性があることはすごく怖い。
それでも悪いことをしたのだから謝らなければならないことに変わりはなく、彼女の気持ちも逃げるという選択肢を捨てて出口へと足を向けていた。
一方その頃、天音たちが尾行して来ていないことに気がついた2人はと言うと。
「……迷子かも」
「や、やばくない?」
「今すぐ……呼び出ししてもらわないと……」
「唯斗君顔青いよ?!」
「天音に何かあったらお兄ちゃん失格だ」
「大丈夫、大丈夫だから! とりあえず迷子の子が来てないか聞いてみようよ、ね?」
「……うん」
嫌いになるどころか、大慌てで探し回った挙句、インフォメーションセンターに駆け込んでいた。
「い、居ない……?」
「ちょ、気をしっかり持ってぇぇ!」
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