第345話 誰もが一生に一度はしてみたい会計の仕方

天音あまね、大丈夫かな」

「そんなに心配なら声掛ければいいのに」

「あんな楽しそうに尾行してるんだから、そんなこと出来るわけないでしょ」

「んふふ、それもそうだね」


 唯斗ゆいとはカップに入れてきたアイスを食べながら、欲張ってソフトクリームを7巻もした挙句、盛大にこぼして泣きそうになっていた夕奈を眺める。

 彼女は彼が作り直してあげたソフトクリームを、それはそれはA5ランクのお肉でも食べているのかと思うほど美味しそうに食べていた。

 ただクルクルとやっただけとは言え、ここまで幸せそうな顔を見せられると嬉しくなるもの。

 さすがに「おかわり!」と言ってきた時には、お腹を壊すからやめておきなさいと止めてあげたけど。


「もう満足した?」

「ソフトクリームぅ……」

「それはまた今度食べにこればいいから」

「一緒に来てくれる?」

「気が向いたらね」

「奢ってくれる?」

「それは絶対にない」

「……ドケチ」

「600円は遠慮したくせに、どうして1500円に遠慮しないのか理解に苦しむね」

「ふっ、ミステリアスな女だZE☆」

「何も考えてないだけでしょ」

「ぐぬぬ……」


 悔しそうに頬を膨らませた夕奈は、馬鹿にされた仕返しのつもりなのか、「天音ちゃんに話しかけちゃおうかなー?」なんて言ってきた。

 ただ、「師匠なのに楽しみを奪うんだ?」と言い返したら、しゅんと大人しくなって諦めてくれる。

 やはり師匠という立場は失いたくないんだね。そういう意識があるなら、もう少し小学生がお手本に出来る女子高生になって欲しいよ。

 唯斗は心の中でそう呟きつつ、ご馳走様をしてレジへと向かう。夕奈とのお会計は別だが時間をかけては迷惑なので、とりあえずはまとめて済ませることにした。


「お会計3000円になります」

「あ、すみません。あそこの席の2人の分の会計も一緒でお願いします」

「かしこまりました。小学生の方が2名で間違いありませんか?」

「間違いないです」

「では、小学生のお客様がそれぞれ1000円ですので、お会計合計で5000円になります」

「5000円で」

「丁度お預かりします」


 店員さんからレシートを受け取った彼は、「ありがとうございました!」という元気な挨拶を背中に受けながら、外で待っていてくれた夕奈と合流する。


「へえ、お兄ちゃんらしいことするじゃん?」

ふところはちょっと痛いけどね」

「ふふ、かっこいー♪」

「そもそも、天音たちがお金を持ってきてるかも怪しいからね。さすがにあの歳で無銭飲食はさせられないよ」

「さすが唯斗君。ちなみに、払ったの夕奈ちゃんってことに出来ない?」

「そんなズルする前に自分の分から払おうね」

「うっ……忘れてくれたと思ったのに……」


 しまったと言わんばかりの顔をする夕奈に「こう見えてお金のやり取りにはうるさいよ」と言うと、彼女は「ドケチキングめ!」なんて訳の分からないことを口にした。

 本当のケチはどっちか、他の人から見れば明らかだろうに。ただ、こういう時の対処法を唯斗は心得ている。


「そこまで言うなら払わなくていいよ」

「本当かい?!」

「その代わり時給1000円で1時間半、僕の使用人として働いてもらうけど」

「そ、それは……夜のご奉仕と言うやつかな?」

「変な想像してない?」

「お金の代わりに夕奈ちゃんの身体を弄ぼうって魂胆か! そんなことには屈しないぞ!」

「……あれ、マイクの電源OFFにしたのかな」


 その後も夕奈が「でも、唯斗君なら少しくらい……」なんて言いながらもじもじするので、とりあえず財布の角で脳天を叩いて正気に戻してあげた。

 それでも1500円を返そうとしない彼女に、今後二度と代わりに払ってあげようなんて思わないと誓ったことは言うまでもない。


「唯斗君の使用人になるから……ね?」

「その話は冗談だから」

「なんなら一生働いてあげてもいいよ!」

「いや、僕にそんな雇えるお金はないし」

「嫁という職業なら給料ゼロ円だけど?」

「……なれるといいね」

「遠回しに断らないでくれない?!」

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