隣の席の美少女が何故か憐れむような目でこちらを見ているけど、僕には関係がないのでとりあえず寝る ―――ひとりが好きなぼっちだっているんですよ?―――
第342話 分け合うと量は減るが幸せは増えるの法則
第342話 分け合うと量は減るが幸せは増えるの法則
あれから結局、
そこまでしてプリンが食べたいというわけでもないからと、彼女のだけを注文したのだ。
「んふふ、チョコプリン美味しかったね」
「僕は食べてないけど」
「何言ってるの? あーんしてあげたのにぃ♪」
「……記憶にない」
結果的には夕奈の方から半分この申し出があり、それを受け入れる形で分け合ったのだが……。
差し出されたスプーンを「間接キスになるから」と断ってから、スプーンが2本用意されていることに気がついて恥をかいたのである。
そういうわけで唯斗は、適当なことを考え続けることでここ数分の記憶の消去に勤しんでいた。
「まあ、唯斗君が忘れても夕奈ちゃんは覚えてるかんね。一生忘れない自信あるよ!」
「そんなことより勉強を覚えて欲しいね」
「むっ、せっかくのデートでそういうのやめようよ」
「はいはい、僕が悪かったよ」
「悪いと思うなら手を繋ぎなさい!」
「意味がわからないんだけど」
「いいからいいからっ♪」
彼女は少々強引に唯斗の手を取ると、初めは強めに、それから少しだけ力を緩めて、また強めに握る。
どれくらい力を入れるべきなのかが分からないのだろう。彼からすれば、痛くなければどの程度でも構わないのだが。
「それで、次はどこか行きたいところってあるの?」
「んー、特にきめてないけど」
「それなら帰ろうか」
「ちょいちょい、美少女とお出かけぞ? 少しでも長く一緒にいたいとは思わんのか!」
「全く」
「いや、手繋いだばっかじゃん?」
「早く開放されたい」
「わかった、夕奈ちゃんを好きにしていいから!」
「それは勉強してくれるってこと?」
「……本当に男子高校生?」
もちろん男子高校生だとアピールすべく、無いに等しい力こぶを見せつけると、夕奈は二の腕を人差し指でつつきながら「怪しい」なんて呟く。
唯斗だって当たり前に性欲はあるため、もちろん『好きにしていい』と言われてそういうことを想像したりもした。
しかし、ここで普通に『ホテルに行こう』なんて言える人の方がおかしいのだ。そもそもの話、夕奈の言葉が冗談なことは分かり切っているし。
「唯斗君ってメイド服も似合ってたし、もしかして本当は女の子だったり……」
「そんなわけないでしょ。女の子だったとしたら、こまるにすぐ返事してるよ」
「OKって?」
「どうしてそうなるの」
「いやぁ、最近百合モノにハマってまして……」
「
「さすがに友達同士でカップリングはしないよ?」
「でも、あの二人ってもしかしたら既に……」
「変な事言うのやめて?! 本当にそんな気がしてきちゃうじゃん!」
彼女はそう言って耳を塞ぐが、正直なところ瑞希と花音は性格的にも相性的にもお似合いだ。
もしどちらかが……主に瑞希の方の性別が違っていたとしたら、学校一のおしどりカップルになっていただろう。
そう思わせる光景を日頃から振りまいているおかげで、同学年では『法が許さなくても俺たちは許す』の空気になっているけど。
「でも、僕は男でよかったなって思うよ」
「私とデート出来るから?」
「いや、オシャレとか苦手だから。夕奈みたいに着こなせないだろうし」
「えへへ、夕奈ちゃんは顔がいいせいで何着ても似合っちゃうからなー♪」
「あとメイクとかも難しそうだし」
「唯斗君ならノーメイクでも平気で生活しちゃいそうだもんね」
夕奈は「私だって雑誌とかネットとかで手探りだよ」と呟くと、少し俯きながら自分の頬にそっと右手を触れさせた。
「メイクで思い出したんだけど、今日は少しいつもと変えてるよね」
「……気付いてたんだ?」
「どれだけ付きまとわれてると思ってるの」
「人聞き悪い言い方しないでよ」
「じゃあ、人生の障害となってくれてる?」
「誰が乗り越えるべき壁や」
「いや、胸の話はしてないけど」
「私もしてないよ?」
「だって壁って…………あっ、ごめん」
「謝られると余計悲しいかんね?!」
「ごめんって言ってごめん」
「……バカにしてるよね?」
「バカにしてごめん」
「よし、覚悟は出来てるらしいな」
首をパキパキと鳴らしつつ拳を握りしめる夕奈に、唯斗は「本当にごめ……」と言いかけてから「反省してるから」と言葉を選び直す。
それで少し怒りを引っ込めてくれたらしく、彼はそこへ畳み掛けるように言葉を投げた。
「言い忘れてたけど、今日のメイクの方が似合ってるよね」
「……お世辞はいらないんだけど」
「本気だよ。大人っぽくて好きかも」
「へ? す、好き?」
「メイクが、ね」
「わ、わかってるし。……でも、嬉しい」
「中身も大人になってくれると有難いんだけど」
「……仕方ない! 夕奈ちゃん大人になる!」
「どうやって?」
「お姉ちゃんがたまにやってるんだよ。大人な気分を味わえるって」
「はぁ……?」
その後、いいから着いてきてと言われた先のお菓子屋で、夕奈の行動に思わずため息をついたことは言うまでもない。
まさか、「ここからここまで全部貰おう」ってセリフをうんまい棒の棚の前でするとは思わないだろう。
「
とりあえず、その場では『いくら大人買いしても1本10円ではまだ子供』ということを教えてあげる唯斗であった。
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