隣の席の美少女が何故か憐れむような目でこちらを見ているけど、僕には関係がないのでとりあえず寝る ―――ひとりが好きなぼっちだっているんですよ?―――
第343話 カップルで見ると幸せになる系の映画が存在するなら、全世界のカップルが見に来ると思う
第343話 カップルで見ると幸せになる系の映画が存在するなら、全世界のカップルが見に来ると思う
「あっ!」
「いきなりどうしたの」
突然声を上げた
「昨日からなら、まだ余裕あるから大丈夫だよ」
「ちなみにラブロマンスなんだよね」
「聞いてないけど」
「彼氏と見ると幸せになるらしいし」
「頑張って作れば?」
「おっと、こんなところに手頃そうな独身貴族が!」
「あのおじさんにそんなこと言ったら失礼だよ」
「
背後を確認してから注意してくる唯斗の顔を強引に自分の方へと向けた夕奈は、「付き合ってよ、いいでしょ?」と
「それはどっちの意味で?」
「どっちって、映画に付き合――――――ってそういう意味やないかんね?!」
「なんだ、急に告白されたのかと思った」
「べ、別にそれでも問題ないけど……」
「まあ、どんな意味でも断るけどさ」
「せめて映画はOKしようよ!」
「告白はNOでいいんだ?」
「あ、いや……どうせ夕奈ちゃんは今フリーだし? 唯斗君がどうしてもって言うならいいかもなんて思わなくもないというか……」
「…………」
「なんとか言ったらどうなの!」
「ナントカ」
「ねえ、バカにしてる?」
さすがにツッコミ疲れたのか、ため息をつきながら近くのベンチに腰を下ろす彼女。
手招きされた唯斗はその隣に座ると、「まあ、他にやることがないなら映画でもいいよ」と呟いた。
「ほんと?」
「僕は寝ちゃうかもしれないけどね」
「大丈夫、叩き起すから!」
「せめて優しく起こしてよ」
「ふっ、目覚めのキスを所望かな?」
「……やっぱり帰るね」
「ちょ、冗談じゃん! 好きなだけ寝てていいから、カップルだらけの映画館に1人にするのはやめて?!」
立ち去ろうとするのを必死に止める彼女に、「夕奈もそういうこと気にするんだ?」と言うと、「言ったじゃん、私はひとりじゃ何も出来ないって」という言葉が返ってくる。
そう言えばそんなことを言われた気もしなくはない。正確には『一人でも涼しい顔をしてる唯斗が憎らしくてかっこよかった』だったが。
「夕奈が一人になることなんてないでしょ」
「わかんないよ? もしかしたら、全世界が敵になるかもしれないし」
「どんな大罪犯したの」
「えっと、SAS〇KEの会場をブルドーザーで破壊した……とか?」
「それは敵になられて当然だね」
「何とかを見る会で賄賂まがいのことしてたとか」
「もちろん国民は激おこだよ」
「唯斗君のスマホから18禁の画像だけ削除するとか」
「世界が許しても僕が許さないね。……いや、そんな画像は1枚も入ってないけど」
唯斗の言葉に目を細めた夕奈は、「じゃあ、証拠見せてよ」と言ってくるので、仕方なく写真アプリを開いて見せてあげる。
しかし、そこには彼女が求めているような画像は一枚もない。だって、全て『非表示フォルダ』にまとめられているから。
「……ほんとだ」
「言ったでしょ。弱み握ろうとしても無駄だよ」
「なら検索履歴みせてよ!」
「残念だったね、今朝全部消したばかり」
「新しく増えたやつは?」
「僕、朝からずっと夕奈と一緒だよね? 隣で変なもの検索されてたとしたら嫌でしょ」
「隣に美少女がいるのにどうしてってなる!」
「違う、そうじゃない」
彼はやれやれと言わんばかりに首を振ると、ベンチから立ち上がってエスカレーターのある方へとつま先を向けた。
「とにかく変なものは入ってないから。それ以上疑ったら映画見てあげないよ」
「そんなこと言って、どうせ見てくれるくせにぃ♪」
「あ、そう言えばあのホラー映画の続編の公開って今日じゃなかったっけ?」
「せ、詮索しませんから……」
「楽しみだな、ホラー映画」
「か、帰りたいって言ってたよね! 夕奈ちゃんも気が変わったから、映画はやめにしよう!」
「逃がさないよ?」
「待って、反省したから……い、いやだぁぁぁぁ!」
結局、チケット販売機の前で泣きそうな顔で謝ってきたことに免じて、夕奈の要望通りの映画を見ることにしてあげたことは言うまでもない。
途中で周りの雰囲気に流されたのか、唇を突き出して来た時にはポップコーンを押し込んでやったけど。
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