隣の席の美少女が何故か憐れむような目でこちらを見ているけど、僕には関係がないのでとりあえず寝る ―――ひとりが好きなぼっちだっているんですよ?―――
第331話 必要悪になるのは相当な覚悟と優しさが必要
第331話 必要悪になるのは相当な覚悟と優しさが必要
翌日の昼頃、バスで沖縄の海岸へと向かって少し遊んでから空港へと向かった一行は、売店で飛行機に乗ったイルカのストラップを買った。
「あ、夕奈。東京バナナあるよ」
「沖縄のお土産で買うわけないじゃん」
「僕は大阪のお土産でアメリカの国旗貰ったことあるけどね」
「何故に?!」
「アメリカ村があるらしいよ」
「へぇ……って、せっかくなんだし沖縄っぽいものの方がいいっしょ」
「僕は鳥取のお土産でももみじ饅頭買うよ? 置いてあるのかは知らないけど」
「そもそも、鳥取のお土産に正解なんてある?」
「知らない」
「だよね」
そんな一部の人からは怒られそうな会話をしつつ、結局夕奈は東京バナナを買っていた。
お土産用ではなく、飛行機の中で小腹が空いた時に食べるためなんだとか。
「紹介料として僕にもひとつちょうだい」
「『この醜き下等生物にお恵みを』って言ったら考えてあげないこともない!」
「おばちゃん、東京バナナもうひとつ――――――」
「あげるあげる!」
「『この醜き下等生物の供物です』って言ったら貰ってあげないことも無い」
「夕奈ちゃんは醜くないやい!」
「言ったら隣に座ってあげるけど」
「この醜き東京バナナは供物です!」
「……何か違うけどいいや」
唯斗はそこまで言うなら仕方ないと東京バナナを受け取ると、早速袋を開けて食べようとしたところで、ふとこちらを見つめる視線に気がついた。
彼女は口元から溢れそうになるヨダレを必死に堪えながら、まるで見ていないかのように装っている。
「
「そ、そんなことないですよ……?」
「遠慮しなくていいよ。『私は夕奈より賢いです』って言ったら半分こしてあげるから」
「そんなおこがましいです! 私なんて夕奈ちゃんより……えっと、少し賢いくらいですし……」
「そこはもっと謙遜せんかい」
「あぅ、ごめんなさいです……」
夕奈は自分の方が馬鹿だと言われたことを不満に思っているようだが、花音はこんな頼りなさそうに見えて成績はそこそこいい方だ。
というよりも、夕奈と比べれてしまえば9割方の生徒が『マシ』に入るほどなのだから、少しと言って貰えただけ感謝するべきである。
「頑張ったご褒美に、半分と言わず全部あげるよ」
「い、いいんですか?!」
「美味しいからパクッと食べちゃって」
「えへへ♪ では、遠慮なくいただきますね!」
満面の笑みで東京バナナを頬張った彼女は、右頬に手のひらを添えながら「おいひぃでふ♪」と表情を蕩けさせた。
そんな幸せそうな顔を見せられれば、誰だって庇護欲をくすぐられてしまうもの。
夕奈は箱からもうひとつ東京バナナを取り出すと、まるでおもちゃを投げる前の犬のように目の前でそれを振って見せた。
「カノちゃん、欲しい?」
「欲し……で、でも、これ以上は……」
「わんって言えばあげちゃうけどなー?」
「わん!」
「よしっ、カノちゃん犬はえらいねぇ」
きっと花音の腰から尻尾が生えていたら、扇風機のようにブンブンと回っているだろう。
そんな光景が浮かんでくるような飛びつきように、周りにいた生徒たちもホッコリとしていた。
だが、一人だけそれを許さない人がいる。
「花音! お前、沖縄で少し太ったからお菓子はおあずけだって言ってたろ!」
「ご、ごめんなさいです……でも、誘惑には抗えないんですっ!」
「夕奈、こいつの自制心がゆるゆるなのは知ってるだろ? あまり見える場所でそういうのを出さないでやってくれ」
「餌付けしたのは唯斗君だもん! 夕奈ちゃんは悪くないもんねー!」
「そんなこと言われても、あんな物欲しそうに見つめられて拒めるわけないでしょ」
「……まあ、確かにな。心を鬼にしてる私にも、
瑞希は「だが、花音の未来のためなんだ」と言うと、花音が食べかけていた2本目の東京バナナを取り上げてしまう。
悲しそうに下唇を噛む姿には胸が潰されそうになるが、ダイエットの手伝いを頼んできたのは他でもない花音自身だ。
瑞希は甘やかしたいという姉心のようなものを振り払うと、無慈悲にも首を横に振ってお菓子を背中に隠した。
「2キロ痩せれるまでおあずけだ」
「そ、そんなぁ……」
「私も付き合ってやるから、な?」
「うぅ、頑張るです……」
しゅんと俯きながら
そんななんとも言えない光景に、唯斗と夕奈は「「頑張れ、瑞希」」と密かに拳を握りしめるのだった。
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