隣の席の美少女が何故か憐れむような目でこちらを見ているけど、僕には関係がないのでとりあえず寝る ―――ひとりが好きなぼっちだっているんですよ?―――
第326話 絶妙なラインの特技を見せられると自分も真似したくなる
第326話 絶妙なラインの特技を見せられると自分も真似したくなる
ごちそうさまをした後、ホテルのスタッフさんたちが机の上を片付けてくれる。
「では皆さん、お待ちかねのイベントのお時間ですよ!」
司会を任せられたらしい女子生徒(以降は司会さんと呼ぶことにする)が登場すると、生徒たちはみんな歓喜の声を上げる。
それは
もちろん唯斗とこまるはその様子を見ているだけで、
「皆さん楽しみで眠れなかった、なんてことになっていませんよね?」
「「「「「ちゃんと寝れたよー!」」」」」
「それはそれは。修学旅行、全身全霊で楽しんじゃってますよね?」
「「「「もちろんさー!」」」」
「何よりですね。 それじゃあ、そろそろ2人目の参加者をお呼びしましょうか!」
「「「「……?」」」」
誰もが1人目じゃないのかと首を傾げる様子を見た司会さんは心底愉快そうに笑うと、「言い間違えじゃないですよ?」と言いながら自分のことを指差した。
「以上、私の特技披露『司会のモノマネ』でした!」
「「「「……司会ちゃうんかい!」」」」
「いやいや、もちろんこの後の司会は私が務めさせていただきますよ。得意のモノマネでね!」
この場にいる誰もが思った。ややこしいし、面倒臭いと。ただ、今は楽しい時間だ。余計なことに頭を使おうとする者はほぼ居ない。
みんな『まあいいか』の精神で全てを受け入れると、モノマネから本物の司会になった司会さんが「どうぞ!」と次の参加者を舞台へと招いた。
「エントリーNo.2。猫の鳴き真似やります!」
これまた地味な特技である。ただ、聞いてみると案外クオリティが高く、目を閉じれば本物の猫が迷い込んだのかと勘違いしそうな程だ。
まあ、『怒っている鳴き真似』はともかく、『落ち込んでいる時』と『眠い時』の2つは必要なかったと思うけど。あんまり違いが分からなかったし。
唯斗は心の中でそう呟きつつ、隣で自分も真似ようとして首を絞められた時の猫みたいな声を出している夕奈を、哀れむような目で見るのだった。
「いやぁ、かなり上手かったので聞き入っちゃいましたねぇ」
司会さんは満足げに頷きながら登場すると、次の参加者を舞台へと招いた。
この人、一言コメントと『次お願いします』しか言わないのなら必要なかったのでは……と思うがそんなことは誰も言わない。
こういうのは形式が大事なのだ。少し無駄があるくらいで丁度いい。
「エントリーNo.3。逆立ちしながらペットボトルをキャッチします!」
登壇した男子生徒はそう言うと、近くにいた女子に舞台に上がってもらって、水の入ったペットボトルを手渡した。
それから床に手をついて逆立ちをすると、「こっちに向かって投げてください!」と準備完了の合図をする。
「え、投げるの……?」
「キャッチするので!」
「キャッチ……なるほど、わかった!」
女子生徒は大きく頷くと、ペットボトルをしっかりと握る。自分に与えられた任務を理解したらしい。
しかし、この時は誰も予想していなかった。手伝ってもらう相手として、とんでもなく相応しくない人を選んでしまっていたなんて。
「とりゃっ!」
「ぶへっ?!」
彼女はペットボトルを大きく振りかぶると、文字通り全力で投げたのだ。
しかも、不幸なことに彼女は女子ソフトボール部のピッチャー。しっかりキャップの部分を先端にして、一直線に男子生徒の顔面へと直撃した。
「い、いててて……」
「これはチャレンジ失敗?」
「ち、違いますよ! ていうか、ふわっと投げてください! あと、顔じゃなくて足でキャッチですから!」
「そんなの説明されないと分からないんだけど……」
「確かに足りませんでしたけど、本気で投げる人がどこにいるっていうんですか!」
「血が騒いじゃって……てへっ♪」
そんなハプニングはあったが、2度目のチャレンジではしっかりと成功させてくれたので、会場は大いに盛り上がった。
続けて2本同時、3本同時のキャッチも何とか成功したものの、さすがに4本は難しかったようで、彼はまた練習してくると意気込んで去って行く。
その様子を眺めつつ、唯斗は隣で足の裏でペットボトルを挟む練習をしている夕奈に目をやった。
「……出来そう?」
「ふっ、余裕ぅ♪」
ドヤ顔しながらペットボトルを落とす彼女から、彼がそっと目を逸らしたことは言うまでもない。
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