隣の席の美少女が何故か憐れむような目でこちらを見ているけど、僕には関係がないのでとりあえず寝る ―――ひとりが好きなぼっちだっているんですよ?―――
第311話 運動の後の風呂は気持ちいいが、後方確認を怠ってはいけない
第311話 運動の後の風呂は気持ちいいが、後方確認を怠ってはいけない
夕食の時間から1時間弱部屋で
その手には着替えやらタオルやらの入った袋が握られていて、これから朝食や夕食を食べたのと同じ建物にある大浴場へと向かうのである。
「夜は半袖じゃ少し寒いね」
「部屋の中はいい感じなのにね〜♪」
「それな」
「さ、寒いです……」
「
そう言いながら、自分の着ていた上着を脱いでブルブルと震える肩にかけてあげる。
サイズが合わずに不格好ではあるが、ほっとしたように微笑む花音に
「いやぁ、いい湯だったね」
「ほんとほんと。普通のお湯なんだけど、肌が綺麗になっちゃう感じ?」
「絶対気のせいじゃん」
「そんなことないってー!」
自分たちよりも前に入浴したのであろう女子集団が、わいわいと楽しそうに会話をしながら横を通り過ぎて行く。
彼女らの言葉を聞いた夕奈たちは、どんなにいいお風呂なのだろうと胸を躍らせた。何せ、昨日は部屋風呂で我慢したのだから。
「よし、じゃあお風呂まで走ろう!」
「なるほど。ひと汗かいてからってのもアリだな」
「久しぶりに本気出しちゃおっかな〜」
そんなことを言いながら手短に準備体操を終わらせた3人は、「よーい、どん!」の合図で一斉に走り出す。
彼女たちは運動が出来る方であり、もちろん足もそこそこ早い。ただ、この場には他にもう2人いたわけで――――――――――。
「ふぇぇ……ま、待ってくださいよぉ……!」
「……だるい」
遠ざかっていく3つの背中を眺めながら、花音とこまるが何も出来ないままぼーっと突っ立っていたということは言うまでもない。
「ま、マルちゃんは置いていきませんよね……?」
「たぶん」
「こんな場所で置いていかれたら、迷子になっちゃいますよ! 絶対に離れないでくださいね?」
「それは、フリ?」
「違いますよ?!」
「知ってる。大丈夫、離れない」
「よ、よかったですぅ……」
薄暗い周囲をキョロキョロと不安げに見回しつつ、こまるに抱きつきながら歩く花音。
こまるは歩きずらそうにしてはいるものの、さすがに今の彼女に文句を言えなかったのか、短いため息だけで終わらせた。
「……」テクテク
「……」トコトコ
「……」テクテク
「……」トコトコ
それから5分ほど歩いて、ピタリと足を止めたこまるの横で花音も足を止める。
彼女が「どうしたんです?」と首を傾げると、こまるは相変わらずの無表情でこう呟いた。
「……ここ、どこ?」
そう。2人は同じような景色が続く中を歩いていたせいで、自分たちがどこまで歩いてきたのか分からなくなってしまったのである。
ずっと夕奈や瑞希の後ろをついて行っていたこともあり、こうして自分の目でホテルの敷地内の景色を見るのは初めてに等しい。
「スマホ、置いてきた」
「わ、私もです……」
「どうする?」
「も、戻れないとお腹空いて死んじゃいますよ!」
「それは、ない。さっき、食べた」
「どうすれば……わ、わからないですぅ……」
「……」
パニックになっているのか、自分の声が聞こえていないらしい。
こまるはこんな時の瑞希はどうしているだろうと記憶を探るが、自分にも出来るいい案が浮かばずに困ってしまった。
「も、もう……私は限界みたいです……」
「まだ、迷子、5分」
「うぅ、みんなにありがとうと伝えてください」
「諦めるの、早い」
「マルちゃんも、最後までそばに居てくれてありがとうです。絶対に忘れませんから」
「……」
「いてっ」
まだ喉も渇いていないような時間だというのに、道の真ん中でパタリと倒れてしまう花音。
そんな彼女を正気に戻すために、こまるが優しめのチョップを脳天に叩き込んだ直後だった。
「おーい!」
走って行ってしまったはずの瑞希が、大急ぎで助けに来てくれたのだ。
「こんなところにいたのか。置いていって悪かった」
「み、瑞希ちゃん……ぐすっ……」
「よしよし。こまるも元気か?」
「大丈夫」
「なら私がちゃんと風呂まで連れてってやるからな」
「はいですっ!」
その後、他の場所を探していた夕奈と
「花音、泣いてた」
「ちょ、マルちゃん?! それは秘密ですよぉ!」
「遺言、残してた」
「あぅ……き、聞かないでください……」
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