第294話 3大欲求が関係しあっているかは疑問

 和菓子に洋菓子、それからマンゴーに海鮮。色々と満喫して身も心も腹もいっぱいになった一行は、まだ少し時間があるからと通りを歩いていた。


「最初に見たスイーツ店にでも入るか?」

「僕はもう食べられないから見てるだけにする」

「いやいや、さすがにもう甘いものは十分だ。ただ、あそこの店のジュースが美味しいらしくてな」

「ジュース?」

「おう。シークヮーサーって知ってるか?」

「子供の時、母さんにシーサーの別名だって騙されて信じ込んでたフルーツだよね」

「そ、そうか……お前の家庭事情は初耳だけどな」


 瑞希みずきは苦笑いすると、「とにかく、美味しいと言われたからには飲むしかないだろ?」と親指を立てて見せる。

 唯斗がふと気になって「誰に言われたの?」と聞いてみれば、返ってきた答えは「ネット」だった。今の時代、簡単に情報が仕入れられて便利だね。


「しかも、修学旅行生は割引してもらえる。こんなにいい話があるか?」

「うまい話には裏があるって言うけど」

「ただ利益を生み出すコツってだけだろ。割引したところで儲けが出るようには作ってあるはずだしな」

「そんなものなのかな」


 まあ、何はともあれ腹十分の自分は頼まないから、店の策略には溺れない。

 唯斗はそんなことを心の中で呟きつつ、ご機嫌な瑞希から少し離れて風花ふうかの横に並んだ。


「それにしても、今日の瑞希ってテンション高いね」

「ずっと楽しみだったみたいだよ〜?」

「こういうのって夕奈ゆうなの方がはしゃぎそうなのに」

「普段しっかりしてる分、はっちゃけていい時にはしゃぐタイプなんだよ〜♪」

「なるほどね。こんな事言うのもアレだけど、ああやって女の子女の子してる瑞希を見てると楽しいね」

「ふふ、可愛いでしょ〜?」

「すごくね」


 特に何か恋愛感情的なものを感じる訳では無いが、顔が整っている女の子が笑えばやっぱり可愛いと思ってしまう。

 かわいいは正義とはよく言うが、確かに正解なのかもしれない。彼がそんなことを思っていると、突然風花に花音かのんがぶつかってきた。


「す、すみません! 躓いてしまって……」

「そんなに私とくっつきたかったの〜?」

「そ、そういうわけでは……んぇ? どうして顔を近付けるです?」

「たまには私に甘えてくれてもいいのになって〜♪」

「ふぇ?!」

「瑞希がしてくれないようなお姉さんらしいこと、私なら教えてあげられるのに……ね?」

「どういう意味ですか……?」

「それは教えられてからのお楽しみ〜♪」


 何やらお二人さんはお取り込み中のようなので、唯斗は押し出されるようにして後ろのこまるの隣に移動する。

 ついさっきまで夕奈と並んでいた気もするが、どこに行ったのだろうか。気になって聞いてみると、彼女は少し離れた場所にあるお店を指差した。


「あそこ」

「……あ、ほんとだ」


 夕奈は店の前でちゃっかり串揚げをテイクアウトしていたのだ。あれだけ食べたのにまだ食欲があるとは恐ろしい。

 「ごめんごめん!」なんてヘラヘラしながら追いついてきた彼女に、唯斗はふと思い出したことを言ってみる。


「そう言えば、食欲がすごい人って性欲もすごいって聞くよね」

「ちょ、夕奈ちゃんも女の子なんだけど?! 何サラッとそういう話してんのさ!」

「あ、ごめん。少子化を止める意思の強い人って言うべきだったかな」

「遠回しにしたことで逆に想像力がかき立てられちゃうよ!」

「じゃあ、僕はどう言えばいいの」

「そもそもその話題を出さなければいいの!」


 夕奈は少し顔を赤らめながらぷいっとそっぽを向いたかと思えば、チラチラとこちらを見ながら「まあ、いつかはする話だけど……」と呟いた。


「そりゃ、結婚すれば半分以上は子供を持つだろうし。夕奈も話し合ってくれるパートナーと出会えるといいね」

「遠回しに自分は話し合わないって言ってる?」

「今のところ子供が欲しいと思ったことないし」

「それなら私も2人っきりでいいんだけど……」

「やっぱりいつかは欲しいかな」

「手のひらドリルすな」


 べしっと唯斗の背中を叩いた夕奈は、「というか、高校生のうちからこんな話早いって!」と強引に話題を切り上げる。

 性欲云々は確かに恥ずかしがるのもわかるが、子供を持つ持たないの話は恥ずかしがる必要はないと思うのに。

 彼は心の中だけでそう呟くと、先程からずっと黙っているこまるの方へ目をやる。いつも静かではあるが、あまりにも関わってこないから不思議に思ったのだ。


「こまる、どうかした?」

「……?」

「いや、いつもより視線が静かだから」

「……」


 少し見つめあった後、彼女は自らを納得させるように小さく頷くと、ようやく口を開いてくれる。

 そこで判明した静かだった理由に、唯斗と夕奈は悪いと思いながらもクスリとしてしまうのだった。


「子供に、身長、抜かれる。……イヤ」

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