隣の席の美少女が何故か憐れむような目でこちらを見ているけど、僕には関係がないのでとりあえず寝る ―――ひとりが好きなぼっちだっているんですよ?―――
第273話 暗闇を抜けたら一人減ってるって、もはやホラーだよね
第273話 暗闇を抜けたら一人減ってるって、もはやホラーだよね
深海の魚たちを鑑賞した後は、海の底で発光する不思議な魚などが集まった海のプラネタリウムを楽しんで、ようやく明るい場所へと出てきた。
「ここが最後のみたいだね」
「沖縄の川なんかにいる珍しい魚らしいな」
「すごく長い水槽だ〜♪」
「それな」
琉球の自然を再現したらしい水槽の造りに一行が魅入っている中、
「
そう言われて、初めて夕奈が付いてきていないことに気がついた。
確かに深海魚のエリアを離れるところまではいたはず。
「……となると、まだ向こうにいるのか」
「探しに行く?」
「いや、私たちはここに残ろう。もしかしたら入れ違いになるかもしれない」
「でも夕奈って暗いの苦手だよね。誰も行かないと帰ってこないかもしれないよ?」
「それなら
「どうして僕なの」
「お前が行けばあいつが喜ぶからだ」
そう言って親指を立てる瑞希を、隣のこまるは少し不満そうに見上げている。
どうやら唯斗を迎えに行かせることに反対らしい。それならばとこまるが行くことを提案してみるが、あっさりと却下されてしまった。
「マルを一人で行かせるのは危険だろ」
「そうだよ、誘拐されちゃうかも〜」
「私は、そんなに、子供じゃない」
「子供じゃなくたってお前は軽いんだ。暗い場所で悪い人に目をつけられたら終わりだぞ?」
「それなら瑞希が行ってよ」
「私は花音を守らないとだからな」
「じゃあ、
「私って方向音痴だから、迷子が増えちゃうよ〜?」
「……」
瑞希と風花の行けという視線、こまるの行かないでという視線。二つの視線の間で右往左往した結果、唯斗は深いため息をついて小さく頷く。
「わかった、行ってくる」
「……唯斗」
「迎えに行くだけだよ、すぐ戻るから」
「……待ってる」
「うん、待ってて」
袖を引っ張ってきた手をゆっくりと離してくれる彼女の頭を撫で、先程歩いてきた道を引き返す唯斗。
そんな彼の背後からは、出口から入ってきた先生の「そろそろバスに戻ってくださいね〜」という呼びかけが響いていた。
「こまる、悪いな」
「……ばか」
「不満を抱いてるのは分かる。だがな、お前が不安な時に一番に迎えに来て欲しいのは誰だ?」
「……」
「私はお前もあいつも応援してる。だから最後には小田原に決めさせた、その選択を恨んでやるなよ」
「……恨まない」
こまるはくるりと背中を向けて水槽を覗き込むと、相変わらず無表情のまま魚を眺め始める。
「夕奈も、大切、だから」
心の中で取り返すことを誓いながら。
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瑞希たちが先にバスへ戻った頃、唯斗は人の減った深海魚のエリアを歩き回っていた。
道なりに進めば会えると思ったのだが、どこを探しても夕奈が見つからないのである。
「先に帰ってたんじゃ……いや、もう少し探そう」
水槽の傍で無ければこれだけ暗いのだ。あちらが周りを見ていなかったのなら、入れ違いになった可能性だって十分にある。
それでも残っているのに見捨ててしまう可能性の方が、唯斗にとっては後味の悪いものなのだ。何より瑞希たちに怒られるだろうし。
「夕奈、どこにいるの」
呼びかけてみても声は返ってこない。
「そろそろバスが出ちゃうから戻ろうよ」
返ってこないとわかる度、少しずつ不安になる。あれだけ騒がしい夕奈が、自分の声を聞いてもなお黙っているとは思えなかったから。
そうなると、入れ違いを除いて考えられるのは、このエリアに居ないか声を出せない状況にいるかの二択。
「…………」
彼の頭に真っ先に浮かんだのは、先程の瑞希も言っていた『悪い人』の存在。
いくら運動神経のいい夕奈だって、暗闇で背後から奇襲されれば一溜りもないはずだ。顔だけは可愛いのだから。
「……って、そんなわけないか」
いくら暗闇でも、大事な魚を展示しているエリアに監視カメラの一つや二つは付いているはずだ。そんな場所で犯行に及ぶバカはいないだろう。
心ではそう分かっているのに、不思議と早く見つけてあげないとと誰かに背中を押されている気がする。
「このエリアじゃないのかも」
唯斗はそんな独り言を呟くと、探し尽くしたこの場所を出てもう一つ前のエリアへと足を向けるのであった。
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