第262話 お魚ユラユラ、気分はフラフラ
海中散歩の気分を楽しんだ後は、さらに進んだところにあるサンゴの展示を眺めてから、ここら『サンゴ礁への旅』一帯の魚の個水槽エリアへとやってきた。
「たくさん水槽があります!」
「何種類かずつに分けて入ってるらしいぞ」
「すごい」
「
はしゃぎながら走り出す夕奈を、呆れたように苦笑いしながら追いかける
「あれ、
「ずっと青に囲まれてるからなのかな。ちょっと気分が悪いかも〜」
「どこか座れる場所探そうか?」
「ううん、大丈夫。だけど、肩貸してほしいな〜♪」
「……本当に気分悪い?」
「疑うの〜?」
風花は「シクシク〜」なんて言って泣き真似をしているけれど、気分が悪いと言っている人を疑うのは確かにあまり宜しくない。
「おだっち、優しいね〜♪」
「断る理由もないだけだよ」
「こうやってベタベタしてるのに〜?」
「何か問題あるの?」
「ふふ、それはこれから分かると思うよ〜♪」
彼女がそう言いながら体重を預けてくる……と言うよりは、体をやけに密着させてくると、前にいた2人の視線がキッとこちらに振り向いた。
「あー! 風花、唯斗君とイチャついてる!」
「……ズルい」
視線の主である夕奈とこまるは、観賞していたチンアナゴたちを放ったらかして、こちらに駆け寄ってくる。
それから彼と風花を強引に引き離すと、不満そうにじっと見つめてきた。
「夕奈ちゃんとはイチャつけないくせに、風花とならそういうことするんだ?」
「別にイチャついてないよ」
「じゃあ、なんでくっついてるのさ!」
「それは風花が気分悪いって言うから……」
言葉の信憑性を高めるため、「ね?」と同意を求めて風花の方を見ると、彼女は相変わらずユルユルな笑みを浮かべながら首を傾げる。そして。
「私は唯斗君に膝枕を頼まれただけだよ? ここでは難しいから、代わりにくっついてあげてたの〜」
さもそれが真実かのように、一点の迷いもなく偽りを述べたのだった。
当然それを聞いた唯斗は困惑してしまうが、夕奈とこまるは完全に信じ込んだようで。
「膝枕なら夕奈ちゃんでもええやろがい!」
「私の、つかう?」
「必要ない。そもそも膝枕なんて頼んでないし」
「君はまた嘘を重ねるのかね?」
「素直、大切」
「……はぁ」
どれだけ言葉を連ねようとも、2人が信じてくれる気配は全くなかった。
これでは手に負えないので、風花に貢物でも約束して助けてもらおうと見てみれば、彼女は満面の笑みで手を振りながら瑞希たちのところへと向かっているではないか。
「……してやられた」
その瞬間、唯斗は察してしまった。風花は最初から演技をしていて、自分が夕奈とこまるに絡まれるこの状態が目的であったということを。
「ねえ、膝枕いらないなら魚見に行こうよ!」
「それな」
「わかったよ、ついて行くから引っ張らないで」
「んふふ、夕奈ちゃんもくっついちゃう♪」
「私も」
正直、密着されて魚を眺める趣味はないし、どちらかと言うとのんびりと水槽の前でうつらうつらしたい気分ではあるが。
「仕方ないな……」
2人の楽しそうな様子を見ていると、そこまで悪い気もしないので、今くらいは黙ってマリオネット唯斗を演じてあげようと諦めるのであった。
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