第261話 泳ぐ魚を見ると追いかけたくなる
次のエリアへと移動すると、まず最初に今度は巨大なガラスが視界に飛び込んできた。
ここは『サンゴの海』というエリアらしく、魚を見ると言うよりかは、魚と共にあるサンゴ礁を見る場所のように感じる。
「すごっ、めちゃくちゃでかいよ!」
「
「だってこんな大きなガラス、タワーマンションの最上階でしか見ないやん?」
「タワーマンションの最上階に行ったことないから分からないけど」
「ふっ、これだから
「そう言う夕奈は行ったことあるの?」
「無い!」
「……逆に尊敬する」
虚空を威張っておきながら「そんなに褒めないでよー♪」と後ろ頭をかいている彼女を放置して、唯斗はゆっくりと歩きながらサンゴ礁を眺める
「ここのサンゴ礁、水族館が育ててるらしいな。10年以上になるやつもあるらしいぞ」
「それはすごいね」
「この水槽、天井がないだろ? 日光を採り入れてるから、自然な感じに光が入るのがまたいいな」
「やけに言葉に力が籠ってるね」
「こういう言われなきゃ気付けない部分の拘り、結構好きなんだよな。知ればもう一度来たくなるし」
「分からなくもないよ」
瑞希の言うことも納得ではあるものの、こまるは早く大きな魚が見たいようで、少し前を歩いては振り返ってを繰り返している。
仕方ないのでサンゴ鑑賞はここで切りあげることにして、次の『熱帯魚の海』エリアへと向かった。
「おお、魚が沢山いるな」
「すごく綺麗だね〜♪」
「それな」
「おでこぶつけたドジなお魚さんもいます!」
もちろん水槽の壁にぶつけて腫れているわけではないので、とりあえず彼女のことは宥めて落ち着かせてあげる。
「なるほど、生まれつきだったのですか!」
「色んな魚がいるから、初めて見ると驚くよね」
「はいです!」
花音はニコニコと笑った後、水槽に近付いてコブダイを見つめると、「ドジなんて言ってごめんなさい」と頭を下げ――――――――。
ゴンッ
――――――ようとして額をぶつけてしまった。幸い水圧にも耐えうるガラスなため、魚たちを驚かせるまでは行かなかったようだが。
「い、痛いですぅ……」
彼女の方はそこそこのダメージを受けてしまったらしい。自爆と切り捨ててしまえばそれまでではあるが、放っては置けないので傷がないことを確認してあげる。
「おいおい、花音。気をつけろよ」
「ご、ごめんなさい……」
「別に私に謝る必要は無いぞ。謝るなら魚の方にだろうしな」
「そうでした! ごめんなさ―――――――」
「花音?!」
「っ……ま、またぶつけるところでした……」
彼女は頭は悪くないはずなのだが、慌てると何もかも忘れてパニックになってしまうらしい。
あと、そもそもドジな部分が強いため、帰るまでに歩くコブダイが出来上がっていないか心配だ。余裕がある時はちゃんと見張っておこう。
「唯斗、次行く」
「そうしよっか」
「暗くなる。手、繋ぐ」
「本当だ、進むほど段々暗くなってるね」
「離さないで」
「わかった、離さないよ」
こまるの小さな手を握り、奥へと続く道を歩き出す唯斗。後ろを着いてきていた夕奈はと言うと、薄暗くなった辺りから
どうやらこのエリアにある水槽は、バラバラに見えて実は全て繋がっているらしい。
光の加減を暗くしていくことで自然と魚の住み分けをしつつ、見る者は歩きながら深海に潜るような感覚を味わえるんだとか。
「暗いから足元気をつけて」
「ありがと」
「なんならおんぶしてあげようか?」
「いらない」
「だよね」
口ではそう言いつつも、暗くなってくると彼女の手を握ってくる強さが少しだけ強くなったのが分かる。
その強がりを微笑ましく思いつつ、説明が書いてあるもののどれがどれだかよく分からない魚たちを堪能して、一行は熱帯魚の海エリアを抜けたのだった。
「花音、右の靴はどこにやったんだ?」
「い、いつの間にか無いです!」
「探してくるからそこで待ってろ」
「自分の責任です、私も探しに行きます!」
「……仕方ないか。なら通路の右側を頼む」
「分かりました!」
この後、全員で暗闇を探してようやく見つけたものの、今度は左足の靴を探す羽目になるのだけれど、それはまた別のお話。
「あれ……夕奈ちゃんのコーラもないんだけど」
「お前はまだ催眠解けてなかったのかよ」
「催眠ってなんのこと?」
「全く、幸せなやつだな」
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