第260話 その断罪は正義か否か
「他のお客さんに迷惑をかけたらどうなるか、あなた達は分かっていなかったみたいですね?」
「わ、わかっていましたとも!」
「
「っ……あれ、お腹の調子が……」
「逃がしませんよ?」
お腹を擦りながら先生の横を通り過ぎようとした夕奈は、もちろんあっさり掴まってベンチに座らされる。
そして先生はゆっくりとこちらを振り向くと、唯斗を見つめながらにっこりと微笑んだ。
「あなたはどう見ても被害者だったと聞きました。ですが、一応反省の言葉を貰えますか?」
「高校生にもなって人様に迷惑をかけたなんて自分が恥ずかしいです。かけるのは刺身に醤油だけで十分なので」
「はい、合格」
「よしっ」
先生に「楽しんできてくださいね」と手を振られ、少し離れたところで待ってくれている
そこへ引っ付いていくこまるに焦りを覚えた夕奈は、何とかして早く許してもらおうと頭をフル回転させるが――――――――――。
「かけるのはブロッコリーにマヨネーズだけにしておくべきでした!」
「不合格。私はブロッコリーには塩派です」
「なっ?! そんなの聞いてないですよ!」
「いいえ、13回目のホームルームで私は『野菜には塩派ですが、塩分過多には注意しましょうね』と言いましたよ?」
「覚えとるかい!」
「反抗的な態度、許せませんね」
「っ……あ、あれだけはご勘弁を……」
「なるほど。夏合宿のアレが効きましたか」
「い、いやだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
先生に引きずられるようにして、いつの間にか現れた黒塗りの車に引きずり込まれていく彼女。
それから10分後、ようやく戻ってきたかと思えば、先程までジャイアントスイングをしていたとは思えないほどげっそりとした夕奈がそこに立っていた。
「い、一体何をされたんだ?」
「こんなに元気の無い夕奈ちゃんなんてお久だよ〜」
「それな」
「もしかして一大事ですか?!」
「実は―――――――」
彼女の話によると、あの車の中で数学ドリルを解かされ、1分以内に解ければ目の前に置かれたキンキンに冷えたジュースをプレゼントと言われたらしい。
しかし、このポンコツ頭でクリアできるはずもなく、10度のチャンスを全て逃した挙句の果てに目の前で美味しそうにコーラを飲まれたんだとか。
「あの女教師、恨めしい……」
「ジュースくらい自分で買えるでしょ」
「唯斗君はタダで飲めるジュースの美味さを知らないからそう言えるんだよ!」
「それを知ってる方がおかしいって認識はないんだ」
「無い!」
「胸を張れることじゃないから」
「胸ないとか言うなし」
「今のは完全に被害妄想」
「え、苦い雑草?」
普段から頭がどうにかしてるとは思っていたものの、今回ばかりは先生のお仕置きのせいで完全に壊れてしまったらしい。
唯斗は仕方なく瑞希に助けを求めると、彼女は夕奈の目の前で五円玉を揺らしながら「コーラだ、これはコーラだ」と暗示をかけ始める。
「夕奈、コーラ飲むか?」
「え、飲む飲む!」
「ほらよ」
「これが飲みたかったんよなー!」
心底嬉しそうな顔をしながら、瑞希から受け取ったお茶のペットボトルをコーラだと思い込んでゴクゴクト飲み始める彼女。
この様子を見る限り、夕奈にとって夏合宿での先生のスパルタ教育は、余程根深いトラウマになっていたらしいね。
「夕奈、魚見に行こうか」
「唯斗君が言ってくるなんて珍しいね」
「何と言うか……そういう気分なんだ」
「ええ、何か企んでるんじゃないのー?」
「そんなに言うなら行かないけど」
「行く行く! さあ、一緒に魚を見に行こう!」
「はいはい」
さすがにここまで元気を吸い取られたような人を放っておけるはずもなく、唯斗は仕方なく差し出された手を握って少しだけリードしてあげることにしたのだった。
「唯斗君、写真写真!」
「……もう元気になってるし」
「文句はいいから早く撮って!」
「わかったよ。はい、チーズ」
「いえーい♪ じゃあ、次は唯斗君と2人で!」
「絶対に嫌だ」
「一生に一度のお願いじゃん?」
「前にも言ってたでしょ、それ」
まあ、結局は5分後には子供みたいに大はしゃぎしていたから、そもそも心配なんて必要ないみたいだったけれども。
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