隣の席の美少女が何故か憐れむような目でこちらを見ているけど、僕には関係がないのでとりあえず寝る ―――ひとりが好きなぼっちだっているんですよ?―――
第259話 生き物との触れ合いはテンションが上がる
第259話 生き物との触れ合いはテンションが上がる
人の流れる方向へ誘われるままに美ら海水族館へと入った一行は、まず初めに自分たちの背丈よりも低い水槽を見つけた。
どうやらこのエリアは『イノーの生き物たち』という場所らしい。イノーとは沖縄の言葉で、サンゴ礁に囲まれた浅い海のことを指すんだとか。
「タッチプールだって。ここにいる生き物は触れるみたいだよ」
「え、刺したりしない?」
「水族館が触っていいって言ってるんだから、安全な生き物だけでしょ。居てもウニくらいだよ」
「ウニって結構痛いじゃん」
「そんなに言うなら
「マイケルマイケル、ジョーダンだって! 夕奈ちゃんも触っちゃうもんねー!」
夕奈は「きゃー、ヌルヌルしてるー!」なんて言いつつ、「この子にしーちゃお♪」とノールックで無造作に選んだものを撫で始める。
「サンゴ礁辺りに住んでるからなのかな。すごい硬くてザラザラしてる……」
「まあ、そりゃそうでしょ」
「これで殴られたら、
「僕じゃなくてもそうなると思うけど」
「むっ、そこは『生き物で遊ぶな』じゃないの?」
「いや、だって―――――――――」
不満そうに頬を膨らませる彼女に、唯斗は少し引き気味で何度か視線を夕奈と水槽を行ったり来たりさせた。
その行動の意図を察したらしい彼女は自分の手元へと目を向け直すと、3秒ほど固まってからトコトコと離れていって隅っこで丸くなってしまう。
「あれ、気付かないものなのかな」
「生き物だと信じ込んでいたみたいだからな」
「私なら気付くかも〜」
「わかる」
実は夕奈が触っていたものは生き物ではなく、設置物である片手サイズの石だったのだ。
持ち上げようとしなかったことと、水の中での触り心地しか分からなかったことが気付けなかった主な原因だろう。
「あ、あー! わ、私も石を触ってましたー!」
しかし、彼女が触っていたのはヒトデ。優しさは心に染みると言うが、傷口に染みるものは厳禁という結果となってしまった。
「恥ずかしい……もう、消えたい……」
「落ち着いてください! 早まっちゃダメです!」
「え、いや、ちょ……」
「海に飛び込んだりしちゃダメです!」
「待って、私振られてる?!」
「絶対にダメです!」
何だかよく分からないが、花音が夕奈をネタ迷い地獄に閉じ込めてくれているようなので、今のうちに落ち着いて生き物との触れ合いを満喫することにする。
「……ん?」
そう思いながら水槽の方へと体を向けた瞬間、すぐ横で何やら奮闘しているこまるが見えた。
「あ、もしかして届かない?」
「……届くし」
「向こうに子供用に浅くなってるところあるみたいだよ。あっちなら触れるんじゃないかな」
「……あほ」
「わかった、みんなと一緒がいいんでしょ。それなら生き物をもっと近くに持って――――――――」
きてあげる。そう言いかけた瞬間、彼女が珍しく一瞬だけ目に見えて不満そうな
太陽を見てしまった後の残り影のように頭の中に滞り、言葉にされなくても『そうじゃない』と伝わってくる顔だった。
「……そういうことか」
唯斗は少し考えてから小さく頷くと、相変わらず水槽と睨めっこしながら背伸びをしているこまるをひょいと持ち上げる。
いつもやっている高い高いの少し低いバージョンだ。腕の負担はかなり増している気がしなくもないが、彼女を水の中に落とさないためと思えばなんてことない。
「こまる、これが良かったんでしょ」
「さすが」
「気付くの遅くなっちゃったけど」
「私も、
「ううん、ちゃんと気付けるようになるよ」
こまるは無表情なもののどこか楽しそうに頷くと、彼の手の中で色々な生き物を触り始めた。
その様子を眺めていると、
「唯斗君、私もマルちゃんみたいにしてよー!」
「うわ、もう復活したの?」
「迷惑そうな顔すな」
「違うよ、邪魔者だなって思っただけ」
「変わんないじゃん!」
結局、そんな平穏な時間は長続きせず、半ば強引に夕奈を持ち上げさせられたことで、唯斗の腕はクールタイムを要することになったのだけれど。
「ふっ、唯斗君は軟弱なんだよ」
「ストレッサーに言われたくない」
「そんなこと言っていいのかな? 唯斗君抱えてジャイアントスイングしちゃうゾ?」
「望むところだね」
「よし、言質は取ったかんな」
この時、彼はまだ知らなかった。夕奈が本気を出さなくても唯斗くらいの重さなら、抱えたまま軽々40回転出来てしまうという事実を。
「唯斗君、参ったかー!」
「参ったけど……どっち向いて言ってるの?」
ただし、三半規管は弱いらしい。
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