第250話 我が家が一番だが、帰り際は少し寂しい

 朝ごはんが終わってからはダラダラしたり、こまるに頼まれてハグやら高い高いやらをした後、お昼ご飯を一緒に食べて荷物をまとめた。


「そろそろ帰るね」

「……うん」

「また遊びに来るよ」

「ほんと?」

「もちろん。マコさんにご飯美味しかったですって伝えといてね」

「わかった」


 見送りに出てきてくれたこまるが頷いたのを確認して、唯斗ゆいとは背中を向けて歩き出す。

 しかし、数歩進んでからやっぱり引き返すと、不思議そうに見上げる彼女の頭をよしよしと撫でた。


「また学校でね」

「うん」

「じゃあ、今度こそバイバイ」

「バイバイ」


 再度背中を向けて歩き出す彼。振り返る寸前に見えたこまるの口角は、いつもより少しだけ上がっていた気がする。

 その小さな変化だけでも、唯斗はすごく嬉しく思えたことは言うまでもない。学校でもあの表情を見せてくれるといいのだけれど。


「よし、帰ったら昼寝しよう」


 彼はそんな独り言を呟きつつ、駅の道をほんの少しだけご機嫌に歩くのだった。


「……あれ、どっちに曲がるんだったかな」


 道に迷って電話しようとした時、スマホを忘れたことに気が付いてすぐに取りに戻ったから、思ったよりも早い再会になっちゃったけどね。


「ごめん、確認し忘れ……って、どうして検索履歴に『ド〇キ R18』ってあるの?」

「知らない」

「絶対にこまるが調べたよね?」

「記憶に、ない」

「……こまる、嘘つく子嫌いだなぁ」

「私が、やりました」

「よし、ちょっと署まで来てもらおっか」

「署は、唯斗の家?」

「随分と都合のいい解釈だね」


 もちろんそんなわけもなく、勉強机の下と言う名の独房に投獄された彼女に取り調べをしていたら、帰るのが30分も遅くなってしまったのだった。

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「ただいまー」


 家に帰ると、リビングの方から「おかえり!」という声が返ってくる。

 出迎えは無しかと少し落ち込みながらリビングに入ると、天音あまねはゲームに夢中になっていた。


「唯斗君、おかえり」

「ああ、居たんだ」

「天音ちゃんのお世話頼まれてたかんね!」


 対戦相手は夕奈だ。彼女は「ありがとう」という言葉に「いいってことよ!」と親指を立てている間に天音に負け、「唯斗君のせいだからノーカン!」と大人気ないことを言っている。


「師匠は何度やっても勝てないよ」

「そ、そんなことないし!」

「もう24連敗したのに?」

「10000回ダメでも10001回目があるんですぅ!」

「そんなにしたらコントローラーすり減っちゃうよ」

「それが歴戦の証やん?」

「師匠は心もすり減ってるけどね」

「ぐぬぬ、弟子のくせにぃ……」


 あまりの子供っぽさに見ていられないなと思い始めた頃には、「カノちゃん師匠呼ぼっかな〜」なんて言われてしまう始末。

 天音の「師匠が誠意を見せるなら別だけど?」なんて言葉に釣られて、小学生相手に土下座し始めたから目を逸らしちゃったよ。


「僕、これから寝るから」

「お兄ちゃん、夜寝なかったの?」

「寝なかったって……マルちゃんと何かあったの?!」

「そんなわけないでしょ。昼寝したいだけだから」


 グイッと近付いてくる夕奈にデコピンをして、軽く押して横に除けてから扉を開ける。

 ただ、これではあまりな仕打ちだなと思い直した唯斗は、彼女の方を振り返ってデコピンした箇所をそっと撫でてあげた。


「天音の面倒見てくれてありがとうね」

「……唯斗くん」

「あんなに喜んでるし、いいお姉ちゃんだったんだろうね。これからも安心して任せられるよ」

「うん! もっと頼っていいかんね?」

「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」


 以前は妹が夕奈に似たらどうしようなんて危惧していたが、今となってはもう今更だろう。

 なら、天音がこれだけ懐いている彼女を頼るのも、ひとつの選択肢として考えられなくもなかった。


「おやすみ」

「何時に起きる?」

「何、起こしてくれるの?」

「まだここにいればね」

「じゃあ、3時間後に起こしてくれる?」

「了解!」


 ピシッと敬礼をしてみせる夕奈にもう一度「ありがとう」と伝え、唯斗は自分の部屋へと向かうのだった。

 その数十分後、ベッドに忍び込んだ夕奈が卍固めされて捕られたことは、また別のお話である。

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