第249話 壁に耳あり障子に目あり

 翌朝は朝ごはんを食べながらひろしさんとも会話をして、こまるとのことについて色々と聞かれた。

 何か進展はあったかなんてことも聞かれたが、唯斗ゆいとは彼女と目を合わせてから「いいえ」と答えておく。

 進展らしい進展がなかったことは事実だからね。何も無かったかと聞かれれば、それにはNOと答えるしかないけど。


「ふふ、ふたりったら手を繋いで寝てたんだよ?」

「マコさん、覗きに来たんですか……」

「写真も撮ったよ♪」

「……今すぐに消してください」


 スマホを見せつけてくるマコさんを唯斗は追いかけるが、ちょこまかと動きが素早くてなかなか捕まえられない。

 ようやく捕まえられたと思えば、いつの間にかこまると入れ替わっているではないか。本当にややこしいお母さんだ。


「お母さん、その写真、ちょうだい」

「もちろんあげるよ! ご近所にも配ろうかな?」

「お願いですからやめてください」

「じゃあ、マルちゃんと結婚して!」

「条件が人生に影響し過ぎです」


 さすがにそれは聞けないからと、不意打ちでスマホを取って写真を削除。しっかりゴミ箱からも消し去って、これで平穏は守られたと胸を撫で下ろす。

 しかし、マコさんは履いているショートパンツの中に手を突っ込むと、中から既に現像された50枚の写真を取り出してそれをヒラヒラさせた。


「なんてところから取り出してるんですか」

「ばら撒かれたくなければ、今すぐマルちゃんとキスしなさい!」

「ヒトラーもびっくりな暴君ですね」

「キュー〇ー大好き?」

「それはマヨラーです」

「トマト食べれないけどこれならいける!」

「それはケチャラー」

「Hey YO!」

「それはチェケラ」


 ひたすらボケ続けるマコさんから写真も取り上げ、1枚だけこまるに渡してから残りを自分のポケットに入れておく。

 後できっちり処分させてもらおう。もし流出でもされれば、こまるがお嫁に行けなくなってしまうだろうから。

 あと、夕奈ゆうなに『マルちゃんとしたなら、私とも手繋いで寝ようよー』なんて言われかねないもんね。


「むぅ、いいもん! もっとすごい写真保存してあるもん!」

「……まさか?」

「ふふふ、そのまさかだよ♪」


 怪しい笑みを浮かべるマコさんを見て、唯斗の脳裏に浮かんだのはこまるとのキス。

 しかし、あの時部屋は暗かったはず。ドアが開けば分かるはずだが、酸欠だったから気付けなかったのかもしれない。


「これを瑞希みずきちゃんに送信しちゃうもん」

「それだけは勘弁してください」

「お断りする!」


 急いで止めに入るが間に合わず、シュポッという送信音が食卓に響く。

 こまるとキスしているシーンなんて見せられたら、瑞希は反応に困るだろう。その後、『軽い気持ちでするな』と怒るはずだ。


「そ、そんなに落ち込んじゃった?」

「当たり前ですよ。人に見られたくないですし」

「確かに見られたくないよね、高い高いしてるところなんて」

「…………ん?」

「お母さんも見られちゃうのは嫌だもん。すぐに送信取り消しするから、ごめんね?」

「えっと、ちょっと見せて貰えます?」


 そう言ってトーク画面を見てみれば、送信された画像はこまるを高い高いしているシーンのもの。

 どこからどう見てもキスシーンなどではない。実に微笑ましい瞬間を収めたものだった。


「これなら大丈夫です」

「よかったぁ♪ あれ、なら唯斗くんは何だと勘違いして落ち込んでたの?」

「それは秘密です」

「ふふ、言わなくてもお母さんには分かる!」

「何だと思います?」

「トランプしてた瞬間しかないよ!」

「……一体どこまで覗き見してたんですか」


 その後、マコさんを問い詰めてみたところ、ベッドに入る直前までドアの隙間から見ていたことが判明した。

 さすがにこれ以上はダメだという母親センサーが働いてすぐに離れたらしいけど、もしも見られ続けてたら大変だったね。


「お母さん」

「どうしたの?」

「実は、昨晩――――――で――――――た」

「まぁ♪ マルちゃんも大人になったね!」

「うん」


 結局、こまるによって全てバラされたけど。

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